公安調査官体験ツアーに応募が殺到した理由は?
公安調査庁が国家公務員志望の大学生向けに企画した「公安調査官体験ツアー」に、定員の10倍を超える申し込みが集まり、関係者を驚かせたというニュースがあります。CEOセオさんは、その背景としてTBSドラマ『VIVANT』の影響を挙げています。
CEOセオさん自身も『VIVANT』を見ている一人です。この回では、なぜ公安調査庁なのかに加え、TBSやU-NEXTを含むドラマ周辺の事業も深掘りしていくと話しています。
ニュースの中身を整理すると、ツアーは霞が関の本庁で実施され、定員15名の枠に200人以上が応募しました。倍率は約13倍で、前年の約5倍から大きく伸びています。
ツアーの内容は、外国によるインフラへのサイバー攻撃が計画されているという架空のシナリオのもと、人から情報を集めて分析し、政府高官に報告するシミュレーションです。
なんか(このツアーは)面白そうっちゃ面白そうですよね。
政策面では、2026年7月31日に国家情報局と国家情報会議が発足しており、こうした流れの中でツアーも企画されてきたと説明されています。
日曜劇場で異例の2クール、VIVANT第2シーズンとは
ツアー人気の背景にあるTBSドラマ『VIVANT』は、第2シーズンが放送中です。CEOセオさんはスリリングな展開だと評価し、第1シーズンが大ヒットしたことから、今回は日曜劇場としては異例の2クール放送になっていると紹介します。
体験ツアーが行われていた時期は、『VIVANT』がアジア大会の中継のために3週間休止していた期間と重なっていました。CEOセオさんもその間は見られず、前半戦が終わったタイミングだったと振り返っています。
放送だけで終わらないVIVANTのIPビジネス
CEOセオさんは、『VIVANT』のビジネスモデルを「IP事業」として捉えています。少し前まではメディアを作る時代でしたが、今は各社がIP ── Intellectual Propertyの略で知的財産のこと。エンタメ業界では作品やキャラクターを指し、グッズ化や映像化など複数の事業に展開できる資産を意味しますを作ることに躍起になっていると話します。
今はIPを作ろうということで、VIVANTはIP事業なんですね。
『VIVANT』は放送で収益を上げるだけでなく、見逃し配信をTVer ── 民放各局が共同で運営する無料の見逃し配信サービスで行い、有料の見放題配信はU-NEXTが独占しています。
U-NEXTが独占している理由について、CEOセオさんはTBSホールディングスが2023年6月にU-NEXTと資本提携し、株式の約20%を約242億円相当で取得したことを挙げます。TBSのコンテンツをU-NEXTで展開するのは自然な流れだという見方です。
さらに体験型イベント「VIVANTイマーシブミッション」を9月16日から11月27日まで京橋で有料開催しているほか、グッズ、シナリオブック、ノベルティ、ロケ地ツアーなども展開しています。
放送
地上波の日曜劇場で放送し、話題をつくる
配信
TVerで見逃し配信、U-NEXTで見放題を独占
体験イベント
VIVANTイマーシブミッションを有料で開催
物販・派生
グッズ、シナリオブック、ロケ地ツアーなど
TBSの決算に見える「放送以外」へのシフト
TBSは決算でも放送以外へのシフトを掲げています。CEOセオさんによると、2026年の第1四半期では、スポット広告や配信広告が前年から落ちる一方、有料配信やイベント・アニメ二次利用などの事業は大きく伸びています。
| 分野 | 前年比 | 傾向 |
|---|---|---|
| スポット広告 | マイナス11.9% | 減少 |
| 配信広告 | マイナス11.3% | 減少 |
| 有料配信 | プラス29.1% | 増加 |
| イベント・アニメ二次利用などの事業 | プラス83.9% | 増加 |
TBSは放送ビジネス以外の展開に力を入れ、少しずつ結果が出始めていると説明されています。『VIVANT』第2シーズンは7月放送のため、この四半期の数字には入っておらず、今後どう反映されるかが注目点だといいます。
一方で『VIVANT』の制作費は報道ベースで1話1億円とも言われます。CEOセオさんは、映画化も含めて回収していくのではと推測しつつ、爆破シーンでのAI活用など制作費圧縮にも挑戦しているのだろうと話しています。
公安調査庁はドラマに「ただ乗り」できた?
CEOセオさんは、公安調査庁がお金を払わずにドラマの影響で応募を集めている点を、ある種の「ただ乗り」と表現します。採用費が浮いているとも言えるという見方です。
数十億円の制作費をかけて情報機関への憧れをつくり、スパイ体験イベントは有料で展開
制作費を負担せず、無料の体験ツアーで応募につなげる
CEOセオさんは、人気アニメの聖地巡礼のように、放送で強いIPになったものがリアルにも派生していく現象だと捉えています。そして、こうした現象は昭和の時代には非常に多かったと話を広げます。
木村拓哉さんが職業人気をつくった時代
CEOセオさんが代表格として挙げるのは、木村拓哉さんのドラマです。『ラブジェネレーション』で木村拓哉さんが中堅の広告代理店の社員を演じたことで、広告代理店に行きたい人が増えたのではないかと振り返ります。
ああ、私もその一人で、広告ビジネスいいなと憧れを持ちましたね。
木村拓哉さんはヒーローや検察官などさまざまな役を演じ、演じた職種やサービスが人気になる構造がありました。着ていた服から原宿がブームになるなど、木村拓哉さん一人があらゆる産業をつくっていたような時代だったとCEOセオさんは語ります。
現在は人軸ではなく、ストーリーや脚本、巨大な予算によってイメージをつくる形に変わったとCEOセオさんは見ています。木村拓哉さんほどのIPをつくるのは大変ですが、ドラマで作った方が再現性がある点を「新しい時代の幕開け」と表現しています。
木村拓哉さんという「人」がIPとなり、演じた職種や着た服まで人気になった
ストーリー・脚本・巨大予算といった「作品」がIPとなり、再現性のある形で憧れをつくる
VIVANTの視聴率と配信の数字は?
『VIVANT』第2シーズン初回の世帯視聴率は、関東地区のビデオリサーチで18.8%と、2026年の全ドラマでトップでした。最新の第19話も15.4%で、第2シーズンは9話連続で15%を超えていると紹介されています。
TVerでの初回再生数も875万回で、第1シーズン初回の399万回から約2.2倍に伸びました。第1シーズンの総視聴人数は6000万人を突破したといいます。
CEOセオさんは、テレビ離れの中でもリアルタイムと配信の両方で勝っているドラマだと評価します。一方で、第2シーズンは引っ張りすぎ、拷問シーンが多すぎて地上波でどうなのか、といった批判もあると触れています。
制作費は総額20億円を超えるのではないかと週刊誌や業界関係者が語っていますが、TBSが公式に発表した金額ではなく、実際のところはわからないとCEOセオさんは注意を添えています。
体験ツアーは伸びても、官僚志望は戻っていない
体験ツアーの応募が急増した一方で、国家公務員志望全体は回復していないとCEOセオさんは指摘します。国家総合職の申込者数は前年から1.9%増えたものの、14年間で約3割減っています。
| 区分 | 2012年 | 2026年 |
|---|---|---|
| 国家総合職 | 2万5000人 | 1万8200人 |
| 国家一般職(大卒) | 3万9644人 | 2万6429人 |
CEOセオさんは、ITビジネスやAIなど選択肢が増え、かつては東大を出たら官僚という流れだったものが、今は東大生が起業する流れになっていると話します。生涯にわたる仕事を単純な憧れだけで選ぶのは難しいのかもしれない、という見方です。
さらに情報機関は枠が狭いことも課題です。国家情報局の規模は約730人で、公安調査庁の予算は181億円と前年比5億円増えたものの、増員は差し引きプラス25名にとどまります。
いくら話題を作っても、それ(採用の枠)はパイが増やせるものではないので。
民間ビジネスなら市場が広がれば人も増えていきますが、情報機関はそうではなく、行き先が限られすぎているとCEOセオさんは述べています。
稼ぐ力で見ると、在京キー局で抜けているのは?
TBSは『VIVANT』やTVer、U-NEXTなどを活用して展開していますが、在京キー局の稼ぐ力で見ると日本テレビが抜けているとCEOセオさんは指摘します。アニメやスタジオへの投資にも積極的だといいます。
TBSの利益率は日本テレビの半分以下です。フジテレビについては、いろいろな事件もあってマイナスになっているとCEOセオさんは触れています。
今後については、放送だけで終わらないIPビジネスにシフトし、新しいプロダクトやサービスを生み出して長くIPを育てていくことが重要だとCEOセオさんは見ています。AIでコストを抑えつつも、大きく張らなければこうした作品はつくれないという考えです。
トップガンや海猿が示す、コンテンツの影響力
CEOセオさんは歴史の類似事例として、1986年の映画『トップガン』を挙げます。海軍志望者が500%増えたとも言われ、実際の入隊者はプラス8.3%だったものの、かなり増えたといいます。
日本でも2012年公開の映画『海猿』の影響で、海上保安学校の秋試験の申込者数が3000人から7700人に増えたと紹介されています。
CEOセオさんは、Netflixの『ラブ上等』や『ダウンタイム』のような作品で美容外科に行きたい人が増えるのか、見せ方次第では逆に減るかもしれないと例を挙げ、メディアやコンテンツは世論をコントロールできると話します。
コンテンツをつくる側に求められる使命感
メディアやコンテンツが世論を動かせるからこそ、つくる側がどんなコンテンツを生むかが問われるとCEOセオさんは考えています。YouTubeも同じで、若者に害悪を与えず、いい影響を与えるコンテンツをつくることは使命感のある仕事だと語ります。
僕らってやっぱコンテンツとかドラマに非常に影響を受けやすいんですよね。やっぱ憧れを感じてしまったり、それが現実かどうかは一旦置いといて。
一方でCEOセオさんは、憧れをつくる人と、そこで刈り取る人は別だという構図にも目を向けます。プレイヤーが変わっているという指摘です。
憧れをつくる側と刈り取る側、スポンサーはどうあるべき?
CEOセオさんは、今思えば『ラブジェネレーション』なら電通がスポンサーになるべきだったのではないか、と冗談めかして話します。広告志望者を集めたいナショナルクライアントが、インハウスで広告をやるためにスポンサーになる発想もありだといいます。
ただし、スポンサーの利益が働きすぎると作品がつまらなくなる懸念もあります。収益を得る部分と制作する部分が同じだと難しいかもしれないため、いろいろ考えながら設計する必要があるとCEOセオさんは締めくくっています。
お金の収益を得る部分と制作をする部分というのは、やっぱり同じだとね、ちょっと難しいかもしれないってこともありますんで。
まとめ
ドラマ『VIVANT』は公安調査官体験ツアーの応募を約13倍に押し上げ、TBSは放送・配信・イベントを組み合わせたIPビジネスを広げています。一方で官僚志望全体は回復しておらず、コンテンツの影響力の大きさと、それをつくる側の責任が浮かび上がる回でした。
- 公安調査官体験ツアーは定員15名に200人以上が応募し、倍率は前年の5倍から約13倍に伸びた
- TBSは『VIVANT』を軸に、U-NEXTでの独占配信や有料イベントなど放送以外のIP展開を進めている
- 体験ツアーは伸びても、国家総合職の申込者数は14年で約3割減り、情報機関の枠も限られている
- 『トップガン』や『海猿』のように、コンテンツは職業選択や世論を動かす力を持つ
- だからこそ、コンテンツをつくる側には若者に良い影響を与える使命感が求められる




