怪異譚シリーズ、次の題材は人面樹
小柳省三さんは、「画家、考え中。」を、絵を描く作業を配信するチャンネルだと紹介します。現在は、お化けや妖怪を描く「怪異譚」というシリーズに取り組んでいるそうです。
直近で描いていた妖怪・夜泣き石はすでに完成しています。この日は、本当に完成でよいかをリスナーと一緒に確認することから始めました。
次に描く題材は、中国から伝わった妖怪の人面樹 ── 中国由来の妖怪。人の顔のような花を咲かせる木とされるです。小柳さんによると、九尾の狐や鬼の概念も中国由来だといいます。
小柳さんが描く人面樹は、人の顔をした花を咲かせる木です。微笑みかけると花も笑い返しますが、人の言葉は理解していません。やりすぎると枯れて落ちてしまう、儚い妖怪だと説明しました。
ドラクエに出てくる、木に顔がついた人面樹とは別物だとも話しています。小柳さんは、ほとんど何もできず、悪いこともしないこの妖怪が好きなタイプだと語りました。
木そのものに人の顔がついている姿
人の顔をした花を咲かせ、微笑みかけると笑い返す。やりすぎると枯れて落ちる
夜泣き石は完成なのか。質と量の話
背面カメラに切り替え、小柳さんは夜泣き石を見ながら出来を確認しました。墨のにじみや、岩絵の具が墨に溶けて取れる効果は狙いどおりだったそうです。
特に、最後に下の方を暗くしたことが大成功だったと話しています。祟る石である夜泣き石の恨めしさが出たからです。確認の結果、夜泣き石は完成となりました。
小柳さんは、気に入るまで描き、駄目なら失敗として捨てると話します。成功した作品でも、発表するには弱いものは手元に残すため、発表できるのは半分もないそうです。
毎日のように発表・販売を続けるには、その倍以上を描く必要があります。そのため質も量も大事だというのが、小柳さんの考えです。
質だけでもダメだし、量だけでもダメなんですよ。
質だけでよいなら、天才的な質が必要だと小柳さんは言います。例に挙げたのは、生涯に20数枚だったかというフェルメールと、数万枚を残したピカソです。ピカソは量と質を両立できた人だと語りました。
墨をすって人面樹の下描きへ
小柳さんは新しい紙に向かい、いつものように墨をすり始めました。水は硯の別の側に置くこと、力を入れずに墨が滑るだけの状態で擦れるのが正しい硯であることを、毎回説明しているそうです。
力を入れないと擦れない場合は、熱いお湯で硯を洗うか、買い換えるよう勧めています。墨擦りは時間がかかると思われがちですが、実際はそれほどかからないと話しました。
人面樹の構図は決まっておらず、ガイドラインも引かずに描き始めています。木の根元に立つ子供が花を差し出し、人面樹の花が笑っているという構想でした。
小柳さんは、頭の中の絵を紙にプロジェクターで映し、それを筆でなぞる感覚で描くと説明します。ただ、そのトレースが難しいと話しました。
人面樹は害のない妖怪ですが、不気味さがゼロでは妖怪になりません。ユーモラスさも必要なので、フォルムにはどちらも入れたいそうです。
子供の服は、六斎念仏の「無我」という絵の子のような着物にすることにしました。時代は現代ではなく、昔風に決めています。
写真よりスケッチ。取材で解像度が高いのは手描き
小柳さんは、頭の中の構図も、実際に描いてみると違って見えると話します。部分ははっきり見えても、全体にピントが合うことはなく、細部を描こうとすると見えなくなるそうです。
写真も同じです。取材ではスケッチを基本にしつつ念のため写真も撮りますが、あとで見返すと欲しいところが写っていないことが多いといいます。
手で描いていれば、描く最中に見落としそうな箇所に気づけます。小柳さんはこれを、手描きは解像度が高いと表現しました。写真では、欲しい部分を取材しきれていないという意味で解像度が低くなると語っています。
簡単な絵など、ひとつも無い
30分に一度の休憩を取った後、小柳さんは、何回描いても絵が簡単だと思ったことはないと話しました。絵が難しくなくなる人もいるようですが、自分は毎回難しいままだそうです。
文化財複製師をしていた頃は、多い時には500案件が3か月で入ってくることもありました。断れば二度と仕事が来ないため、受けてから悩んだといいます。
簡単な仕事なんか一個もあるわけないんだぞ。
涼しい顔で量をこなしていた先輩に感心して話しかけると、先輩から厳しい口調でこう言われたそうです。小柳さんは、この人でもそう思うのなら大丈夫だと思え、救われたと振り返りました。
自分の絵でも同じで、簡単な絵はないと小柳さんは話します。複製を手描きで行う「うつら」も、楽に儲かると思っていたのに、やってみると楽ではなかったそうです。ただ、構図と色が決まっている分、一から考えるよりは楽だとも話しました。
版画と手描きの違い。「うつら」とは何か
「うつら」は、自分で描いた原本15枚から注文を受け、その原本を自分で全て手描きで複製して渡すシリーズです。小柳さんは、版がないので版画ではなく、版画ではないのに同じものがたくさんある形は世の中にあまりないと考えています。
印刷による版画では、100部と決めたら刷り終えたところで版を壊し、希少性を保ちます。小柳さんによると、ジークレー ── 高精細なインクジェットプリントによる複製。美術作品の印刷に使われるはデジタルの版のため、削除しても復元できてしまいます。
小柳さんは、約10年前にジークレー版画で、限定100枚のはずが約300枚刷られていた事件があったと話します。デパートで売られていたため信用が落ち、その後数年間、デパートでは版画の販売が自粛されたそうです。
版を壊して限定数を守ることで価値を保つ。一日に何百枚、新聞なら数百万枚も刷れる
版がなく、全て手描き。限定にはせず、通し番号は001、002と振る。一日に描けるのは1枚程度
手描きだからこそ、背景色や柄の組み合わせ、サイズを変えるカスタムオーダーにも応じられます。手間は変わらず、版を作り直すコストがかからないからです。
うつらの営業と、AIによる業務管理
小柳さんは、うつらを主に英語圏の企業や医療機関、ホテルなどへ営業しています。一日に3、4件声をかけ、100件に1件の注文を目標にしているそうです。英語圏が終われば、他の言語圏へ広げる考えです。
現状は「かわいい絵」という反応が多く、「複製なのに全部手描きという狂気」を面白がってくれる相手が出てほしいと話しました。1枚8万8千円という価格に落ち着くまでには、何度も変更したといいます。
営業ツールの見本やPDF、サイトの整備に数か月かかり、ようやく本格的に営業を始めたところです。
管理はGoogleドライブの台帳で行い、ClaudeとChatGPTなどのAIが台帳を見て、営業先がバッティングしないよう調整しているといいます。
AIが自分のパソコンを操作できるようになったため、グラフィックソフトで四コマ漫画を描かせる実験もしているそうです。ただし、発表はしていません。
人物は苦手。ほのぼのした人面樹になった
小柳さんは、人物を描くのが苦手で、決まったスタイルを持っていないと話します。羽根の子のように特殊な人物は描けるものの、絵に溶け込む普通の人物はほとんど描けないそうです。
できあがった人面樹は、木を不気味な形にしたのに、とてもほのぼのした絵になりました。下描きなしでいきなり描くと、自分そのものが出てしまうからだと語っています。
可愛いのは好きだとしつつ、これからが腕の見せ所だと話しました。配信は月曜から土曜の21時から22時ごろまで行っています。
まとめ
この回では、夜泣き石の完成チェックから人面樹の下描きへと進みました。その中で、絵も仕事も簡単ではないという実感が語られています。
- 夜泣き石は、下の方を暗くしたことで祟る石の恨めしさが出て完成とした
- 質も量も大事で、発表できるのは描いた作品の半分未満
- 先輩の「簡単な仕事なんか一個もあるわけない」という言葉に救われた
- 「うつら」は版がなく全て手描き。海外中心に営業中
- 人面樹は不気味さを狙ったが、ほのぼのとした絵になった




