夏に起きる需要と供給のすれ違い
昨日は酪農家が集まる会議があり、みんな「牛が餌を食わない」と嘆いていたと川上さんは話します。
暑さで牛の調子が落ち、夏場の生産量が心配される状況です。
一方で、暑い時期は水分補給として牛乳の消費が伸びやすいと言われています。
つまり、人が牛乳を欲しがる夏に生産量が伸びず、牛乳が旬になる冬には飲む人が少なくなる、というギャップがあるわけです。
このズレを埋める可能性として、代替牛乳という選択肢が出てくる、と川上さんは今回のテーマにつなげます。
今日の質問と、話題になった北海道のクラウドファンディング
質問はYouTubeネームのメープルさんから届きました。
北海道の酪農家さんが国産オーツミルクを作るクラウドファンディングを始めたらしいですが、川上さんは国産オーツミルクの生産は必要だと考えていますか?暑い夏の時期は牛乳が足りない地域もあるらしいですし、将来は植物性代替ミルクは必要になってくるんでしょうか?
この話題は酪農業界のSNSでも取り上げられ、賛否両論だったと川上さんは言います。どちらかというと否定的な声が多かったそうです。
話題になったのは、合同会社ナーリッシュ{要確認: ナーリッシュ}のプロジェクトだそうです。
公開されているクラウドファンディングの説明によると、北海道の東洋富町{要確認: 東洋富町}の酪農家が栽培するオーツ麦を買い取り、国産オーツミルクとして加工販売する仕組みを目指しているとのことです。
輸入品でも、海外産オーツ麦を国内で加工するだけでもなく、原料の生産から加工まで国内で完結させようという計画がポイントだと川上さんは指摘します。
オーツミルクとは、オーツ麦(燕麦)を原料にした植物性飲料です。乳成分を含まず、コーヒーや料理にも使われますが、牛乳とは栄養構成が異なります。
輸入依存を別の食品で繰り返さないために
今、日本で売られているオーツミルクには海外産の原料や海外製品も多くあります。
それ自体が悪いわけではありませんが、原料をすべて海外に頼れば、酪農がすでに抱えている輸入飼料依存と似た問題を別の食品で繰り返しかねません。
円安、国際輸送費、原油代の上昇、海外の不作や気候変動、戦争や輸出規制。こうした影響を受けやすい構造は、輸入頼みでは牛乳と変わらない、と川上さんは説明します。
一番大事なのはオーツ麦を日本で作る仕組みを育てること。ここに意味があるかなと思います。
牛乳とオーツミルクは別物、という結論
川上さんの結論は、国産オーツミルクの生産基盤はあった方がいい、というものです。
ただし、牛乳を全部オーツミルクに置き換えるべきだとは思わない、とも話します。
両者は栄養も役割も違う別物で、「オレンジジュースとコーラぐらい違う」と表現しています。
牛乳、豆乳、オーツミルク、アーモンドミルクなど、特徴の違う飲み物が複数あることは、消費者にとっても食料供給にとっても強い、と考えられています。
一つの供給源に依存していると、そこで問題が起きたとき全体が止まってしまうからです。
飼料設計と同じで、一つに依存するのは弱く、多様であることが強みになる、という考え方です。
夏の牛乳不足を「解決」できるのか
質問にあった「夏に牛乳が足りない地域もある」という点は、丁寧に説明した方がいいと川上さんは言います。
全国で毎年必ず完全に不足するという単純な話ではありません。
ただ、乳牛が暑さに弱いのは事実で、気温と湿度が上がると牛は体内の熱を逃しにくくなり、餌を食べる量が減って乳量が下がります。
乳牛の暑熱ストレスとは、高温多湿の環境で牛が受ける負担のことです。採食量の低下や乳量減少、繁殖成績や健康への影響につながるとされます。
一方で人間側は、暑くなると飲用牛乳やアイス、冷たい乳製品を欲しがりやすくなります。
つまり夏は、牛は暑さで生産しにくく、人は暑さで欲しくなる。需要と供給が反対方向に動く可能性があるわけです。
とはいえ、オーツミルクを作れば牛乳不足がすべて解決するとまでは言えません。十分な量を生産し、保管、流通させ、消費者が実際に選ぶところまで仕組みが必要だからです。
オーツミルクは魔法の解決策ではありません。でも、保存可能な穀物を原料に、需要に応じて製造量を調整できるため、生き物の体調だけに依存しない供給源としては意味があるかなと思います。
牛乳の代用品というより、夏場や災害時の供給を支える「もう1本の柱」になれる可能性がある、という位置づけです。
栄養は同じではない、ラベルを見て選ぶ
見た目は似ていても、栄養的には別の食品だと川上さんは強調します。
牛乳はもともと子牛を育てるために母牛が作るもので、良質なタンパク質、カルシウム、脂質、ビタミンなどを含みます。
一般的な牛乳には100mlあたり約3g以上のタンパク質があります。
一方、一般的なオーツミルクは製品差があるものの、タンパク質が牛乳よりかなり少ないものが多く、その代わりオーツ麦由来の炭水化物や、製品によっては食物繊維を含みます。
母牛が子牛のために作るもの。良質なタンパク質、カルシウム、脂質、ビタミンを含む。100mlあたり約3g以上のタンパク質。
オーツ麦由来の炭水化物や食物繊維を含む穀物飲料。タンパク質は牛乳より少なめ。乳糖を含まない。
カルシウムやビタミンD、B12を加えた商品もありますが、これは製品ごとに違います。
そのため、牛乳をやめて同じ量のオーツミルクに変えれば栄養もそのまま、とは限りません。
特に成長期の子ども、高齢者、食事量が少ない方が置き換える場合は、タンパク質やカルシウムが足りているか確認する必要があります。
選ぶときは、パッケージのタンパク質、カルシウム、糖類、脂質、栄養強化の有無を見ることが大切だと川上さんは話します。
オーツ麦には水溶性食物繊維のベータグルカンが含まれますが、オーツミルクにどの程度残るかは原料の使用量や加工方法で変わります。
ベータグルカンとは、オーツ麦などに含まれる水溶性食物繊維の一種です。ただしオーツミルクにどれだけ残るかは製法や原料量に左右されます。
また、乳成分を含まないから誰でもアレルギーの心配がないとは言い切れません。オーツ麦自体のアレルギーもあり、小麦を扱う工場での混入に注意が必要な商品もあります。
環境負荷の比較は「一言」で終わらせない
環境負荷ではオーツミルクなど植物性飲料に明確な強みがある、と川上さんは認めます。
国際的なライフサイクル評価では、牛乳は植物性飲料より温室効果ガスの排出量、土地利用、水利用が大きい傾向が示されています。
ライフサイクル評価とは、原料の生産から加工、輸送、廃棄まで、製品の一生を通じた環境影響を評価する手法です。LCAとも呼ばれます。
代表的な比較では、牛乳は植物性飲料より温室効果ガスの排出が約3倍、土地利用が約10倍とされています。
ただし、この数字にも注意が必要だと川上さんは言います。牛乳の環境負荷は飼い方、餌、糞尿処理、土地の利用で大きく変わるからです。
オーツミルクも、どこでオーツ麦を作り、どれだけ肥料を使い、どこで加工し、どこまで運び、容器は何か、によって負荷が変わります。
牛乳は環境に悪く、オーツミルクは環境にいいと一言で終わらせるのは雑だと思います。
平均的には植物性飲料の方が負荷は低いものの、地域の草地を守り、食料に向かない草を牛乳に変え、糞尿を肥料やエネルギーに循環させる酪農には、1リットル当たりの数字では表せない役割があると話します。
酪農家が新しい収入源を持つ意味
川上さんが最も興味を持つのは、オーツミルクそのものより、酪農家が自分の経営に新しい作物と収入源を組み込むことだと言います。
今の酪農は餌、肥料、燃料、機械、資材などを海外に依存し、一つの価格が上がるだけで大きな影響を受けます。
生乳だけを売っていると、乳価や生乳需給が変われば経営全体が揺れます。
そこで牧草やオーツ麦を作り、食品として販売したりオーツミルクに加工したりし、糞尿をオーツ麦の畑に還元する。こうした複数の循環が作れれば経営の選択肢が増える、という考え方です。
乳牛を飼う
生乳を生産する従来の柱
オーツ麦を作る
牧草や作物として土地を活用する
食品に加工・販売
オーツミルクなどの収入源を持つ
糞尿を畑へ還元
資源を地域内で循環させる
酪農をやめてオーツ麦へ転換する二択ではなく、牛の頭数を適正化しながら空いた土地や労働力を別の作物へ振り向けるイメージです。
ただし現実は簡単ではなく、オーツ麦を作れば必ず儲かるわけではありません。
原料加工には設備、食品衛生、包装、物流、営業が必要で、消費者が継続して買う価格と味を作る必要があります。
クラウドファンディングで一度商品を作るより、5年、10年と売れる市場を作れるかの方がはるかに難しい、と川上さんは指摘します。
牛乳とオーツミルクを対立させない売り方
牛乳とオーツミルクを対立させる売り方に、川上さんはあまり可能性を感じないと言います。
今回のクラウドファンディングも、感情に乗せてそう捉えられる面があったかもしれない、と振り返ります。
「牛乳は悪いからオーツミルクに変えよう」と発信すれば酪農家は反発し、「植物性飲料は偽物だ」と拒絶すれば広がる市場と消費者の選択肢を失います。
必要なのは、それぞれの違いを正直に示すことだと川上さんは話します。
タンパク質やカルシウムを取りたいときは牛乳、乳糖を避けたいときや穀物の風味を楽しみたいときはオーツミルク。コーヒーにはオーツミルク、料理には牛乳、というように目的で選ぶ形です。
オーツミルクが広がったからこそ、牛乳にしかできない栄養や味は何かを改めて知ってもらえるかもしれません。
将来、植物性代替ミルクは必要になるのか
「将来、植物性代替ミルクは必要になるのか」という問いに、川上さんは必然的に必要になるだろうと答えます。
ただし牛乳や牛の価値が変わりながら酪農は続く、と考えています。
気候変動や災害、感染症、戦争による輸入・輸出の停止、人口構造の変化、食物アレルギーや乳糖不耐の問題、価値観の多様化。これだけ条件が変わる時代に、一つの食品で全員を支えるのは難しいと言います。
牛乳だけにも、海外製の植物性飲料だけにも頼らず、国内で牛乳を作る基盤を残しつつ、国内でオーツ麦や大豆を作り飲料にできる基盤も育てる。これが本当の食料安全保障だと話します。
一方で、オーツミルクでは牛乳と同じ栄養や堆肥、放牧、食肉、地域雇用をすべて代替できず、牛乳だけでは乳糖不耐やアレルギーの方、植物性を選びたい方の需要に応えられません。
この取り組みに期待するのは味だけでなく、オーツ麦を安定して作れるか、酪農家の所得は増えるか、頭数や労働時間はどう変わるか、糞尿を栽培に使えるか、といったデータが積み上がることだと言います。
成功しても失敗しても、日本の酪農と植物性食品をどう組み合わせるかという次の挑戦の材料になる、という視点です。
もしかすると、これからの酪農家は牛乳を生産する農家から、牛や植物、微生物、土地を組み合わせて地域の栄養を作る農家へと変わっていくかもしれません。
クラファンへのコメントと川上さんの見方
配信中には、海外の酪農家が6次産業化で自社商品を売ったり、アパレルや牛の角を使ったアクセサリー、観光、動物とのふれあいを通じた医療的な取り組み、放牧地でのキャンプなど、多様なビジネスをしている例も紹介されました。
6次産業化とは、生産(1次)に加工(2次)と販売(3次)を組み合わせ、農家が付加価値を生み出す取り組みです。1×2×3で6次産業と呼ばれます。
オーツミルクもその一つとして出てきたのだろう、と川上さんは見ています。
ただ「牛乳の安定供給のためにオーツミルクを作る」という受け取られ方には、少し違うのではと感じたと話します。
リサーチによると、このスタートアップの社長は海外での経験があり、家畜がよくない環境で育っている様子に衝撃を受けた記憶があるようだ、と紹介しました。
リスナーからは「クラファンの金額では単発はできても継続は疑問。長期目標があるなら知りたい」というコメントも届きました。
これに対し川上さんは、クラファンにはEC的な販売、宣伝広告、目標達成の有無にかかわらず実行する形などいろいろあると説明します。
すでに会社化しているところが入っているため事業化しているのではないか、今回は宣伝的な意味合いもあるのでは、というのが川上さんの感想です。
酪農業界の可能性を広げる活動は応援したい、と語る一方で、こう付け加えます。
牛乳より素晴らしいのはオーツミルクとか、そういう売り方はしてほしくないなと思ったりします。全く別の飲み物で、両方とも飲めるような、消費者が選べるのが一番素敵だなと思ったりします。
まとめ
今回は「国産オーツミルクは必要か」という質問を入り口に、牛乳とオーツミルクを対立させず、選択肢を増やす発想が語られました。生産基盤としての意味を認めつつ、栄養も役割も違う別物として理解することが大切だとまとめられています。
- 国産オーツミルクの生産基盤には意味があるが、牛乳を全部置き換える食品ではない。
- 牛乳とオーツミルクは栄養も役割も違い、ラベルの栄養表示を見て選ぶことが大切。
- 環境負荷は平均的に植物性飲料が低いが、飼い方や加工・輸送で変わるため一言で断じない。
- 酪農家が作物や加工を組み込む複合経営は、変化の激しい時代の強みになりうる。
- 牛乳もオーツミルクも国内で作れる状態を残すことが、これからの食料供給を強くする。
