AIで人を減らした企業の9割が「やり直したい」?
今回CEOセオさんが取り上げたのは、AIで人員を削減した企業の多くが、その判断を後悔しているという海外のニュースです。AIでは真の価値を生み出しきれず、結局また人が必要になっているという論調だといいます。
セオさんはまず、これが基本的に海外の話であることを断っています。日本では労働基準法の問題もあり、そもそもレイオフが簡単にはできないためです。
AIで人員を減らすというのが非常にわかりやすいコスト削減で、最も効率的であるというふうに言われて、そういったことが行われてきたんですけども。
ニュースで示されたデータによると、2025年1月から2026年6月までに、AI関連で職を失った米国の労働者は12万6510人にのぼります。49件の報告、16業界42社の公開情報をまとめた数字です。
さらに、AIによる人員削減を実施した企業の75%が、節約した金額を上回るコストが発生していると答えています。機会があれば意思決定を見直したいという企業は91.5%で、このままでよいとした企業はわずか8.4%でした。
削減した職を6か月以内に再雇用するという企業も52.1%あり、55%の経営者がAIによるレイオフを後悔していると回答しています。
セオさんは、AIで人を減らすことが成功だという仮説が、データの上で巻き戻され始めていると見ています。ただし、これが全てのケースに当てはまるとは言えないため、慎重に扱う必要があるとも付け加えています。
握り寿司はロボットに握らせるべきか
AIによる人員削減の基本的な発想は、AIで生産性が上がった分だけ人を減らし、給与や社会保険、オフィスのコストを浮かせるというものです。一方で、AIを導入するとライセンスやAPI、インフラのコストが新たにかかります。
セオさんは、AIがあまりに便利なため、人がやったほうが早い仕事まで何でもAIにしようとする無駄な使い方が、今は起きているのではないかと指摘します。そこで持ち出したのが握り寿司の例えです。
握り寿司をですね、人が作るのとロボットに作らせるのどっちがいいかということで、どう考えても人がやった方が安いわけですね。
繊細な握りをロボットで再現するのは難しく、洗濯物をたたむロボットも、家政婦さんに頼んだほうがおそらく安いとセオさんは話します。たたむだけのロボット1台に何百万円もかけてはいられない、というわけです。
だからこそ、何を人に、何をロボットに、何をAIに任せるかは慎重に見極めるべきだといいます。今はとりあえずAIを導入してみようという動きが大きく、それが今回の後悔につながったのではないかという見立てです。
セオさんは、人員削減の裏に潜む隠れコストをいくつも挙げています。削減時に一括で計上される退職金、残った人の負荷が増えることによる生産性低下、そして組織の知識の喪失です。32.9%の企業が、重要なスキルや専門知識を失ったと回答しているといいます。
こうしたコストが積み重なった結果が、1ドルの節約に対して1.27ドルかかるという数字です。セオさんは、AIだけで全てを終えられる平均的な仕事は、意外とありそうでないと話します。
その60パーセント消えたとしても、その40パーセントの部分は、やっぱ人が介在してくれないとうまく回んないわけじゃないですか。
データでは、AIで完全に代替できた仕事は21%にとどまり、66%は一部だけ代替できたものの全てではなかったとされます。セオさんは、仕事には「AIでできる部分」「人とAIでできる部分」「人でしかできない部分」という3つのティアがあると整理しています。
研究ケースとして紹介されたのは、AIチャットボットで700名分の平均的な仕事をこなした事例です。複雑な問い合わせや顧客満足度の面で品質が崩れ、それをカバーするために余計なコストが増えてしまったといいます。
フリーランスの成功例を大企業が真似してはいけない理由
セオさんは、リサーチのような業務はAIが非常に得意で、もう人がやる必要はないと認めています。プロンプトやシステムの組み方、オーケストレーション次第で、リサーチ結果の加工までかなりAIでこなせるといいます。
ただし、それは個人レベルの話であることも多く、組織レベルでは難しいというのがセオさんの見方です。落とし穴は、フリーランスや個人事業主がAI活用のベストプラクティスを盛んに発信していることにあります。
でもそれって一人や二人の仕事だからできるんです。実際にこれが100人、500人、1000人、1万人となると、やっぱり複雑に絡み合ってるワークがあって。
セオさんは具体例として、新しく出たMac miniやMac Studioを挙げます。最上位のものは500万円、カスタムすれば100万円超えのものも普通にあり、フリーランスはそれを買ってAIで自動化すると発信しています。
しかし、大企業のAI担当者がそれを鵜呑みにして同じものを買っても、全く意味がないとセオさんは言い切ります。一人や数人だからこそ自動化できる仕事をAIに任せているにすぎないからです。
裏を返せば、AIの恩恵を一番受けているのは数人の会社だといいます。大企業の強みは信頼と品質、少人数の会社の強みはスピードで、そもそも土俵が違うという整理です。
強みはスピード。仕事が単純なぶんAIのレバーが効き、自動化しやすい
強みは信頼と品質。仕事が複雑に絡み合い、中途半端な導入は品質低下を招く
だからその大企業はそのスピードを買おうとすると大体こけますね。重くて遅いんで。
セオさんは後半でも、SNSではフリーランスの声が大きく、大企業の人の声は小さいと注意を促しています。大企業ほどフリーランスにコンサルを頼んでしまいがちで、それも危険だといいます。一方で、少人数の人たちはガンガんAIを使ってイノベーションを起こすのが正しい、とも話しています。
AIは人よりも「切れない究極の固定費」になる?
次にセオさんは、AIを提供する側、インフラ側、利用する側に分けて考えます。OpenAI、Anthropic、Microsoft、Googleといった提供側への課金は、今ガンガン伸びているといいます。
2025年の生成AIへの支出は世界で94兆円とされ、100兆円近くが課金されている状態です。これに対し、AI関係の設備投資はおよそ85兆円と言われています。
いつのまにか、だからとんでもない角度でAIの支出って増えてるんですね。
セオさんは、この関係がどこかで必ず逆転すると見ています。利用する側の支払いが膨らみ、それをきちんと利益に換えられなければ、AIのコストを払えずに倒産する企業も出かねないという懸念です。
セオさんがとくに強調するのは、AIが人件費のような固定費であり、しかも使えば使うほど離れられなくなるという点です。アメリカでは人はレイオフで切れますが、依存したAIは切れません。
AIを導入
人件費の代わりにAIへの支出が始まる
利用が拡大
使えば使うほどAIへの支出が増える
AIに依存
業務がAIなしで回らなくなる
切れない固定費
人のように削減できず、大きな地雷になりうる
2026年には、ビッグファイブと呼ばれるハイパースケーラーのAI関係の設備投資が120兆円になるとも言われています。セオさんは、Anthropicの売上が急角度で伸びていることにも触れ、2026年のAI支出は200兆、300兆円に達するかもしれないと推測しています。
そうなると投資を回収できるフェーズが見えてくる、つまり多くの企業がAIにかなりのお金を使う状況になるというのがセオさんの読みです。AnthropicがSpaceXを超える史上最大規模で上場するのではないかと言われているのも、そうした背景からだと話しています。
AI人員削減の裏にある「AIウォッシング」とは
セオさんは最後に、今回のデータの裏の背景にも触れています。2025年のアメリカ全体のレイオフは120万人で、AI関連とされる12万人はそのおよそ1割にすぎません。残りの約9割はAIとは無関係のレイオフだといいます。
そこでセオさんが挙げたのがAIウォッシング ── 実態以上にAIを理由や看板として掲げること。環境配慮を装う「グリーンウォッシュ」になぞらえた言葉で、AIを口実にした人員削減などに使われますという見方です。サステナブルが注目された時期に流行したグリーンウォッシュのように、AIを理由にしてレイオフをしているケースもあるのではないか、という指摘です。
もともとレイオフしたい事情があり、AIを口実にしている可能性もあるため、論理的にはAIの責任ではないケースも含まれうるとセオさんは話します。実際にはAIがものすごくうまくいっている可能性もある、という点も含みおいてほしいといいます。
セオさんはさらに、2000年代前半に多くの企業がバックオフィスをインドなどへオフショア化し、品質が悪くて戻した例を挙げます。AIも同じように、失敗を経ながら洗練され、正しい使い方に落ち着いていくだろうという見立てで、今起きていることは全然マイナスではないとしています。
AIがこれから人以上に最強の固定費になるということを経営者はしっかり考えていかないといけない。
今はAIが安くても、何千人、何万人規模でAIを利用させれば、大企業にとっては逃げられない大きなコストになります。セオさんは、経営者もフリーランスも、この点をよくよく考えていくといいと締めくくりました。
まとめ
AIによる人員削減は、退職金や知識の喪失、品質低下などの隠れコストを含めると、1ドルの節約に1.27ドルかかるケースが出ています。CEOセオさんは、少人数の成功例を大企業がそのまま真似する危うさと、依存すれば切れない「究極の固定費」になるAIのリスクを指摘しています。
- AIで人員削減した企業の75%が節約額以上のコストを負い、91.5%が判断を見直したいと答えている
- AIで完全に代替できた仕事は21%にとどまり、人が介在しないと回らない部分が残る
- フリーランスのAI活用の成功例は、仕事が複雑な大企業にそのまま当てはまらない
- AIは使うほど依存が深まり、人のように削減できない究極の固定費になりうる
- AI関連レイオフには、AIを口実にした「AIウォッシング」が含まれる可能性もある




