6万円の新幹線個室「スプリームクラス」とは何か
JR東海が、東海道新幹線に完全個室の座席「スプリームクラス」を導入するというニュースが出ました。東京から新大阪や博多まで乗ると6万円を超える、いわばファーストクラスのような座席です。
CEOセオさんは、このニュースを「高い個室ができた」で終わらせず、比較対象やビジネスモデルを含めて分解していきたいと話します。二極化が進む今、6万円の新幹線は普通に考えれば高いものの、実は比べるものがたくさんあるという見立てです。
(スプリームクラスは)単純に、高い個室ができたということで終わらせるというよりはですね、ビジネスモデルも含めてちょっと分解をしていきたいなというふうに思います。
スプリームクラスは2026年10月1日にサービスを開始し、発売は9月15日の5時半からです。初列車は東京6時発ののぞみ1号とされています。
座席は、7号車に最大2名まで使えるソファ付きの個室が1室、10号車に1名用の個室が1室です。2027年度中には半個室のシートも展開し、10号車グリーン車の5列20席を撤廃して6席を配置する計画だと紹介されています。
東京-新大阪で約6万円、飛行機より高くて遅い個室の料金は?
スプリームクラスの料金は、東京-名古屋で10号車が3万2660円、7号車が4万7060円です。飛行機と比べやすい東京-新大阪では、10号車が4万2390円、7号車が6万790円になります。
東京から博多まで乗る場合は、7号車が6万4070円、1人席の10号車が9万670円とされています。
| 区間 | 10号車(1名用) | 7号車(最大2名) |
|---|---|---|
| 東京-名古屋 | 3万2660円 | 4万7060円 |
| 東京-新大阪 | 4万2390円 | 6万790円 |
| 東京-博多 | 9万670円 | 6万4070円 |
セオさんは、遠くへ行くほど、このシートで比べれば飛行機のほうが安くなると指摘します。飛行機のほうが早く着くため、スプリームクラスは「遅くなるけれど値段は高い」という位置づけになります。
購入方法はSMARTEX ── JR東海などが提供する東海道・山陽・九州新幹線のネット予約サービス。スマートフォンやパソコンから予約・乗車ができますのオンライン限定です。紙のチケットはなく、窓口でも買えません。
全編成の3割に導入、23年ぶりに復活した新幹線個室
JR東海は、スプリームクラスを年度末までに約30本走らせ、2028年度末には全編成の3割程度で導入を検討しているといいます。セオさんは、新幹線全体の3割が個室付きになるのは結構大きいと受け止めています。
設備は、電子錠付きの扉による完全個室に加え、専用Wi-Fi、専用タブレット、シートスピーカー、電動ランバーサポート、大型テーブルなどです。無料のウェルカムサービスは、のぞみとひかりのみで提供されるそうです。
東海道新幹線の個室には歴史的な前例もあります。1985年に登場した2階建てグリーン車の個室が最後で、2003年9月16日のひかり309号をもって東海道からは完全に撤廃されていました。
限界コストが小さい新幹線は、なぜ単価を上げるのか
セオさんは、新幹線は飛行機のエアラインとよく似たビジネスモデルだと見ています。シートを撤廃しても値段を上げれば、全体の売り上げは確保できるという考え方です。
ポイントは、列車には限界コスト ── 生産やサービスを1単位増やすときに追加でかかる費用のこと。列車の場合、乗客が1人増えても運行費用はほとんど変わりませんがそれほどないことです。乗ってもらえば乗った分だけ得になるため、いかに高価格にしていくかが重要になると説明されています。
(列車は)基本的に限界コストというのがもうそんなにないので、乗ってもらえば乗った分だけ得になるということですから、いかに高価格にしていくかということが重要になってくるわけです。
スプリームクラスの個室は、喫煙ルームの廃止で生まれたスペースを使っています。セオさんは、席を大きく減らさずに単価だけを上げられる設計になっていると評価します。
半個室シートも、グリーン車20席を6席に置き換えることで1席あたりの床面積を3.3倍にしています。そのため、価格をそれ以上に設定すればプラスになるという計算です。
空きスペースの活用
喫煙ルーム廃止で生まれた場所を個室に変える
席数の置き換え
グリーン車20席を6席に、床面積は3.3倍
価格設定
面積の増加分以上に価格を上げる
収益性の向上
限界コストが小さいため、単価アップがそのまま利益に
営業利益率41.4%、絶好調のJR東海が仕掛ける理由
新幹線ではグリーン車に乗る人が増えており、二極化に合わせた高級ラインとしてグランクラスなども展開されています。スプリームクラスもその流れの中にある、とセオさんは位置づけます。
JR東海の運輸業セグメントは、2026年3月期の数字として前年比10%増、営業利益は7674億円で18%の伸びと紹介されています。好調なときに新しい展開をしている、というのがセオさんの見立てです。
セオさんは、航空業界でいうイールドマネジメント ── 需要に応じて価格や販売量を調整し、1席あたりの収益を最大化する手法。航空会社やホテルで広く使われていますと同じ発想だと説明します。今回は価格の連動ではなく、高付加価値のシートを用意する形をとっています。
EX会員のみに販売することで、高価格のシートを買う人の属性データが集まる点にもセオさんは注目します。クレジットカードとの連携など、富裕層を対象にした別の展開もできそうだと話しています。
JR東海は史上最高益で、セオさんが「恐ろしい」と表現するのが営業利益率の41.4%です。稼げているうちに新たな展開をする余力があり、新しいチャレンジにも頷けるとしています。
輸送力は飛行機の12倍、新幹線のスケール
東海道新幹線の運送量は、1日あたり46万人、年間で1億6800万人に上ります。1日の運転本数は383本です。
東京-大阪間の1日の輸送力で比べると、新幹線は36万席、飛行機は約3万席で、新幹線は12倍の輸送力を持っているといいます。
セオさんは、これだけ多くの人が乗る新幹線だからこそ、あらゆるバリエーションの座席を用意するのは合理的だと話します。
グリーン車の約3倍、6万円を払う価値はどこにあるか
東京-新大阪の通常料金は、のぞみ指定席が1万4700円、グリーン車が1万9100円です。スプリームクラスの1人席は約4万2000円で、グリーン車の約2倍強、指定席の約3倍になります。
7号車の個室なら6万円を超え、グリーン車の約3倍以上です。セオさんは、この差額を払って個室に入るメリットをどう考えるかが問われると話します。
グリーン車だとね、個室じゃないですからね。そのできる範囲、例えば声出したりとかね、そういうのはなかなか難しくなりますよね。それがまあ(個室なら)できるということですよね。
ANAのプレミアムクラスと比べても4万円ちょっとで、スプリームクラスは飛行機より高い空間です。それでもセオさんは、2時間半を有効に活用できるなら、飛行機をやめて個室を選ぶ人もいるかもしれないと考えます。
機内でもStarlink ── スペースXが提供する衛星インターネットサービス。航空機内でも高速通信を可能にするとして導入が進んでいますなどで高速通信ができるようになり、ZIPAIRでも使えると言われているそうです。ただ、飛行機の機内では喋ることはできず、個室とは付加価値が違うと説明されています。
会議室やホテルと比べると見えてくる「体験への支払い」
スプリームクラスを会議室と比べると、東京駅周辺の貸会議室は1時間あたり平均7300円だそうです。2時間半使えば、だいたい2万円ほどの価値になります。
スプリームクラスとグリーン車の差額は2万3000円ほどで、会議室代とほぼ同じです。セオさんは、会議室とグリーン車と移動が同じ価格でそろうと考えることもできると話します。
ホテルとの比較も出てきます。東京や大阪のホテルは大きく値上がりしており、東京では2026年1月に4万1200円という数字も出ているといいます。
セオさんは、個室で作業ができる空間として見れば、スプリームクラスはもはやホテルや会議室とぶつかっていくと話します。単なる移動手段の比較ではなく、有効な時間を使うためにお金を払う体験のモデルに切り替わっているという見方です。
稼働率84%でも利益2%、エアライン業界が示す単価の重要性
セオさんは、航空業界のレベニューマネジメントの考え方にも触れます。2026年の世界のエアライン業界の総収入は190兆円と言われ、収入は増え続けているそうです。
稼働率を示すロードファクター ── 旅客機の座席がどれだけ埋まっているかを示す指標。座席数に対する実際の旅客の割合で表しますは84%で過去最高です。一方で、純利益は2%にとどまるといいます。
セオさんはこの数字から、エアライン業界は満席にするゲームではなく、単価を上げるしか付加価値を高められないと読み解きます。
席を埋めて満席にすることで稼ぐ
体験を売って単価を上げ、高付加価値で稼ぐ
新幹線にも同じことが言え、席を売るだけでなく体験を売らないと業界も盛り上がっていかないとセオさんは話します。その意味で、スプリームクラスは面白い展開だと評価しています。
売上インパクトはわずか0.2%、それでも挑む意味は?
セオさんは、公開データからスプリームクラスの売上をシミュレーションしています。その結果、年間の売上は4.5億円しかないといいます。
JR東海の2兆円を超える売上に対して見ると、スプリームクラスの売上は0.2%です。2028年度末に全編成の3割へ導入しても、0.2%までしかいかないと説明されています。
だから(スプリームクラスは)売上施策というよりは、もう高付加価値ということですよね。
セオさんは、このことから施策の目的が変わってきていると見ています。JALも再上場後最高の数字となり2兆円を超えるなど、移動の手段をめぐる状況も変化しているといいます。
自動運転が入ってくれば、車の個室空間の付加価値も変わってくるはずだとセオさんは話します。移動できることが当たり前になり、そこにお金を払う価値がなくなってきているという見方です。
今までは移動できることに価値があったし、それが短時間でできることに価値があったんですけど、これからはそこにさらに体験価値が付加されないと値段は払わないよということですね。
リニアが登場して東京-大阪が1時間ほどで行けるようになれば、それ自体は差別化になります。それでも体験が必要であることは変わらない、とセオさんは付け加えます。
失敗しても痛くない体力と、スペーシアXの先例
JR東海の営業利益率は、JR西日本の約2倍、ANAと比べても約2倍あるといいます。セオさんは、ある種失敗しても痛くないほどの体力があるからこそ、体験の時代にこの展開をするのは非常に賢いと評価します。
先例として挙げられたのが、東武鉄道のスペーシアX ── 東武鉄道の特急車両。浅草と日光・鬼怒川方面を結び、コックピットラウンジや個室などの特別座席を備えていますです。2024年に個室料金を1.5倍に引き上げたものの、売れ続けているそうです。
セオさんは、鍵付きで提供数が少ない個室なら、明確に価格を上げても埋まるという状況が見えていることも、JR東海が考えたポイントではないかと話します。
スプリームクラスには、富裕層やインバウンド向けの高額商品ではないか、高すぎるのではないかという声もあります。それでもリモートワークの定着などを踏まえ、セオさんは人を移動させるだけでなく客単価を上げる方向へ進んでいると見ています。
7号車の個室を2人で使えば、1人あたりは3万円ほどになります。ANAの東京-大阪のプレミアム運賃4万9000円より安く、2人で乗れば飛行機とほぼ同じくらいだとセオさんは話します。
私は結構飛行機は乗るまでの時間とかね、いろんな手間がかかるから、新幹線の方が全然好きなので、まあこういうプランがあると、いや移動だけじゃなくてね、機密も守ると面白いなというふうには思いました。
減らして値上げする、希少性があらゆるビジネスの武器になる
セオさんは最後に、スプリームクラスの事例をあらゆるビジネスに広げて考えます。オンライン限定の販売や体験を売る発想を、新幹線や飛行機といった移動手段でも取り入れている以上、ほかの業界も同じように考える必要があるという主張です。
セオさんによれば、今提供しているものだけではダメで、モノ消費からコト消費へ移った今、高付加価値や体験価値に取り組まないと間に合わないといいます。
モノがあふれかえる時代だからこそ、数を減らして値上げできるかという視点で考えると、ビジネスのチャンスが見つかるのではないかとセオさんは締めくくります。
まとめ
JR東海のスプリームクラスは、飛行機より高くて遅い6万円の個室ですが、CEOセオさんは会議室やホテルと比べた「時間を有効に使う体験」として価値を読み解きました。売上インパクトは0.2%と小さいものの、席を減らして単価を上げる高付加価値の発想は、あらゆるビジネスに通じるヒントだと話されています。
- スプリームクラスは2026年10月開始、東京-新大阪で約4万2000円〜6万円の完全個室で、SMARTEXのオンライン限定で販売される
- 限界コストが小さい新幹線では、空きスペースを活用して単価を上げることが収益性の向上に直結する
- グリーン車との差額約2万3000円は、東京駅周辺の貸会議室2時間半分とほぼ同じで、移動しながら使える個室の体験として見ることができる
- 稼働率84%でも利益2%のエアライン業界のように、満席にするより単価を上げる時代に移っている
- モノがあふれる今、数を減らしてでも値上げできる希少性が、あらゆるビジネスに求められている




