高校生と中学生が牧場に来る週
配信日は10月13日の火曜日で、3連休明けの週の始まりです。川上さんによると、出雲の天気は最高気温28度で、晴れのち雨の予報だそうです。
この週の川上牧場には、地元の農業高校の畜産科の生徒が火曜から金曜までの4日間、職場体験に来ます。翌日からは地元中学生の職場体験も重なり、高校生と中学生を同時に受け入れることになります。
なんとね、今ね、ダンプを修理に出してるんですけど、もう一つのダンプもちょっと本当に調子悪くなってしまって、本当に今日大変です。
お知らせとして、川上さんは10月17日の土曜日に東京の豊洲公園で開かれる牛乳の大型イベント「土日ミルクフェス2026」に参加すると話しています。本物の牛が来たり、全国の乳業会社が集まったりして、牛乳の飲み比べやヨーグルトの食べ比べもできるそうです。
川上牧場は、noteでの配信の文字起こし記事やメンバーシップ、Instagramの「#未来の牛乳」デジタルアートの販売なども続けています。デジタルアートの売り上げは、子ども食堂への牛乳支援や、小中高の食育活動の費用にあてる予定だそうです。
採算が合わなくて、本当にボランティアみたいになっちゃってる感じになっちゃってるんで、本当に活動を続けていきたいなと思ってます。
前日には出雲駅伝があり、例年以上の盛り上がりだったといいます。川上牧場はそのコースの近くにある都市近郊の牧場で、出雲に来るときは事前にホームページから問い合わせてほしい、と呼びかけています。
牛にも発情期はある? 答えは「周期で1年中」
お便りコーナーで取り上げられたのは、TikTokネームまゆさんからの質問です。自宅でハムスターを飼っていて、牛の発情期はどうなっているのかが気になったそうです。
牛も発情期とかあるんですか?例えば人間みたいにタイミングで月1回とか、ハムスターみたいに3日に1回くらい来るとか、季節でとか、そういうのはあるんですか?
川上さんは、最近は牛乳や乳製品ではなく牛の生態についての質問が続々来ていて嬉しい、と前置きしたうえで答えています。結論は、牛は1年を通して発情を繰り返す動物だということです。
これ(1年中発情を繰り返すこと)がですね、牛の家畜としてね、ものすごく優れている特徴の一つかなと思います。
専門的には、牛は周年性多発情動物 ── 季節に関係なく、妊娠していなければ一定の周期で何度も発情をくり返す動物のこと。牛や豚がこのタイプにあたりますと呼ばれます。妊娠していなければ、1年を通して周期的に発情がやってくるという意味です。
川上さんが紹介した獣医学の資料では、牛の発情周期は平均約21日で、幅は18〜24日ほど。実際に発情行動が見られる時間は平均約18時間で、6〜24時間ほどの幅があるとされています。
ざっくり言えば、妊娠していない健康な牛なら、3週間に1回くらい発情のチャンスが来るというイメージです。
ここで川上さんが面白いところだと話すのが、羊やヤギとの違いです。家畜がすべて1年中繁殖できるわけではありません。
羊やヤギは日照時間などの影響を強く受けて、特定の季節に発情しやすい「季節繁殖」の動物です。一方の牛は、春でも夏でも秋でも冬でも発情周期があります。
日照時間などの影響を受け、特定の季節に発情しやすい季節繁殖の動物
季節を問わず発情周期があり、人間が1年を通して繁殖計画を立てやすい
牛のこの性質のおかげで、人間が「この時期に子牛を産んでもらいたい」と考えたときに、年間を通して繁殖計画を立てやすくなります。川上さんは、家畜として相当大きな特徴だと話しています。
1年中発情できても、いつでも妊娠しやすいわけではない
川上さんが「ここは大切です」と強調するのは、1年中発情周期があっても、1年中同じ繁殖成績になるわけではないという点です。
たとえば真夏は、暑さのストレスで牛が餌を食べなくなり、体温が上がります。すると発情行動が弱くなり、受胎率も下がっていきます。乳牛では、暑熱ストレスで繁殖成績が落ちることが知られているそうです。
病気や栄養不足、分娩直後、極端に痩せている場合も、発情が正常に戻らなかったり、わかりにくくなったりします。つまり、発情できる季節と、実際に繁殖しやすい状態は別の話です。
トップアスリートのね、女性選手とかが生理が止まったりっていうのと一緒で、牛も(お乳を)すごい出して仕事をしているね、牛さんとかは発情が止まってしまったりとか、そういう状況になったりもします。
もう一つのポイントは、子牛を産んだ翌週からすぐに繁殖できるわけではないことです。分娩のあとは、子宮の回復やホルモンの状態の戻り、体のエネルギーバランスが整う時間が必要になります。
川上さんによると、メルク獣医マニュアル ── アメリカの製薬会社メルクが発行する、獣医療の定番の参考書。家畜からペットまで幅広い病気や管理の情報をまとめていますでは、分娩後の最初の発情の目安は20〜60日程度とされています。牧場では、発情が来たらすぐ受精させるのではなく、牛の回復具合や牧場の繁殖方針も見ながら判断しています。
ここから話は牛乳につながります。乳牛は妊娠してからではなく、子牛を産むことで本格的にお乳を出し始めます。そこから乳量が増えてピークを迎え、少しずつ減っていきます。
一般的な乳牛では、305日間の泌乳が生産記録を比べるときの標準の一つとして使われています。次の分娩の前には、搾乳を休ませる乾乳期 ── 次の出産に備えて搾乳をやめ、乳腺や体を休ませる期間。この間に母牛は胎内の子牛の成長と次の泌乳に向けて準備しますを設けていて、昔から60日前後が目安だそうです。
分娩
子牛を産むことで本格的にお乳が出始める
泌乳
乳量が増えてピークを迎え、少しずつ減っていく(標準は305日間)
繁殖
分娩後20〜60日程度で最初の発情。回復を見ながら受精する
乾乳期
次の分娩の前に60日前後、搾乳を休ませる
つまり、1頭の牛が365日ずっと搾乳され続けるわけではありません。乾乳期を除くと、搾れるのは305日ぐらいということになります。
1頭は休むのに、なぜスーパーには365日牛乳がある?
川上さんが「今日一番面白いところかもしれません」と話すのがここです。牛1頭1頭には分娩も乳量のピークも乾乳期もあるのに、スーパーには1月1日でも8月でも12月31日でも牛乳があります。
その理由は、牧場の牛たちが全員同じ日に分娩しているわけではないからです。今月産む牛、来月産む牛、半年後に産む牛がいて、1頭が乾乳期に入るころに別の牛が分娩してお乳を出し始めます。
牛の群れ全体で見ると、こうして1年を通してお乳が出続けます。もし牛が秋しか発情しない動物だったら、分娩も一時期に集中し、乳量の多い季節と少ない季節がもっと極端に分かれていたかもしれない、と川上さんは話しています。
周年繁殖
牛は季節を問わず発情周期がある
繁殖時期を分散
牧場が種付けの時期をずらす
分娩と泌乳が分散
お乳を出す牛が群れの中に常にいる
需給調整
複数の牧場から集めた牛乳を乳業メーカーが調整する
牧場が繁殖時期を分散させれば分娩も分散でき、お乳を出す時期も分散できます。そこに複数の牧場から牛乳を集める乳業メーカーの需給調整が加わって、消費者は1年中牛乳を飲めるわけです。
牛が周年繁殖できることは、365日の牛乳供給を支えている生物学的な土台の一つといった方が正確かなと思います。
あえて春に一斉に産ませる、スプリングカルビングとは?
1年中繁殖できるなら、ふつうは分散させたほうが安定して搾れて便利です。ところが海外の放牧酪農には、あえて分娩を特定の季節に集中させる牧場があります。
これはシーズナルカルビング ── 季節分娩型酪農のこと。牛群の分娩をある季節に集中させる飼い方で、放牧が中心の国で広く行われていますと呼ばれ、代表的なのが春に分娩を集中させるスプリングカルビング(春季分娩)です。
川上さんは言葉の意味を正確にしておきたいと話します。スプリングカルビングは「春に種付けする」という意味ではなく、「春に分娩させる」しくみのことです。
牛の妊娠期間はおよそ9か月、平均で約283日です。そのため春に産ませるなら、約9か月前に受精させることになります。春が何月なのか、繁殖をいつ始めるのかは、国や地域によって変わるそうです。
たとえばアイルランドの春季分娩の酪農では、5月ごろから繁殖を始め、翌年の2〜4月ごろに分娩を集中させる体系があります。春の分娩から逆算して繁殖シーズンを集中させるしくみ、と考えるとわかりやすいと川上さんは説明しています。
わざわざ春に集中させる理由は、牛の餌である牧草です。春になると牧草が一気に伸びるので、牛乳を一番たくさん作りたい時期と、草が一番たくさん生える時期を合わせているわけです。
ニュージーランドの放牧型酪農でも、春の牧草の量と分娩後の牛が必要とする餌の量を合わせることが、季節管理の中心になっているそうです。
購入飼料や保存飼料で1年を通して比較的安定した餌を用意し、1年中搾乳する
草の量が季節で変わるので、分娩を春に集中させ、牛を餌の季節に合わせる
日本の舎飼いの酪農は、購入飼料や保存飼料で1年中ほぼ安定した餌を用意できるので、1年中搾乳するしくみと相性がいいといいます。一方、放牧中心では1年中同じ量の草が生えるわけではありません。
だったら餌を牛に合わせるより、牛を餌の季節に合わせる。これがスプリングカルビングの考え方です。
短期決戦の繁殖と、まとまった休み
スプリングカルビングには条件があります。春に一斉に産んでもらうには、牛たちに決められた期間内で妊娠してもらわなければなりません。
アイルランドの農業・食品開発機関ティーガスク ── アイルランドの政府系の農業・食品開発機関。研究や農家への技術指導を担い、酪農の繁殖目標なども示していますは、春季分娩の牛群について「繁殖開始から3週間で90%を受精させる」ことなどを目標にしているそうです。
1年中いつでも繁殖できる牛なのに、人間があえて「この12週間くらいで妊娠してください」という経営のしくみを作るわけです。川上さんは、これが育種の話としても面白いと話しています。
1年中分娩している牧場なら、少し受胎が遅れた牛でも、条件によっては次のチャンスを待てます。けれど季節型分娩では、繁殖シーズンが終われば翌年の分娩時期に間に合わなくなります。
ニュージーランドの酪農機関DairyNZは、この季節繁殖型のしくみそのものが、繁殖能力への強い選抜圧になってきたと説明しているそうです。
つまり酪農システムを変えるといい牛の定義まで変わるということですね。
作業面のメリットもあります。分娩、子牛の育成、繁殖、乾乳といった作業がそれぞれの時期にまとまり、アイルランドでは作業の効率化につながる点も重視されているそうです。
さらに、牧場全体で搾乳しない期間を作ることもできます。365日搾乳する日本の酪農家から見ると、かなり違う世界だと川上さんは話します。
酪農で365日お休みはないかなと思ったりしますけど、こうやって繁殖をコントロールすることでお休みを作ったりすることもできるということですね。
ただし、集中するということは、忙しさも集中するということです。短期間に次々と分娩があり、子牛も一気に増え、発情の確認も人工授精も同じ時期に重なります。
シーズン内に妊娠できない牛は、季節繁殖のしくみの中では大きな問題になります。子牛の牛舎も一番多い時期に合わせて用意する必要があり、生まれない時期はガラガラになるので、土地や機械の使い方まで変わってくる、と川上さんは説明しています。
川上牧場は週1回ペースで子牛が生まれるように
では川上牧場はどうしているのか。川上牧場では、スプリングカルビングのように全頭を一つの季節に集中させてはいません。
川上牧場では1年を通して分娩する牛がいて、今月分娩、来月分娩、数か月後に別の牛が分娩という形をとっています。そのため1年中搾乳牛がいて、牛乳を出荷できます。
川上牧場だと50頭ぐらい親牛がいるので、週に1回ぐらいのペースで子牛が生まれるように、こう種付けとか繁殖管理をしていくと、まあ安定してね、ずっと牛乳を搾れるような形になるんですけど
ただ、夏場の暑さなどでなかなか思いどおりにはいかず、これから分娩が多い時期になったりもするそうです。川上さんは、ここがテクニックとして難しいところだと話しています。
スーパーの牛乳はいつも同じように並んでいますが、その裏では酪農家が「この牛が発情した」「この牛を受精する」「この牛は来月分娩」「この牛は乾乳にしよう」と1頭ずつ管理しています。365日の牛乳は、約1年前から始まっている繁殖管理の結果でもあるわけです。
発情を見逃すと影響も出ます。牛の発情周期は約21日なので、今日の発情を見逃すと次のチャンスは約3週間後になり、次の分娩も後ろにずれる可能性があります。乳牛ではこうした小さな遅れが積み重なると、繁殖成績にも経営にも響いてくるそうです。
そのため酪農家は昔から、他の牛に乗る乗駕行動 ── 発情した牛が他の牛に乗ったり、乗られてもじっとしていたりする行動。発情を見つけるいちばん代表的なサインとされていますや落ち着きのなさ、粘液、餌の食べ方といったサインを見てきました。今は活動量計などのセンサーや監視カメラも入って便利になってきたものの、まだ酪農業界の課題だと川上さんは話しています。
年中発情するだけでは、365日の牛乳は成り立たない
川上さんは最後に話を整理します。牛の周年繁殖性はとても重要ですが、それだけで毎日スーパーに牛乳が並ぶわけではありません。牛は乾乳もするし、病気になる牛もいて、乳量は季節でも変わります。
そこで牧場内で分娩時期を分散させ、地域のいろいろな牧場から牛乳を集め、乳業メーカーが加工や流通を調整します。これらが全部組み合わさって、365日いつでもどこでも牛乳がある状態ができている、というのが川上さんのまとめです。
さらに川上さんは、日本と海外の放牧酪農のちがいにも触れます。牛の生物学は同じなのに、日本では1年中牛乳を作るために使い、放牧の地域では季節に合わせて牛乳を作るために使っている、という点が面白い違いだそうです。
牛は人間には消化できない草を、ルーメン ── 牛の4つある胃のうち最初の胃。中にすむ微生物が草の繊維を分解し、牛が栄養として使える形に変えていますの微生物を使って牛乳に変え、1年を通して繁殖でき、分娩後は長く牛乳を作ってくれます。こうした特徴が重なったからこそ、牛は何千年も人間と一緒に暮らしてきたのではないか、と川上さんは話しています。
明日スーパーで牛乳を見た時に、これ365日当たり前に置いてあるけど、牛の繁殖まで含めて設計されているんだなと思って見てもらえるとですね、牛乳の見え方がね、ちょっと変わるかもしれません。
川上牧場では、もやしカスや酒粕、醤油粕といった食品の副産物も牛の餌として1年中使っているそうです。牛乳だけでなくお肉もこうしてできていることを知ってもらい、酪農や牛乳を応援してほしい、と川上さんは呼びかけています。
配信の終わりには、Kindle書籍『酪農未経験者のために 遺伝改良と飼養設計編』や、その内容を読み込ませた「FarmEcho AI」、黒毛和牛の近交係数がわかるアプリ「和牛交配チェック」も紹介されました。和牛交配チェックには現在80牧場が登録していて、年内に100牧場を目指しているそうです。
まとめ
牛は妊娠していなければ約21日周期で1年中発情をくり返す動物で、その性質が、分娩を分散させて365日牛乳を届ける日本の酪農と、あえて春に分娩を集中させる海外の放牧酪農の両方を支えています。いつも並んでいる牛乳の裏に、1頭ずつの繁殖管理があることを思い出してみてくださいね。
- 牛は周年性多発情動物で、発情周期は平均約21日、発情行動は平均約18時間です
- 暑さや病気、分娩直後などでは発情が弱くなり、1年中同じように妊娠できるわけではありません
- 牛群の分娩を分散させ、複数の牧場と乳業メーカーの調整が加わることで、365日牛乳が並びます
- 放牧中心の国では、牧草が伸びる春に分娩を集中させるスプリングカルビングが行われています
- 川上牧場は親牛約50頭で、週1回ほど子牛が生まれるよう繁殖管理をしています



