なぜウェブ制作会社は1000人規模にならないのか
最初に、少し前提の話から。ウェブ制作会社が1000人規模になるのは、構造上ほぼ無理だと僕は思っています。
理由はシンプルで、ウェブ制作は労働集約の仕事だからです。
うちは社員と派遣さん、アルバイトさんを全部合わせて43、4人ぐらい。正社員だけだと20人から30人ぐらいの間なんですけど、この規模になると会社の中のお金の動き方が変わってくるんですよね。
いわゆる製造原価と、販売管理費というやつです。
総務や経理、人事といったバックオフィスの方々のお給料は、直接ものを作る仕事じゃないので、作ってくれている人たちの利益から出すことになります。
人数が増えれば、その人たちを管理する仕事もオフィスも増えていく。でも1人増えても、増えるのは8時間分の制作だけなんです。
だから2人が10人に、10人が20人になっても、単価×人数が増えるだけで構造は何も変わらない。
どこかで収支のバランスが悪くなってくる。僕の感覚だと、それがちょうど20人前後なんですよね。
事業会社さんは別だと思います。ECのように、一度ものを作れば動いている人数以上の収益を生めるビジネスモデルがあるので。
でもウェブ制作そのものだけだと、それができないんです。
100人規模の制作会社が目立たなくなった
昔はもう少し大きな制作会社もあったんですよ。
リーマンショックの前、2000年代の頭ぐらいには、代理店のグループ会社じゃなく、独立系で100人を超えている制作会社が何社かありました。
たしか当時、『ビジネスアーキテクツ』さんは100人を超えていたんじゃないかな。僕がいまもお付き合いのある友人が勤めていた会社も、50人は平気で超えていたと思います。
そういう会社さんは、誰かがセミナーに登壇するとか、本を出すとか、ニュースがよく出ていたんですよね。
でも最近、そういうのをあんまり聞かなくなった気がします。
もしかしたら、その人たちがSNSで発信しなくなって目立たないだけかもしれません。ただ、労働集約という仕事の中で1000人というのは、やっぱり現実的じゃないなと思うんです。
『野村総合研究所』さんや『NTTデータ』さんが大きいのは、コンサルもあればシステム開発もあって、ウェブだけじゃないからですよね。いろんな仕事の集合体として人数が増えている。
僕らの仕事だけで1000人は、なかなか難しいだろうなと。
48歳の僕が「会社の出口」を考え始めた
さっきの経営者の方のメッセージに戻ります。先日、制作会社の事業継承がこれから問題になる、というのを僕はXに書いたんです。
正直に言うと、30代の頃は自分が仕事を辞めることなんて考えもしませんでした。定年まで20年以上あると思っていたので。
でも僕はいま48歳です。仮に定年を60だとすると、あと12年しかないんですよね。
日本は中小企業がすごく多くて、いま事業継承問題が大きなテーマになっています。後継者がいない、ということです。
ウェブ制作会社の「出口」って、実はそんなにたくさんの方法があるわけじゃないんです。
大きく分けると3つ。上場するか、会社を閉じるか、誰かに売却するか。
ただ上場は、このビジネスモデルではまず無理だと思います。市場からお金をもらっても、労働環境の改善か人数を増やすことにしか使えない。人が増えても8時間分作るのが増えるだけなので、そういう株を買う人はいないんですよね。
閉じるのも、これはこれで難しい。お客さんをどこかの制作会社に引き継ぐ交渉もいるし、従業員をどうするのかという話も出てきます。
若い人ばかりならまだしも、多少年配の方もいれば、次の転職をどうするんだという話になる。
そう考えると、いちばん建設的なのは売却、つまりどこかの会社との吸収合併みたいな形になってくるんです。
なぜ「黒字のうちに」考えたほうがいいのか
売却の話でいうと、うちにもこの手のDMは本当によく来ます。下手したら月に2、3通は来ますからね。
たとえばうちは不動産業界特化なので、大きな不動産会社さんが自社でサイトを作れる部隊を持ちたいとなったとき、たぶん最適なんです。不動産のことを知っているので。
でも問題は、買ってくれる会社があるのはいつまでなんだろう、ということなんですよ。
だからこそ、事業継承は黒字のときに考えてほしいんです。
赤字になってから事業継承の話をするのは、実際にはすごく難しくなります。
売却するのか、閉じるのか、上場を目指すのか、新しいサービスに行くのか。それを黒字のうちに決めておくべきだと思うんです。
今年はAIがすごく出てきて、制作の単価の考え方も見直しましたよね。画像を突っ込んだらHTMLを書いてくれるようなサービスも出てきています。
だから、いまのまま突っ走るのは難しくなるかもしれない。
ここで僕が思い出すのが『エルメス』の話です。あそこは元々、馬の鞍や鞭といった馬具を作っていた会社なんですよね。
産業革命で車が出て、馬が使われなくなって、馬具も売れなくなった。そのとき「自分たちは馬具屋じゃなくて革を加工する会社だ」と考え直して、カバンを作り始めたわけです。
僕らも同じで、HTMLやCSSを書ける、サーバーサイドを書けるというアセットを持って、次に立ち位置を変える、ピボットする時期が来るんじゃないかと思っています。
そのために大事なのは、自分の興味やワクワクを失わないことかなと。興味がなくなると、次を考えること自体ができなくなる気がするので。
芸大を出ていないとウェブデザイナーになれないのか
ここまでは経営の話でしたが、大学3年生の方からも質問をもらったので、少し若い人向けの話も。
ウェブデザイナーになるには芸大を出ていないと難しいのでしょうか、という内容でした。
結論から言うと、芸大かどうかは関係ないと思います。
だってウェブデザイナーさんが、みんな芸大を出ているかというと、そんなことはないですよね。文系の人もいるだろうし、理系からデザインが楽しくて入った人もいる。
僕の知っている制作会社の社長さんは、元々カメラマンで、Photoshopをいじったら面白かったからデザインもするようになった、という方です。
もしうちでウェブデザイナーを新卒採用するとしても、「芸大じゃないからダメ」なんてことは、たぶんないと思いますよ。
ポートフォリオも、中途である程度キャリアがあるならいいですが、新卒だとわかっているのに完璧なポートフォリオを求めるのは違うかなと。
新卒なら、それよりも「なぜウェブデザイナーなのか」という志望動機のほうが、僕は大事だと思っています。
志望動機がしっかりしていれば、会社で学ぶことも、自分で勉強することも、両方やってくれるだろうと思えるからです。
僕らの仕事って、誰かに教えてもらったからといって、その後ずっと5年10年ご飯が食えるスキルなんてほぼないんですよね。
だから、自分で勉強できるかどうかがどうしても必要になる。「僕はこういうことを今やってます」と言える人のほうが強いと思うんです。
まとめ
事業継承の話は、書いていて少し重たかったかもしれません。でも僕自身がいちばん考えているテーマだからこそ、同じ立場の方に届けばいいなと思って書きました。会社の中でも、年明けには何かしら発表するつもりでいます。あなたが経営者でも、これから働く側でも、「自分の価値をどう次につなげるか」を考えるきっかけになればうれしいです。
- ウェブ制作は労働集約の仕事なので、1000人規模は構造上ほぼ無理
- 制作会社の出口は「上場・閉じる・売却」の3つで、現実的なのは売却
- 事業継承は赤字になる前、黒字のうちに考えておくべき
- 新卒のデザイナー採用で大事なのは芸大の有無ではなく志望動機と自学の姿勢





