夫の転勤先がわからない不安に、どう向き合う?
最初のおたよりは、イングランド北部に住むカヌーさんからの相談です。博士課程に在籍する夫に帯同しながら、日本の会社のパートタイムのリモートワークを続けているといいます。
今は手芸の趣味が8割、仕事1割、英語の勉強1割くらいのバランスで、外から見たら人生の夏休み中に映るかもしれません。
ただ、博士課程の後、夫の仕事が世界中のどこになるかわからない、その後もその場所にいつまでいるかもわからないという漠然とした不安がどこかずっとあって、場所にとらわれない生活に必要なものとか、何かアドバイスや経験談を聞かせてもらえると嬉しいです。
エマさんとレンさんのイギリス生活は2年間と期間が決まっていたため、エマさんは「そこまで経験者じゃない」と前置きします。そこでレンさんは、カヌーさんの質問どおり周りの知人の話をすることにしました。
レンさんの知人には、アカデミアの研究者として数年ごとに勤務地が変わる人と、その妻でリモートワークをしている人の夫婦がいるそうです。レンさんの印象では、その妻は「結構楽しそうだった」といいます。
こう、カヌーさんはめちゃくちゃ楽しめる側の人なのではって思ったけどな。この手芸の趣味8割って。
それでも、次に行く場所に馴染めなかったらどうしようという漠然とした不安は、エマさんにもよくわかるといいます。二人がまず挙げたのは、今のリモートの仕事をキープすることと、場所を選ばない趣味を持つことでした。
いろんな土地に住むことを強みに変えられるか
レンさんは、カヌーさんのように住む場所が変わること自体を生かす方法として、現地の情報を発信することを挙げます。ロンドンに行って、現地特有のことを発信している人の多さに驚いたそうです。
ロンドン行って思ったんだけどさ、もうロンドンに住んでて、何かこう、特有のことを発信してる人めっちゃいるなと思って。
現地生活のお役立ち情報やお店の紹介は、レンさん自身も旅行のときにとても助かったといいます。エマさんも、次の土地のことをきちんと知って発信できれば「他の日本人にはない情報」になると応じました。
一方でエマさんは、不安の根っこは人生設計の立てづらさにあるのではと考えます。いつ子どもを持つか、子どもがいればどこの小学校に通わせるかといった決断が、行き先がわからないと難しくなるからです。
ただエマさんは、それも仕方のないことで「その場でできるベストを尽くすしかない」とも話します。子どもに英語を学ばせておく案も出ましたが、次の土地が英語圏とは限らないと、すぐに自分で留保をつけていました。
場所が変わっても揺らがない「柱」をつくる
レンさんは、場所のことだけを考えるから不安が大きくなるのではないかと考えます。場所が変わっても「これがあるから大丈夫」と思える柱を増やすことが、カヌーさんの不安への答えになると話しました。
そういう柱を作るしかないよね。だからさっき言ったやつってほとんどそれだと思うんだけど、趣味とか。
それをね、増やせば増やすだけいいんじゃない?数というよりかは重さ的には。
エマさんは、よく言われる考え方として、環境に合わせて人生設計をするのではなく、子どもを持つなどの大きな決断は自分の都合で決め、その後に環境が変わってもなんとかなる、という話を紹介しました。
レンさんはさらに、ロンドンで会った人の体験を紹介します。その人は夫の都合でイギリス、その後ドイツへ移り、子ども2人を連れたドイツ生活はドイツ語の壁でとても大変だったそうです。
でもなんかその人が言ってたのは、もうその場所は関係ないと。もうなんか自分の人生を生きることだけが一番重要であって。
その人は、どこへ行っても自分の周りの環境を自分が良くしていく、というくらいの気持ちで暮らしているといいます。レンさんは「自分が世界の中心だと思うしかない」とまとめました。
次の勤務地が決まってから人生設計を考えるため、決断が先延ばしになりやすい
大きな決断は自分のタイミングでして、場所が変わったらそこでいかに楽しくやるかに集中する
二人は自分たちが未経験であることを認めつつ、質問を送ったこと自体が最初の一歩だと評価しました。経験者がいればおたよりや無料のLINEグループ「サイエンチャット」でカヌーさんにアドバイスしてほしい、と呼びかけています。
ゴムの研究者から届いた声と、ゴムに残る課題
2通目は、ゴムの製法の特許を持つ会社で、靴のソールに使う材料の開発から企画、販売、靴づくりまでを手がけるタケさんからです。番組の過去のゴムの回を聞いて連絡をくれました。
身近で大事なんだけども、あることが普通すぎてないことが想像できなくなっているという発明品ですので。
エマさんは、ゴムのように地味だけど重要なものが取り上げられたら確かに嬉しいだろうと共感します。ゴムを語る人はほかにいるのかという話から、「ワンピースはゴムが主人公」という話にも脱線しました。
エマさんは過去回の内容を覚えていて、ゴムを実用化したのに特許をイギリスに持っていかれてしまったグッドイヤー ── チャールズ・グッドイヤー。19世紀のアメリカの発明家で、生ゴムに硫黄を加えて加熱する加硫法を開発し、ゴムを実用的な素材にした人物として知られていますの名前を挙げます。レンさんは、タケさんを「グッドイヤーさんの後継者」と表現しました。
では、今のゴムの課題は何なのか。エマさんは、次のワールドカップのサッカーボールのように、目的に合わせた性質のゴムを作る方向を挙げ、レンさんは瓶のキャップなどの継ぎ目に使うOリング ── 断面が円形のリング状のゴム部品。部品同士のすき間を埋め、液体や気体の漏れを防ぐパッキンとして機械や容器に広く使われていますの劣化を挙げます。
レンさん自身、最近Oリングの劣化が原因で中身が漏れているのを見つけたことがあったそうです。エマさんは、ロンドンで住んでいた家のドラム式洗濯機のゴムパッキンが割れ、水漏れが3回ほど起きたことを思い出しました。
(某有名企業の)洗濯機だから、そういう製品ですらそういう課題がしょっちゅうあるってことは、やっぱりゴムもさ、まだ伸び代あるんじゃない?
レンさんは、カビや汚れのつかない風呂のゴムパッキンも欲しいと付け加えます。二人は「次のグッドイヤーさん」たちの改良に期待を込めて、タケさんにお礼を伝えました。
一途か浮気性かは、遺伝子で決まるのか
3通目は、番組「愛されたい女たちのラブホ女子会」のハルさんからの2つの質問です。1つ目は浮気性と遺伝子の関係についてでした。
以前番組でオキシトシンが多いと一途なネズミになるというお話をされていて、とても興味深く拝聴しました。これとは別で、以前一途か浮気症かは遺伝子レベルで決まっているという説を見かけたことがあるのですが、これって本当なのでしょうか?
もし本当なら、その遺伝子を判別する浮気症チェックツールがあれば、一途な人とだけ付き合えそうだなんて妄想していました。後天的な変化を無視するので、ちょっと残酷なツールですが。
レンさんは、ここ数年増えている性格などを示す遺伝子検査について、思うところがあるといいます。占いとほぼ同じで、飛躍した結果を出しているものが多い印象だそうです。
適当というか、飛躍してんなみたいなやつが結構多い。
そもそも浮気性が1つの遺伝子で決まるとは考えにくい、というのがレンさんの見方です。エマさんが「浮気遺伝子度合い何パーセント」のようなツールを想像すると、レンさんは面白いけれど良くないと返しました。
例えばさ、それでさ、「あなたは浮気性です」っていう遺伝子を持ってる人がいたとしたらさ。その人多分それを背負って生きていくわけでしょ。
エマさんも、浮気性の傾向があっても理性で守れる人かもしれないと同意します。さらに、相性を正確に判定するツールが世界をおかしくしていくNetflixのドラマを思い出し、遺伝子で相手を決める社会は大変なことになりそうだと話しました。
双子もネズミも、遺伝子だけでは語れない
レンさんは、浮気性が遺伝子レベルで決まるという科学的な結論はおそらくないと考えます。根拠として挙げたのが、遺伝子が全く同じ双子でも性格が同じになるとは限らない、という例えです。
人間の体って結構環境に応答してるからね。遺伝子だけじゃなくて。
(人間の性格は)調整された結果だからね。まあ「遺伝子レベルでもうこれは決まります」なんてことはそんなにないんじゃないかなって思っちゃうんだよな。
エマさんも、恋愛はその時に居合わせた人などいろんな条件が重なるものだと付け加えます。レンさんは、研究するにしても「浮気性」をどう定義し、誰が参加するのかが難しいと指摘しました。
レンさんがその場で調べると、ネズミなどで疑われている遺伝子はあるものの、立証されたものではないそうです。エマさんはネズミと人間は違うと言い、レンさんは浮気の基準には文化的な要素も絡むと話します。
一方で、オキシトシンのようなホルモン ── 体内で作られ、血液などを通じて別の器官に働きかける化学物質。分泌量は体調や状況によって変わりますは一時的なもので、浮気と関係はありうるとレンさんは整理します。そうしたホルモンが出やすい人はいるかもしれず、ハルさんが見かけた説はその類ではないか、とエマさんは推測しました。
定義の難しさ
何回浮気したら浮気性なのかが決められない
動物との違い
ネズミで疑われる遺伝子はあるが立証されておらず、人間とも違う
環境の影響
体は環境に応答しており、遺伝子が同じ双子でも性格は同じにならない
結論
一時的なホルモンの影響はあっても、遺伝子だけで決まるとは言えない
「蛙化現象」は昔と今で意味が違う
ハルさんの2つ目の質問は、最近よく耳にする恋愛の「蛙化現象」についてです。
最近よく耳にする恋愛の蛙化現象ですが、これは人間の何かしらの生存本能として起きている現象だったりするのでしょうか。私の番組のリスナーさんでも悩んでいる方が多いのですが、「あまりにも無駄な仕様すぎるのでは」と気になっています。
レンさんが調べたところ、蛙化現象は2000年代ごろからある言葉で、最近になって意味が変わったといいます。もともとは、片思いしていた相手も自分に好意を持っているとわかった瞬間に生理的な嫌悪感が生じる現象を指していました。
由来は童話「カエルの王様 ── グリム童話の一つ。カエルの姿に変えられた王子が、王女と関わることで元の姿に戻る物語です」で、その逆の現象という意味だそうです。今では意味が広がり、相手の些細な言動で急に冷める現象全般が蛙化現象と呼ばれています。
片思いの相手も自分に好意を持っているとわかった瞬間に、生理的な嫌悪感が生じる現象
相手の些細な言動をきっかけに、急に冷める現象全般
レンさんは「なんでカエルなんだよ」とずっと思っていたそうで、カエルがかわいそうだと笑いを誘いました。
蛙化現象は繁殖コストを避ける本能なのか
本能かどうかについて、レンさんは研究を紹介します。英語圏にも似た現象があるため文化に関係なく本能的なのでは、という見方があり、生理的な嫌悪感と感染症の回避が関係しているという説もあるそうです。
繁殖上、繁殖とか言ってやばいかもしれないけど、繁殖上コストの高い相手を避ける。っていう傾向があるんじゃないかと。
エマさんは、清潔感がないと感じた相手は繁殖を考えれば大きなコストになる、と納得します。レンさんは、長期的に付き合う上でマイナスだと判断して急に冷める、という意味で本能に近いと説明しました。
ただ、ここから二人の議論はすれ違います。エマさんは、生理的に無理な相手は会った瞬間にわかるはずで、そもそも第一印象が良くならないのでは、と疑問を投げかけました。
生理的に無理な人ってもう一瞬見たらわかるから、そもそも初めから好きになったりしないんじゃない?って思ったけど。
それはそう、それはそう。だけど今その前、その前の前提で「第一印象はいいけど」っていうのが入ってる話じゃん。蛙化現象は。
最終的にレンさんは、蛙化現象は「第一印象だけで繁殖相手を決めない」ための、繁殖までのハードルを上げる仕組みではないかと整理します。エマさんも、付き合って1か月後に冷めるような場合も含め、嫌いになるトリガーが生まれたら相手をはじいて自分の身を守る仕組みだと言い換えました。
女性のほうが蛙化しやすいのは本当か
エマさんは、妊娠・出産のリスクを負うのは女性なので、生物学的に考えると女性のほうが蛙化現象の本能は強いのでは、と考えます。実際、女性から男性への蛙化のほうがよく聞く気がするといいます。
レンさんは、逆のケースも多分あると話しつつ、別の可能性を挙げます。女性は「蛙化」とラベルを付けて語り、男性は「冷めたわ」で済ませているだけではないか、という説です。
「冷めたわ」で終わってるというか。「蛙化だわ」みたいな感じにわざわざ言ってないだけ説も俺ある気がするけど。
ここでエマさんが、蛙化現象は食べ方や髪の毛の汚さなどで「キモ」となるイメージだと話すと、レンさんは「それが蛙化現象ではない」と返します。冒頭の「カエルに寄りすぎてる」というやり取りはこの場面のものです。
いやなんか些細な言動で急に冷めるはもう全部蛙化だから。
レンさんは、急に冷める現象すべてを蛙化と呼ぶのは意味が広すぎると感じ、元の意味のほうが「あるある」だと話します。ただ、元の意味の蛙化現象には本能的な意味はなさそうだ、とも述べました。
名前が付くことで悩みは深くなる?
レンさんは、名前を付けることで問題化してしまう面もあると指摘します。ハルさんの番組でも蛙化現象に悩むリスナーが多いと書かれていたからです。エマさんも、ラベルがあると「これだ」と注目して悩んでしまうかもしれないと同意しました。
悩む理由がピンとこないレンさんに、エマさんは自分の経験を交えて説明します。デートまでしていた相手に急に冷めると、その後どうするかが面倒になり、繰り返すと本気の恋ができなくなるというのです。
多分自分にも嫌悪感を持つなと思う。「なんで私はこんなすぐ、この、いろんな人のこと嫌いになっちゃうんだろう」みたいな。自分の感情がコントロールできないから。
対策を考えようとするレンさんに、エマさんは「対策を考えるのはハルさん」と返し、科学的な部分に話を戻します。二人がたどり着いた答えは、自分を守るための仕様が行き過ぎると悩みになるというものでした。
昔の果物に練乳をかけていたのはなぜか
最後のおたよりはBoneChickenさんから。過去の「人類VS甘味料の科学と歴史」の回を受けた感想です。
最後の摂取量の件で、「自然の果物や食べ物に含まれている糖はまあ別にいいよね」とレンさんがおっしゃっていましたが、それにしたって昨今の果物は甘すぎませんか?私は今年40歳になりますが、私が子供の頃は、例えばイチゴとかは練乳や砂糖をかけて食べるのが割と一般的でした。
最近では柑橘類ですら素の状態で甘く感じるものが大半だと思います。なので昔の感覚のまま「果物だから別にいいよね」と言ってパクパク食べていたら、過量摂取になるのではないかなと危惧しています。
おたよりは、砂糖よりアルコールのほうが長く摂取されてきたという理由で「私は砂糖よりもアルコールをバカバカ摂取します」と、途中から酔っ払ったような調子に変わり、二人を笑わせました。
二人とも最近の果物が甘いことには同意し、食べ過ぎは何でも良くないと話します。そこからレンさんが「イチゴに練乳をかけていたか」と尋ね、練乳の正体探しが始まりました。
レンさんが調べると、練乳は牛乳を加熱して水分を半分以下まで蒸発させ、濃縮したものでした。砂糖を加えた加糖練乳と無糖練乳があり、冷蔵設備のなかった19世紀に牛乳を保存する手段として開発されたそうです。
| 項目 | 内容 | 補足 |
|---|---|---|
| 作り方 | 牛乳を加熱し水分を半分以下に | 濃縮した牛乳 |
| 種類 | 加糖練乳・無糖練乳 | 砂糖の有無で分かれる |
| 起源 | 19世紀 | 冷蔵設備のない時代の保存手段 |
エマさんは「イチゴと牛乳を一緒に食べていた」とまとめ、レンさんは「実質イチゴ牛乳」と納得します。最近の甘い果物に練乳をかければ、相当な量の糖を取ることになりそうです。
練乳とアイスをめぐる夫婦の小競り合い
練乳の話をしているうちに、レンさんは10年以上食べていない練乳が食べたくなってしまいます。一度食べたら毎日練乳生活が始まるかもしれない、と自ら依存性を心配するほどです。
話はアイスを買うのはどちらかという言い争いに発展します。エマさんは「君がトリガー」だと主張し、レンさんは果物を買って食べているのはエマさんだと返しました。
その、すっごい甘いお菓子とか食べるよりは果物の方がいいかなって思って食べてるかな。とか、野菜の代わりに食べたりとかしてる。
レンさんが「野菜を食べたほうがいい」と返したところで、「砂糖のせいで喧嘩しそうになった」と話を締めくくりました。
エンディングでは、おたより回は自分たちだけでは生まれない視点が来て面白いと振り返り、概要欄のフォームやLINEでおたよりを募集しています。オープンチャットでは、マンションで会ったときの挨拶の話題で盛り上がったことも紹介されました。
まとめ
今回のおたより回では、転勤の不安、ゴム、浮気と遺伝子、蛙化現象、甘い果物と練乳まで幅広い話題が扱われました。結論を断定せず、知人の体験や調べた知見をもとに二人で考えを重ねていく様子が印象的な回です。
- 場所が変わる生活の不安には、仕事や趣味など場所に左右されない「柱」を増やし、決断は自分の都合で下すという考え方が紹介された
- 浮気性が遺伝子だけで決まるとは考えにくく、体は環境に応答し、ホルモンなど一時的な要因も絡むと話された
- 蛙化現象は元の意味から「些細な言動で急に冷める」現象全般へと広がり、繁殖コストの高い相手を避ける本能に近いという説がある
- 自分を守るための仕組みも、行き過ぎると本人が悩むほどになるのではと二人は考えた
- 練乳は牛乳を濃縮したもので、19世紀に保存手段として生まれた。甘い現代の果物との組み合わせは糖の取りすぎに注意が必要そうだ







