半年ぶりの再開と、執筆中の少子化本
人口学者の茂木良平さんは、スペインの大学で少子化を専門に研究しています。番組「茂木良平とオムニバス」では、少子化や子育て、スペインでの暮らしなどをテーマに話しています。
茂木さんの番組の更新は、2025年12月の配信と、3月に妻とスペインの育児について話した回以来、半年ほど空いていました。育休中で新生児がいて、静かな収録環境を作るのが難しかったと振り返ります。
新生児がいると、静かな環境を作るのがなかなか難しかったりとかして、っていう言い訳がですね、どんどん出てきてしまって。
その間、茂木さんは日本評論社から、少子化を一般の人にもわかりやすく解説する本を執筆していました。出版は来年の春頃になりそうだといいます。
執筆のために文献を深く読むなかで、少子化について発信できることが増えてきたと茂木さんは話します。今後はその本の内容をベースに、まず音声でまとめていく予定です。
これまでの振り返り:少子化はなぜ社会課題なのか
茂木さんは、これまでの回の内容を簡単に振り返ります。1回目のテーマは「なぜ少子化は社会課題なのか」でした。
出生数や出生率が減っても関係ない、仕方ないと考える人もいるかもしれません。それに対して茂木さんは、希望している数の子どもを持てない人が増えていることこそが問題だと説明しました。
(少子化が社会課題なのは)希望しているんだけど、希望している数の子供数を持てない人が増えている。
2回目では、結婚したくてもしていない人が増えていることを、日本の少子化の大きな要因として取り上げました。未婚の人の7割には交際相手がいないことや、4割ほどの人には交際経験や性交渉経験がないことも紹介されています。
未婚者の多くは「いつかは結婚したい」と答えています。それでも、結婚するかどうかを考える段階にもいない人が多いというのが、2回目の内容でした。今回はそこから一歩進み、結婚した後の話に移ります。
結婚した夫婦の子ども数はどう変わった?
茂木さんは、社人研 ── 国立社会保障・人口問題研究所の通称。人口や社会保障に関する調査研究を行う厚生労働省の研究機関ですが5年おきに実施している出生動向基本調査 ── 結婚や出産、夫婦の子ども数などについて全国規模で継続的に調べている調査。日本の少子化研究の基本データとしてよく使われますをもとに話を進めます。
この調査では、45〜49歳の結婚している女性が何人の子どもを持っているかがわかります。子ども2人の人は1992年の調査で58%でしたが、最近の調査では50%になりました。それでも、半分の夫婦は子どもを2人持っています。
ほかの子ども数の割合も大きく変わっています。茂木さんの紹介した数字を並べると、子ども0人と1人が増え、3人以上が減ったことがわかります。
| 子ども数 | 1992年 | 最近の調査 |
|---|---|---|
| 0人 | 4% | 10% |
| 1人 | 9% | 21% |
| 2人 | 58% | 50% |
| 3人以上 | 約30% | 18% |
茂木さんのまとめは、2人がいちばん多い点は変わらないものの、0人や1人が増え、3人以上が減ったというものです。
一方で、合計特殊出生率 ── 1人の女性が一生のうちに産む子どもの数の平均を、その年の年齢別出生率から推計した指標ですを結婚した人に限って計算すると、まだ1.8ほどあります。この数値は2022年以降、増加しているといいます。
茂木さんは、日本の少子化の大きな要因は結婚しない人が増えたことであり、結婚後に産む子どもの数はあまり変わっていないと説明します。
結婚後の出生を見る必要があるのはなぜか
結婚後の子ども数があまり変わっていないなら、結婚後の行動は見なくてよいのでしょうか。茂木さんは、そうではないと話します。
出生動向基本調査では、結婚当時の「予定子ども数」と、調査時点の「完結出生子ども数」も聞いています。実際の子ども数が予定を下回ったと答えた人は、およそ半分にのぼります。
本当はこのくらい持ちたいと思っていた数も、持てていない人が半分ぐらいいるということで、そこも支援の対象になってきますよね。
茂木さんは、政策の面からも結婚後の支援が重要だと考えています。結婚前の行動に政府や行政が支援をするのは難しい一方で、パートナーがいる夫婦が抱える「本当はこのぐらい持ちたかった」という障壁には支援しやすいからです。
分析上、結婚後の子ども数が日本の少子化に影響している割合は1〜3割ほどとされています。割合としては小さいものの、希望した数を持てない夫婦への支援は非常に重要な視点だと茂木さんは話します。
1つ目の障壁、晩婚化でなぜ子ども数が減るのか
予定や希望の子ども数を持てなくする障壁として、茂木さんは最初に3つを挙げます。晩婚化、家庭内の家事育児分担、超過労働です。
1つ目の晩婚化について、茂木さんは結婚年齢による違いを示します。25歳未満で結婚した人は平均2人以上の子どもを持っていますが、30歳以上で結婚した人は平均2人を大きく下回っています。
結婚年齢の構成も大きく変わりました。1992年の調査では25歳未満で結婚した女性が約7割いましたが、2021年の調査では25%まで減っています。この構成の変化も、結婚後の子ども数を減らす要因になっているといいます。
茂木さんは、晩婚化で子ども数が少なくなる大きな要因として、妊孕能力 ── 妊娠するための生物学的な能力のこと。妊孕性とも呼ばれ、年齢とともに低下することが知られていますが年齢とともに下がることを挙げます。これは女性に限らず、男性も精子の質などが関係してきます。
具体的な数字として、妊娠を希望してから1年以内に妊娠する割合が紹介されました。年齢が上がるほど、その割合は下がっていきます。
30代後半になると、半分の人は妊娠を希望してから1年以内に妊娠できないことになります。茂木さんは、これが晩婚化によって子ども数が変わる大きな要因だと考えられると話しています。
2つ目の障壁、家事育児分担はどれだけ女性に偏っているか
2つ目の障壁は、家庭内の家事育児分担です。茂木さんは、生活時間調査をもとに、6歳未満の子どもがいる家庭の家事関連時間を紹介します。
生活時間調査によると、1日あたりの家事関連時間は、男性が約2時間、女性が7時間半です。女性の負担は男性の3倍以上で、家事育児の分担が大きく女性に偏っています。
茂木さんが担当した佐賀市と福井県の調査では、理想の家事育児分担も聞いています。男女ともに5割以上の人が、理想は5対5だと答えていました。
(男性2時間・女性7時間半という差は)別になんかどっちかが希望してそうなっているわけではなくて、本当は半々にしたいんだけど。
佐賀と福井の調査で、実際に5対5を実現している家庭は15%ほどでした。残りの8割ほどの家庭では、女性に負担が集中しています。
理想:男女ともに5割以上が「5対5」を望んでいる
現実:5対5を実現している家庭は約15%。8割ほどの家庭で女性に負担が集中
3つ目の障壁、男性の超過労働の実態
家事育児分担が女性に偏る大きな要因として、茂木さんは男性の超過労働を挙げます。ここでも佐賀と福井の調査が使われています。
佐賀と福井の調査では、子どもがいる男性の25%、つまり4人に1人が平均して週6〜7日勤務しています。1日8時間を超えて働いている男性も半分以上います。
1日8時間を超えて働く男性の割合は、子どもありで6割、子どもなしで45%でした。子どもがいる男性のほうが、いない男性よりも長く働いているという結果です。
夜8時以降に帰宅している人は、男性が女性の2倍いました。月1回以上飲み会に行く人も、男性が6割、女性が3割強です。通勤時間も加えると、男性の超過労働がさまざまな面から見えてきます。
茂木さんは、日本とスペインの子どもの就寝時間の違いにも触れます。スペインでは子どもでも夜10時や11時まで起きていることがあり、夕食も9時頃なので、8時以降に帰宅してもまだできることがあるといいます。
今うちの娘5歳なんですけど、普通に友達とかでも10時とか11時とかまで起きてるみたいな人たちも多いんで。
一方、日本では子どもを9時か8時半頃に寝かせる家庭が多いのではないかと茂木さんは推測します。その場合、8時以降に帰宅すると、ギリギリお風呂に入れて寝かしつけができるかどうかで、できる家事育児がほとんどないといいます。
共働きの家庭に重なる負担と、使えない両立制度
茂木さんは、共働き世帯が専業主婦世帯の倍以上になっていることも指摘します。共働き世帯は1300万世帯、専業主婦世帯は500万世帯です。
共働き家庭の女性は、同じように働きながら、さらに家事育児も多く担っています。茂木さんは、この負担の大きさから「もう1人はちょっと無理かな」と考える人が多いのではないかと話しています。
こんな大変だったらもう1人ちょっと無理かなっていう人が多いという感じですかね。
男性の働き方では、両立のための制度を使いたくても使えていない実態があります。短時間勤務制度を利用した経験のある男性は8%ほどですが、利用を希望する人は20%以上います。残業免除制度も、利用を希望する人が2割以上いました。
育休を取得しなかった男性の2割ほどは、本当は利用したかったものの、職場の雰囲気や上司の理解不足が理由で利用できなかったと答えています。
茂木さんは、男性も働きたいから、あるいは家に帰りたくないから職場にいる人ばかりではないと話します。本当は家事育児を5対5にしたくても、働かなければならない理由があるという見方です。
日本の働き方は「悪の根源」なのか
茂木さんは今後、超過労働に焦点を当てて研究していきたいと考えています。日本の働き方は少子化だけでなく、さまざまな問題に関わっているのではないかという問題意識からです。
茂木さんが調べたところでは、最近は超過労働について研究があまり行われていないといいます。なぜ超過労働をしているのか、誰が超過労働をしているのかといった基本的なこともあまりわかっていないそうです。
茂木さんは、超過労働の実態をさまざまなチームで深掘りしていきたいと話しています。
4つ目の障壁、「経済的要因」は何を意味するのか
茂木さんは最初に障壁を3つと説明していましたが、もう1つ、ほかの要因すべてに関わる経済的要因があると付け加えます。メディアでも、少子化や夫婦が希望の子ども数を持てない理由として、経済的要因がよく挙げられています。
出生動向基本調査でも、理想の子ども数を持たない理由として、半分以上の人が「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」と答えています。
茂木さんは、個人の感想も入っていると断ったうえで、経済的要因の大きさに疑問があると話します。「経済的要因」が何を意味しているのかが、はっきりしないからです。
茂木さんは、同じ「経済的要因」でも、いくつかの異なる意味が考えられると具体例を挙げます。困窮の度合いから、子どもに与えたい生活水準までの幅があるという整理です。
ゴージャスな感じで、いや、うちなんかどうせ子供なら留学させてあげたくてとか、塾に行かせたくてとか。
理想3人・予定2人の夫婦が経済的理由を挙げるのはなぜか
経済的要因の意味を考える手がかりとして、茂木さんは、理想子ども数と予定子ども数の組み合わせごとに、経済的理由を挙げた人の割合を紹介します。
理想が3人で予定が2人以上の人では、6割以上が「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」と答えています。一方、理想が1人以上で予定が0人の人では、この理由を挙げる割合が本当に少なくなります。
0人から1人に進めない場合は、日常生活に困るタイプの経済的要因もあり得ると茂木さんは考えています。しかし、2人持っていて3人目を望む人の場合は、日常生活の苦しさとは別の要素が関わっているのではないかと話します。
6割以上が「子育てや教育にお金がかかりすぎる」と回答。日常の困窮とは別の要素が関わっている可能性がある
この理由を挙げる人の割合は本当に少ない。困窮タイプの経済的要因もあり得る
仮説としての「子育てインフレ」
茂木さんは、経済的要因を説明する仮説として、論文で「子育てインフレ」という考え方を提案しようとしています。
子育てに必要なお金は、もともと決まっているわけではありません。茂木さんは、自分たちで、あるいは社会的な期待によって、子育てにかかるお金や子育ての水準がどんどん上がっているのではないかと考えています。
(子育てにかかるお金に)上乗せして、塾も行かせなきゃいけないとか、英語は早めに習わせなきゃいけないとか、運動させなきゃいけないとかで。
茂木さんは、子ども1人を育てるのにかかる基本的なお金は試算できるものの、そこに上乗せする分が多すぎるのではないかと考えています。そうした子育てインフレが、経済的要因の回答に顕著に表れているのではないかという見立てです。
まとめと、今後の番組で話したいこと
茂木さんは最後に今回の内容をまとめます。研究上は、結婚しない人が増えていることが日本の少子化の7〜9割の要因で、結婚後の行動は残りの1〜3割とされています。
結婚した人に限った合計特殊出生率は1.8ほどで、少し上がってもいます。それでも、結婚当時に予定していた子ども数を実現できなかった人は半分以上いて、大事な要素がまだたくさんあると茂木さんは話します。
茂木さんは今後、できれば毎週1本以上のペースで配信したいと話しています。執筆中の少子化に関する本の内容や、本には載せられなかった重要なこと、執筆中に気づいたことを紹介していく予定です。
少子化の話を終えたら、スペインの子育ての話や、恋愛を研究する専門家、マッチングアプリの会社の人、行政の人へのインタビューもしてみたいと茂木さんは話しています。
まとめ
結婚後の夫婦の子ども数は大きく減っていない一方で、予定した子ども数を実現できない夫婦は約半分います。茂木さんは、その背景として晩婚化、女性に偏った家事育児分担、男性の超過労働、経済的要因の4つを挙げ、経済的要因については「子育てインフレ」という仮説も示しました。
- 結婚後の要因は日本の少子化の1〜3割とされるが、予定子ども数を実現できない夫婦が約半分いるため、支援の対象として重要
- 晩婚化により、年齢とともに妊娠のしやすさが下がる。30代後半では1年以内に妊娠する人が50%未満になる
- 家事関連時間は男性約2時間、女性7時間半。理想は5対5でも、実現している家庭は約15%にとどまる
- 子どもがいる男性ほど長く働く傾向があり、両立制度を使いたくても使えない実態がある
- 経済的要因の中身は曖昧で、茂木さんは子育ての水準が膨らむ「子育てインフレ」の可能性を指摘している






