TikTokは何を違反し、なぜ今和解したのか
TikTokと親会社のバイトダンスが、米司法省との和解で過去最大級となる最大636億円(400ミリオン)の支払いを課される可能性がある、というニュースが出ました。CEOセオさんは、子ども向けのルールを逸脱したことが発端だと紹介したうえで、TikTokのビジネスモデルや中毒性、今後の流れを深掘りすると話しています。
CEOセオさんの要約によると、8月21日に米司法省、通称DOJ ── Department of Justiceの略で、アメリカ連邦政府の司法省のこと。連邦法の執行や訴訟を担う機関ですが発表した内容は、児童オンラインプライバシー保護法 ── アメリカで子どものオンライン上の個人情報収集を規制する連邦法。英語の略称はCOPPAで、事業者に保護者の同意取得などを求めています違反訴訟の和解です。
支払いの内訳は、まず300ミリオンを即時に支払い、残りの100ミリオンは別の条件付きです。TikTokの前身であるMusical.lyの時代にすでに出ていた裁判所命令と罰金があり、それが取り消された段階で支払う形だといいます。
CEOセオさんは、TikTokは前身の時代から違反を重ねていたことになると指摘します。主張の内容は、13歳未満の数百万人が保護者の同意なくアカウントを作成していたこと、保護者からの削除申し立てを頻繁に無視していたこと、キッズモードでもメールなどを収集していたことです。
アメリカは特にこう裁判が多い国ですから、まあこういったことが起きているわけです。
この訴訟は2024年8月、バイデン前政権下で提訴されたもので、和解までに2年ほどかかっています。CEOセオさんが注目するのは、和解のタイミングです。
バイトダンスは2026年1月に米国事業を米国主導のジョイントベンチャーへ移管し、投資家連合が80.1%、バイトダンスが19.9%を保有する体制に切り替わりました。和解はその切り替わりの後に成立しています。
CEOセオさんは、米国主導の形になったことで許されたという論調もあるかもしれず、和解後は米国の投資家が儲かる構図になると見ています。政治的な背景もあるのかもしれない和解だ、というのがCEOセオさんの受け止めです。
なぜSNSは未成年ユーザーを手放せないのか
CEOセオさんは、子どもへの害悪はTikTokだけの問題ではないと続けます。Meta傘下のInstagram、X、YouTubeなども含め、アメリカの州やEUでは子どもへの制限やSNS禁止の法律が徐々に出始めているといいます。
日本はね、全然その影が全くないですけども、世界ではもうこれ(SNSの子どもへの害悪)は常識になっていると。
一方で、プラットフォーム側から見ると、13歳から17歳は最も時間投入率が高い層だといわれています。CEOセオさんは、中学生ぐらいからTikTokを見始めると延々と見続け、メイクをしながら、人と話しながら、ご飯を食べながらでも動画を流している光景を挙げます。
CEOセオさんが紹介する報告書の数字では、米国の13歳から17歳の63%がTikTokを利用し、61%が毎日利用、17%がほぼ常時利用しているといいます。
さらに、Facebook、Instagram、Snapchat、TikTok、X、YouTubeの6つのプラットフォームは、2022年に米国の18歳未満から合計1兆6000億円の広告収入を得ているというデータもあります。
CEOセオさんによれば、未成年はやがて成人ユーザーになるため、LTV ── Life Time Valueの略で、顧客生涯価値のこと。1人の顧客が利用期間全体で企業にもたらす利益の総額を指しますの観点からも投資価値が高い層です。未成年の広告をやめたくないのが本音だろう、とCEOセオさんは見ています。
高い時間投入
13〜17歳は最も時間投入率が高い層
大きな広告収入
6プラットフォームで米国18歳未満から1兆6000億円
将来の成人ユーザー
そのまま使い続ければLTVが大きい
手放せない
未成年向けの広告をやめたくない
ただし政府側も、害悪が認められ訴訟が大きくなっている以上、動かざるを得ません。子どもの個人情報を収集する事業者に、保護者への通知と同意取得、削除要求への対応を義務づけるルールは2000年に制定されたもので、守らなければ罰金が科されます。
CEOセオさんは過去の例として、2019年にGoogleのYouTubeが問題になり、170ミリオンの和解金になったケースを挙げます。今回のTikTokの400ミリオンは、これまでで最大の和解金になるといいます。
最大636億円でも痛手にならないのはなぜか
CEOセオさんは、和解金を払えば済むのかというと全くそういうわけではない、と問題を提起します。理由はバイトダンスの売上規模にあります。
CEOセオさんが挙げる数字では、バイトダンスの売上は2024年で22兆円、2025年は30兆円が見込まれています。米国の広告収入だけでも1兆5000億円ほどあり、今回の和解金はその約4%程度にしかならないといいます。
それで4%払えば、堂々と米国でまたできるということでいえば、ある意味そのやったもん勝ちみたいなね。
CEOセオさんは、この構図を週刊誌の報道にたとえます。デマの記事でも最初のインプレッションが大きければ、あとから訂正しても2段目の記事は見られず、結局やったもん勝ちになるという話です。
TikTokの場合も、子どもに2年間使ってもらった後で600億円を払っても、バイトダンスにとっては1週間ちょっとでペイしてしまう売上だとCEOセオさんは指摘します。
あんまり(罰金に)意味があんのかなっていう感じになっちゃうわけですね。
TikTokが最高裁への提出資料で示した米国の月間アクティブユーザー数は1億7000万人です。CEOセオさんは、そこに若い層が多く含まれ、一部は常時利用している以上、プラットフォームはその層を落としたくないはずだと見ています。
罰金の水準について、CEOセオさんはEUのAI法 ── EUが定めたAIの規制法。違反した企業には、グローバル売上高に対する一定割合の制裁金が科される仕組みがありますのように、グローバル売上の数%を制裁金とする仕組みを引き合いに出します。売上比で課されれば、600億円よりも大きな額になるという見立てです。
それでも、バイトダンスの時価総額が罰金で落ちることはなく、直近の評価額は79兆円です。米国事業の株主の80%はOracleやSilver Lakeなどの投資家連合なので、結局はアメリカの企業が儲かる構図になり、CEOセオさんは「マッチポンプな感じもする」と話しています。
CEOセオさんによると、Metaも現在42州から集団訴訟を受けており、金額は未定ながら大きな問題になるといわれています。特に若年層にとってSNSのデメリットは非常に大きい、というのがCEOセオさんの見方です。
若者は「お金」だけでなく「時間」も奪われていないか
CEOセオさんは、親が子どもを守ろうとしても難しい状況になっていると話し、日本で若年層のうつ病患者が増えているというニュースに触れます。若者がSNSに染まりすぎて他人と自分を比較し、それがうつにつながっているのではないか、というのがCEOセオさんの考えです。
CEOセオさんは自身の20代を振り返ります。今の若者は政治不安があり、お金も時間もなく精一杯生きているという論調はその通りだと認めたうえで、自身の若い頃も就職氷河期でほとんど就職できず、お金もなかったといいます。
ただ、時間だけはあったような気がするんですよね、やっぱ昔って。
SNSがなかった時代は、目の前のことをやるしかない状態だったとCEOセオさんは話します。今はSNS、TikTok、YouTube、Netflixと見るものが多すぎて、時間が相当取られているのではないか、という問題意識です。
就職氷河期でお金はなかったが、SNSがなく時間はあり、目の前のことにがむしゃらに取り組めた
お金もないうえに、SNSや動画に時間を取られ、時間もない
CEOセオさんは、SNSを見ることは他人の発信に時間を使うことであり、発信して儲けている人ではなく、見ている側の人がほとんどだと指摘します。
CEOセオさんは、海外では若者のSNSを禁止すべきだという法令が動いていることに触れ、日本でもSNSを控えることが重要ではないかと話します。他人の人生に時間を使うのをやめるという考え方が、特にTikTokを見ていると必要だと感じているそうです。
時間さえあれば、若くて時間さえあればね、もう何者にでもなれますよ。
自分の有効な時間をね、人のために使わずに自分のために使ってください。
CEOセオさんは、日本では10代から30代の死亡理由に自殺が多いことにも触れ、SNSから少し距離を置くことや、他人の人生を追いかけすぎないことが重要ではないかと締めくくっています。
まとめ
TikTokへの最大636億円の制裁は過去最大級ですが、CEOセオさんはバイトダンスの売上規模から見れば痛手にならず、「やったもん勝ち」の構図が残ると指摘しました。未成年ユーザーはプラットフォームにとって手放せない収益源であり、そのなかで若者自身が自分の時間を守る意識が問われていると考えられます。
- TikTokは児童オンラインプライバシー保護法違反の和解で、最大400ミリオン(約636億円)の支払いを課される可能性がある
- 和解は米国事業が投資家連合主導のジョイントベンチャーへ移管された後に成立しており、政治的背景を指摘する見方もある
- 13〜17歳は時間投入率が高く、LTVの面でもSNSにとって手放せない層になっている
- 和解金は米国広告収入の約4%程度で、バイトダンスの規模では実質的な痛手になりにくい
- CEOセオさんは、若者がSNSで他人の人生に時間を使いすぎることが一番のリスクだと話している


