なぜ女性型の教育AIロボットは導入停止になったのか
ニューヨーク州の高校が、Realbotix社の女性の形をした人型AIロボットを教室に導入する予定でした。ところが強い反発を受け、導入は一旦停止になりました。
CEOセオさんはこのニュースについて、背景を調べるほど「きな臭い」と感じたと話します。ただし、怪しいと断定はせず、「正直なところわからない」と前置きしています。
まあ日本でもね、上場企業でも、まあオルツの事件とかいろいろありましたけど、まあ粉飾とかそういうことだけではなくてですね、まあ倫理観とか、まあそういったものもいろいろあるのかなと。
CEOセオさんの狙いは、ニュースだけでは読み取れないビジネスの構造や流れを共有することです。リスナーにも、どう考えるかを委ねる形で話が進みます。
ニュースの経緯は次のとおりです。2026年6月に学校がヒューマノイドロボットの契約を承認し、秋から導入する予定でした。
州の教育庁の警告や教育組合からの反発によって、7月25日に導入予定が一旦停止されました。予定していた秋の導入には至っていません。
約920万円のロボット「サリー」と、傘下の成人向け事業
導入先はニューヨーク州のサラマンカ市中央高校で、生徒数は約1300人です。Realbotix社はMシリーズの女性型ロボット「サリー」と、AIチューター「Optio」をセットで提供する予定でした。
提供価格は約920万円で、もとの定価約1600万円から値引きした形です。それでも反発が起きた理由は、Realbotix社のグループ構成にありました。
Realbotix社と同じ傘下には、成人向けの高性能な人型ドール「リアルドール」を作るアビスクリエーションという会社が並んでいます。この事実が、子どもたちに売る前に開示されていなかったといいます。
CEOセオさんは、親の立場から見れば嫌だと感じるのは自然だと話します。子ども向けの女性型の教師ロボットを作る会社が、並行して成人向け製品も作っているからです。
会社側は、成人向けと非成人向けの会社はリンクしておらず、サービスや情報のやりとりも一切ないと説明しています。また、リアルドールの事業は売却すると言っていますが、まだ実行はされていません。
まあ言ったらアダルト系の会社と、が、あのー、教育向けのものを同時に作ってるみたいなふうに見えますから、そこで非常に炎上してですね、これ問題になってるということですね。
Realbotix社はどう生まれたのか
CEOセオさんは、ニュースには出ていないRealbotix社の成り立ちを独自に調べました。調べるほど、さらに怪しい印象が強まったといいます。
始まりは1990年代です。マット・マクマレンさんがカリフォルニアでアビスクリエーションを設立し、超リアルな成人向け等身大人形「リアルドール」の製造を始めました。
2010年代になると、マクマレンさんはシミュラクラコーポレーションを設立します。成人向けのアビスクリエーションと並べて、AIロボティクス事業としてRealbotixを作り、統括を始めました。
つまりマクマレンさんは、2010年代から成人向けと非成人向けの事業を同じ傘下に持っていたことになります。2017年には、Realbotixの中でAI会話アプリ「Harmony」をリリースしています。
2024年には、カナダのTSX ── カナダのトロント証券取引所グループに関係する市場の通称。番組では、日本でいうとグロース市場とプロマーケットの間のような、小規模企業向けの上場マーケットとして説明されています系の市場に上場する暗号資産関連企業tokens.comが、シミュラクラコーポレーションを買収しました。
tokens.comはその後、社名をRealbotix Corporationに変更し、マクマレンさんはCOOに就任しています。
CEOセオさんは、暗号資産の会社が成人向けと非成人向けのロボティクス会社を買収し、教育系の名前に変えた流れに、「ウォッシュしている感じ」を受けたと話します。
時価総額70億円、赤字18億円の会社にとっての学校契約
Realbotix社が上場するマーケットについて、CEOセオさんは「結構緩め」だと評価しています。その上場企業の傘下に、教育・医療・介護向けのRealbotix LLCと、成人向けのアビスクリエーションが並んでいる構図です。
だから本当に暗号資産の上場の箱がうまく使われたなみたいな感じで、えー、バリエーションの向上に狙ってるんじゃないかなということですね。
CEOセオさんが挙げるRealbotix社の財務は、時価総額が約70億円、売上は2億円に届かない程度です。営業損益は約18億円の赤字だといいます。
こうした規模の会社にとって、教育機関と組むという発表はIRとして大きかったのだろう、とCEOセオさんは読み取っています。
テスラのOptimusとは何が違うのか
Realbotix社のロボットを、TeslaのOptimus、Figure AI、Agility Roboticsなどの大手と比べると、立ち位置がまったく違うとCEOセオさんは説明します。
基本的に歩かない座位・固定型。顔や会話を中心に、孤独感・教育・介護など感情労働を代替。Mシリーズは約1600万円
二足歩行で可動域が広い。工場・物流・家庭の肉体労働を代替。100万〜200万円程度で大量生産を想定
Optimusなどが狙うのは人件費の代替です。一方のRealbotix社は、感情や関係性の代替を掲げています。
CEOセオさんは、Realbotix社の領域にニーズは確かにあるとしつつ、「ヒューマノイドロボット」という言葉から想像するほどの投資規模やスケールとはニュアンスが違うかもしれないと話します。
実績があるのは成人向けのほう?
Mシリーズはまだ始まったばかりの段階です。これに対して、グループ内の成人向けリアルドールは、すでに約4000体の出荷実績があるといいます。
リアルドールの価格帯はおよそ100万円から250万円です。グループで見ると、実績があるのは成人向けのほうだということになります。
AIサブスクリプションでは、会話アプリHarmonyを課金制で提供し、AIチューターのOptioも展開しています。ただ、CEOセオさんはどちらも「これから」の段階だと見ています。
売上2億円ほどの会社が株価を動かすには、教育系への導入のような「綺麗な」ニュースが必要になります。リアルドールを前面に出せばアダルト銘柄になり、厳しくなるからです。
元々アダルトの会社じゃない暗号通貨の会社がアダルトの会社を傘下に入れてる状態の時点で、元々アダルトだと、それ当然上場もできないですからね。
一方でCEOセオさんは、アダルト業界が技術的に先進的だった点にも触れます。バナー広告、運用型広告、動画広告、GIFアニメなどで、アダルトは先行していたといいます。
人の感情を動かすという意味では、ヒューマノイドロボットでも成人向け分野の技術が進んでいる部分があるのかもしれません。教育に生かされる可能性もゼロではない、とCEOセオさんは話します。
値引きだけでは越えられないポジショニングの壁
それでもCEOセオさんは、現段階のRealbotix社は教育に入っていくにはポジショニングが悪いと見ています。約4割の値引きをしても、Optimusの3〜5倍の価格になるからです。
ただ、AI教育市場は急成長しています。2025年から約5年で4〜5倍になると見込まれ、現在1兆円近い市場が600億ドル規模まで広がる可能性もあると紹介されました。
その一方で、高校との契約額は約920万円で、Realbotix社の売上全体の2〜3%程度にすぎません。CEOセオさんは、ほぼIR目的の契約だったことがわかると指摘します。
上場企業がIRを重視するのは当然です。しかし、無理のある立ち位置からの発信は、かえってブランドを傷つける可能性が高いというのがCEOセオさんの見方です。
「感情労働」の代替は一人一台になるのか
CEOセオさんは、Realbotix社の「感情労働」という考え方自体は面白いと評価しています。SNSやAIによって心を病む人が増えれば、医療は薬の処方だけでは足りなくなるかもしれないからです。
うつや精神疾患を防ぐ予防医療のような形で、AIやヒューマノイドロボットが活用される可能性があるといいます。CEOセオさんは以前の回で、イーライリリー ── アメリカの大手製薬会社。糖尿病や肥満症の治療薬などで知られる世界的な医薬品メーカーですがサイケデリック薬で精神疾患を抑えようとしている話にも触れていました。
感情的なもので少しでも気が紛れて、えー、うつとかそういう精神疾患の人が事前に防げるということであれば、えー、一人一台っていう風になる可能性も全然ありますよね。
パソコンやスマホも、かつては一人一台は必要ないと言われていました。それと同じように、心を癒すためのAIやヒューマノイドロボットを一人一台持つ時代が来るかもしれない、とCEOセオさんは話します。
ビッグテックの時代、ベンチャーはどう戦うのか
CEOセオさんは、Realbotix社を面白い銘柄だとしつつ、成り立ちが怪しいため、もっと綺麗にしていく必要があると話します。まだ小型の上場企業で、今後どう大きくなるかも未知数です。
さらに、感情労働の領域にもOpenAIやAnthropicなどが入ってくる可能性があります。数百兆円規模のビッグテックが新しいビジネスを次々と手がける時代です。
大企業だからって、まあ遅いとか、のろいとか、えー、重いとか、こういうのは、え、日系企業にはまあ本当にそういう状況になってますけど、もうビッグテックとかはね、規模も大きいけどスピードも速いですよね。
新しいサービスほど大企業が手がける可能性がある中で、ベンチャーはどう生き残り、どう戦うべきか。CEOセオさんは、今回の事例がその問いを考える一つの筋になると締めくくっています。
まとめ
米国高校へのRealbotix社の人型AIロボット導入停止は、成人向け事業との並列が開示されていなかったことが発端でした。CEOセオさんは会社の成り立ちと財務から、IR目的の色が強い契約だったと読み解き、ベンチャーのポジショニングの大切さを問いかけています。
- サラマンカ市中央高校への約920万円の導入は、傘下に成人向けリアルドール事業があることが開示されず、7月25日に一旦停止された
- Realbotix社は暗号資産関連企業による買収と社名変更を経ており、CEOセオさんは「ウォッシュ感」を指摘している
- 売上2億円未満・赤字約18億円の会社にとって、売上の2〜3%にすぎない学校契約は、ほぼIR目的と見られる
- 肉体労働を代替するOptimusなどとは異なり、Realbotix社は感情労働の代替という市場を狙っている
- ビッグテックが規模とスピードを兼ね備える中で、無理な立ち位置からのIRは、マイナスブランディングになるおそれがある




