240円のキャラメルマキアートは自販機で売れるのか
スターバックスコーポレーションとサントリービバレッジ&フードが、日本初となるスターバックス専用の自動販売機を9月中旬から全国で順次展開すると発表しました。CEOセオさんはこのニュースを、スタバの参入というより、自販機事業を手がけるサントリーが仕掛けた組み合わせとして見ています。
専用自販機に並ぶ商品は4種類で、価格は155円から240円です。最も高い240円の商品は、スターバックスを代表するキャラメルマキアートです。
(自販機は)昔はね、100円だったんですけど、尾崎豊のね、「百円玉で」っていう歌詞がありますけども。
セオさんは、自販機は今や120円、150円と値上がりしていると触れたうえで、スタバの自販機はさらに上の値段で勝負を仕掛けていると指摘します。一方で、今の自販機はカロリーメイトやアイスなども扱っているため、100円しか入れないという感覚はもう薄いとも話しています。
専用機はグリーンと黒を基調にし、側面にスターバックスのサイレンロゴを大きく配置しています。セオさんは、コカ・コーラの真っ赤な自販機がある種の歩く広告塔としてブランドイメージを高めてきたように、スタバの自販機もかなり目立つはずだと見ています。
身近な感じがするでしょうね。スタバがここにもあるんだと。
店舗を増やせないスタバにとって自販機は何なのか
セオさんが注目するのは、自販機が店舗を置けない場所に入り込める点です。駅の構内やオフィスの中などに設置されることで、利用者がスタバのブランドに常に触れている状態が生まれます。
つまりスタバの自販機は、ドリンクが売れるという効果だけではない価値をスタバにもたらすと考えられます。ただし具体的な設置台数や優先エリアの目標は非公開で、100台程度なら都心の一部でしか見られない可能性もあるとセオさんは話します。
なお、この4商品はサントリーの汎用自販機でも順次販売される予定です。専用機だけでなく、普通の自販機でもスタバの商品が買えるようになります。
そもそもスターバックスは、自宅でも職場でもないサードプレイス ── 自宅(第一の場所)や職場・学校(第二の場所)とは別の、くつろげる第三の居場所を指す概念。スターバックスはこの考え方をブランドの柱に掲げてきました、バリスタ、洗練された店舗によって成長し、高単価で高い体験を提供するモデルを築いてきました。
一方で、人手不足、人件費や地代の高騰、店舗開発コストの増加によって、スタバの店舗拡大はそろそろ限界に来ているとセオさんは見ています。すでに十分に店舗を増やしていることもあり、単純に増やせばよいモデルではなくなっています。
そこで必要になるのが、店舗を建てずにどうブランディングするかという発想です。セオさんはOMO ── Online Merges with Offline の略。オンラインとオフラインの境目をなくし、アプリや実店舗など複数の接点を一体の顧客体験として設計する考え方ですの考え方を挙げ、店舗、自販機、アプリと接点を増やすことの意味を説明します。
接点を増やす好例としてセオさんが挙げたのがサンリオです。サンリオは「サンリオ時間」を提唱し、サンリオピューロランドに来る時間だけでなく、服を着たりグッズを持ったりする時間も含めて、あらゆる接点を増やしてブランド価値を高めています。
(自販機は)視認性がね、高いし、頻度も変わらなくても覚えちゃうみたいなね。あったな、あそこにあったなみたいな。
業界2位サントリーはコカ・コーラにどう対抗するのか
サントリー側の狙いについて、セオさんは自販機業界の勢力図から説明します。サントリーの自販機は約35万台で業界2位です。過去にはJTの自販機事業を1500億円で買収して拡大してきました。
首位はコカ・コーラボトラーズで、設置台数は約53万台です。さらにコカ・コーラには専用アプリのCokeONがあり、7000万ダウンロードを突破しています。デジタルと自販機をうまく融合できているのはコカ・コーラだ、というのがセオさんの見立てです。
| 項目 | コカ・コーラボトラーズ | サントリー |
|---|---|---|
| 業界順位 | 1位 | 2位 |
| 設置台数 | 約53万台 | 約35万台 |
| 主な武器 | アプリCokeON(7000万DL) | スタバなどのプロダクト・設置場所の質 |
会員経済圏ではコカ・コーラに追いつけないため、サントリーはスターバックスのようなプロダクトで勝負をかけていくのではないか、とセオさんは推測します。
スタバの自販機自体が置いてあるとちょっとかっこいいじゃないですか。
スタバの自販機ならオフィスなどの置き手にとっても見栄えがよく、置ける場所が増える可能性があります。セオさんは、サントリーが設置場所の質でコカ・コーラに対抗していく構図にもなりそうだと話します。収益はロイヤリティや製造委託、設置手数料などが考えられますが、今回の契約条件は公開されていません。
自販機のスタバは「お試しの入り口」になるか
セオさんは、スタバにとって専用自販機のマイナスはほとんどないのではないかと見ています。誰もが知るブランドで店舗も多く、新たに店を構える場所はもうほとんど残っていないからです。
スタバの自販機はホットとコールドを切り替えられるため、自販機専用の商品も作りやすくなります。コンビニより高くしたり安くしたりと、自販機用の価格決定権を持てることもスタバにとっての強みになるとセオさんは指摘します。
スタバの店舗での中央価格帯は450円から680円とされており、自販機の155円から240円はその半額以下です。セオさんはここに、スタバを試してみる入り口としての可能性を見ています。
中央価格帯は450〜680円
155〜240円で、店舗の半額以下
セオさんは海外で飲んだアイスカフェラテが1000円から1200円したという体験を紹介し、世界から見れば日本のスタバの600円は高くないと話します。それでも日本の消費者にとってスタバは高いという感覚があります。
自動販売機で150円から240円で買えるとなると、実は試したいというか、買おうかなっていう人はいる可能性はありますから。
自販機はなぜ斜陽産業と呼ばれるのか
自販機市場そのものは厳しい状況にあります。2025年末の自販機の普及台数は388万台で、ピークだった2013年の509万台から121万台、約24%減り、4分の3になりました。
飲料の自販機は全体の56%にあたる218万台で、飲料を売るうえでは大きなマーケットです。ただ、飲料の自販機も減少し続けています。
セオさんは、自販機での購入動機も変わってきていると感じています。今はコンビニもなく、そこにしか飲み物がないときや、イベント会場で並びたくないときなど、困ったときに使う存在になっているのではないかという見方です。
各社の業績にも、自販機事業の厳しさが表れています。コカ・コーラは2026年秋から主力の500ミリリットル飲料を200円に値上げし、赤字の自販機の比率が2〜3割に急増する可能性があるとされています。
首位のコカ・コーラボトラーズでさえ、2025年12月期は自販機事業で881億円の巨額損失を計上しました。ダイドードリンコは2025年の連結最終損失が過去最大の303億円となり、全国27万台のうち約2万台を2026年末までに撤去するとしています。
伊藤園の自販機は16万台から、2025年12月末時点で7.5万台と半分以下に減りました。サッポロホールディングスは自販機事業から撤退しています。
価格帯も100円だったものが今はだから150円とか200円とかどんどん上がってきていて、消費者が離れていると、いう状況なんですよね。
商品を売るだけの箱から抜け出せるか
セオさんは、自販機にはもっと別の考え方があるはずだと話します。自販機は人との接点を増やせるため、それ自体が広告にもなり得るからです。
セオさんが例に挙げるのはタクシー広告です。タクシー広告はポスターから動画に変わり、経営者などタクシーに乗る層へのリーチが高まって、広告枠が埋まる状態が続いています。
単純にそこの中の商品を売るだけのパッケージにするっていうのはちょっともったいないのかなという気はしないでもないですよね。
ただし自販機の広告化には壁もあります。タクシーと自販機の違いを、セオさんは次のように整理しています。
モニターを後付けでき、密室なので画面に没入しやすい
ハードが重く後付けが難しく、街中では画面に没入しにくい
それでもセオさんは、自販機がビジネスモデルの転換を迫られているのは確かだと見ています。今回のスターバックスの事例で、ブランド効果がどう上がったかをチェックするとよいとも話しています。
コカ・コーラのCokeONについても、7000万ダウンロードとアクティブユーザーは全く違うとセオさんは指摘します。会員向けの新しいサービスや広告サービスを作らなければ、自販機単体では厳しく、複合のビジネスモデルが必要になるという考えです。
ここでしか買えない専用自販機という発想
セオさんは、自販機は日本の1つのカルチャーでもあると話します。セオさん自身、かつてシンガポールに次世代型のデジタル自動販売機を持ち込み、日本のコンテンツを買えるガチャガチャのような仕組みを手がけたことがあるそうです。
シンガポールの自販機では1000円や2000円の商品を扱い、クレジットカードで買えるようにして、日本のものを世界に届けることを考えていたといいます。
別にジュースだけを売ればいいわけじゃないし。
海外ではグッズや人形など、人気のものを自販機で売っている例もあります。セオさんは、ここでしか買えないものを扱う専用自販機は十分ありだと考えており、その意味でスターバックス専用自販機も1つのやり方だと評価しています。
(スタバの自販機を)今度見つけたら一回買ってみようかなと思いますんで。
まとめ
スターバックス専用自販機は、店舗を増やしにくいスタバにとっては新たなブランド接点に、業界2位のサントリーにとってはコカ・コーラに対抗する武器になり得ます。一方で自販機市場はピークから約24%縮小しており、セオさんは商品を売るだけでなく広告や会員サービスを組み合わせた複合モデルへの転換が必要だと話しています。
- スタバ専用自販機は4商品・155〜240円で、9月中旬から全国で順次展開される
- スタバにとっては、店舗を置けない場所での接点づくりと、店舗の半額以下で試せる入り口になり得る
- サントリーは会員経済圏で先行するコカ・コーラに、プロダクトと設置場所の質で対抗する構図
- 自販機は2013年の509万台から2025年末に388万台へ減り、各社で損失や撤去、撤退が続いている
- セオさんは、広告や会員サービス、ここでしか買えない商品など、自販機の複合的な活用を提案している


