久しぶりの搾乳蹄削りと、今日答える質問
この日は5月8日の木曜日。晴れて最高気温は23度と、過ごしやすい1日になりそうな朝からスタートします。
ただ、朝晩の気温差が4度ほどしかなく、子牛の調子が少し微妙なところもあったそう。夜はヒーターをつけつつ、昼間は換気扇を軽く回す、そんな管理をしている時期です。
この日の仕事は、久しぶりに搾乳師さんに牛の蹄を削ってもらう蹄削り ── 牛の伸びすぎた蹄を削って整えること。蹄の状態は歩行や乳量にも影響するため、定期的なケアが欠かせない作業とされるの対応。午前中はそれで潰れそうなので、午後から打ち合わせに出かける予定だと話されています。
そして今日の配信では、リスナーから届いた質問に答えていきます。牛乳の値上げが続くけれど、消費が落ちたらどうなるのか、また同じことの繰り返しになるんじゃないか。そんな問いにまっすぐ答える回です。
「堂々巡りじゃないですか」熱量をくださいという質問
お便りコーナーで取り上げたのは、配信アプリ「Spoon」に届いたエンドさんからの質問です。
酪農業界、堂々巡りじゃないですか。このまま行った先の未来と、どうすればその未来が変わるのか。そして今、酪農家さんが本音で思っていることが知りたいです。熱量をください。
川上さんも「めちゃめちゃ真剣な質問が来てますね」と受け止めます。
コロナの前からずっと牛乳を飲んで応援してくれている人がいるのに、餌代は上がり、酪農家は1万軒を切ったというニュースが流れる。何も変わらないじゃないか、という消費者の思いは、その通りだと川上さんは言います。
毎日牛乳を飲んでくださいとお願いしています。3年ぐらいずっと引き続き応援してくれているのに、全然何も変わらないじゃんって。それはその通りですよね。
今年、牛乳も乳製品もまた値上がりする
まず前提として、今年は牛乳・乳製品の値段が上がっていく年です。
6月には加工牛乳価、つまりチーズなどの加工向けに使われる牛乳の値段が上がり、8月にはそのまま飲む飲用向けの牛乳の値段も上がります。
バターもチーズもヨーグルトも、乳製品全般が値上がりします。物価高でお米も高いと言われる中、牛乳・乳製品は本当にいろんなものに使われているため、影響は広い範囲に及びます。
食品の裏の表示に「脱脂粉乳」や「練乳」と書かれているものも含めて、値上がりしていくことになります。
3年前の悪夢は繰り返されるのか
川上さんは、値上げの先に待っている状況にこそ危機感を持っています。
コロナの前、牛乳が足りないということで酪農家がどんどん規模を拡大し、やっと生産量が増えてきた。そのタイミングでコロナが来たのだと振り返ります。
学校給食が止まり、飲食店も閉業して、牛乳の行き先がなくなった。余った牛乳を脱脂粉乳にしても倉庫はパンパンになり、牛乳を捨てなきゃいけないんじゃないかというところまで追い込まれました。
酪農家全体がお金を出して脱脂粉乳の処理をし、国の支援や、年末には総理直々に牛乳を飲んでほしいという流れもあって、令和7年の今、ようやく積み上がりが解消されて値上げできる状況になってきた、という経緯です。
ただ、値上げをすればどうなるか。やはり買い控えが起きます。牛乳をやめて安い乳飲料に手が出たり、さらには牛乳売り場の横に並ぶ豆乳やオーツミルクといった代替乳に流れていったりします。
このままいくと、また年末に牛乳が余って「飲んでください」とお願いする、3年前と同じことになるんじゃないか。川上さんはそう心配しています。
しかも、牛乳が余ったときにどうするかという出口の戦略は、まだできていないのが現状だといいます。
この出口の戦略、牛乳が余った際に今度どうするんだみたいな話は、まだできてないですね。これを消費者さんに理解して牛乳飲んでくださいっていうのは、普通に考えて難しいんじゃないかなと思います。
根本にあるのは「60年前の制度」
なぜこんなことが続くのか。川上さんは本音として、制度が古いことを挙げます。
本当に本音で言うと、酪農業界からめちゃめちゃ叩かれるかもしれないですけど、もう制度が古いんですよね。
今の制度は60年ほど前に作られたものをずっと使っていて、市場も人口も社会の構造も全く違うのに、昔ながらのシステムを変えずにやっている。それが一番の問題だと指摘します。
そしてこの構造の中で、酪農家の団体自体も変わっていないのが現状だといいます。
若い声が届かない「生乳販売委員会」
川上さん自身も、島根の生乳販売委員会に出席しています。
そこで発言しているのは年配の方ばかりで、若い人の意見が取り入れられていないと感じているそうです。向こうからすれば「若い人がしゃべらないから」という話なのかもしれない、とも補足しています。
県の乳価や交渉を左右するとても大事な会議なのに、若い人がほとんどいない。これはおそらくどの都府県も同じで、構造が変わっていない証拠なのかなと話されています。
では、どうすれば変われるのか。組織を変えるのは難しい、と川上さんは正直に認めます。身近な会社でも「なんで今どきこんなことを?」ということがあるように、同じことが酪農業界でも起きているのだといいます。
たとえば会議のやり方。AIやZoomがあるのに毎回集まり、事前に資料を送れば済むのに会議が報告から始まる。そのために酪農家を何度も集めれば、本来生産に向き合える時間を奪うことになります。
その度に酪農家を集めることによって、生産に向き合える時間を奪い取ってるって感覚が全くないんです。もう古いんです。
自分たちのおかしなところを変えないまま、牛乳が余れば消費者に「飲んでください」、大変になれば国に「助けてください」と言う。まず自分たちでなんとかすべきだ、という思いが川上さんにはあります。だからこそ消費者に理解されないんじゃないか、と考えています。
牛が牛乳を出す価値が薄れる時代に
さらに川上さんは、より長い時間軸での変化にも目を向けます。
人口が減り、団塊の世代が減っていく中で、牛乳の消費は今、年配の方に支えられている面が大きい。若い人はほとんど飲まず、小中学校では飲んでいた子も高校になると飲まなくなる、というアンケート結果も多いといいます。
この先、代替乳はどんどん増えていきます。海外では細胞性農業 ── 動物そのものではなく、細胞や微生物などを培養して食品をつくる技術。牛を介さずに牛乳やタンパク質を得る研究が進められているも進み、植物から牛乳と同じカゼインを取ったり、酵母を使って牛乳をつくったりする技術も出てきています。
数年もすれば、牛が牛乳を出すという存在価値そのものが薄れていくかもしれない。技術革新は避けられない、と川上さんは見ています。
この状況の中でどうやって酪農していくのか、どうやったら皆さんが継続的に牛乳を飲めるのかっていうのを、本当に考えて議論して変えていかないと、マジでやばいと思ってます。
変えるために、一歩を踏み出してほしい
それでも川上さんは、あきらめてはいません。そんな簡単には変わらないけれど、今までにないことをどんどんやっていこうと思っている、と語ります。
おかしいと思うところがあれば、直接でもコメントでもDMでも伝えてほしい。やれることをやっていくから、応援や協力もしてほしい、という呼びかけです。
そして最後に、リスナーへ具体的な行動も促します。乳価は各都道府県の生乳販売委員会でまず話し合われ、地区別、全国へと決まっていきます。
だからこそ、自分の都道府県の委員会がどういう組織なのかを理解して、変えなきゃいけないと思うなら、そういう場に出ていかないとダメだといいます。
もう変えなきゃいけないと思うんだったら、そういうところに出ていかないとダメですよ。どんどん出てってください。じゃないと変わらないので。
配信の締めくくりでは、乳飲料を飲んで申し訳ないというコメントにも「飲んでくれてるだけでもありがたい」と応じつつ、それが代替乳に置き換わっていくと困る、と本音をのぞかせていました。
まとめ
「毎日牛乳を飲んでいるのに何も変わらない」という問いに、川上さんは値上げの構図から60年前の制度、そして牛乳そのものの価値が問われる未来までを本音で語りました。変えるには、業界の外にいる人にも理解を広げ、当事者が場に出ていくことが必要だと訴える回です。
- 今年は6月・8月と牛乳・乳製品が値上がりし、買い控えや代替乳への流出が心配されている
- 牛乳が余ったときの出口戦略はまだできておらず、3年前と同じ繰り返しになる懸念がある
- 根本には60年前の制度と、若い声が届かない酪農団体という構造問題がある
- 代替乳や細胞性農業の進展で、牛が牛乳を出す価値そのものが問われる時代が近づいている
- 変えるには、消費者への理解を広げ、当事者が生乳販売委員会などの場に出ていくことが欠かせない


