ダークファネルは「光の届かない」検討期間
今回のテーマは、マーケティング用語の「ダークファネル」です。冒頭は加藤さんの日本酒の話で和やかに始まり、そこから用語解説へと入っていきます。
浜田さんによると、一般的なファネル ── 見込み客が認知から購買へ進む過程を、上が広く下が狭い漏斗の形にたとえたモデル。段階ごとに人数が絞られていく様子を表しますでは、資料請求などのコンバージョンを起点に考えます。ところが実際には、その手前に見えていない検討期間が長く存在するといいます。
むしろウェブサイトに来て資料請求するのって最後の最後で、それまでは、それこそなんとなくタクシー広告で見たとか、比較サイトちょっと見てみるとか。
タクシー広告や比較サイトのように、マーケターからどうやっても見えない場所で顧客が過ごす時間を、ダークファネルと呼んでいるわけです。加藤さんは、可視化できないのに認知としては大事という扱いの難しさを指摘しています。
浜田さんは、ダークファネルはアメリカではよく使われるものの、日本ではあまり聞かない言葉だと話します。ただし考え方は日本にも当然あり、以前の回で扱ったインテントデータ ── 企業や個人がどんなテーマに関心を持っているかを、Web閲覧などの行動から推定したデータ。購買意欲の兆しをつかむために使われますと近く、「見えないところを見に行きたい」という話だと整理しています。
加藤さんは前職で浜田さんとセミナーをした際、ダークファネルとTOFU・MOFU表記を絡めて話した思い出のある用語だとも振り返っています。
2012年の「ダークソーシャル」から生まれた言葉
ダークファネルという言葉の起源について、浜田さんは今回のリサーチで初めて知ったとしたうえで、2012年ごろの「ダークソーシャル」が始まりだと説明します。
当時、アクセス解析を見るとGoogle検索でも広告でもないダイレクトトラフィックが非常に多かったそうです。たどっていくと、メールやメッセンジャーでのやりとりから流入していたことがわかりました。
メールとかメッセンジャーとかで、「これ知ってる?」みたいなやりとりされて、そこから来るのがすごく多いっていうことはわかって。これは見えんねみたいな。
人と人とのやりとりが見えないことから生まれたダークソーシャルという考え方は、その後一般化されます。比較サイトや紙面など、マーケターに見えない場所は他にもいくらでもあるとして、2020年ごろからダークファネルという言葉が使われるようになりました。
アメリカでもここ5、6年の言葉だという点に、加藤さんは「意外と新しい」と驚きます。浜田さんは、6sense ── 企業の購買意欲を推定するB2B向けマーケティング・営業支援プラットフォームを提供する米国企業ですやDemandbaseといったABM ── Account Based Marketingの略。狙う企業を定め、その企業単位で営業とマーケティングを連動させる手法系ソリューションの登場とともに、話題が広がったのではないかとみています。
加藤さんにも実体験があります。流入経路のパラメーターが何もないリードのほうが、かえって反応が良かったといいます。パラメーターがないからこそ社内共有やメールなど個人間で伝わってきた可能性があり、今はそれがさらに広がっていそうだと話しています。
顧客は営業に会う前にどこまで決めているのか?
買い手は営業に会う前に購買先を決めているのか、という問いに対し、浜田さんはまず日本でよく引用されるデータを紹介します。『THE MODEL』の福田さんの本や、重野さん著者名のインサイドセールスの本などで知られる「購買活動の57%は営業に会う前に決まっている」という数字です。
より新しいデータとして、6senseの調査では、購買のジャーニーで営業と接触するのは平均69%の地点だったといいます。浜田さんは、昔の57%からさらに後ろへ進んでいると見ています。
言うたらもうほぼ絞り込んで、あと2、3社選ぶ時、ちゃんと人と会ってから決めようみたいな感じになってるらしいですね。
浜田さんはマツリカの調査にも触れ、購買検討で話を聞く企業数は1社という人も結構いて、2、3社が多く、4社や5社は少ないと紹介します。見積もりは取ったと言いたいが、4社5社に話を聞くと論点が出過ぎてしまう、という心理があるようです。
加藤さんも、調べすぎるとわからなくなると共感します。浜田さんは、特に新しいサービスはカテゴリが定まらず収拾がつかなくなるため、最初に良さそうと思ったサービスとその競合の2つだけで比べたくなるのが人間心理だと話しています。
若い世代ほど初回商談は後ろ倒しに
6senseの調査では直近の数字も60〜70%で、浜田さんは大きな変化ではないとみています。そのうえで、immedioが日本で実施した購買側の調査結果を紹介しました。iOSの着信スクリーニングが出た去年に行ったものです。
「新しいサービスやツールの導入検討をする際、どのタイミングで初回商談することが多いか」という質問への回答は、次のように分かれました。
| 段階 | 割合 | 特徴 |
|---|---|---|
| 課題が明確でない段階 | 3割 | 提案があれば話を聞く |
| 課題を特定しソリューションを探す段階 | 2割 | 解決策を探している |
| ソリューション比較の段階以降 | 5割 | 候補を比べている |
浜田さんは、日本ではおよそ5割の地点で営業と会う感覚だと読み取っています。さらに興味深いのは年代別の傾向です。
課題が明確でない段階でも話を聞く人は、50代60代で4割ほどと最も多く、20代では20%と最も低い結果でした。浜田さんは、若い世代はタイパで考え、興味のない話は聞かない傾向があるのではないかと話します。
どんどんその初回接触がバイヤリングジャーニーにおいて後回しになっていくっていう風に考えておいた方がいいだろうなっていう感じですね。
加藤さんも、今の20代が30代、40代になって決裁権を持つようになると応じています。今後の購買では、初回接触の後ろ倒しが進む前提で考える必要がありそうです。
生成AIで深く長くなるダークファネル
生成AIの登場でダークファネルはより深く長くなった、という点について、浜田さんはimmedioの調査データを示します。新しいサービスやツールの情報源を複数回答で聞いたところ、上位は次のとおりでした。
浜田さんは、AIはすでに2番目の選択肢で、人よりもAIに頼るのが現状だと指摘します。20代ではWeb検索が55%にとどまり、AI検索は40%弱に上るといいます。
Google行ってたくさん来るのめんどくさいから、AIに「これ実際どうなの?」って聞くっていう人が増えてきてるという感じになりますと。
マーケターにとっての難しさは、Googleならアクセス解析での追跡や検索広告で対策できるのに対し、AIでは打てる手が少ない点です。ChatGPTの広告は始まったものの、他に広告を出す手段はあまりありません。
さらにAIでの検索は一言ではなく文脈のある文章で行われます。ChatGPTから来たことまではわかっても、どんな言葉で調べたかは基本的にわからず、浜田さんは「何調べてここまで来たの?」という状態が広がっていると表現しています。
アクセス解析で追跡でき、検索ワードや広告で動線を設計しやすい
AI経由とはわかっても検索内容が見えず、広告手段も限られる
来訪者を「接客」する動きが広がる理由
顧客がどんな経路や興味でサイトに来たのかを知る方法の1つとして、浜田さんはimmedioも手がけるAI接客を挙げます。サイト上で質問に答えることで、顧客の疑問がわかるようになるためです。
浜田さんが顧客企業と話していて面白いと感じるのが、ゼロクリック ── 検索結果やAIの回答だけで用が済み、ユーザーがWebサイトをクリックしない現象のことの影響です。AI検索で完結してサイトに来ない人が増え、トラフィックは減っているのに、リードはそれほど減っていないといいます。
逆にそのウェブサイトに来てる人はもうAIに聞いてもわからないから来てるわけで、結構いわゆるインテントが高い状態だったりするんですよ。
サイトでポップアップやチャットを見かける回数が増えたのも、少しでも来訪者を捉えようとする動きの表れだと浜田さんはみています。アメリカでは、サイト訪問者がLinkedIn上の誰なのかをベンダーに教えるサービスも増えているそうです。
浜田さんはClayというサービスで自社サイトの来訪者を見たところ、複数のIPアドレスのベンダーを組み合わせているため、日本企業でも思ったより特定率が高かったと話します。マーケターがそれほど必死だということです。
加藤さんは、カーディーラーが来店客を把握するように、Webでも個別対応が重要になるのかと問いかけます。浜田さんはダイナミックコンテンツの概念は昔からあり、KARTE Blocksカルテブロックなども近い取り組みだとしつつ、B2Bでは難しいと答えました。
ECのように会員基盤があり頻繁に訪問がある世界ではパーソナライズが効きますが、B2Bサイトは月1万UUでも多いほうで、B2Cとは桁が1〜2つ違います。浜田さんは、母数がなければAIを使っても山勘にしかならないと話しています。
ダークファネルは可視化すべきか?
ダークファネルを可視化しようとすることは正しいのか、という問いに、浜田さんは「しようとするに越したことはない」と答えます。比較サイトでも、どの企業が自社や競合のページを見ているかを教えてくれる場合があり、媒体社と組んで情報を取る方法があります。
immedioのサービスでは、immedio BOXが近い考え方だといいます。PDFやこれまでYouTubeに上げていた動画などを自社環境で発行し、誰が見ているかを精度高く捕捉する仕組みです。
浜田さんは、こうした手段を組み合わせて、顧客が今何をしているかを自分の見えるところに置いていくことが大事だとし、どの企業もいろいろな手を探っている状態だとみています。加藤さんも、紹介経由かどうかも設計次第で取れる点を評価しています。
一方で、口コミや社内での話は、どこまで行っても捉えにくい領域です。浜田さんは、だからこそ営業やインサイドセールスが「どこでお知りになりましたか」と聞くことが効くのだと話します。
結構なんかイベントであったりとか、訪問でお会いするとかすると、ここら辺の話がなんか聞けるきっかけがあったりとかしますよね。
浜田さんはこの問いかけを、アイスブレイクに最適な話題だと応じています。
日本では「手の届く範囲」から捉える
最後のテーマは、海外発のダークファネルを日本でどう捉えるかです。浜田さんは、海外で可視化に力を入れる背景には、関心を持った企業さえわかれば企業データからキーマンの電話番号まで当たれるという前提があると指摘します。
日本だと、じゃあ仮にIPアドレスでどうもトヨタの方が見に来てるらしいと分かっても、どうするの、そこからってなるじゃないですか。
そのため日本では、可視化に必死になっても成果が出ない可能性があります。浜田さんは、展示会で集めたリードに丁寧なナーチャリング ── 見込み客に継続的に情報を届け、購買意欲を育てていくマーケティング活動のことを仕掛け、クリックやサイト訪問でクッキーを取るなど、自分からアクションを起こす方法を挙げます。
IPアドレスなどで関心企業を特定し、企業データでキーマンに当たる
ナーチャリングや紹介のトラッキングでファーストパーティーデータを集める
浜田さんは、紹介のトラッキングなど、自分の手の届く範囲でトラックできるようにしておくことが現実的だとまとめます。加藤さんも、それが一番効果が出そうだと応じ、変化の大きいトレンドとして面白い言葉だと締めくくりました。
まとめ
ダークファネルは、顧客がマーケターから見えない場所で検討を進める期間を指す言葉で、生成AIの普及によってさらに深く長くなっています。ただし日本では、無理に可視化するより、自社で取れるデータとの接点を地道に増やすほうが現実的かもしれません。
- ダークファネルは2012年ごろのダークソーシャルを起源に、2020年ごろ一般化した比較的新しい概念
- 営業との接触は購買プロセスの57%から69%地点へと後ろ倒しになり、若い世代ほどその傾向が強い
- AI検索が情報源の2番目となり、何を調べてサイトに来たのかがより見えにくくなっている
- サイト来訪者はインテントが高いため、AI接客や営業のヒアリングで興味を捉えることが重要
- 日本ではナーチャリングや紹介のトラッキングなど、手の届く範囲のデータ取得が現実的な打ち手



