ダイソンが歯ブラシに?8万円のAI電動歯ブラシの衝撃
ダイソンが、同社初の電動歯ブラシ兼フロッサー「ダイソン カメラジェット」を発表しました。AIとカメラで歯と歯の間を検知し、自動でフロスをするという製品です。
CEOセオさんは、このニュースを見た瞬間「AIトレンドに乗れば何でもいいのか」と感じ、かなりトゥーマッチに思えたと率直に話しています。そのうえで、掃除機から始まり多くの分野で成功してきたダイソンが、自社の強みを活かした展開であることは事実だとして、戦略を深掘りしていきます。
ただ、価格が8万円です。非常に高いですよね。
ダイソン カメラジェットは9月1日から発売され、すでに購入可能です。パリで世界発表され、日本でも同時発売。日本での価格は7万9800円、米国では499ドルと、ほぼ同水準の価格設定になっています。
CEOセオさん自身はフィリップスのソニックケア ── フィリップスが展開する電動歯ブラシのブランド。音波振動で歯垢を落とす方式で知られ、上位モデルはスマホアプリと連携しますを使っています。ソニックケアにもアプリ連携など多くのデジタル機能がありますが、歯ブラシにそこまで情熱を注げず、あまり使っていないといいます。
(ソニックケアの)アプリで見れるんですけど、正直歯ブラシにそこまで情熱を持って注げないという気持ちもあり、なかなか使ってないんで。
内視鏡技術とAIで歯間を狙う、カメラジェットの中身
ダイソン カメラジェットには、内視鏡に使われる技術を応用した10万ピクセルのマクロレンズカメラが搭載されています。独自AIシステム「ギャップオプティカルターゲティング」が毎秒28枚の画像を解析して歯間を検知し、検知から0.1秒以内にマウスウォッシュのジェットを噴射する仕組みです。
機械学習には47万枚以上の歯の画像が使われ、制御コードは1600万行に及びます。開発には6年、口腔ケア習慣の研究自体には10年をかけてきたそうで、CEOセオさんは「満を持して」の発売だと見ています。
CEOセオさんがカメラジェットの数字の中で目を引くものとして挙げたのは、次のような点です。
カメラジェットの肝としてCEOセオさんが注目するのが、撮影した画像を本体にもクラウドにも保存しないとダイソンが明言している点です。歯のデータを蓄積して学習やアップデートに使うことはなく、その瞬間に歯をきれいにするためだけに撮影するという立場です。
ダイソンは市場の根拠として、「10人のうち9人は十分な頻度でフロスを使っていない」という数字を挙げています。歯間ケアができていない人が多いことは、そのままマーケットポテンシャルの大きさを意味します。
ほかにも、平均的なブラッシングは約45秒で推奨の2分に足りないこと、世界で約37億人が口腔疾患の影響を受けていることが示されています。CEOセオさんは、災害時に歯ブラシが優先して配られるように歯は全身の健康にも関わるため、歯磨きにテクノロジーを注ぐのは合理的だと評価しています。
まず電動歯ブラシを使ってほしい理由と、消耗品で稼ぐ二段構造
CEOセオさんは、電動歯ブラシをもう10年以上使っているといいます。そのうえで、この回で一番伝えたいのはダイソンの話より手前のことだと強調します。
CEOセオさんにとって電動歯ブラシは、ここ10年、15年で買ってよかったものベスト3に必ず入る存在です。手磨きでは45秒や1分で飽きてしまいますが、電動歯ブラシなら、ダイソン製でなくても2分は磨けるのではないかと話しています。
めちゃくちゃQOLというか、もう歯の中のQOLね。これ(電動歯ブラシ)がもう劇的に良くなります。
電動歯ブラシの平均価格は1万〜3万円ほどです。CEOセオさんは、いきなり8万円のカメラジェットに行ってもいいとしつつ、まずはその価格帯から試してほしいと勧めています。
ビジネスの観点では、電動歯ブラシは「収益の二段構造」になっているとCEOセオさんは解説します。本体を売ったあと、消耗品のブラシヘッドを定期的に交換させることで、サブスクリプションのように稼ぐ仕組みです。
ダイソン カメラジェットの場合も、ブラシヘッドに加えて専用の歯磨き粉やマウスウォッシュを販売するようです。CEOセオさんは、替え刃や洗浄液で稼ぐ髭剃り、カプセルで稼ぐネスプレッソ ── ネスレのコーヒーマシンブランド。本体を販売したうえで、専用カプセルを継続購入してもらうビジネスモデルの代表例として知られますと同じ「ハード+追加購入」の型だと位置づけています。
本体販売
ハードウェアを一括で販売する
消耗品の交換
ブラシヘッドを定期的に替えてもらう
周辺品の継続購入
専用の歯磨き粉やマウスウォッシュで稼ぐ
掃除機からドライヤー、そして口腔ケアへ。最上位から入るダイソン流
ダイソンの既存の強みは、デジタルモーター、流体力学、掃除機のフィルターです。CEOセオさんは、今回のカメラジェットはそこにカメラと機械学習を組み込んだ新しい挑戦であり、カメラ付き歯ブラシはこれまでになかった点でダイソンならではのイノベーションだと見ています。
ダイソンの参入の仕方は独特です。P&Gのような消費財メーカーが歯磨き粉などから入るのに対し、ダイソンは口腔ケア機器の最上位価格帯にハードウェアでいきなり入り、付属品として専用の歯磨き粉を作っていきます。
歯磨き粉などの日用品から展開する
最上位価格のハードウェアから入り、専用の歯磨き粉を付属品として作る
ダイソンは2016年にヘアドライヤーを出したときも、同じように上から入り、結果として大成功しました。ビューティー分野では20製品を投入する計画も発表しており、新しいハードウェアを次々と作っていく姿勢が見えます。
CEOセオさんが整理するダイソンの事業の広がりは、次の順番です。
一方で、電動歯ブラシ市場はP&GのオーラルB ── P&Gが展開する電動歯ブラシのブランド。丸型ヘッドの回転式で知られ、ソニックケアと並ぶ大手ですと、フィリップスのソニックケアの2強です。パナソニックなどがその後に続く中、ダイソンは2強の上を超える最高価格帯で、誰も展開していない世界観の戦い方を選んだとCEOセオさんは見ています。
電動歯ブラシ市場はどこまで伸びるのか
CEOセオさんによると、世界の電動歯ブラシ市場は2025年で7400億円です。2030年には約1兆1000億円に達すると言われ、成長率は7.8%とされています。
日本の電動歯ブラシ市場は276億円にとどまり、2034年に459億円になる見込みで、成長率は5.8%です。電動歯ブラシを強く勧めるCEOセオさんは、この規模の小ささを「もっと頑張れ」と感じています。
多分歯周病とかあらゆるものが良くなると思います。で、磨いた後ツルツルになるしね。
ダイソンの業績についても触れられています。ダイソンは非上場のため公式発表ベースですが、2025年通期の売上高は1兆3000億円、営業利益は1294億円で、営業利益率は約10%です。
CEOセオさんの説明では、売上高は約1000億円下がった一方、EBITDAベースの利益率は18%となっています。ダイソンは売上を下げてでも収益性を重視する段階にありつつ、R&Dで新製品も作り続けている、という見立てです。
ヘアドライヤーの例も挙げられます。ダイソンが5万円のドライヤーを出したとき「誰が買うんだろう」と思われましたが、今では各社がハイエンドのドライヤーを出すようになりました。CEOセオさん自身もダイソンを使った後、現在はパナソニックのナノケアの最上位モデルを使っているそうです。
電動歯ブラシとかヘアドライヤーって何でもいいやと思わない方がいいですね。本当にこんな違うんだっていう感じなんで。
利益率は約9倍。それでもデータを捨てるのはもったいない?
ダイソンの売上高1兆3000億円は、パナソニックの家電セグメントとほぼ同じ規模です。ところがパナソニックの家電の営業利益率が2%なのに対し、ダイソンのEBITDAマージンは18%と、約9倍の水準です。
| 項目 | ダイソン | パナソニック家電セグメント |
|---|---|---|
| 売上規模 | 約1兆3000億円 | 約1兆3000億円 |
| 利益率 | EBITDAマージン18% | 営業利益率2% |
CEOセオさんはこの差を、ダイソンがブランドとして高く売れている証拠だと見ています。消耗品ではなく、ハードウェアとしてトップオブトップの位置にあるということです。
ただしCEOセオさんは、ハードウェアにこだわるダイソンはサブスクリプションが弱いのではないかとも指摘します。今回は専用の歯磨き粉などでサブスクが肝になるはずなのに、撮影データを保存しないという判断は、継続収益の仕組みから離れていくように見えるからです。
やっぱデータって蓄積すればするほど自分はもう離れなくなるわけじゃないですか。他にシフトしにくくなりますよね。
CEOセオさんは例としてOuraRing ── フィンランドのŌuraが開発する指輪型のウェアラブル端末。睡眠や心拍などのデータを計測し、アプリで分析できますを挙げます。自分の睡眠データを持っている限り、ほかの製品に移りにくくなるという考え方です。
ダイソンは口腔内のプライバシーを守るためと説明していますが、CEOセオさんは「歯の中のプライバシーってあります?」と正直な疑問を口にしています。データを捨ててハード一択で勝負するダイソンの姿勢を、一発勝負の賭けのように捉えています。
ビジネスモデルとして言ったら、そっち(データ)取っといた方が良かったんじゃないかなって気はして。
CEOセオさんの見立てでは、口腔のデータが取れるほど次のビジネスが生まれる可能性があります。たとえばダイソンが歯医者のようなサービスを展開できたかもしれず、その点を「もったいない」と感じているといいます。
それでもCEOセオさんがこの回で一番言いたいことは、最後までぶれません。とにかく電動歯ブラシを買いましょう、というメッセージで締めくくられています。
まとめ
ダイソン カメラジェットは、内視鏡由来のカメラとAIで歯間を狙う8万円の電動歯ブラシです。CEOセオさんは、最上位から参入するダイソンらしい高収益戦略を評価する一方、撮影データを保存しない判断はサブスクや次のビジネスの機会を逃すのではないかと疑問を投げかけています。
- ダイソン カメラジェットは10万ピクセルのカメラとAIで歯間を検知し、0.1秒以内にジェットを噴射する
- ダイソンは既存市場の最上位価格帯にハードウェアで入る戦い方を、ヘアドライヤーに続いて口腔ケアでも取っている
- ダイソンのEBITDAマージン18%は、同規模のパナソニック家電の営業利益率2%の約9倍にあたる
- 撮影データを保存しない方針について、CEOセオさんは顧客を囲い込む機会を捨てているのではと疑問視している
- CEOセオさんの最大のメッセージは、普通の歯ブラシの人はまず1万〜3万円の電動歯ブラシを試してほしいということ


