骨折ブラザーズの再会と「フェイクに見られた」時期
冒頭、三浦さんは鳥羽さんとの関係を説明します。鳥羽さんがまだそれほど有名でなかった頃、編集者の今井さんが書いた「海賊シェフ」というジモコロの記事に三浦さんがピンと来て、店に行ったことがきっかけだったといいます。
付き合いはおよそ8年になり、鳥羽さんは三浦さんを「心の兄貴」と呼びます。三浦さんも「一番よく行くレストラン」と話しますが、別のイタリアンに行っているところを鳥羽さんに見つかった一幕もあったそうです。
アニキ浮気じゃないですかって(言われて)。本当にびっくりしましたよ。
話は、鳥羽さんが実力はあるのに一時期「フェイク」に見られてしまった時期に及びます。テレビ出演やPRが増えたことで、外部からの見え方が変わってしまったといいます。
一時はもう若いスタッフが料理してるのYouTubeでしか見たことないみたいな。
広げすぎると、いろんな人に知られるってことはいろんな意見が増えるってことでもあるんで、そういう弊害もあったのかなとは今思いますけどね。
なぜ今、料理人の原点に戻るのか
三浦さんが「今の自分を何だと思っているか」と尋ねると、鳥羽さんは会社経営者でありながらも「ザ料理人になりたい」と答えます。今はsio青山に毎日立ち、朝10時に出勤しているといいます。
(自分は)ザ料理人になりたいなっていう感じでは、今あって、料理することにめちゃくちゃこだわってますね。
原点回帰の理由として、鳥羽さんは流れやタイミングの読みを挙げます。数年前は珍しかったシェフの商業施設出店やプロデュースが、今では当たり前になったタイミングだからだといいます。
三浦さんはこれを「トレンドセッターの折り返し」と読み解きます。自分でAの方向へ動かし、みんながAに来た瞬間に自分はBへ行くと、また逆に目立つという構造です。
店を「積極的に収縮する」という経営判断
鳥羽さんは、2025年5月に上原の店を閉め、6月から夕方から深夜まで営業するアラカルト業態「シオシオ」を始めたと話します。sio青山で使う最高の魚や肉を、アラカルトで食べられる形にしたといいます。
アラカルトにこだわる理由は、最高の食材を扱う生産者との関係にあります。自然相手の生産者は都合よく融通が利かないため、何でも受け入れられるアラカルトという受け皿が必要になるといいます。
何でも魚送ってきてくださいよと。俺たちはわがまま言わないよっていうのが一番彼らにとってはありがたいわけ。
鳥羽さんは、店を閉めることを「失敗」ではなく「積極的な収縮」と捉えています。バームクーヘンのように締めて広げる動きの中で、今はギュッと締めるフェーズだと説明します。
自分が最初に作った大事な店。自分がいなくても成り立つよう7年間かけて仕組み化してきた
限界を感じ、誰かに言われる前に自分の意思で閉じてアラカルト業態へ転換する
鳥羽さんは、コロナ禍で売上が悪くても「それで閉めた」と言われたくない一心で店を続けたと振り返ります。だからこそ今回は、寿命が見えてきた店を自分の手で閉じたいと語ります。
(上原は)自分が最初に作った大事な店なんだけど、だからこそ自分の手で閉めたいんですよ。
多店舗のクオリティを支える「ゴール管理」
鳥羽さんは現在、丸の内、原宿のファミレス、大阪の和食、奈良のすき焼き屋、福岡のパスタ、シンガポールのパスタ店など、多くの業態を展開していると話します。商業施設の契約期間などを見て、閉じる判断もスパッと下すといいます。
三浦さんが、鳥羽さんが立たない店のクオリティをどう担保しているのかと尋ねます。鳥羽さんの答えは、レシピではなく「ゴール」で管理するというものでした。
レシピ管理がなくて、ゴール管理です。料理は。
たとえばすき焼きなら「甘くてしょっぱい」がゴールで、「しょっぱくて甘い」ではダメだといいます。分量や時間ではなく、美味しさのゴールで管理する考え方です。
肉を100グラムと決めても、形によって体積は変わります。だからグラムや時間では管理せず、味のゴールに合わせてアプローチはファジーでよい、というのが鳥羽さんの主張です。
最高峰を作るリーダーが持つべき基準
曖昧なゴール感覚をどう共有しているのか。鳥羽さんは、自分の感覚に近いスタッフを全国に散りばめて置き、彼らがクオリティをチェックして言語化していると説明します。
三浦さんは、クリエイティブ組織のリーダーにとって最も大事なのは「クオリティの基準をトップレベルに合わせられるか」だと指摘します。鳥羽さんは、これを登る山の高さにたとえます。
レアルマドリードで試合出たいのか、Jリーグなのかみたいな話をいつもして、どの山登るのかをみんなに決めてもらってるんですよ。
三浦さんは、クリエイティブの仕事には満点がないと言います。100点しか知らない人は、1000点も100万点もあることに気づけないという視点です。
鳥羽さんは、その基準を毎日スタッフに見せ続けることが大事だと語ります。例に挙げたのが、sioのスペシャリテであるニョッキです。
一般的なニョッキはモチモチしているのが正解とされます。鳥羽さんはそこに最高峰を置かず、口に入れたら溶ける、食べているか食べていないかぐらいのニョッキという基準を設定したといいます。
三浦さんは、左利きの幽霊の「その先があるんだよ」という言葉を引き、自社メンバーには「世界最高のものを見ろ」と伝えていると話します。最高のものを見ると、自分のものがいかにクソかに気づけるからだといいます。
感情に支配されず淡々と最高を出す姿勢
鳥羽さんは、リーダーの条件を「誰よりも高いクオリティを目指し、誰よりも高い資産を持つこと」だと語ります。スタッフには「リーダーとしてダサいと思うところがあったら今すぐ辞めていい」と伝えているそうです。
三浦さんも、仕事中に突然基準が細かくなる瞬間があると明かします。周りは機嫌が悪いのかと戸惑うものの、リーダーが妥協しない基準を一度見せないと周囲が下がってしまうからだといいます。
一方で鳥羽さんは、仕事中は感情的にならず淡々としていると話します。良いものを出したいという感情は強く持ちつつ、それに支配されないよう日頃からトレーニングしているといいます。
全ての進行状況を俯瞰で見て、淡々と心を乱さずマシンのようにやっていくけど、でも実は感情はすごいいいもの出したいと思ってる。
スタッフの基準の甘さにムカつくことはないのかと問われると、鳥羽さんは「自分の能力が足りなかったと思うようにしている」と答えます。伝え方が悪かったのかと考え、ミスが起きる前提で物事を考えているといいます。
なぜ2人は個人ではなくチームを選ぶのか
鳥羽さんは、レストランを個人でやる気は全くないと言い切ります。カウンターだけをストイックにやるシェフを否定はしないものの、自分は最終的にチームでやった方がクオリティが高いと考えているからです。
絶対最終的にはチームでやった方がクオリティ高いんですよ、これは。
三浦さんも同じ考えを示します。三浦崇宏個人の事務所ではなく、再現可能な高いレベルのクリエイティブで事業課題を解決する「組織」を作りたかったといいます。
2人が共有するのは、目の前の人だけでなく、まだ会ったことのない遠くの人まで幸せにしたいという「でかいエゴ」です。そのエゴのためにチームや組織を作っているという整理です。
鳥羽さんは、一人のこだわりが強すぎると他人を寄せ付けなくなり、どこまでが客目線なのか疑問が湧くとも語ります。チームで早くスピーディーに仕上げたいという実務的な理由もあるといいます。
天下一品コラボに込めた「逆説」の設計
話題は、2025年7月1日に発表された天下一品とのコラボに移ります。商品は「すだち香るあっさり冷やし麺」。こってりの代名詞である天下一品で、あえてあっさりを打ち出す狙いがあります。
結局それうまいじゃんってなるけど、でもやっぱりこってりだよねっていう。(もう一回戻ってくる)
鳥羽さんは、企業案件を「やりたくない」と思うことは基本ないと言います。美味しくしてほしいと頼まれたらやる、そのうえで企業の望む形や課題ごと解決できるプロダクトにしたいと考えているそうです。
あっさりを作ることで「こってりの天下一品なのにあっさりも美味しい」という話題性が生まれ、逆にこってりの本質を再認識させる。そうした逆説の設計です。仕上がりは想定以上で、デフォルトで1.5人前になったといいます。
アイデアは「行為」ではなく「構え」である
三浦さんが、鳥羽さんはどうやってアイデアを考えているのかと尋ねます。鳥羽さんの答えは、そもそも「考える」という感覚がない、というものでした。
いや、考えるけども呼吸だもん。会議室にこもってなんかやるとかはもうないよね。
鳥羽さんは、常にお題を頭の隅に置いて生活し、Netflixを見ているときなどにふと組み合わせが見つかると話します。ヒントは、あらゆる物事に注意深く生活していることにあるといいます。
マック超集中して食ってる。この新作ちょっとしょっぱいなってなった瞬間に、(リンゴジャム入れたら)もう美味しいじゃんってなったら、もうそれがもうXに出てるって感じ。
三浦さんは、この姿勢を一言でまとめます。アイデアって多分ね、行為じゃなくて構えなんですよという言葉です。アイデアを出そうとするより、アイデアが生まれざるを得ない生き方になっているかが大事だといいます。
鳥羽さんは、完全なものを不完全として見るマインドが大事だと補足します。目の前の水も、温度や気温によって最適解が変わる。その不完全を完全にするために必要なのがアイデアだという考え方です。
マックのバズを生んだ「因数分解」の思考
鳥羽さんは、アイデアが課題解決の中から生まれると語ります。マックのハンバーガーを半分に切ってフライパンで焼く動画がバズった裏には、明確な設計があったといいます。
入院中のベッドで暇だった鳥羽さんは、バズる要素を因数分解しました。すぐ手に取れて再現性が高く、誰もが知っている知名度のあるもの。この3つが重なると伸びやすいと考えたそうです。
さらにマックはテイクアウトすると冷めるという課題があります。半分に切って断面を温めれば、熱くてカリカリになる。つまりバズの設計と課題解決が同時に成立していたわけです。
三浦さんは、鳥羽さんの発想を3つに整理します。完全を不完全として捉えること、自分の欲望と社会・相手の課題を常にストックすること、そして世の中でバズったものを抽象化して自分に取り入れること。それを呼吸のように続けるのだといいます。
「好きとかの次元じゃない」という到達点
鳥羽さんは、料理好きなのか広告好きなのかと聞かれると「バカなことを聞くな」と感じると語ります。好きかどうかではなく、やらないと仕方がないものだという感覚です。
三浦さんはこれを「息を吸って吐くのが好きですか」という問いにたとえます。自然にやっているレベルまで馴染まないと、その先のものは見えてこないという到達点です。
インプットも同じだと2人は言います。インプットのために広告を見ようとしている時点で、もう入口に立っていない。自然と見てしまい、見たものが体に取り込まれる構えで生きられるかが問われます。
鳥羽さんは、その構えで受け入れたデータを細かくストックし、膨大なデータの中から精度の高い答えが生まれると語ります。天才のひらめきと呼ばれるものは存在せず、経験値からの答えでしかないという考えです。
三浦さんは、プロレスの言葉を引きます。プロレスについてしか知らない人はプロレスについて何も知らない。世の中の流れやマーケティング、社会の動きの中にあって初めてプロレスは面白くなる、という話です。
鳥羽さんは、家具も皿も音楽も詳しくて当たり前だと言います。本気で美味しい料理を作ろうとすれば、椅子やカトラリー、音楽、席の配置、建築にまで詳しくなるのは必然だからです。そのうえで本業を圧倒的に深掘りできていることが大事だと語ります。
「待てる強さ」と積極待機の仕事論
三浦さんが「今一番ムカついていることは何か」と尋ねると、鳥羽さんは「ムカつくことがなくなった」と答えます。何かと競ったり腹を立てたりすることがなくなり、余裕があるといいます。
鳥羽さんが今、自分の一番の強さだと考えているのが「待てること」です。ただボケッと待つのではなく、来るべきタイミングに備えを持つ積極的な待機だといいます。
必ずいいものを作り続けてれば、そういうタイミングが来ることに備えるっていう。待てる強さっていうのがあるから、すごい余裕があるんだと。
三浦さんはこれを「積極待機」と言い換えます。諦めでも無関心でもなく、本気で望んでいるからこそあらゆる準備をして時が来るのを待つ姿勢です。
モテる仕事論とワンオンワンの誠実さ
三浦さんが「モテるためにどうすればいいか」と問うと、鳥羽さんは「クライアントワークに徹すること」と答えます。相手の求めるものを徹底的に調べたうえで、斜め上を行く提案ができると喜ばれるといいます。
鳥羽さんは、万人にモテたい、万人と仕事したいという姿勢はプレゼン成功率が低いと指摘します。コンビニ各社と一律に組みたいのではなく、特定の相手を選び、その課題を熟知することが大事だという考えです。
三浦さんも、目の前の人にどれだけ真剣に向き合えるかが、結果的にいろんな人に届くものになると応じます。鳥羽さんは、ディテールへの誠実さと熱量がスケールしていくと語り、原点はワンオンワンだとまとめます。
そこ(ディテール)の誠実さと熱量が結局はスケールしていくし、たくさんの人をハッピーにする。原点はワンオンワンじゃないですか。
三浦さんは、YouTubeやSNSを続ける理由も明かします。かつて強かった承認欲求が薄れ、今は自社の若い仲間が見たときに感動したり学びになったりするものにしたい、それしか考えていないといいます。
他者との戦いの先にある「自分との戦い」
鳥羽さんは、久々に話した三浦さんが「戦うベクトルではなくなっている」と感じたと伝えます。柔らかくなった、という印象です。
三浦さんは、戦いは大事だとしつつ、一番大きいのは自分との戦いだと語ります。きれいごとではなく、自分と戦うことが本当に大変だと気づいたという実感です。
鳥羽さんは、自分と戦い始めると外の雑音が気にならなくなり、外に対して寛容になれると応じます。三浦さんは「死ぬほど他者と戦わないと自分と戦えない」とも付け加えます。
最終行き着くところって、どこまでも自分の追い求める理想の中で、それを手段として誰かをハッピーにしていくってことしかない。
最後に鳥羽さんは、店にいないのではという声を気にしないと語ります。答えはすべて皿の上で出しているから、疑う人は料理を食べていないだけだ、という一貫した姿勢です。
まとめ
鳥羽周作さんと三浦さんの対話は、店を積極的に閉じる経営、チームで最高峰を作るリーダーの基準、そしてアイデアを「構え」として捉える生き方まで、一貫して「本物をどう作るか」を巡るものでした。好きかどうかの次元を超え、呼吸のように仕事を馴染ませた2人の到達点が語られています。
- 店を閉じることは失敗ではなく、寿命が来る前に自分の意思で選ぶ「積極的な収縮」だと鳥羽さんは捉えている
- 多店舗のクオリティは分量ではなく「甘くてしょっぱい」といった味のゴールで管理し、リーダーが基準を毎日見せ続ける
- 100点満点のその先を洗い直すことが、ニョッキのような最高峰の料理を生む
- アイデアは考える行為ではなく、注意深く生活し、完全を不完全として見る「構え」から生まれる
- チャンスは焦って掴むものではなく、淡々と積み上げながら備える「積極待機」で引き寄せる




