YouTubeに届いた「牛乳ってなぜ飲むの?」という質問
この日の配信は、YouTubeのショート動画についたコメントがきっかけでした。AI同士がポッドキャストを配信できる機能を使って酪農の課題を語らせた動画が、6000回ほど再生されたそうです。
そこに寄せられたのが、韓国のリスナーと思われるミオさんからの質問でした。
なぜ人間は牛乳を飲むんですか?元々は牛が飲むものなのに…
川上さんはこの問いを「ちょっと鋭い問い」と受け止めます。子牛が飲むものを人間が飲むのはおかしい、という感覚があるのもわかる、と話します。
人間が牛乳を飲み始めた歴史から知ると、ちょっとわかりやすくなってくるんじゃないかなと思いまして
牛乳はもともと誰のためのもの?
まず川上さんは、牛乳本来の役割から整理していきます。牛乳は、母牛が子牛の成長のために出すもの。牛にとっては、子牛が育つために必要な栄養そのものです。
ここから先が、人間ならではの特徴だと川上さんは言います。人間はこの牛乳を、自分たちの食文化に取り入れていきました。
1万年前から始まった、人とミルクの付き合い
その歴史はとても古く、古くは1万年近く前からと言われています。中東やヨーロッパの一部で、牛やヤギが家畜として飼われ始めた時代です。
当時は冷蔵庫がないので、搾った乳はすぐに腐ってしまいます。そこで人類は知恵を絞って、チーズやヨーグルトに加工し、保存しやすくしてきました。
牛乳を飲めない人が多い?乳糖不耐症と進化の話
実は、牛乳をそのまま飲める人は世界では限られています。とくにアジア人の多くは、牛乳を飲むとお腹がゴロゴロしてしまう体質だと言われます。
一方で、牛乳を飲む習慣をずっと持ってきた欧米や北欧の人たちには、大人になっても牛乳を分解できる酵素を持つ人が増えていきました。
この消化酵素にかかわる遺伝子の変異は、進化のプロセスで定着したものだと言われています。牛乳を飲む文化が、体そのものを少しずつ変えてきたというわけですね。
そして現代では、牛乳はカルシウムやタンパク質、ビタミンB2などを含む手軽な健康食品になりました。昔はお薬や滋養強壮のものとして日本に入ってきた時代もありましたが、今では成長期の子どもから高齢者の骨粗しょう症予防まで、幅広く役立つ食品として定着しています。
「奪う」から「分けてもらう」へ変わった酪農
ここで川上さんは、最初の質問に立ち返ります。子牛のものなのに、なぜ人間が飲むのか。動物がかわいそう、という倫理的な視点で見る人もいるかもしれません。
たしかに最初は「奪っていた」のかもしれない、と川上さんは正直に認めます。でも、そこからが酪農のすごいところだと言います。
これを技術革新とか品種改良とかで、余るぐらい出る牛たちを作っていったんですよね
今の牛は、1日に30リットル、多いと60リットルほどのお乳を出します。一方で、子牛が1日に飲む量はせいぜい10リットルほど。残りの20リットルは余ってしまうので、それを人間がいただいている、という構図です。
1日およそ10リットル
1日30リットル、多いと60リットルほど
だから今の酪農は、奪うのではなく、分けてもらっているという感覚に近いと川上さんは話します。
そもそも人間専用の食べ物ってあるの?
ここからは、川上さん個人の意見です。そもそも「人間専用の食べ物」って何だろう、という問いかけから話が広がります。
ウサギや馬は人参、キリンも人参、といったイメージはあるけれど、人間の食べ物と言われると、お肉や野菜など人によってバラバラですよね。人類は増えていくなかで、お腹を満たすためにいろんなものを食べてきました。
そのうえで、牛乳はまず単純においしいと川上さんは言います。おいしくて健康にもいいものなら、みんなに飲んでもらいたくなる。そういう気持ちからスタートしているのだ、と。
自分だけ飲んでて美味しい美味しいと思ってたら、隣の人がすごい欲しそうにしてたらあげたくなりません?
昔の人から見れば、いつでも牛乳が飲める今は「マジで羨ましい」と思うような世界かもしれない。川上さんは、そんな歴史の積み重ねの上に今があると考えています。
感謝して味わうことが、いちばん大事
牛乳や乳製品は、アイスクリームやケーキなど、あらゆる食品に使われています。それを当たり前とせず、感謝の気持ちを持って「おいしいな」と思って食べてもらえたら一番いい、と川上さんは話します。
もちろん、お腹がゴロゴロして下痢してしまう人は、無理せず避けてもらってかまいません。大事なのは、自分だけでなく、一緒にご飯を食べる周りの人も含めて、おいしく楽しく続けられることです。
最後に川上さんは、自身の生い立ちにも触れます。兄弟が多く、ご飯が少なくて晩ご飯が待ち遠しかったこと、農業をやっているからこそ、食べられないことのつらさもわかること。
今も世界には、食料がなくてお腹をすかせている人や子どもがいます。人口が80億人を超え、さらに増えていくなかで、世界中の誰もが当たり前に牛乳を飲める環境を作りたい。だからこそ、もっと品質のいい牛乳を生産していきたい、と川上さんは締めくくります。
生のものを食べられるのは本当に贅沢なんですね。冷蔵技術もですし、加工技術もですし、めちゃめちゃありがたい環境だと思います
まとめ
「なぜ人は牛乳を飲むのか」という素朴な問いを入り口に、進化と文化の1万年の歴史をたどった回でした。奪うのではなく分けてもらう、という感覚と、食への感謝が繰り返し語られています。
- 牛乳はもともと母牛が子牛のために出すもので、人類は約1万年前からそれを食文化に取り入れてきた
- アジア人には乳糖不耐症の人が多く、牛乳を飲める体質は進化のプロセスで定着したものと言われる
- 品種改良で牛が余るほどの乳を出すようになり、今は「奪う」より「分けてもらう」構図に近い
- 当たり前とせず、感謝して自分も周りもおいしく楽しめることが一番大切だと川上さんは話す




