実務実習の車中で学生が語った「いろんな処方に触れたい」
たいぞーさんが勤める薬局では現在、第3期の実務実習 ── 薬学部5年次に行われる、薬局や病院での臨床実習。学生は現場の薬剤師の指導のもとで調剤や服薬指導などを経験しますが行われており、実習は終盤に差し掛かっています。
たいぞーさんの会社では、実習店舗以外の特徴ある店舗に学生が出向く「他店舗研修」が行われます。たいぞーさんが今いる薬局は在宅医療を多く行っている店舗なので、在宅医療を経験したい学生が見学に来るそうです。
在宅医療の同行には車での移動が必要になり、たいぞーさんはその移動時間に学生といろいろな話をします。就職活動の話になると、学生からは「いろんな診療科の処方を経験できる薬局に就職して、能力を鍛えたい」という声が出るといいます。
実習においても、たくさんの薬に触れられる環境だと、毎日とても勉強になってすごく充実してますみたいな話を聞くようなことがあります。
こうした考え方は学生に限りません。現場の薬剤師からも、いろいろな診療科の処方に対応してきたことや在宅医療を経験してきたことなど、業務の幅広さを経験値として語る声を聞くことがあると、たいぞーさんは話しています。
幅広い経験はなぜ古くなっていくのか
たいぞーさんは、様々な薬に触れた経験や業務を体験したことが、知識や経験として積み重なっていくこと自体は認めています。ただし、それは「その瞬間においては」積み重なるものだという留保をつけます。
医療の情報は、病気に関する理解も薬の情報も常にアップデートされ、新しい薬も次々に出てきます。そのため、今この瞬間に身につけた知識や経験は、時間とともに古くなっていくと、たいぞーさんは考えています。
自分の能力を維持していこうと思うと、常にインプットをし続けないといけないというインプットに追われるということが、起こってしまうんじゃないかなというふうに思います。
触れて積み重なる
様々な薬や業務に触れ、その瞬間は知識や経験が積み重なる
情報が更新される
病気の理解や薬の情報がアップデートされ、新薬も出てくる
古くなる
身につけた知識や経験が時間とともに古くなっていく
インプットに追われる
能力を保つために常にインプットし続ける必要が生じ、疲弊する
実際に、インプットに追われて非常に疲弊している現場の薬剤師を見かけることもあるそうです。たいぞーさんは、情報のアップデートは医療の仕事として最低限必要だとしたうえで、疲弊するほどになると現場で使うところにたどり着けず、本末転倒になるのではないかと話しています。
持続的に能力を積み上げる鍵は「思考力」
では、薬剤師として能力を持続的に積み上げるのは難しいのか。たいぞーさんはそうではないと考え、その方法の1つとして思考力を鍛えることを挙げます。
考える力、いわゆる思考力というのは、目の前のことに対応するというよりも、様々な場面に応用していく、そういったことにも使える力になるんじゃないかなというふうに思います。
たいぞーさんは思考力を「普遍性が高いもの」と捉えています。思考力を鍛えられれば、インプットが必要な側面は残るものの、常にインプットに追われて疲弊するところには至らなくなるのではないか、というのがたいぞーさんの見立てです。
その瞬間は積み重なるが、医療情報の更新とともに古くなり、維持にはインプットを続ける必要がある
目の前の対応だけでなく様々な場面に応用でき、普遍性が高い。臨床経験の時間の中で積み重なっていく
どんな薬や処方箋を扱うときでも、そのとき何を考え、何を判断して行動し、患者さんにどう関わったのか。たいぞーさんは、この臨床の場で考えてきた経験値を鍛えることで、臨床経験を積む時間そのものの中で能力が積み重なっていくようになると話しています。
「薬学で患者を語る」は思考力のひとつの形
たいぞーさんは、この思考力の1つの形が、番組名にもなっている「薬学で患者を語る」ことだと考えています。その中身は、患者さんの情報から問題点を見つけ、介入し、成果を確かめ続けるという一連の関わりです。
たいぞーさんは、こうした関わりが思考力を鍛える要因となり、薬剤師の中に能力が積み重なっていくきっかけや機会になるのではないかと話しています。
能力を本当に鍛えられる職場とはどこか
話は最初の、実務実習の学生との会話に戻ります。たいぞーさんは、薬剤師として能力を鍛えられる環境とは、様々な薬や処方に触れられる環境だけではないと考えています。
(考える力を)能力を鍛えながら、日々現場で実践している仲間がいる環境。そういった環境を選ぶことが、薬剤師としての能力を本当の意味で鍛えられる環境になるのではないかな
たいぞーさんは、考える力を鍛えてくれる職場や、それを日々実践する仲間がいる環境を選ぶことが大切だと考えています。在宅医療の移動時間が長いこともあり、学生とはこうした話をいろいろと交わしているそうです。
たいぞーさんは、学生が将来を考えるうえでの示唆や新たな選択肢として、より良い環境で働くことを選んでもらえたらと話しています。リスナーにも、能力を鍛えるためにどんな環境や行動が必要かを考えるきっかけにしてほしいと呼びかけています。
姫路の講演会で問う、専門性を極めるキャリアの道
最後の告知で、たいぞーさんは2月14日に兵庫県姫路市で共同主催の講演会を開くことを伝えています。もう1名の登壇者とともに、参加者も交えながら薬剤師や薬局の話をする予定だそうです。
講演会では、「薬学で患者を語る」実践を通してたいぞーさんが仕事のやりがいや面白さをどう実感しているのか、そしてそれが患者さんにどんな価値を届けているのかを話すとしています。
あわせて、たいぞーさんは、薬剤師の専門性を極めていくことがキャリアの道筋としてなかなか示されていないという課題感を語っています。専門性を鍛えて患者さんに関わることは、やりがいなどの内的な報酬 ── 仕事そのものから得られる満足感や達成感、面白さなど、本人の内側で生まれる報酬のことにはつながっても、賃金などの外的な報酬にはつながりにくい側面があるといいます。
キャリアアップの過程でマネジメント職に就くのが一般的で、プロフェッショナルとしての力を使う機会がだんだん失われていく
社会資源である薬剤師のプロフェッショナルとしての力を、外的な報酬も得ながら極めていける道がある
たいぞーさんは、マネジメント職へ進む中で薬剤師としての力を使う機会を失うのは非常にもったいないと話しています。専門性を外的な報酬も得ながら極めていく道をどう作れるのか、その課題を解決するために何を考え実践すべきかを、講演会で話したいと考えているそうです。
まとめ
この回でたいぞーさんは、多くの薬や処方に触れる経験は大切でありながらも、それだけでは時間とともに古くなり、インプットに追われる原因にもなりうると指摘しました。持続的に能力を積み上げる鍵として思考力、その1つの形として「薬学で患者を語る」実践を挙げ、思考力を鍛えられる職場と仲間を選ぶことの大切さを語っています。
- 触れた薬や業務の経験は、医療情報の更新とともに古くなっていく
- 知識や経験だけに頼ると、インプットに追われて疲弊するおそれがある
- 思考力は普遍性が高く、臨床経験を積む時間の中で積み重なっていく
- 「薬学で患者を語る」ことは、読み解き・判断・介入・確認を続ける思考力の1つの形
- 能力を鍛えたいなら、考える力を鍛え、日々実践する仲間がいる環境を選ぶことが大切


