ツーリング先で給油できない?過去10年最多の倒産・廃業ペース
今回CEOセオさんが取り上げたのは、ガソリンスタンドの運営事業者の倒産・廃業が、過去10年で最多のペースになっているというニュースです。セオさんは、ガソリンスタンドの経営は深掘りするほど大変な状況にあると前置きし、その理由をビジネスモデルから考えていきます。
セオさん自身、最近はバイクでツーリングに出かけるそうです。郊外や地方へ行くと、ガソリンスタンドを探しても閉まっていたり、網が張られて営業を終えていたりして、給油できずに困ることが多いといいます。
(ガソリンスタンドが)減ってるんだろうなということに対しては全然違和感なかったんですけども。
ニュースの要約によると、2026年1月から8月までのガソリンスタンド運営事業者の倒産・休廃業は合計144件に上りました。1月から8月までの期間としては過去10年で最多です。
帝国データバンク ── 企業の信用調査や倒産動向の調査を行う日本の民間調査会社。倒産件数の集計や業界動向のレポートで知られていますは、年間でも2018年以来8年ぶりに200件を超える可能性があると試算しています。
地下タンクの「40年問題」とは何か
ニュースで具体例として紹介されたのは、福岡・大分・長崎で6店舗を展開する油屋通商の太宰府店です。大手系列に属さないプライベートブランドのスタンドで、2001年に開業してから25年間運営してきましたが、2026年7月に閉店することを決めました。
太宰府店の閉店のきっかけは、前の事業者から引き継いだ地下タンクが設置から約40年を迎え、消防法に基づく改修が必要になったことでした。改修費は数百万円から1000万円ほどかかり、工事中は1か月の休業も必要になるといいます。
セオさんの説明では、2021年2月に施行された改正消防法令で、地下タンクの老朽化対策が求められるようになりました。地面に埋めた巨大な「ガソリンの水筒」のようなタンクの内側を、漏れないようにコーティングし直す必要があり、これが「40年問題」と呼ばれています。
設置から40年
地下タンクが改正消防法令の改修対象になる
改修の負担
数百万〜1000万円の費用と1か月の休業が必要
経営判断
キャッシュフローへの打撃が大きく、改修せず閉店を選ぶ
セオさんは、法律で決まった設備の問題なので「やらない」という選択肢はないと指摘します。家の大規模修繕と同じように、売上よりも設備の更新日が閉店の引き金になっているというのが、このニュースの核心です。
粗利の8割が燃料なのに、営業利益率はわずか1%
ガソリンスタンドのビジネスモデルを見ると、粗利の約8割を燃料の販売が占めています。セオさんが紹介した2023年度の決算ベースの粗利の内訳は次のとおりです。
| 項目 | 粗利に占める割合 | 区分 |
|---|---|---|
| レギュラーガソリン | 35% | 燃料 |
| 軽油 | 22% | 燃料 |
| 灯油 | 10% | 燃料 |
| 洗車・車検など | 23% | 燃料以外 |
セオさんは、内訳にハイオクが見当たらないことから、ハイオクの比率は小さいという印象を持ったそうです。さらに、ガソリン1リットル当たりの粗利は数円程度しかありません。
ガソリン販売だけで見た2023年度の営業利益率は、わずか1%ほどだといいます。売上は大きく見えても、そのほとんどが仕入れと税金で、手元に残る額はごくわずかです。
ガソリンスタンドってそういうの(洗車や車検、タイヤ交換)をすごい勧めてくるじゃないですか。
セオさんによれば、洗車や物販、車検、タイヤ交換といった営業がきちんとできているスタンドは利益率を確保できます。一方で、燃料だけで勝負しようとすると、特に給油量の少ない郊外では厳しくなります。人件費の高騰やタンクの改修など、販売量が減っても変わらない固定費も重くのしかかります。
マイカーブームから40年。一斉に訪れた「更新の壁」
セオさんによると、1980年代半ばのマイカーブームでガソリンスタンドが急増しました。そこから逆算すると、ちょうど2020年から2025年ごろに設置から40年を迎えるスタンドが集中し、老朽化した郊外のスタンドの撤退が重なっているといいます。
どうりで八王子の方とか行くと、やけにこうね、閉店しているガソリンスタンド多いなと思ったんですけど。
セオさんはこの状況を、マンションの大規模修繕のタイミングで売却するか住み続けるかを迫られる構図にたとえます。ガソリンスタンドは災害時にも役立つため自治体の支援策もありますが、通常のビジネスとしては勝ち組と負け組がはっきりし始めています。
事業者数は1万1832で、1事業者当たりの運営箇所は平均2.2か所です。1か所だけを運営する事業者は70.8%を占め、セオさんは蕎麦屋のような家族経営の家業に近いと表現します。
家業として営むスタンドでは、後継者問題も避けられません。若い人が1000万円をかけ、1か月休業してまで継ぐのかと考えると、やめる判断が出てくるのも理解できるとセオさんは話します。
ガソリンスタンドの事業承継、意外と面白いんじゃないかなって気しましたね。
セオさんは、薄利多売でもガソリンにはまだ大きな価値があるとして、DXのような変革で可能性が開ける余地を見ています。ただ、若いエネルギーが入っていかなければ、スタンドは減り続けるだろうとも述べています。
需要減の真犯人はEVではなく燃費だった
ガソリンスタンドの儲けの薄さはデータにも表れています。約42%のスタンドが赤字だとされ、地方に本社がある事業者では4社に1社、首都圏では2割超が赤字です。
ガソリンの需要そのものも減っています。2004年度に6100万キロリットルだった需要は、2022年には4400万キロリットルと約27%減り、1990年度と同じ水準まで下がりました。
セオさんはEVの影響を疑い、EV業界も調べました。ところが2025年のEVの登録台数は約万九千八百八十五台で、乗用車全体に占める割合はわずか1.6%でした。セオさんは、EVの普及は始まっているものの、需要減への影響はまだ大きくないと見ています。
セオさんが挙げた答えは、自動車の燃費の向上です。平均燃費は2004年にはリッター当たり13キロでしたが、今では25キロ走るようになり、8割超改善しています。
2025年の乗用車に占める割合は1.6%。需要減への影響は大きくない
平均燃費がリッター13キロから25キロへ。同じ距離で入れる量が大きく減った
ガソリンと車は一蓮托生のように見えますが、実際には自動車側のイノベーションがガソリンスタンドの需要を削っていたということです。セオさんは、燃費は今後も間違いなく良くなり、車に乗る人も減っていると指摘します。
災害インフラとしての役割と、税率・補助金に揺れる価格
ガソリンスタンドには地域インフラとしての側面もあります。セオさんは、以前この番組で取り上げた公衆電話を例に挙げます。公衆電話は数が減っていても、携帯電話が使えない被災地では有効に活用されているといいます。
ガソリンスタンドも、災害時に住民へ給油する住民拠点サービスステーション ── 災害による停電時でも自家発電設備で給油を続けられるよう整備されたガソリンスタンド。国の支援制度で指定が進められていますが1万4260か所あり、自治体などが支えています。ただ、ガソリンスタンドの過疎化を課題と認識している自治体は6割に上る一方、対策を実施できているのは1割ほどにとどまるそうです。
セオさんは、災害対応は国や自治体の話であり、スタンドのビジネスとしての厳しさは変わらないと整理します。価格の面でも、ガソリンは外的要因に大きく左右されています。
政府が補助をしながら価格を支えている状況では、スタンドは自分で価格を決められるようでいて、実際には決めにくい立場にあるとセオさんは指摘します。
代官山で1リットル215円。立地で価値が変わる時代へ
ガソリン価格は競争原理で全国平均の170円前後に落ち着くのが基本です。ただし、渋谷区や港区のど真ん中など、高級住宅街にあるスタンドはかなり高い価格を設定しているといいます。
某、あの、代官山になるとこは、二百十五円するんですよ。
(店頭に)値段が書いてないんでわかんないんですけど、入れたら、レシートに215円って書いてます。
多くの場所でそれだけ高い価格にすれば客は離れてしまいます。セオさんは、燃料で稼ぐなら場所によって価値が変わるという点で、ガソリンスタンドも住居に似てきたと話します。代官山のようなスタンドは洗車代も相場より高いそうです。
大手も縮小傾向にあります。大手の利益には化学や資源開発なども含まれるため利益率は4%ほどありますが、燃料だけで見れば厳しい薄利多売の世界です。その一方で、一部の店舗は高い収益を上げています。
セオさんは最後に、40年問題のような法規制、立地による価格差、ダイナミックプライシングやパーソナライズドプライシングといった新しい価格の考え方に触れ、自分の事業と照らし合わせて考えてほしいと呼びかけています。
まとめ
ガソリンスタンドの減少は、EVの普及よりも、地下タンクの40年問題、燃料に頼る薄利多売の収益構造、そして自動車の燃費向上が重なって起きています。他業界のイノベーションや法規制が自社のビジネスモデルを揺るがしうることを示す事例だといえそうです。
- 2026年1〜8月の倒産・休廃業は144件で、過去10年で最多のペース
- 地下タンクの40年問題による改修費と休業が、家業型スタンドの閉店を後押ししている
- 燃料が粗利の約8割を占める一方、ガソリン販売の営業利益率は約1%にとどまる
- 需要減の主因はEV(普及率1.6%)ではなく、平均燃費がリッター13キロから25キロへ向上したこと
- 代官山の215円のように、立地によって価格と収益力に大きな差が生まれている



