アシックス初の売上1兆円、何が起きている?
アシックスが2026年12月期の通期業績を上方修正し、創業以来初めて売上高1兆円を突破する見込みになりました。グループのオニツカタイガーは営業利益率39.6%という高い収益性を記録し、一方でナイキは伸び悩んでいます。
CEOセオさんは、このニュースに登場するナイキ、アシックス、オニツカタイガーの3ブランドが、歴史的に密接な関係にあると指摘します。業績の数字に加えて、その歴史をたどりながら、オニツカタイガーが好調な理由を定量と定性の両面から見ていく方針です。
遡るとナイキの元々のスタートはオニツカタイガーであったというふうなことも言えるぐらいのストーリーが実はあって。
セオさんは、そのオニツカタイガーが利益率でナイキを上回る状況を「60年かけて一周した」ストーリーだと表現します。ただし、事業規模はナイキのほうがはるかに大きく、一時的な面もあると断ったうえでの話です。
アシックスの上方修正では、売上高の見通しが9500億円から1兆500億円に引き上げられ、前年比プラス29.5%となりました。営業利益も1710億円から1950億円へと修正され、プラス36.8%の伸び、営業利益率は18.6%です。純利益の見通しも1100億円から1200億円に増えています。
好調な業績を受けて、アシックスの株価は8月15日に前日比で10%上昇し、上場来高値となる5389円を記録したといいます。
オニツカタイガーの2026年12月期上期の数字は上の通りです。セオさんは、営業利益率39.6%はエルメスに並ぶ水準で、超ハイブランドの高収益モデルといえると話しています。オニツカタイガーは2027年2月にロサンゼルスへ出店し、米国に再進出する予定です。
伸び悩むナイキと、アシックスの「専門店」戦略
ナイキの2026年5月期通期の売上高は6兆7200億円で、アシックスとは規模がまったく違います。ただ、報告ベースでは前年並み、為替の影響を除くとマイナス2%で、セオさんは「踊り場」と表現します。直営ECと直営店からなるナイキダイレクトも、報告ベースでマイナス6%でした。
アシックスの好調の理由について、記事では「機能性と専門店流通をきちんとやってきた」と語られているそうです。セオさんはワークマンの例も挙げながら、今は機能性や専門性が非常に重要になっていると話します。
アシックスの具体的な武器は、厚底カーボンプレートのメタスピードシリーズです。競技者だけでなく市民ランナーにまで浸透したことが、売上を押し上げる要因の1つになりました。
販売チャネルの面では、アシックスはスポーツ専門店との関係を維持し、試着や専門知識といった購入時のサポートを現場で守ってきました。その結果、上期の粗利益率は57%となり、値引きに頼らずに価格を維持して売れたことが成功の要因だとされています。
オニツカタイガーはなぜラグジュアリーになれた?
オニツカタイガーは、もはやラグジュアリーブランド化しているとセオさんは見ています。専門店に寄り添うアシックス本体とは逆に、オニツカタイガーは脱スポーツ店・脱専門店を進め、一等地での直営店展開に力を入れてきました。
機能性を軸に、スポーツ専門店との関係を強化。試着や専門知識のサポートで値引きに頼らず販売する
脱スポーツ店・脱専門店。一等地の直営店を中心に、ハイブランドのような展開をする
同じグループでも、2つのブランドは販売の考え方が対照的です。オニツカタイガーではさらに、インバウンドと越境EC ── 海外の消費者が、国境を越えて他国の通販サイトから商品を購入する取引のこと。訪日時に知ったブランドを帰国後に買い続ける流れが生まれやすくなりますがうまく機能しています。日本の店舗で買った外国人客が、帰国後にD2C ── Direct to Consumerの略。メーカーが卸や小売店を通さず、自社ECや直営店で消費者に直接販売するビジネスモデルです、つまりネット通販で買い続けることで、顧客を囲い込めているといいます。
オニツカタイガーは直営展開でブランドをコントロールできているため、収益性が高くなります。2025年12月期通期の売上高は1365億円で前年比プラス43%、カテゴリーの営業利益は514億円で前年比プラス58.7%でした。
セオさんが特に注目するのは、日本国内のインバウンド売上が415億円あり、前年比89%も伸びている点です。内訳は中国116億円、米国76億円、フィリピン43億円、台湾34億円、韓国30億円、その他175億円と、特定の国に偏っていません。
なかなかインバウンドといっても、これ(オニツカタイガー)が指名できてるとしか思えないんですよね。
指名買いされているからこそ、オニツカタイガーは値下げをせずに定価で売れ、利益率も高いと考えられます。2011年に約100億円だった売上高は、2025年には1300億円台となり、十数年で約13倍に拡大しました。
ナイキはD2Cに偏りすぎたのか?
ナイキについては、D2Cに偏りすぎてうまくいかなくなったのではないか、という論調があるとセオさんは紹介します。ナイキは2020年ごろからD2Cに力を入れ、直接販売で中間マージンを削ってきました。
でも裏を返せば、その卸店からすると、ナイキさん何してくれるの?ってなりますから。
ナイキはブランド力があるので、専門店も仕入れはします。それでも積極的には売らなくなった可能性がある、とセオさんは推測します。その間に、HOKAやOnといった新興ブランドが専門店をしっかり押さえていきました。
D2Cへの傾斜
2020年ごろから直販に注力し、中間マージンを削減
専門店との距離
卸先から見るとメリットが薄れ、積極的に売られにくくなった可能性
新興ブランドの台頭
HOKAやOnが専門店の棚を押さえる
値引き販売
レトロスニーカー人気の陰りもあり、アウトレットで半額近くで売る事態に
加えて、レトロモデルなどのスニーカーカルチャーの人気に陰りが出たことで、アウトレットで50%引きのような価格で売らざるを得なくなりました。ナイキのエリオット・ヒルCEOは復帰後、卸チャネルの修復に着手すると表明していますが、ホールセールの回復はまだ3%程度で、これからの段階だといいます。
セオさんは、アシックスが機能性と歴史的ブランドのポートフォリオで運営しているのに対し、ナイキはマス展開のなかでスニーカーカルチャーとD2Cに賭けすぎた、と整理します。ただし、これは結果論の面もあると付け加えています。コロナ禍の当時ならD2Cに力を入れるのは当然で、コロナ後に「専門店で話を聞いて買いたい」というニーズが戻るのも自然な流れだからです。
オニツカタイガーは戦後の神戸から始まった
ここからセオさんは、オニツカタイガーがなぜこれほど人気なのかを、ナイキの前身ともいえる歴史から掘り下げます。オニツカタイガーは1949年、鬼塚喜八郎さんが神戸で創業したブランドです。従業員2名、資本金30万円からのスタートでした。
鬼塚さんの創業の動機は、戦後の日本をスポーツで立て直したいという思いでした。最初のヒットは1951年、タコの吸盤からヒントを得たとされるバスケットボールシューズです。
1964年の東京オリンピックでは、オニツカタイガーを履いた選手が多数活躍しました。その後、メキシコ五輪向けに開発されたシューズから、クロスストライプのデザインで知られる「MEXICO 66」が誕生します。
オリンピックとうまくハマって、そもそも外国の人たちに対してのブランディング、マーケティングが非常にうまい会社なんですよね。
セオさんは、創業期から続くこの海外向けブランディングのうまさが、今のインバウンドでの成功の秘訣にもなっているのかもしれないと話しています。
フィル・ナイトとの契約から、ナイキ誕生とオニツカの封印へ
1962年、スタンフォードMBAのフィル・ナイトが世界一周旅行の途中で神戸を訪れ、オニツカの工場の品質と価格に衝撃を受けました。その2年後、フィル・ナイトは鬼塚さんと契約を結び、アメリカでの独占販売会社ブルーリボンスポーツを立ち上げて、オニツカタイガーの販売を始めます。
セオさんは「前身」という言い方は言い過ぎかもしれないとしつつ、ナイキがオニツカタイガーの販売から始まったことは確かだと話します。
1971年、ブルーリボンスポーツはナイキに社名を変え、オニツカと決別して独自のビジネスを展開していきます。1977年にはオニツカがほかの会社と合併してアシックスが誕生し、オニツカタイガーの名前は市場から消えました。
東京五輪やメキシコ五輪で海外の選手にも履かれたブランドが、そこから約25年間、姿を消していたことになります。2002年、アシックスはヨーロッパ市場でクラシックスニーカーが再評価される流れを捉え、オニツカタイガーを復刻しました。
キル・ビルとブルース・リーがつくったクールなイメージ
復刻したオニツカタイガーの看板商品は、メキシコ五輪のために作られたMEXICO 66でした。転機の1つとなったのが、2003年公開のクエンティン・タランティーノ監督の映画『キル・ビル』です。
『キル・ビル』では、黄色に黒のストライプの衣装をまとった主人公がオニツカタイガーのスニーカーを履き、日本刀を振るいます。この衣装は、ブルース・リーの未完の遺作で着用された黄色いトラックスーツへのオマージュだといわれています。
ブルース・リーと日本の武道を掛け合わせたような場面にオニツカタイガーが選ばれたことで、過去の歴史も含めて「日本らしさ」をまとったスニーカーとしてのブランディングが始まった、とセオさんは見ています。
その約10年後の2013年ごろからは、イタリア人をクリエイティブディレクターに招き、機能性とファッション性を掛け合わせる方向を打ち出して現在に至ります。
オニツカタイガーが外国人に受けている理由として、セオさんはまず、メイド・イン・ジャパンのブランドだと昔から広く知られていることを挙げます。さらに、ブルース・リーや『キル・ビル』、K-POPアイドルといったポップカルチャーに乗ることで、クールなイメージが定着しています。
なんかクールなイメージがやっぱオニツカタイガーにあって、これ多分日本人はそこまでないかもしれないんですよね。
ストーリーと円安、高利益率の源泉はどこにある?
セオさんによれば、日本人はオニツカタイガーの歴史をあまり知らない可能性が高い一方で、外国人には強いクールなイメージがあります。ナイキやアディダスと被らない点も、人気を後押ししているといいます。
そのうえでセオさんは、実は一番大きい要因は円安かもしれないと話します。神格化されたブランド、ポップカルチャーのイメージ、日本製の品質に加えて、円安による割安感が重なり、オニツカタイガーが大きく売れているという見立てです。
オニツカタイガーっていうのは、実はなんかプロダクトも、まあいいんですけども、まあストーリーが買われていると。
| ブランド | 営業利益率 | 補足 |
|---|---|---|
| オニツカタイガー | 39.6% | 2026年12月期上期。ハイブランド並みの水準 |
| アシックス | 18.6% | 2026年12月期の修正見通し |
| ナイキ | 10.7% | 事業規模が大きく単純比較はできない |
3社の営業利益率を並べると、オニツカタイガーの水準の高さが際立ちます。ただしセオさんは、ナイキは事業規模が桁違いに大きく、規模が大きくなるほど利益率は下がりやすいため、一概には比較できないと断っています。
セオさんは、ルイ・ヴィトンにはトランク、エルメスには馬具という原点があることを例に挙げます。ハイブランドは原点のストーリーにさまざまなイメージを重ね、現代風にアレンジすることで価値を生み出しています。
一方で、為替が変わればオニツカタイガーの利益率も10ポイント以上動くといわれています。セオさんは、円安という追い風が変わったときに新たなストーリーを作れるのかが、アシックスとオニツカタイガーのビジネスの面白さだと締めくくっています。
まとめ
アシックスの好決算とオニツカタイガーの高い利益率の背景には、機能性と専門店流通を守る戦略と、ナイキとの因縁も含めた60年以上のブランドストーリーがあります。セオさんは、モノを売るだけでなくストーリーを価値に変えることが高い利益率の条件だと見ています。
- アシックスは機能性と専門店流通を重視し、値引きに頼らず売上1兆円突破を見込む
- オニツカタイガーは直営店とインバウンドで指名買いを獲得し、営業利益率39.6%を記録
- ナイキはオニツカタイガーの米国代理店から始まり、近年はD2C偏重で専門店との関係修復を急いでいる
- メイド・イン・ジャパンの歴史とポップカルチャーが、海外でのクールなイメージを支えている
- 円安の追い風が変わったとき、新たなストーリーを作れるかが今後の焦点になる


