なぜ社員の健康に数十億円を投じるのか
番組「The Solutions」は、思わず「その手があったか」と言わせるアイデアに着目するビジネスメディアです。この回は久々のロケで、愛知県豊田市のタマディックへ向かいました。
ゲストは、株式会社タマディック代表取締役社長の森實敏彦さん。歴史あるエンジニアリング会社の社長でありながら、インスタのアカウント名が「サウナホリック」だという人物です。
タマディックは2017年に「健康宣言」をして健康経営に注力してきました。そのきっかけは、体を壊して働けなくなる社員の存在でした。
それでもね、やっぱり体を壊して働けなくなる社員っているんですよ。それがどうしても嫌で、あの時もっと厳しく言えばよかったと思うことが何度もあった。
うるさいと思われるかもしれない、健康は社員の自由じゃんと言われるかもしれないけど、踏み込むしかないなと思って、健康宣言を始めたんです。
製造業の近くにいる会社で労働安全衛生が厳しくても、それでも人は働けなくなる。だからこそ、社員の私生活に踏み込んででも健康に取り組む、という決断でした。
ぶっちゃけ儲かったのか
三浦さんは、健康が大事という理屈はわかるとしつつ、率直な質問をぶつけます。
すごい理屈はわかったんですけど、ぶっちゃけ儲かったんですか。会社は伸びたんですか。
森實さんの答えは明快でした。この5年で会社の規模は約1.5倍。スタートアップのように10倍20倍という話ではないものの、無理のない形で伸び続けています。
ただし、ここに至るまでには失敗もありました。売り上げを増やしすぎて仕事を取りすぎ、こなしきれずに品質を落として顧客を失ったこともあると森實さんは振り返ります。
20年ほど前の半導体ブームでも同じでした。仕事を取りすぎた後にその仕事がなくなり、社員の行き場がなくなる。今のAIで大はしゃぎしている会社にも通じる失敗を、何度も経験してきたといいます。
100グラム痩せたら100円で買い取る仕組み
健康経営といっても、具体的に何をしてきたのか。始まりは禁煙でした。
禁煙に数万円の祝い金を出し、治療費も薬代も会社が負担。喫煙率は25パーセントから20パーセントほどに下がりました。ただし、これだと喫煙者にしかメリットがないという不満も出たといいます。
そこで、誰でも何かに挑戦できる「健康チャレンジ」という制度を作りました。
会社が身銭を切って健康を応援するって、口で頑張れって言い続けるのは簡単だけど、仕組みにして、しかも働く人が得できる仕組みにするってすごいですね。
それでも最初は15〜20パーセントの人しか始めませんでした。転機は参加率が35パーセントを超えたあたり。3人に1人が何か目標を持ち始めると、雰囲気が変わったといいます。
今では6〜7割が参加し、その6〜7割が成功。全体の約45パーセントが何かを達成している状態です。健康診断でAかBがつく「健康社員」の比率は毎年2パーセントずつ増えているといいます。
利益が出ていても健康の数値が低い部署は評価されない。利益は大事だが、それだけではダメ、というのが森實さんの考えです。休む人や辞める人が減ることで、売り上げにも効いていると話します。
フィンランド大使が公認した最初のオフィスサウナ
いよいよオフィスサウナの話です。最初のオフィスサウナは5年前、建築家の坂茂さんが設計した日本初の木造ビル「タマディック名古屋ビル」の最上階に作られました。
作った理由は、森實さん自身が10年ほど毎日のようにサウナに入り、仕事の効率が上がる実感があったからです。
最初はさっぱりして気持ちいいから入るんだけど、続けていくとめちゃめちゃ健康になるんですよ。気がついたらフッ軽でポジティブな友達ばっかりになってる。
自分の生活と仕事のクオリティが上がった実感を、社員や周りの人にも知ってほしいと考えたのがきっかけでした。
このサウナは、フィンランド大使が世界で唯一公認しているといいます。公認の理由は、スペックではなく思想にありました。
森實さんはサウナを作るにあたり、フィンランドで何十軒も回りました。そこで気づいたのは、シャイなフィンランド人がサウナではよく喋るという事実でした。
サウナはただの入浴行為じゃなくて、日常や人生そのものを豊かにするための行為だよね、という話をフィンランド大使にしたら、お前わかってるなと言われて公認された。
役員の反対を押し切ってでも作った理由
これだけの施設を作ることに、社内の反対はなかったのか。三浦さんが尋ねると、森實さんは最初はあったと認めます。
サウナに入る人は数人いるけど、残りは入ったこともないし、健康上の課題を抱えていて入らないと思う人もいる。そういう人たちが会社のお金でサウナを作るなんて、と言われました。
それでも森實さんは、自分の10年で起きたことが多くの人に起きると信じて、サウナの力を信じて作ったといいます。
結果として、2号3号を作るときには反対は出なくなりました。社員が実際に体験し、会社が良くなっていくのを見たからです。
サウナが変えた社内とクライアントの関係
導入後、もともと15〜20パーセントだった利用率は3〜4割へと倍増しました。2、3人で入ることもあれば、部の歓迎会や、顧客と一緒に入ることも多いといいます。
三浦さんは、顧客が自分から打ち合わせに来てくれることの価値を指摘します。それは財務諸表には表れないものの、時間や工数の削減につながる重要なポイントです。
来てくれるっていうのは、仕事を出してやってもいいなって関係じゃないんですよ。お互いにすごく信頼関係のあるところまで行ってないと、そうはならない。
さらに森實さんは、サウナならではのコミュニケーションの特性を挙げます。会議のあとにもう一度サウナに入ると、違う視点が出てくるというのです。
もう一つが「席替えの多さ」でした。休憩ごとに座る場所が変わり、隣の人が10分ごとに入れ替わる。これがコミュニケーションの幅を広げるといいます。
タマディックには「サウナフィロソフィー」があります。日本のオフィスサウナはまだ歴史が浅くリテラシーがないからこそ、守ってほしい3つの原則です。
ステイクリーン
お互いのために清潔に過ごす
ステイカーム
愚痴や悪口を言わず穏やかにいる
ステイイコール
新入社員も社長も客も全員平等
居酒屋ではお酌など上下関係が生まれがちですが、サウナは裸で座っているだけで平等になる。だからこそ本音の対話が生まれると2人は語ります。
「会社なのにパーク」モビアスパークという賭け
この日開所式を迎えた「モビアスパーク」は、モビリティ産業用の拠点として整備された施設です。仕事や生産性だけでなく、遊ぶこと、休むこと、集うことをここでやれる場所として作られました。
建築は再び坂茂さんが担当し、木を多用した建築に。庭はプラントハンターの西畠清順さんが手がけ、働くこととリラックスがシームレスにつながるデザインになっています。
この施設の名前は、森實さんが言葉のプロに相談して生まれました。相談相手が、GOの三浦さんです。
今までは建物の名前は私が決めてたんだけど、このイメージ図を見た時に、もううちのトヨタ事務所って感じじゃない名前だなと思って、言葉のプロの力を借りないとダメだと。
GOのチームとタマディックの社員アンケートなど、何百通りから選ばれたのが「モビアスパーク」でした。モビリティの「モビ」と、私たちを意味する「アス」を組み合わせた造語です。
三浦さんは、この施設そのものが強力な「ブランドアクション」になっていると語ります。
採用・PR・家族まで動かした波及効果
モビアスパークとサウナは、事業以外にも幅広い効果を生んでいます。三浦さんが特に注目したのが採用でした。
サウナできてからキャリア応募がすごく増えてます。サウナ作るような会社が他のこと全部ダメな会社なわけがないと、わかりやすいのがいい。
具体的な成果も示されました。生産性は一人当たりでこの4年ほどで25〜26パーセント上昇。採用でも来社した人の決定率が高まっているといいます。
「サウナ採用」という取り組みもあります。サウナに入ってから会社説明会を聞くと、話がスッと入ってくるといい、学生・キャリアの両方で決定率が高いそうです。
メディア露出もサウナの前後で比較できないほど増え、テレビ・新聞・ウェブに出続けています。有名なプロ選手が遊びに来ることもあるといいます。
森實さんが一番嬉しかった社員の声は、子供が会社に来て大喜びしたというものでした。
家族や子供たちからも、お父さんの会社いいねって思われてるっていうのはすごく嬉しいですね。
素直でいること。これからのリーダー像
最後に、これからの日本のリーダー像を問われた森實さんは、素直でいることの大切さを語りました。
20年以上やってるので、嘘ついたりカッコつけても続かないんですよ。基本的には素直でいるのがいいと思う。
自分のやりたいことをどんどん人に言う。言ってるうちに味方ができてくる。その幸せを社員やいろんな人と分かち合えるといいよね。
三浦さんは、多くの経営者を見てきた立場から、森實さんの「ドンとした」姿勢を評価します。単年度の業績ではなく、50年、100年先を見据えて経営していると言います。
三浦さんはもう一つ、健康の本質を「ご機嫌であること」だと指摘します。機嫌が悪い人と仕事したい人はいない、というシンプルな話です。
機嫌が悪いってほんとコスパが悪いのよ。みんながご機嫌でいればパフォーマンスが上がる。そのためには健康であることが当たり前で、そこに投資するのも当たり前じゃないか、と腹落ちできるかが大事。
流行っているからでも、求められているからでもなく、健康への投資の意味を本気で理解できるかが問われている、という結論でした。
まとめ
タマディックの健康経営は、身銭を切って社員の健康に踏み込み、それを経営の評価指標にまで組み込んだ点に特徴があります。総工費30億円のオフィスサウナは、その思想を体現するブランドアクションであり、採用・PR・顧客との関係まで幅広く波及していました。
- 体を壊して働けなくなる社員をなくすため、社員の私生活にも踏み込んで健康経営を始めた
- 100グラム痩せたら100円で買い取るなど、社員が得をする仕組みを作り、参加率が35パーセントを超えると一気に普及した
- 健康社員の比率を経営指標として毎年モニタリングし、この5年で会社規模は約1.5倍に成長した
- オフィスサウナはステイイコールなど3つの原則を持ち、肩書きを超えた本音の対話と席替えによる交流を生む
- 健康の本質は「ご機嫌であること」であり、そこへの投資は当たり前だと腹落ちできるかが問われる




