クールジャパン機構はなぜ540億円を失ったのか
官民ファンドのクールジャパン機構が、2025年度の決算で累積損失540億円に達したというニュースが出ました。CEOセオさんはこの報道を「クールジャパンの誤算」として深掘りしています。
CEOセオさんによると、韓国は世界でヒットするコンテンツを数多く生み、いわば「クールコリア」として成功していると見られています。一方で日本のクールジャパンは「いまいち」と囁かれ続けてきたといいます。
ただし、日本のコンテンツ産業そのものは弱くありません。CEOセオさんは、アニメや漫画では日本が世界で圧勝しており、コンテンツの海外売上は6兆円ほどで、自動車に次ぐ産業だと指摘します。
なのに、それ(コンテンツ産業)を支援するはずの政府戦略がやっぱマイナスであると。要するにうまくいっていないということですね。
CEOセオさんは、政府に頼らずとも数字を叩き出しているソニーや任天堂のような日本企業がある一方で、投資としてはうまくいっていないと整理しています。
赤字・出資額・新戦略、ニュースの数字をどう読む?
ニュースの数字として、クールジャパン機構の単年度の純損失は156億円の赤字でした。売上高は44億円で、前期比88.4%の減少だったと紹介されています。
これを受けて政府は、ファンドの廃止、または他ファンドとの統合を前提に検討を開始したといいます。
クールジャパン機構の設立は2013年で、総投資額は2040億円、83件にのぼります。出資金は1513億円で、そのうち政府分が1406億円です。
損失拡大の最大の要因として挙げられたのは、先端繊維ベンチャーのスパイバー ── 山形県鶴岡市発のバイオベンチャー。微生物を使って人工的にタンパク質素材を作る技術で知られ、次世代繊維として注目を集めましたです。クールジャパン機構は同社に140億円を出資しましたが、2026年には私的整理に入り、安値で事業譲渡されたといいます。
同じ2026年8月20日、経済産業省は「エンタメ・クリエイティブ産業戦略2026」とされる戦略を公表しました。2033年までに海外売上を6兆円から20兆円に引き上げる目標を掲げています。
CEOセオさんは、失敗の結果と新しい成長戦略が同じタイミングで出されたことが、今回のニュースのポイントだと話しています。
コンテンツの海外売上は現在6兆円ほど
2033年に20兆円へ引き上げる目標
税金9割のファンドは「ザル勘定」になりがちか
クールジャパン機構の出資のうち、約9割は税金です。CEOセオさんの整理では、およそ1500億円の投資のうち1400億円が税金、100億円が民間の資金でした。
民間の金額多ければ多いほど、(投資を)規律しますよね。ちゃんとその成果が出てるのかと。
税金だとどうしてもこう垂れ流して、その後の考察が出にくいと。なかったことになっちゃうみたいなところがやっぱりあるのかな。
CEOセオさんは、税金が中心の資金はチェックが甘くなる「ザル勘定」になりがちな面もあるのかもしれない、と控えめに述べています。
クールジャパン機構の出資分野は非常に広範でした。日本が強いアニメや漫画のほかに、スパイバーのようなバイオ繊維、テーマパーク、教育プラットフォーム、中古車販売、中国の商業施設にまで及んでいます。
テーマパークの例としては、森岡毅さん率いるKATANA ── マーケターの森岡毅さんが率いるマーケティング・テーマパーク事業の会社。沖縄北部のテーマパーク「ジャングリア」の開業を手がけましたが手がけるジャングリアにも出資しており、ジャングリアは今苦戦していると言われているそうです。
「バラマキ」は本当に悪いのか?投資の原理原則
報道の論調は、クールジャパン機構には選択と集中の戦略が必要だった、というものです。記事では「バラマキJAPAN」とも表現されていたといいます。
ただしCEOセオさんは、後から言うのは簡単だとしたうえで、投資の原理原則としては「バラマキの方が成功する」という論調もあると指摘します。
CEOセオさんが例に挙げたのはGoogleです。Googleが登場した当時はすでにYahoo!という検索エンジンがあり、名前も読みにくく、「こんなところに投資なんですんの?」と思われるような存在でした。
しかしGoogleはその後、巨大企業アルファベットにまで成長しています。当時投資を断った人は「なんであれを断ってしまったんだろう」と後悔したといいます。
CEOセオさん自身にも似た経験があります。1億円の投資を頼まれた際、よくわからないからと1000万円にとどめたところ、その投資先が大成功したそうです。
CEOセオさんによれば、狙いを絞って選択と集中をしても、外れたら全部外れてしまいます。だから投資では幅広く張るポートフォリオの考え方が重要で、一概にバラマキを否定はできないといいます。
狙いを絞って張る。当たれば大きいが、外れたら全部外れる
たくさんに張っておく。「投資しなかったこと」によるミスを避けられる
韓国エンタメの選択と集中と、成功・失敗の投資先
結果論としては、クールジャパン機構は選択と集中ができず、いろいろな分野に投資してうまくいかなかったと言われています。
一方の韓国は選択と集中を進めました。Netflixと提携した映像スタジオのスタジオドラゴンや、BTSのような世界的アーティストの育成に成功し、最初から海外を狙ってうまくいったと言われています。
全部正直投資なんていうのはもう結果論なんですよ。
もしかしたらこれで、バイオベンチャー、繊維のベンチャーが当たってたら、やっぱ「そこだったね」ってなるでしょうし。
CEOセオさんは後出しじゃんけんで全てを語るのは違うとしつつも、考察は必要だとして、主な投資先を振り返ります。うまくいかなかった例は、スパイバーへの140億円、ジャングリアへの80億円、そして吉本興業とNTTの教育プラットフォーム「ラフ&ピース マザー」への31億円です。
逆に意味があったとされるのが、『チェンソーマン』などを手がける制作会社への出資です。CEOセオさんによると、アニメ制作では制作会社や作家に利益がいきにくい制作委員会モデル ── 複数の企業が出資して作品を作り、権利や収益を出資比率で分け合う日本アニメの主流の仕組み。リスクは分散できる一方、制作現場に利益が回りにくいと指摘されますがあり、それを打破する意味があったといいます。
だから成功もあったんだけど、ちょっとレバー(レバレッジ)が効いてないということですね。
アニメに投資すべきだったのか?内需と外需の分かれ目
記事では、日本が強いアニメにもっと投資すればよかったという声も紹介されていました。しかしCEOセオさんは、アニメ制作会社は304社、従業員は1万4000人ほどで、漫画の編集者やアシスタントを含めても1万人程度ではないかと述べています。
コンテンツ産業の売上6兆円は大きくても、働く人の数は多くありません。一方で、スパイバーのような新素材が成功して自動車・洋服・食品などにイノベーションが広がれば、100万人以上の働く人に恩恵がありえます。
CEOセオさんは、より大きな、可能性のあるマーケットに投資するという考え方には一理あるとしています。
これ(裾野の広い分野への投資の考え方)が正しくない論調は、世界じゃないってことですよね、やっぱり。
CEOセオさんによれば、100万人という数字は内需の話です。世界に直接アプローチするなら、働く人が数万人のマーケットでもアニメへの投資でよかったのかもしれない、といいます。
新素材などで自動車・衣服・食品に波及し、100万人以上に恩恵。ただし内需の視点
アニメ・漫画は働く人は少ないが、世界に直接アプローチできる
CEOセオさんの整理では、クールジャパン機構は勝てる分野より裾野の広い分野に投資してうまくいかず、選択と集中をした韓国が成功したため「そうしておけばよかった」という論調になっている、ということです。
日本6兆円と韓国2.2兆円、規模の差と影響力の差
韓国のコンテンツはすごいと言われますが、CEOセオさんによると、海外売上で見ると日本の6兆円に対して韓国はまだ2兆2000億円ほどです。日本は約3倍のマーケットを持っています。
ただし韓国は、1企業当たりのグローバル影響力が高いといいます。CEOセオさんは、韓国は集中していて二極化が進んだ結果として成功している、とも言えるのではないかと見ています。
具体例として挙がったのが、BTSやLE SSERAFIMを擁するHYBE ── BTSを育てたBig Hit Entertainmentを前身とする韓国の大手エンタメ企業。音楽レーベルに加え、ゲームやグッズなど事業を多角化していますです。HYBEはIPの360度展開を掲げ、今では音楽業界全体がその戦略を口にするようになったといいます。
スタジオドラゴンはアジア最大級のドラマ制作会社で、Netflixもかなり依存しているといいます。CEOセオさんは、Netflixの資本と国内のクリエイターで展開することが、韓国国内のクリエイター育成にもつながっていると話しています。
「内需グローバル」から「外需グローバル」へ
韓国の成功についてよく言われるのは、人口が5000万人ほどで日本の半分程度しかなく、外に出ていくしかなかったという説明です。最初から外需を狙ったことが戦略の成功につながったと言われています。
外を見るか中を見るかっていうことによって、言い方悪いけど、井の中の蛙なのか、大海原を見てビジネスするのかぐらいの話じゃないですか。
CEOセオさんは、人口が減り経済も縮小していく日本は、外を見ていかなければならない状態だと述べています。
ここでCEOセオさんが使うのが「内需グローバル」と「外需グローバル」という言葉です。内需グローバルとは、中国で作って日本で売る、海外から輸入して日本で売るなど、内需を取るためにグローバルを使うやり方です。
内需グローバルは、自国が成長している時代には有効でした。しかし状況が変わった今の日本では、日本で作って世界で売る外需グローバルが必要だといいます。
内需グローバル:海外で作る・仕入れて日本で売る。自国が成長している時代に有効
外需グローバル:日本で作って世界で売る。人口減少時代に必要
日本は外需グローバルを「やられている」側か
CEOセオさんは、日本人が海外に行って海外で仕入れ、海外で売るだけでは外需グローバルとは言えないとします。日本に還元する必要があり、日本のものを世界に売ることがこれから強く求められるといいます。
ところが今の日本は真逆の状況です。PCはApple、携帯もiPhoneと、多くの日本人が海外製品を使っています。
そうなってくると、やっぱり逆に外需グローバルをやられてるってことなんですよ、僕ら日本。
CEOセオさんは、人口減少は待ったなしであり、日本がやるべきは外需グローバルの促進だと強調します。うまく実践している例としてシンガポールの名前も挙げています。
最後にCEOセオさんは、自身が関わる日本コロンビアグループでもアニメや音楽などでAIを活用した展開を進めていると紹介しました。日本のAIクリエイターは世界で通用すると考えており、出来上がったコンテンツを世界に届けたいと改めて思った、と締めくくっています。
まとめ
クールジャパン機構の540億円損失は、幅広い投資が裏目に出た結果と見られています。ただCEOセオさんは、投資は結果論であり分散にも理があるとしたうえで、本質的な差は「最初から外需を狙うかどうか」にあると語りました。
- クールジャパン機構は累積損失540億円に達し、政府は廃止や統合を前提に検討を始めた
- 最大の損失要因はスパイバーへの140億円出資で、出資分野の広さが「バラマキ」と批判された
- 投資では「投資しなかったことが最大のミス」とも言われ、分散投資を一概に否定はできない
- 海外売上は日本6兆円・韓国2.2兆円だが、韓国は外需を狙い1企業当たりの影響力が高い
- 人口減少の日本には、日本で作って世界で売る「外需グローバル」への転換が求められる




