「発明家」と名乗る人が、なぜ日本に少ないのか
この回は川口さん不在の特別編として、三浦さん一人で進行します。テーマは、発明家に聞くアイデアとの向き合い方です。
ゲストの出村光世さんは、クリエイター集団のコネルと、メディアの知財図鑑、それぞれの代表を務めています。肩書きは「発明家」です。
出村さんはもともとアクセンチュアでコンサルティングをしていました。ロジックと「正しさ」を求められる仕事を3〜4年続けたところで、別の軸で働きたくなったと話します。
正しいか正しくないかではなくて、いい感じかいい感じじゃないかっていう、すっごい曖昧な軸で仕事がしたくなったんですね。
そこで思い浮かんだのが音楽仲間でした。絶対的な正しさは証明できない、そんな主観的な感覚を語り合えるメンバーと作ったのがコネルです。
なぜあえて「発明家」を名乗るのか。出村さんは、この肩書きが持つ空気を変えたいと考えています。
発明家ってググると、エジソンですとかテスラですとか出てくるんですけど、めっちゃビッグすぎて誰も名乗らなくて。
日本では特許が年間30万件ほど出ています。少なくとも延べ30万人ほどの発明した人がいるはずなのに、名乗る人が少ない。その雰囲気を変えたくて、滑る覚悟で名乗ってみたといいます。
心拍に触れるバッグ、眠りを持ち運ぶ服という発明品
出村さんは、チームで作ったいくつかの発明品を持参しました。どれも身体感覚に訴える点が共通しています。
1つ目は「カミナリダマ」という地球儀です。NASAが公開する落雷情報をAPIで取得し、ほぼリアルタイムで雷が落ちた場所にミニ雷を放電させます。
出村さんはこれを「ボーテック(ボーっとするテクノロジー)」と呼びます。電池で動く偽キャンドルのチカチカした揺らぎが嫌いだと語りました。
もしあれ(偽キャンドル)を1時間凝視しろって言われたら拷問だなって思うんですよ。だけど普通のロウソクだったらワンチャン見ちゃう可能性がある。
デジタルに操作された偽の揺らぎではなく、生のランダムが手に入る。それがこの発明の狙いです。
2つ目は「ミーティング専用粘土」。既製品の練り心地のいい粘土を、アイデアを出すためのツールとして使います。
アイデアが出る瞬間って、体のセンサーとすごくマッチしてる気がしてて。ミーティングの最初にお客さんにおすすめして、こねながらミーティングしてます。
3つ目は、NTTグループとのクライアントワークから生まれた「眠りを持ち運ぶ服」です。日本人は先進国の中でも最も寝ておらず、睡眠不足による損害は1兆円ほどともいわれます。
そこで提案するのが「分眠(ぶんみん)」という考え方です。連続して1時間早く寝るのは難しくても、15分を4回なら実現できるのではないか、という発想です。
電車に乗ってる間に2駅ぐらい寝落ちした時、めっちゃ気持ちよくないですか。その感覚を容易に味わえる服です。
そして最新作が「パルスパック」。手を入れると自分の心拍の半分のスピードでリズムを打つ、心拍に触れられるウェアラブルバッグです。
最初、中に液体が入ってるのがすごい生物みたいな感じがして。でも触ってるうちに、心拍だって聞いてるうちにだんだん落ち着いてくる感じがありますね。
自分とだけつながり、自分で自分を落ち着かせる。出村さんはこれを「セルフカーム」という新しい文化にしたいと考えています。
「0.1発想」──完璧を目指す前に粗い種をためる
出村さんがアイデアと向き合う考え方は3つあります。0.1発想、発明を文化にすること、そして起業家としての再現性です。まずは0.1発想からです。
0から1を生もうとすると、多くの人は完全武装して膨大な資料を作りがちです。出村さんは、それだとコストが合わないと指摘します。
自分の心音が感じられるデバイスあったら良くない、っていうくらいが、僕の中での0.1。
この粗い思いつきをノートや音声に残し、頭の中に霧のようにまとわせておく。それを出村さんは「波待ち」と呼びます。
自分の中に粒度の粗い0.1をたくさん持っておくと、あ、これウェーブ来たなって思ったら、その時に出したり、その時につなげたり。
人との出会いや、追いつかなかったテクノロジー、資金の都合。粗い種をためておけば、条件がそろった波が来たときに一気に形にできます。
発想の段階もいくつかあります。しばらくは頭の中に置き、忘れる程度のものは忘れる。残ったものはメモに書き、朝会などで社員に話して反応を試します。
最初はたいてい滑ります。それでも諦めきれないものを、別の言い方で人に話し続ける。すると途中で「確かにいいですね」という協力者が現れます。
諦めないであの手この手で表現を変えていくと、あ、確かにいいですねって人がやっぱ現れるんですよ、途中で。
スケッチが描ける人を巻き込み、輪を広げる。そこまで進んで「ようやく0.1くらい」だといいます。
では0.1はどこで見つかるのか。出村さんの場合は、身体に触れるフィジカルな体験が多いそうです。
課題というよりも、もっと欲しい。海に入ってて気持ちよかった時、これがもっと欲しいとか、めちゃくちゃピュアな欲求じゃないですか。
卵かけご飯を2杯3杯食べたい、でもカロリーが気になる。ならば「食べてもいい卵かけご飯」を考える。痩せなきゃいけないから何かするのではなく、もっと食べたいから考える発想です。
発明を「文化」にする──技術より、生活がどう変わるか
2つ目の考え方が、発明を文化にすることです。優秀な発明家や研究者ほど、特定の技術に深く詳しくなります。
しかし論文がまとまれば研究は一段落してしまい、使われない特許が山のように眠る。それが今の日本だと出村さんは見ています。
そこで出村さんは、技術の凄さだけでなく「それによって生活がどう変わるか」を両極で意識します。すると協力者が増えやすくなるといいます。
この発明は一体何の文化になるのかっていうのを常に考えてますね。
全人類に波及する必要はなく、超特定の人に刺さるものでもいい。身の回りの誰かがやるだけでも幸せだ、という姿勢です。
出村さんは、欲しいものをまず作り、後から「なぜ欲しかったのか」を考える順番もあるはずだと話します。すると意外とマーケットが見つかることがあります。
三浦さんは、この点で日本のビジネス界のリサーチ偏重に触れます。すでに顕在化した欲望を追いかけると、同じようなものしか生まれないという指摘です。
新しい本当にすごいものが出てきた瞬間、あ、欲しかったのはこれだったんだってなることってたくさんありますもんね。
出村さんは、企業に足りないのは0.1だと言います。社員のメモ帳の中にはあっても、共有できないからです。
急にめちゃくちゃ相性のいい会社の社長が来た時に、僕のメモ見てくださいとかならないじゃない。
だからこそ、妄想をプロトタイプとして具現化しておく。体験や想像ができるストックがあると、話し合いが盛り上がるといいます。
一人で抱えず、発明を「部活」にするという再現性
3つ目が、起業家としての再現性です。個人の欲望を形にするには、一人では難しく、チームが要ります。
コネルは、自分にない能力を持つ人を仲間にする形で始まりました。音楽仲間のエンジニアとデザイナー、そして出村さんの3人からのスタートです。
コツは、自分たちの能力ではギリギリできない一歩先を、背伸びしながらやることでした。
自分たちの能力だとギリギリできない一歩先ぐらいのことを、なんとか頑張ってやる。足んなかった部分の人が見てくれて、俺なんか手伝えそうって、やっぱなってくる。
では普段の仕事と発明活動はどう両立するのか。三浦さんは、Googleの「20%ルール」を引き合いに問います。
出村さんの答えは意外なものでした。経営者としてすでに150%近く働いているため、一人で20%を捻出するのは難しいというのです。
代わりに提案するのが、リソースの張り方を変えることです。5人のチームなら、1人が100%新しいことに、残りの4人が既存の仕事にあたる形なら実現できます。
5人のチームで、1人が100%新しいことをやる。残りの4人はいわゆる既存の仕事をやる。そこからいろんなものが生まれた。
三浦さんは、これを「発明を部活にする」と表現します。一人で完結せず、仲間を集めてバンドや部活のノリで面白いものを作る発想です。
合理的で売れそうなものは、これからAIがどんどん作っていく。だからこそ、自分だけは絶対に欲しいものを作ることに価値があるという流れです。
アイデアは体から生まれる──裸足と水シャワーの流儀
三浦さんは、社会起業家を目指す若者の相談にも話を広げます。「誰を助ければいいか」「何が社会課題か」で止まってしまう人もいるといいます。
何が社会課題なんでしょうかっていうレベルで止まってる方がいたら、自分のこと見てほしいですね。
卵かけご飯を3杯食べたい。そんなプリミティブな自分の欲望に敏感になることが出発点だと、二人の見方は重なります。
では、自分のちょっとした気づきや欲望に敏感になるには何をすればいいのか。出村さんの答えは徹底して身体的でした。
足の裏ってむちゃくちゃセンサーが多いじゃないですか。山を裸足で歩いたら、むっちゃアイデア湧きますってこととかありますね。
家の中でできることとしては水シャワーを挙げます。出村さんの流儀は、朝、シャワーをひねって最初に出る30秒ほどの水を浴びることです。
とにかくギュッってまずなるんですよ。そこからじわーってあったかくなってくるところにアイデアあるんですよね。
脳もまた体の一部です。自分の体を使って動かすことが、内なる欲望や気づきに敏感になるきっかけになる、と三浦さんはまとめます。
最後に、出村さんにとっていいアイデアとは何かが問われました。
パルスパックを作ったことで「次は足をやりたい」と思い、思ってもみなかったことをやりたいと言ってくれる人も現れる。発明の成果は、次の発明なのです。
まとめ
発明家・出村光世さんの発想法は、課題解決から入るのではなく、個人のピュアな欲望から始まります。粗い種をためて波を待ち、仲間を巻き込み、生活がどう変わるかまで見据える。その一連の姿勢が、アイデアを形にできない人へのヒントとして語られました。
- 完璧な「0から1」を目指す前に、粗い「0.1」の種をノートや頭の中にためておく
- 課題解決ではなく「もっと欲しい」という個人の欲望を出発点にする
- 技術の凄さだけでなく、それが何の文化になるか、生活がどう変わるかまで考える
- 一人で抱えず、5人のチームで1人を新しい挑戦に張るなど、リソースの配分を変える
- アイデアは体から生まれる。裸足の山歩きや水シャワーなど身体感覚を刺激する



