水の次に人類が使っている物質は何か?
この回は、レンさんがエマさんに出したクイズから始まります。人間が一番使っているのは水として、その次に多く使われているものは何か、という問いです。
エマさんは炭素、プラスチック、塩、鉄、アルコール、光と次々に答えますが、どれも外れます。レンさんは「毎日必ず視界に入っている」「人間が作って使っている素材」とヒントを重ねていきます。
景色想像して。外出ました。何が見える?
「空」と答えて「上見すぎだって」と突っ込まれたあと、エマさんは「道」に行き着きます。道が何でできているかを聞かれて、ようやく正解のコンクリートにたどり着きました。
レンさんによると、コンクリートは水の次に人類が使っている物質だといわれています。量の感覚をつかむため、年間の消費量を世界の人口で単純に割った1人あたりの数字が紹介されました。
水は飲み水だけでなく、お風呂や食料生産に使われる分も含めて1人あたり年500トンほど。コンクリートは1人あたり年3.75トンで、水の約130分の1ですが、それでも膨大な量です。
エマさんが候補に挙げたプラスチックは、同じ計算で1人あたり年53キロほどにとどまります。日々個人が手に取る印象とは逆に、建物や道に使われるコンクリートのほうが規模ははるかに大きいことがわかります。
レンさんは、コンクリートは「なめられている」と考えています。外の視界の8割ほどを占めているのに、言われるまで思い出されないほど当たり前に溶け込んだ素材だからです。
「そういやコンクリートあったな」みたいな。それぐらいなんかもうさ、当たり前に溶け込んじゃってるもんだと思う。
「共に成長する」という名前と、乾かずに固まる仕組み
コンクリートという名前の由来も、この回の大事な伏線です。レンさんの説明では、「コン」は「共に」「一緒に」、「クリート」はincreaseと同じ「増える」方向の語源で、合わせて「共に成長する」という意味になるそうです。
エマさんは「素敵な響き」と受け止めつつ、硬い灰色の素材のイメージとは合わないとも感じます。レンさんは、話を聞き終えれば「共に成長する」の意味がわかるかもしれないと予告します。
コンクリートの材料は、砂や砂利にセメント ── 石灰石と粘土を高温で焼いて粉にしたもの。水と反応して固まる性質を持ち、コンクリートやモルタルの「接着剤」の役割を果たしますと水を混ぜたものです。セメント自体は、石灰石と粘土を焼いて砕いた固体の粉で、いわば接着剤のような役割を担います。
エマさんは、コンクリートは水で溶いたセメントを乾燥させて固めるものだと考えていました。レンさんによると、この理解はよくある勘違いだといいます。
あれってセメントと水が化学反応を起こして、結晶になってガチガチになってるの。
レンさんの説明では、石灰石(炭酸カルシウム)を焼くとCO2が抜けて生石灰になり、これが粘土に含まれるケイ素の化合物と水と反応します。その結果、針のような結晶ができ、無数に絡み合って硬くなっていきます。
石灰石を焼く
炭酸カルシウムからCO2が抜け、生石灰になる
粘土と合わせる
粘土に含まれるケイ素の化合物と組み合わさる
水と反応する
ケイ酸・カルシウム・水が反応し、針状の結晶ができる
結晶が絡み合う
無数の結晶が繊維のように絡み、ガチガチに固まる
乾燥ではなく反応で固まるため、コンクリートは水の中でも固まります。海に橋を建てるときに水中で固められるのも、この性質があるからだとレンさんは話します。
材料がそこら中にあって安く作れること、固まる前はドロドロでどんな形にもできることも、大量に使われる理由です。ナノレベルの結晶が絡み合って育っていく様子こそが、「共に成長する」という名前のイメージだと説明されました。
ローマのコンクリートはなぜ2000年もつのか?
エマさんの「コンクリートって最近のもの?」という問いに、レンさんは2000年前からあると答えます。古代ローマ人がすでにコンクリートを作っていて、当時のドームが今も残っているそうです。
現代のコンクリートは100年ほどで脆くなるとされるのに、ローマのものは2000年もちます。その理由は長く謎とされてきましたが、2023年の研究で答えが見えてきたといいます。
ローマのコンクリートには白いつぶつぶが混ざっていて、以前は混ぜ方が雑だったせいだと考えられていました。実際には、加熱しながら石灰を混ぜたときにできるカルシウムの塊だったそうです。
ヒビが入って水がしみ込むと、ヒビの内側にあるカルシウムの塊が溶け出し、炭酸カルシウムとして再び固まってヒビを塞ぎます。ローマのコンクリートは、自分でヒビを直していたことになります。
これは意図的なのかはわからないけど、そういうのがね、ローマのコンクリートにあったらしくて。
この仕組みを参考に、自己修復するコンクリートを作る研究も進んでいます。レンさんは、2000年前の技術を今になって再現しようとしている点を「不思議」だと話しています。
ローマの滅亡で消えた技術は、いつ再発見されたのか?
エマさんは、ローマの優れた製法だけが廃れて弱い作り方が伝わったのだと考えていました。レンさんによると、実際にはローマの滅亡とともにコンクリートの技術そのものが失われ、18世紀ごろまで途絶えていたそうです。
中世のヨーロッパではレンガや、石を切り出して埋めた石畳が使われ、今のようなコンクリートはありませんでした。二人は、もし技術が受け継がれていたらヨーロッパの街並みは今と全然違い、趣もなかったかもしれないと笑い合います。
再発見のきっかけは1759年ごろ、イギリスのエディンストン灯台の建設でした。波に流されない水に強い灯台を作るため、粘土や石や砂を混ぜて試すうちに、セメントにつながるものが見つかったといいます。
その後、元レンガ職人のジョセフ・アスプディン ── 19世紀イギリスのレンガ職人。現在の主流であるポルトランドセメントの特許を1824年に取得した人物として知られていますがセメントの特許を出し、レシピを企業秘密にしていたと紹介されます。特許を出したことは、自分たちが新しい技術を見つけたと主張していたことを示している、とレンさんは見ています。
ただ、当時のコンクリートには引っ張る力に弱いという弱点があり、使われ方は限られていました。
庭師の植木鉢から生まれた鉄筋コンクリート
コンクリートの弱点を補う方法は、意外なところから生まれます。1867年、フランスの庭師ジョセフ・モニエールさんが、とにかく丈夫な植木鉢を作ろうとしていました。
この庭師は、鉄の網をコンクリートで覆えば丈夫な植木鉢になることを見つけ、別の特許を出しました。その植木鉢はパリ万博に作品のような形で展示されたそうです。
展示を見た人が「建物に使えるのでは」と考え、鉄網とコンクリートを組み合わせて建物を建てたのが、鉄筋コンクリートの始まりだといいます。
これを使えば建物丈夫に作れるから、ビルとか作れるんじゃない?って。
レンガや石で高く積み上げるのには限界があり、二人も「高層ビル並みのレンガは絶対崩れる」と話します。鉄で補強したコンクリートなら上へ伸ばせるため、これをきっかけにコンクリートは爆発的に普及しました。高層ビルが建つのは、もう少し後のことです。
鉄筋を入れると寿命が縮む?
最強に見える鉄筋コンクリートですが、ローマのように2000年はもちません。コンクリートの耐久年数は50年程度とよくいわれ、レンさんは「鉄筋を入れることで逆に寿命が短くなっている」と話します。
理由を聞かれたエマさんは温度による伸び縮みを挙げ、次に「錆びて体積が増える?」とたどり着きます。鉄筋が錆びて膨らむと、内側からコンクリートを割ってしまうのです。
鉄筋が錆びる
時間がたつと内部の鉄が錆びる
体積が膨らむ
錆びた鉄が膨張し、内側から押し広げる
ヒビが入る
コンクリートが割れる
水が入る
ヒビからしみ込んだ水でさらに錆が進む
ローマのコンクリートには、そもそも鉄筋が入っていません。カルシウムの塊に加えて、この弱点がないことも2000年残った理由だとレンさんは説明します。
それでも鉄筋は手放せません。ドームや壁はコンクリートだけで作れますが、橋の真ん中に重いものが乗ると引っ張る力がかかり、コンクリートだけでは弱いからです。
錆びる鉄がないので長もちする。ドームや壁は作れるが、引っ張る力には弱い
橋や複雑な構造を作れるが、鉄筋の錆で寿命が短くなる
現代文明はだから寿命短いってわかりつつも、鉄筋コンクリートに依存してるみたいな感じらしいよ。
エマさんはステンレスなら錆びないのではと提案しますが、レンさんは傷つけば結局錆びることと、建物に使う量を考えると大量に手に入る素材に限られることを指摘します。金の家なら2000年もつかもしれない、という話は「結局埋めるんだよ」という突っ込みで終わりました。
セメントのCO2排出と世界的な砂不足
話題は現代の環境問題に移ります。レンさんによると、セメント産業だけで世界のCO2排出の8%ほどを占めるそうです。セメントを作るときに石灰石を焼く工程で、CO2が大量に出るためです。
もう1つの問題が砂不足です。コンクリートに使える砂は何でもよいわけではなく、砂の多い地域から輸入されています。
ドバイって、砂漠の真ん中にあるけど。なんかさ、もう砂まみれじゃん。だけど砂輸入してるんよ。
砂漠の砂は細かすぎてコンクリートに使えず、ドバイはオーストラリアから砂を輸入しているといいます。世界各地では違法な砂の採掘もあり、砂の取り合いが起きているそうです。
レンさんによると、世界で採掘されるものの30%ほどがコンクリートに使われています。中国は2011年から2013年の3年間で、アメリカが20世紀全体で使った以上のセメントを使ったとも紹介されました。
とはいえ、コンクリートをやめてレンガ造りに戻るのは現実的ではありません。ヨーロッパでは今もレンガで補修する例がある一方、これから発展する国はコンクリートで街を作るはずだとレンさんは見ています。だからこそ、より長もちするコンクリートを作るほうが環境にもよい、という考え方になります。
細菌がヒビを塞ぐ?未来のコンクリート
丈夫で壊れても直るコンクリートとして、今ローマのコンクリートが注目されています。自己修復するコンクリートには、いくつかのアプローチがあるそうです。
その1つが、細菌を練り込んで作るバクテリアコンクリート ── 微生物の働きでヒビを修復するコンクリート。休眠状態の細菌を混ぜておき、ヒビから水が入ると活動して炭酸カルシウムを作り、隙間を埋めますです。ヒビから水が入ると細菌が目覚め、代謝で炭酸カルシウムを作ってヒビを塞ぎます。
(ヒビを)塞いだらまた眠るんかな。
レンさんは、石のような構造を作るサンゴにも似た仕組みだろうと推測します。ローマの白い粒を再現して商業化を目指す研究も進んでいるそうです。
エマさんは鉄筋が使えない点を気にしますが、レンさんは鉄筋と組み合わせることはできると考えています。ローマのコンクリートは鉄筋を使っていなかっただけ、という整理です。
コンクリートの再利用は砕けば一応可能ですが、固め直すには再び焼く必要があり、結局環境負荷がかかります。そこで、セメントの代わりにCO2を吸収して固まる素材の研究も行われています。
日本でも、東京大学などでカルシウムカーボネートコンクリート ── 炭酸カルシウムを主な結合材とし、CO2を取り込みながら固まるコンクリートの研究開発。製造時の排出削減を狙った技術として注目されていますの研究が盛んで、ブロックも作られ始めているといいます。ただし、レンさんは本格的な実用化はまだこれからだろうと見ています。
エマさんは、耐久性が上がれば作り直す分が減り、人間が使うものランキングからいつか外れるかもしれないと期待します。レンさんも、作り直す分は減るかもしれないと応じつつ、未開拓の土地に街を作る限りコンクリートは作られ続けるだろうと話しています。
SF映画の未来都市は、なぜ実現しないのか
最後に話題は、映画の未来都市に移ります。『スター・ウォーズ』などに出てくる未来都市は光沢のある金属のような素材でできていて、コンクリートではありません。
レンさんは、一度建てたら壊れない代替素材ができれば、街の景色は一変して未来都市ができるかもしれないと想像します。一方でエマさんは、1800年代以来コンクリートの地位は一度も揺らがず、ガラスの高層ビルも土台は鉄筋コンクリートだろうと指摘します。
SFの映画とかと現実のギャップ、結構俺そこだなと思っててさ。
レンさんは、そもそも素材が足りないため、現実路線では光沢のないコンクリートの建物になると考えています。エマさんは、都心のガラス張りの高層ビルを増やせば近未来感は出せるのではと返します。
ガラスも砂からできています。金属の未来都市は素材的に難しいので、コンクリートとガラスを組み合わせて未来都市に近づこうとしているのではないか、というのがレンさんの説です。
反射するビルを「都会っぽい」と感じる理由について、エマさんは光沢のないコンクリートの建物には圧迫感があり、反射すると透明感が増すからではと考えます。上海の街並みや、カーブした建物の近未来感も話題にのぼりました。
締めくくりに、レンさんはコンクリートを「灯台下暗し案件」と呼びます。人間社会の進化とともにずっとあるのに話題にされない素材に、この回でスポットライトを当てたというわけです。
まとめ
コンクリートは水の次に人類が使っている素材でありながら、ほとんど意識されない存在です。この回では、乾くのではなく水と反応して固まる仕組みから、ローマの自己修復するコンクリート、鉄筋の功罪、CO2と砂の問題、未来の素材までが語られました。
- コンクリートは砂・砂利・セメント・水からなり、セメントと水の化学反応で針状の結晶が絡み合って固まる
- 古代ローマのコンクリートは、カルシウムの塊がヒビを塞ぐ仕組みと、鉄筋を使わないことで2000年もっている
- 鉄筋コンクリートは庭師の植木鉢から生まれ、ビルを可能にした一方、鉄筋の錆で寿命が短くなる
- セメント産業は世界のCO2排出の約8%を占め、コンクリートに使える砂の不足も起きている
- 細菌やCO2を吸収する素材を使った自己修復・低炭素のコンクリートの研究が進んでいる



