ニコール・キッドマン主演でついにドラマ化
今夜のテーマは、パトリシア・コーンウェルの「検屍官」シリーズです。ニコール・キッドマン主演で、Amazonプライムにて3月11日から世界公開になると紹介されました。
昔は読んだけれど最近は追いかけていない、という人も多いだろうと考え、この回で改めて取り上げることにしたと話されています。
ちょうど新作『怪物』が今年2月13日に講談社文庫から発売されたばかりです。過去のシリーズを振り返りながら、この最新刊を紹介する構成になっています。
世界で1億2000万冊 レジェンドシリーズの正体
一作目『検屍官』は著者のデビュー作でもあり、日本語版が刊行されたのは1992年です。30年以上、34年続いているシリーズだと説明されました。
なんとこのシリーズは、世界で1億2000万冊以上売れているといいます。2000万部だけでも売れる小説は世界にわずかしかないという規模で、それだけのレジェンドシリーズです。
検屍官とは、不審な死を遂げた人の死因や死に方を医学的に分析する公的な役職です。
アメリカの検屍官は医師が務め、捜査にかなりの権限を持って指揮することもあると紹介されました。その検屍局の局長を務めるのが、ヒロインのドクター・ケイ・スカーペッタです。
体に残された微細な証拠から事件の真相を解き明かす、いわゆる科学捜査ミステリーのジャンルにあたります。
昔の文庫は字が小さい 消え入りそうな明朝体
手元にある一冊目『検屍官』の文庫を見ると、字がとても小さいと話されています。目が悪くなったせいではなく、昔の文庫は書体自体が小さいのだろう、と。
わ、字がちっちゃ。今見ると昔の文庫って字が小さいですよね
今の講談社文庫はもっとくっきりした大きな文字になっていますが、当時のものは繊細な明朝体だったと振り返ります。
消え入りそうな小声のような明朝体ですね
表紙がドクター・ケイ・スカーペッタのイラストになっているのも、時代を感じさせるといいます。
海外翻訳小説と「働く女性もの」との出会い
この作品は、海外の翻訳小説を読むきっかけになった一冊だと語られています。児童小説では海外ものも読んでいたものの、大人向けの翻訳小説で面白いとハマった最初の記憶だそうです。
著者は女性作家で、主人公はヒロイン。いわゆる働く女性ものとして初めて読んだ小説とも言える、かっこいいと思った最初の作品でもあると話されました。
文庫の裏表紙の解説には「最新の技術を駆使して捜査に加わっている美人検屍官ケイにも魔の手が」とあります。
「最新の技術を駆使して」という点が当時は新しかった、と指摘されます。一方で「美人検屍官」という言い方は、30年以上経った今なら議論になるところかもしれない、とも話されました。
著者自身も帯などの写真を見る限り美しくかっこいい人で、その姿とヒロインのイメージを重ねて売り出したくなる気持ちもわかる、と語られています。
美人で切れ者のケイが、男社会の中で苦労しながら活躍していく姿にワクワクした、というのが純粋なカタルシスのポイントだったといいます。
講談社文庫の青い背表紙で揃っていたことも印象に残っているそうです。本屋で講談社文庫の棚に行き、新作が出ていないか探すのが習慣だったと振り返ります。
一時は12月15日に必ず出るって決まってた数年もあって、その時はクリスマスプレゼントのような気持ちで、年末の楽しみの一つとしてすごく楽しみにしてました
ポケベル時代に描かれたサイバー犯罪捜査
ここからは、シリーズがいかに画期的だったかという話に移ります。1990年頃に第一作が登場するまで、ミステリーの主役は男性の刑事や探偵が主流でした。
このシリーズはモルグと呼ばれる解剖する部屋を舞台にし、当時目新しかったDNA鑑定やプロファイリングという科学の力で犯人を追い詰めていく新しいスタイルだったといいます。
1990年代初めは携帯電話がまだ贅沢品でした。日本で学生だった当時は、ポケベルを握りしめて公衆電話に走っていた時代だったと振り返ります。
そんな中でドクター・ケイが研究室の端末から全米のデータベースにアクセスして分析する姿が、とてもかっこよく見えたそうです。
姪のルーシーも天才タイプで、コンピューターを駆使して捜査を支援します。Windows95すら発売されていない時代に、暗号解読やデータベース検索を捜査に活用していました。
サイバー犯罪という言葉すらなかった時代に、ものすごく先駆的だったと改めて感じたと語られています。
最新刊『怪物』はオカルトから始まる山荘の事件
最新作『怪物』のあらすじが紹介されます。山奥の山荘で、衣服を剥ぎ取られ、自身のトレッキングポールで体を突かれた状態の夫婦の遺体が発見されるところから始まります。
そこにドクター・ケイ・スカーペッタがヘリで登場し、捜査が始まります。
現場周辺には人間とは思えないほど大きな足跡があり、物音や足跡の証言もあります。姿は赤外線カメラにも映らず、大型の銃で撃っても弾かれて死なないという、怪物のような存在が示唆されます。
シリーズにしては珍しいオカルトチックな展開に、超常現象や陰謀論は好みではないため不安になったといいます。
しかし、荒唐無稽な話ではないので安心してほしい、と話されました。サイバー犯罪やAIなど最新技術が絡み、常に最先端を行くシリーズらしさが継承されているといいます。
どこから読む? 『怪物』と『憤怒』の楽しみ方
これまでの作品は、次々と残虐な事件が起こり、同時進行で猟奇的なサイコパスの犯人が絡む、複雑なプロットが多かったといいます。
一方で『怪物』は夫婦の不審死に事件が絞られ、比較的シンプルな作りです。シリーズ未読でドラマを機に読んでみたい人には入りやすい作品だとされます。
一つ前に出た『憤怒』も面白く、好みで言えば『憤怒』のほうが好きだったと話されています。ストーリー的にも繋がっているため、『憤怒』から読んで『怪物』に進むのがおすすめだそうです。
周りのパートナーとして出てくる人たちの関係は年を追って読むほうが面白いものの、事件自体は一作ごとに完結するため、どれから手に取っても楽しめるといいます。
四面楚歌のケイ 自分語り文体が生む没入感
ここからは、神フレーズを通してドクター・ケイの魅力が語られます。
紹介されたのは「当初から忠誠心があって当然という空気ではなく、誰を信じていいか見極めるのも難しかった。ただ、不公平なことはしたくない。本来なら推定無罪が筋だし、ファビンに辞められては困る」という一節です。
ケイは常に四面楚歌のような環境で働いています。局長就任当初から敵が多く、嫉妬や足の引っ張り合い、マスコミの注目にさらされがちです。
女性初の局長で美人であることは、プラスに働くこともあれば、無駄なやっかみや標的を生むこともあります。誰が敵で誰が味方かと戦い、もがく姿が作品の感情を大きく動かしています。
このシリーズは、地の文がケイ自身の脳内の自分語りであることがほとんどで、ドクター・ケイの中に自分が入ったみたいな状態で世界を見られる点が大きな魅力です。
著者自身がFBIの検屍の世界で働いた経験があるため、匂いや音、湿り気といった五感をフルに使ったリアリティがあります。
信頼して話した相手が敵やマスコミと通じていて、裏切られたり危険な目に遭ったりすることが何度も起こります。嫌なやつがたくさん出てくることも読み応えの一つです。
ドラマ版『スカーペッタ』への期待とイメージ
いよいよ始まるドラマは、その名もずばり『スカーペッタ』というタイトルです。
ニコール・キッドマンがこの役をやりたいと何年も言い続けて実現したと、あるインタビューで紹介されていたそうです。
著者の写真のイメージに引っ張られ、ドクター・ケイはブロンドのショートカットでマニッシュな印象を持っていたため、ニコール・キッドマンとは自分の中では違うと感じた、と話されました。
姪のルーシー、曲者の姉ドロシー、相棒のマリーノ警部、愛する夫のベントンらを名優が演じることで、声のイメージがつき、過去の作品も楽しく読めそうだとワクワクしていると語られています。
付箋のルーティンと帯を綺麗に取っておく喜び
後半は、YouTubeに寄せられたウルマさんからのお便りが紹介されます。
本にいつもポストイットを貼っているのが気になっています。本を読む時のルーティンなどあれば教えてください
付箋は特別なルーティンではなく、ポッドキャストで紹介しようと読み直したときだけ貼るそうです。仕事の取材資料では付箋をたくさん貼りますが、趣味の読書では付箋も線引きもしないと話されました。
登場人物を書き出すこともせず、難しいテクノロジーの描写はわからなければ読み飛ばして、ザクザク読んでいくといいます。
一方で、こだわりは本を綺麗に取っておくことです。買って帰ったらすぐ帯をそっと外して別の箱に入れ、読み終わったら戻します。お風呂で読むことが多く、濡らしてしまうためだそうです。
帯を大切にするもう一つの楽しみは、受賞や候補入りで帯が新しくなる前の、最初のバージョンを持っておけることだといいます。
最初の帯には、担当編集がこの作品のどこを推したいかが凝縮されていると考えられています。だからこそ受賞バージョンとは違う魅力がある、という小さな喜びが語られました。
この最初の帯っていうのは、担当編集の方がこの作品のどこを推したいか、どこがすごいグッとくると思ったかっていうのが一番表れている文章が凝縮されている
まとめ
ドラマ化を機に振り返る「検屍官」シリーズは、科学捜査ミステリーの金字塔でありながら、四面楚歌で戦うヒロインの人間味と自分語り文体の没入感が魅力だと語られた回でした。
- 「検屍官」シリーズは1992年に日本語版が刊行され、世界で1億2000万冊超を売り上げたレジェンド作品
- ポケベル時代にDNA鑑定やサイバー犯罪捜査を描いた先駆性が、最新刊でもAIなどに更新されている
- 最新刊『怪物』は事件がシンプルで、未読の人やドラマから入る人にも読みやすい
- 主人公ケイの魅力は、四面楚歌の中で公平でありたいと苦悩する人間味と、五感に迫る自分語りの文体
- 帯を最初のバージョンで取っておくことは、担当編集の推しが凝縮された文章を楽しむ小さな喜び





