認知機能の低下が疑われる患者、困っていたのは誰か
たいぞーさんは「薬剤師人生8万4000時間に面白さとやりがいを」を掲げる番組で、今回は「ナラティブに酔いしれず、薬剤師の役割を果たす」というテーマを取り上げています。
きっかけは、たいぞーさんが5年以上続けている服薬情報提供書 ── 薬局の薬剤師が、患者の服薬状況や気づいた点を処方医などに文書で伝えるもの。トレーシングレポートとも呼ばれ、医師との情報共有に使われますの執筆講座です。原則として毎月第1金曜日(ときに第2金曜日)の夜9時から、30分のウェブセミナーとして開かれています。
この執筆講座では、たいぞーさん自身が現場の症例で実際に医師へ出した服薬情報提供書をもとに、患者をより深く考察する視点、医師に正確に伝わる言葉の選び方、背景として示すべきエビデンスなどを話しています。
先日の執筆講座で取り上げたのは、認知機能の低下が疑われる症状がある患者の症例でした。ただし実際に困っていたのは患者本人よりも、その奥様だったといいます。
この患者は認知機能が落ちてきている兆候があるものの、本人は自覚症状として認めていませんでした。そのため受診につながらず、医療の支援を受けられる状態に至っていないことを、薬局が把握したという経緯です。
(症状がありながら)なかなか受診につながらなかったりということで、医療支援をなかなか受けられる状態に至らないんだということを、薬局で把握して。
奥様からは日々の生活で困っていることや患者の背景、夫婦の暮らしぶりなど、たくさんの話を聞くことができました。そこから奥様と患者本人それぞれの思いも見えてきたといいます。
たいぞーさんは、この聞き取った情報は医師には伝わりにくい種類のものであり、伝えるだけでも非常に価値があったと振り返っています。
一方でたいぞーさんは、そういう時だからこそ、症状に薬剤が影響していないか、服薬状況はどうか、今の薬物治療は適切に実施できているかを情報収集し、薬学の視点を含めて情報提供することが大切だと講座で話したといいます。
伝言ゲームの仲介なら、薬剤師はいないほうがいい?
患者の生活背景を含む物語に触れると、薬剤師はついそちらに目が行きがちになる、とたいぞーさんは指摘します。患者や家族が困っている場合はなおさら、早く医師につないで支援を届けなければという気持ちが先に立ちます。
たいぞーさんが常に意識しているのは、患者や家族から聞いたことを右から左へ伝言するだけなら、薬剤師が間に入る意味は薄いという点です。今回の症例のように情報が医療者に届かない課題がある場合は、伝言を引き受けること自体にも価値があるとしています。
逆に言うと価値があるからこそですね、より意識しておかないといけないなと思うんですけども。
たいぞーさんによれば、情報は本人や家族から直接伝えたほうが劣化が少なく、深刻度も含めて正確に伝わります。そのため伝えるだけが目的なら、文書の情報提供書ではなく、本人や家族が医療機関に直接伝えられる方法を考えたほうがよいと話しています。
では、なぜ薬剤師が間に介在するのか。たいぞーさんの答えは、情報を伝えるとともに、薬学的な視点で患者を見立てることが非常に大事だからというものです。
たいぞーさんの話を整理すると、薬剤師の関わり方は次の2つに分けて考えられます。
患者や家族の話をそのまま医師へ渡す。それだけなら本人や家族が直接伝えたほうが情報の劣化が少ない
聞き取った情報に、薬剤の影響や服薬状況、薬物治療の適切さという視点を添えて伝える
残薬を「自分で伝えるわ」と言う患者に、薬剤師は何を返すか
たいぞーさんは、現場でよくある例として残薬 ── 処方された薬のうち、飲み忘れなどで手元に余っている薬のこと。量や発生の経緯から、服薬状況や治療の実態を推し量る手がかりになりますの話を挙げます。薬が余ってきたと患者から言われ、その情報を薬局から病院へ伝える役を担うことがあるといいます。
このような残薬の伝達は、医師に言いにくいという理由で頼まれるのが最初のきっかけになることもあります。たいぞーさんは、きっかけが何であれ、依頼を受けたら薬剤師としての仕事も果たしながら担えばよいという考えです。
中身の質のところは自分らでやればいいっていうことなんで、それでいいんですけど。
一方で、残薬の件を「いや、自分で伝えるわ」と言う患者も現場には多いそうです。たいぞーさんは、残薬は「あるかないか」だけの話ではないと説明します。
たいぞーさんによれば、どの期間にどれだけ残薬が発生しているかから、飲めていない分があっても治療が成り立っているのか、それとも薬物治療が成立していないのかを見立てるには、プロの視点が必要です。
残薬を把握
どれだけの期間に、どれだけ余っているかを確認する
薬学的に見立てる
今の飲み方で薬物治療が成り立っているのかを判断する
医師とやりとり
プロ同士で薬物治療の情報を正確に共有する
診療の助けに
医師の診療にプラスになる情報として届く
そのため、たいぞーさんは「ええわ」と断る患者を非常にもったいないと感じています。ただ情報を伝えるだけではないと説明すると、「あ、それやったら薬剤師に任せよう」と言ってくれる人も多いといいます。
話を戻してたいぞーさんは、情報を伝えること自体に価値があるからこそ、薬剤師ならではの視点を忘れずに関わりたいとまとめます。患者のナラティブな情報の中にも、薬学的に見られることはたくさんあるという考えです。
薬剤師の果たせる役割を果たしながら、患者さんのナラティブな、そういった情報に寄り添う、そういった介入を薬剤師として行っていけるといいなということを思います。
2月14日の姫路講演会では何が語られる?
番組の最後には告知があり、たいぞーさんは2月14日に兵庫県姫路市で、薬剤師革命家のりょうたさんと講演会を企画していると話しています。時間などの詳細はこれから調整するとのことです。
講演会の内容としてたいぞーさんが考えているのは、薬学で患者を語る実践によって、薬剤師が患者や社会にどんな仕事ができるかというテーマです。
さらにたいぞーさんは、現場の第一線で患者を救う仕事に全力で従事することが、キャリアにも、賃金や報酬の評価にも結びつく道をどう選べばよいか、という自身の課題意識も語りたいとしています。
たいぞーさんは背景として、薬局の現場ではプロフェッショナルを極めるよりも、マネジメントの役割を担うほうがキャリアの選択肢になりやすい事情があると述べています。詳細は決まり次第、番組で伝えるとのことです。
まとめ
患者や家族の物語は医師に伝わりにくく、それを届けること自体に価値があります。だからこそ薬剤師は伝言役にとどまらず、薬剤の影響や服薬状況を見立てて情報提供することが大切だと、たいぞーさんは話しています。
- 認知機能の低下が疑われる症例では、困っている家族の話を医師へつなぐこと自体に価値があった
- ただ伝言するだけなら、本人や家族が直接伝えたほうが情報の劣化は少ない
- 薬剤師が介在する意味は、症状への薬剤の影響や薬物治療の状況を薬学的に見立てる点にある
- 残薬も量と期間から治療の成立を見立てることで、医師の診療を助ける情報になる



