コンゴのエボラ流行は、なぜ史上最悪になったのか
コンゴ民主共和国でエボラ出血熱の死者が4000人を超えたという発表が、10月2日に出ました。CEOセオさんは、この感染拡大の裏にはビジネスの事情と文化的な背景が複雑に絡み合っていて、簡単には解決しそうにないと話しています。
CEOセオさんの説明では、感染者は7つの州で8300人にのぼり、そのうち2000人強が回復しています。死者は感染者のほぼ50%近くに達しており、コンゴ民主共和国では史上最悪の流行だといいます。
世界全体で見ると、2010年から2016年にかけて西アフリカで起きた流行が最大で、感染者は2万8600人余り、死者は1万1000人超でした。今回のコンゴの流行は、それに次ぐ規模とされています。
承認済みワクチンが効かない「型違い」の壁
今回の流行を引き起こしているのは、エボラウイルスの中でもブンディブギョ型 ── エボラウイルスの種の一つ。ウガンダのブンディブギョ地方で最初に確認されたことに由来する名前で、ザイール型とは別の種として扱われますと呼ばれる変わった種だと、CEOセオさんは説明します。
すでに承認されているエボラワクチンのエルベボ ── メルクが開発したエボラウイルスのワクチン。ザイール型エボラウイルスに対する予防効果が認められ、承認されていますは、ザイール型に対応するものです。ブンディブギョ型への効果は動物では実証があるものの、人ではまだ確認されておらず、対策が遅れているといいます。
(ブンディブギョ型への)効果は人では未確認という、動物ではもう実証があるらしいんですけど、人では未確認ということで、いろんな対策が遅れているということですね。
流行の経過も、CEOセオさんは時系列で整理しています。コンゴとウガンダの両方で流行が宣言されたものの、ウガンダは3か月後に収束宣言を出し、コンゴでは拡大が続いています。
ワクチンそのものは存在していても、型が違うことによって大きな被害につながっている、というのがCEOセオさんの見立てです。
ワクチン市場は4つに分かれている
エボラワクチンがビジネスとして難しい理由を説明するために、CEOセオさんはワクチン市場を4つに分けて紹介します。インフルエンザのように毎年打つワクチンと、エボラのように突発的に必要になるワクチンとでは、市場の性質がまったく違うからです。
| 市場 | 特徴 | 例 |
|---|---|---|
| 定期接種市場 | 毎年決まった時期に打つ。最大のマーケット | インフルエンザ、肺炎球菌、帯状疱疹 |
| パンデミック市場 | 一気に爆発し、一気に消滅する | コロナ |
| 国家の備え市場 | 政府が保険として買い備える | 天然痘 |
| 突発的な貧困国向け市場 | 貧しい地域で時期もわからず突然発生する | エボラ |
CEOセオさんによると、お金の流れは定期接種市場が圧倒的で、中心は高所得国です。2023年のデータでは、高所得国は接種量では全体の24%にすぎないのに、金額では72%を占めているといいます。
まさにニッパチの法則じゃないけど、2割で8割占めちゃうみたいなことが、定期接種では行われているわけですね。
パンデミック市場については、コロナの例が挙げられています。ファイザーのコロナワクチン関連の売上は2022年に9兆円まで増えたあと、2025年には88%減って約1兆円まで下がったといいます。CEOセオさんは、それでも1兆円残っていることに驚きつつ、特需と呼んでいいのかは正直わからないと留保しています。
国家の備え市場は顧客が政府なので、大量に仕入れることはありません。CEOセオさんは、米国の2026会計年度でおよそ1000億円程度の購入があると紹介しています。
エボラワクチンに「自然な商業市場」がない理由
CEOセオさんは、エボラのような4つ目の市場には自然な商業市場がない、と正式に言われていることを紹介します。患者が貧しい地域に住み、流行の時期も予測できないため、通常の売り買いが成り立たないということです。
エボラワクチンを提供しているメルク ── 医薬品やワクチンを手がける大手製薬企業。エピソード説明ではドイツのMerck社として紹介されていますは、製造と運用のコストだけで提供しているといいます。CEOセオさんは、株が違えば研究開発費から仕入れコストまでかかるため、原価提供でも厳しい状況だと見ています。
メルクのエボラワクチン事業は、政府の支援なども受けながら展開されていて、事業というよりは信頼や技術面のポイントを稼ぐ位置づけに近いようだ、とCEOセオさんは話しています。業界の事業として見ると非常に弱い、という評価です。
突発的な発生
貧困国で時期もわからず流行が起きる
ワクチンがない
市場が小さく事前の投資が進まない
多くの犠牲
たくさんの人が亡くなる
開発に着手
被害を受け止めてからワクチン開発に入る
世界のワクチン市場は2023年時点で12兆円規模ですが、医薬品市場全体で見ると5%しかないと、CEOセオさんは指摘します。コロナで市場が大きく膨らんだあと縮小しているため、数字の読み方は難しいとも話しています。
メルクの売上の半日分にも満たない市場
CEOセオさんは、コロナのmRNAワクチンのようにパンデミック時は異常なことが起きるため、ワクチン市場の中でも見極めが重要だと話します。一方で、エボラのような突発的な貧困国向けワクチン市場の小ささは非常に顕著だといいます。
市場規模がこれだけ小さいと、事業として投資していくのはかなり難しい、というのがCEOセオさんの見方です。
先進国で多く消費され、比較的高い値段で売られる
安い金額で大量に作る必要があり、市場も突然起きて小さい
定期接種は先進国で高く売れるのに対し、エボラは逆に安く大量に作らなければなりません。利益が出づらく、市場も突然生まれて小さいため、なかなか行き届かない構造があるとCEOセオさんは整理しています。
遺体に触れて別れを告げる伝統が感染を広げる
CEOセオさんは少しビジネスから離れ、コンゴのエボラで死者の割合が50%近くまで高まった理由を考えます。調べていくと、死に対する考え方の違いという文化的な背景があったといいます。
コンゴには、遺体をきれいに洗い、親族が触れて別れを告げる洗体儀礼 ── 亡くなった人の体を洗い清める儀式。多くの文化に見られ、故人への敬意や死者を送り出す意味を持ちますという伝統的な埋葬があるそうです。そうしないと村に祟りが来ると考えられているといいます。
ウイルスっていうのは、もう死亡してしまった人の中にめちゃくちゃウイルス量ってたくさん含まれてるわけじゃないですか。だから当然近づいてはいけないし、隔離されるわけですよね。
医療チームが防護服を着て遺体を回収し、安全に火葬や埋葬をしようとする行為そのものが、遺族からは家族の魂を救済できない非人道的な行為に見えるようです。その結果、亡くなった人に触れることで感染が広がっている、とCEOセオさんは説明しています。
防護服で遺体を回収し、安全に火葬・埋葬する
遺体を洗い親族が触れて別れを告げるのが故人への敬意
伝統呪術師への信頼と、西洋医学への不信
CEOセオさんは、現地の人々が伝統呪術師に依存していることも挙げます。近代的な医療インフラが整っていない地域では、日常的な病気を解決してきたのは西洋医学でも東洋医学でもなく、伝統呪術師や宗教だと今も考えられているといいます。
見知らぬ外国人が突然やってきて、大切な人を隔離してですね、なんか宇宙人のような存在でやってきて、命を奪っていくみたいな。
伝統療法から見ると、西洋医学の隔離は真逆の行為に映るため、非常に不審がられるのだとCEOセオさんは話します。まともな医療を提供すること自体が難しく、現地に行っている医療従事者はおそらく大変な思いをしているだろう、とも述べています。
「エボラビジネス」と臓器売買説、広がる陰謀論
CEOセオさんがもう一つ挙げるのが、現地でかなり普及している陰謀論です。代表的なのが「エボラビジネス」と呼ばれる見方だといいます。
「エボラなんてなかなか流行りもしないのに、流行った瞬間、急に、いろんな人たちがやってくる」と。「これはきっとビジネスだからだろう」みたいな感じで。
政府高官や白人が突然やってきて資金を懐に入れているのではないか、という疑いが囁かれているそうです。ほかにも、SNSや口コミで次のような陰謀論が語られているとCEOセオさんは紹介します。
- 隔離病棟で臓器を抜かれて殺されているという臓器売買説
- アフリカの人口を減らすためにウイルスを撒いているという説
- 新薬の治療の実験台にされているという説
こうした疑いから、医療やワクチンを受けるべきではないと考え、結果として亡くなる人も増えているといいます。CEOセオさんは、ウイルスは見えないもので、人間は見えないものに恐怖を感じると話します。
真っ暗闇で歩いてくれって言われたら誰だって怖いわけですよね。
伝統的な文化のある地域にとって、ワクチンや薬、隔離は現実社会にあまりないものだからこそ恐ろしく、その恐怖が逆に病気を広げているのかもしれない、とCEOセオさんは推察しています。
製薬会社は本当に「儲からない病気を無視」しているのか
CEOセオさんは、コロナの時も同じように話題になったことに触れ、SNSがあるからこそさまざまな意見が出て、隠された真実もあったりするため難しいと話します。
メディアやニュースでは「アフリカの悲劇に国際社会はもっと支援すべきだ」「製薬会社は儲からない病気を無視している」という論調があります。CEOセオさんは、ビジネスとして考えればエボラは関わるのが大変な市場でもある、と別の見方を示します。
だから別に製薬会社無視してるというわけではないんだとは思うんですけども。
一生懸命やってる側からするとね、陰謀論で逆にマイナスに叩かれたりもするだろうし、なかなか難しいポジションにはいるんじゃないかなというところですよね。
倫理的には、民間企業であっても国と協力して展開していかなければならない事実もある、とCEOセオさんは述べています。製薬会社は、社会的意義と経済合理性の板挟みにあると読み取れます。
流行のあとに備蓄ができる「後出し」の繰り返し
CEOセオさんは、エボラワクチンの対応がどうしても後出しになると指摘します。最初のエボラワクチンも、2010年から2016年の西アフリカ大流行の時点ではまだ治験段階で、流行後に承認されたといいます。
流行が終わってからやっと備蓄できる、というパターンが繰り返されているようだ、とCEOセオさんは話します。事前に用意しておくのは保守的には非常に良いものの、誰が資金を出し、誰が買うのかという問題が残り、ビジネス一つだけで見ると難しいという結論です。
最後にCEOセオさんは、パンデミックこそ一番わけがわからないものだとしつつ、今回のエボラの大量の死者から学んでいくこともあると締めくくり、リスナーに考えを問いかけています。
まとめ
コンゴのエボラ流行は、承認済みワクチンが効かない型であることに加え、小さく突発的で儲からないワクチン市場の構造、遺体に触れる伝統や陰謀論による医療への不信が重なって深刻化しています。CEOセオさんは、製薬会社が病気を無視しているという単純な見方ではなく、社会的意義と経済合理性の間で揺れる難しい立場として捉えています。
- コンゴのエボラ死者は4000人超で、承認済みワクチンのエルベボは今回のブンディブギョ型への効果が人では未確認
- ワクチン市場は定期接種・パンデミック・国家の備え・突発的な貧困国向けの4つに分かれ、エボラは自然な商業市場がない
- 世界のエボラ備蓄を丸ごと買ってもメルクの売上の半日分に満たず、メルクは原価レベルで提供している
- 遺体を洗い触れる伝統、伝統呪術師への信頼、エボラビジネスなどの陰謀論が医療の受け入れを阻んでいる
- 流行後にようやく備蓄ができる「後出し」が繰り返され、事前の備えに誰が資金を出すかが課題として残る




