インフレでもっとお金が必要、は本当に大きい話か
インフレが進むと、教育資金などでもっとお金が必要になる。だからこそ運用すべきだ、という意見は多く聞かれます。
これに対し、井上さんは違う見方を示します。インフレで失われる部分は、みんなが煽るほど大きくないのではないか、という立場です。
理由として井上さんが挙げるのは、増える側の金利も同じように上がっているという事実です。インフレだけを取り上げて、手元資金の金利上昇を無視するのは公平ではない、と話します。
なんか金利も上がってる部分無視するの卑怯じゃない?って思うんですよね。
なぜ短期の資金は運用が向かないのか
井上さんはまず、長期投資をなぜ勧めるのかを整理します。セミナーでよく話すのは、「投資しててよかったと思える確率を高くするため」だという説明です。
統計的には、20年ほど運用しないと実質リターンはプラスになりづらいといいます。井上さんはニック・マジュリー ── 『JustKeepBuying』などの著書で知られる投資関連の書き手。データに基づいた資産形成の考え方を紹介している。の『JustKeepBuying』の図を使って説明していると話します。
その図では、1910年から2010年までの110年間を10年スパンで区切った11個のシナリオのうち、3回が実質リターンマイナスでした。確率にすると約27%です。
つまり10年のスパンでは、投資しなかった方が良かったという結果が一定の割合で起こりうる、ということになります。
一方で運用期間が延びると、様子は変わってきます。井上さんは過去のデータをもとに、期間ごとの傾向をこう整理します。
この整理から、井上さんが難しいと感じるのは、5年から10年程度のお金の置き場所だと話します。株高が続くなか「何でも株でいい」という空気があるものの、そこには慎重です。
絶対に必要なお金は「下振れ」のダメージが大きい
井上さんは、必要な金額と時期が決まっているお金の性質に注目します。たとえば5年後に200万円が必要だと決まっている場合を例に挙げます。
このとき、150万円しか準備できなくても笑っていられる人なら、株を買えばいいといいます。しかし多くの人はそうではありません。
200万を準備する時に200万切るのはきついよ。
井上さんは車の買い替えを例に、上振れと下振れの非対称性を説明します。200万円の予算で220万円用意できればオプションを増やせますが、200万円を切れば不足分をどこかから捻出しなければなりません。
絶対に必要なお金は、損する側のダメージの方が大きい。だからこそダウンサイドのリスクを限定する方がよい、というのが井上さんの考えです。
この考え方から、井上さんは5年、10年程度の資金は運用しない方に立ちます。投資すれば増えるかもしれないと理解した上で、資金の属性を考えるとやらなくていいのではないか、という結論です。
金利も上がっている、を数字で確かめる
井上さんは、インフレの影響を数字で具体的に検証します。5年後に、今日の200万円相当の車を買い替える想定です。
インフレ率を2%とすると、今日200万円で買えるものは、5年後には複利で約221万円になります。1割ほど値上がりする計算です。
もし手元の資金がインフレと同じ2%で回れば、実質金利はゼロです。200万円を60か月で割ると、毎月の積立額は約3万5024円になります。
一方、まったく金利がつかず、実質金利がマイナス2%になる場合を考えます。タンス預金のように0%で準備すると、毎月の積立額は約3万6800円です。
インフレに負ける分だけ、月の積立が約1800円多くなります。運用しなかった分だけ多くお金が必要になるのは事実です。
ただし現実には、選べる利回りがあります。井上さんは個人向け国債 ── 国が個人向けに発行する国債。満期まで持てば元本と利息が受け取れる、リスクの低い金融商品。固定5年・変動10年などの種類がある。の固定5年を例に挙げます。
9月3日時点の資料では、固定5年の利率は2.24%でした。税引き後で約1.8%つく環境だといいます。
セミナー用のスライドでは、変動10年で1.5%と仮定していました。この場合、インフレに0.5%だけ負ける前提です。
すると、実質金利プラスマイナスゼロの時と比べて、追加で必要な積立額は月にわずか439円でした。
インフレ負けの分、月の積立が約1800円多く必要になる
追加で必要なのは月わずか439円ほど
一ヶ月439円を、ちょっと多めに出せば、ほぼ確実に五年後に車の買い替えができるお金は準備ができる。
井上さんは、この439円をどう評価するかは人によると話します。運用すればうまくいって250万円になるかもしれませんが、200万円になれば20万円を持ち出すことになります。
その持ち出しを避けて確実に準備できるなら、月439円を多めに出す方が楽だと考える人もいる、という見立てです。
教育資金でも不足額は月700円台
井上さんは、教育資金でも同じ計算が当てはまると続けます。15年後に300万円必要だと仮定するケースです。
インフレ率2%を15年かけると、今日の300万円は15年後に約404万円になります。差額の104万円分だけ、お金の価値が下がる形です。
この場合も、1.5%の金利がつく商品でインフレに0.5%だけ負けるとすると、実質金利ゼロと比べた毎月の不足額は763円でした。
井上さんは、これを「インフレでもっとお金が」と言うほど大きな金額とは感じないと話します。
もちろん、運用で実質金利がプラス1%や2%つけば、毎月の積立額は3〜4千円減ります。しかしそれはリスクを取った結果にすぎない、と釘を刺します。
個人向け国債は、満期が来ればお金が返ってくるリスクフリーに近いものです。それに上乗せしたリスクを取るからこそ、リターンとダウンサイドの両方を引き受けることになります。
インフレを言うなら手元資金もゼロ前提にしないこと
井上さんは、遠い未来の老後資金は極力運用した方がいいとしつつ、5年、10年の資金は別だと考えています。自分なら余裕で運用しない、と話します。
セミナーでは「インフレを考慮していない」と指摘されることが多いといいます。しかし井上さんは、期待リターン5%という思考実験を実質リターンと解釈すればいいだけだ、と反論します。
その上で井上さんが問い返すのは、なぜ手元側の資金を0%前提で考えるのか、という点です。
その「インフレが」って言うけど、なんで手元側の資金をゼロパーセントの前提なの?みたいな。
リスクフリーで運用できるものと比べて何%マイナスかだけの話であり、反対側の資金を0%と置かなければ、そこまで壊滅的な差にはならない、というのが井上さんの主張です。
だからこそ、インフレを理由に何でも運用する前に、金利も上がっている事実を含めて冷静に考えたいと井上さんは締めくくります。
雑談:自分で考える力と、仮説を出せる場所
本編の前に、井上さんは先週の配信へのコメントに触れながら雑談を広げます。テーマは「自分で考えること」の難しさです。
井上さんは、AIやSNSの影響で、自分で考える力が年々弱くなっていると感じると話します。周りがどう言っているかに流されやすくなっている、という実感です。
井上さんはエリック・ホッファー ── 20世紀アメリカの社会哲学者。独学の思想家として知られ、大衆や群衆心理について論じた著作がある。の言葉を引き、人は自分より他人を信用してしまう、と紹介します。他人の評価を気にするのは自信のなさの表れだ、という趣旨です。
人と同じことをやるのは認知負荷が少なく、楽だといいます。それでも、自分の目的から導き出される選択をすべきだ、というのが井上さんの立場です。
さらに井上さんは、AIに何でも聞くと、生の仮説を世に出しにくくなると懸念を示します。面白そうなアイデアをAIに投げると、根拠がないと否定され、世に出ない仮説が増える気がする、という話です。
飲み屋で新しいアイデアとか面白いことが思いつくのは、そういうのが出てるからだと僕は思うんですね。
だからこそ、中途半端なアイデアも話せる場が大切だと井上さんは話します。プレミアム放送は、そうした仮説を自由に出せる場所として気に入っていると語ります。
AIが自動で記事化してくれる仕組みについて
雑談の中で、井上さんは自身の配信の仕組みにも触れます。Spotifyをハブに、YouTubeやApple Podcastなど複数の場所で配信していると話します。
そのうちの1つとして、井上さんは配信すると自動で文字起こしして記事を作ってくれる仕組みを使っていると紹介します。AIが自動でやってくれるため、毎回はチェックしていないそうです。
井上さんが感心しているのは、指示をしていないのに雑談部分は入らず、本編だけをきちんと記事化してくれる点です。一方で、下手なことを言えないなという緊張感もあると笑って話します。
道楽で働くことと、ゆっくりお金持ちになる美学
井上さんは、リスナーのコメントを受けて「働かなくてよくても道楽で働く」ことの難しさにも触れます。
井上さんが感じるのは、必要に迫られなくなると、やりがいを感じない仕事ができなくなる難しさです。1億円ほど持っていたら、今のモチベーションではできなくなる仕事が増える気がする、と率直に語ります。
子どもの頃は嬉しかったものが、お金が入るとありがたく感じなくなる。そうした変化を踏まえ、井上さんはゆっくりお金持ちになることに美学を感じると話します。
その上で、自分が仕事を嫌いにならない程度に財産を持つことは良いことだと井上さんは言います。これをFUCK YOU MONEY ── ナシーム・ニコラス・タレブらが用いた表現。嫌なことを断れるだけの経済的な余裕を指す。と呼んでいたのがナシーム・ニコラス・タレブ ── 『ブラック・スワン』などで知られる思想家・元トレーダー。不確実性やリスクについて論じている。だ、と紹介します。
まとめ
井上ヨウスケさんは、インフレを理由に短期資金や教育資金を運用する必要性を、金利上昇まで含めて冷静に検討しました。手元資金を0%前提にしなければ、不足額は月数百円程度に収まるという試算が印象的です。
- インフレで必要額は増えるが、増やす側の金利も上がっており、その事実を無視するのは公平ではない
- 絶対に必要なお金は下振れのダメージが大きく、ダウンサイドを限定する方が向いている
- 個人向け国債などで準備すると、インフレに負ける分の追加積立は5年200万円で月439円、15年300万円で月763円程度
- 遠い老後資金は運用向きだが、5年・10年の資金まで無理に運用する必要はないというのが井上さんの立場
- 自分で考えること、生の仮説を出せる場を持つことの大切さも、雑談として語られた




