なぜ餌の前に「ルーメン」の話をするのか
川上牧場では以前から研修生を受け入れていて、川上さんは搾乳前の休憩時間にやっている質問に答える会を、そのまま録音してnoteに音声で残しているそうです。
今回のテーマは、6月に予定している餌や栄養学の勉強に入る前の「前提の前提」です。前日は、どういう経営をしていきたいかという目標に向かって、どんな餌を使っていくかというさわりを話したとのこと。
その続きとして、この日は牛の胃「ルーメン」の話に入ります。牛は人間と違って四胃動物で、大きな胃袋の中に草やでんぷんを消化してくれる微生物を飼っている、ちょっと不思議な生き物なんですよね。
その微生物を活躍させることにより牛の栄養になるという、全く意味わからない生き物なんだけど。
搾乳牛で押さえるべき4つの栄養素
川上さんは、参考にしている酪農情報の資料をもとに話を進めます。搾乳牛でポイントになる栄養素として挙がったのは、乾物DM、粗タンパク質CP、可消化養分総量TDNなどで表されるエネルギーと炭水化物、この大きく4つです。
資料には、これらの養分量を最低限満たしていれば乳生産や牛の健康を大きく外すことはない、と書かれているそうです。ミネラルやビタミンなど微量成分は他にもたくさんありますが、まずはこの4つを重点的に押さえるのが基本という考え方です。
水分を抜いた状態での量。牛がどれだけ食べられるかを表す
人間でいうお肉や卵にあたるタンパク質の要素
人間でいうご飯・炭水化物にあたるエネルギー
エネルギー源。でんぷんはTDNの中に含めて考えてよい
「乾物DM」は、どれだけ食べられるかの物差し
最初のDM(乾物)は、牛がどれだけ食べられるかを表す指標です。日本の飼養標準では、たくさんの牛を調べた結果、体重650kgくらいの牛ならこれだけ食べる、という平均が決まっているそうです。
ここで大事なのが、水分を抜いた「乾物」で計算するという考え方です。たとえばサイレージの水分が半分だとして、10kg食べさせた場合を考えます。
ということは乾物飼料は5(キロ)。
5キロ。DMは5キロ与えた、サイレージを5キロ与えましたということになります。
糖蜜のように水分を多く含むものは、現物ではすごいエネルギーに見えても、乾物に直すと「意外とこんなものか」となります。だからこそ、すべてを同じ物差しにそろえる必要があるんですよね。
全部水分を抜いた状態で計算した方が分かりやすい。
そして、初産・二産・三産で食べられる量は変わります。いくらいい飼料計算をしても、食べられなかったら全く意味がないので、まず牛がどれだけ食べられるかを理解しておくことが出発点になります。
タンパクは濃ければいいわけじゃない
2つ目のCP(粗タンパク質)は、牛にとっても大事な栄養素の一つです。ただし、タンパクが濃ければ濃いほどいい、というわけではないのが難しいところです。
理由は、牛のルーメンにいる微生物が、入ってきたタンパクを分解できないと牛は消化できないからです。だから何回も分けて与えたり、TMRに混ぜて与えたりする工夫が必要になります。
その腹の中のルーメン微生物が、その入ってきたタンパクを分解できないと、牛は消化できないんです。
TDNは「牛のカロリー」。炭水化物と考えていい
3つ目のTDN(可消化養分総量)は、エネルギーの指標です。川上さんは、人間でいう炭水化物、つまり白いご飯のようなものだと説明します。でんぷんもこの中に入ると考えてよいそうです。
資料では「エネルギーと炭水化物」で4つに分けていますが、研修生は「TDNと炭水化物はほぼイコールなのか」と質問します。川上さんの答えは、完全にイコールではなく、TDNは総カロリーに近いというものでした。
ここで4つですって書いてるけど、(実質は)3つです。
難しい質問をするな。
川上さんによれば、人間の食品表示の裏側と同じで、TDNには炭水化物だけでなく脂肪やタンパク質のエネルギーも含まれます。だからTDNは「総カロリーに近い」という位置づけになるわけです。
人間でいう炭水化物・白いご飯。ただし総カロリーに近い
人間でいうお肉や卵などのタンパク質
牛は自分では消化できない草を、微生物に食べさせている
ここからが本題のルーメンの話です。川上さんは「牛 ルーメン」で検索すると最初に出てくる情報を読みながら説明します。
通常、動物がエネルギー源にするのは炭水化物と脂肪です。でんぷんや糖はどの動物も利用できますが、セルロースやヘミセルロースのような繊維質は、分解する酵素を持たないため直接は利用できません。
そこでルーメンの出番です。牛は自分では消化できない繊維を、微生物の力を借りて消化します。つまり草をそのまま吸収するのではなく、微生物に食べさせて、それを炭水化物に分解してもらっているんですよね。
自分の体だけど(微生物に食べさせている)。
これが昔から言われる「牛飼いと虫飼い」という言葉につながります。腹の中の微生物を上手に飼えれば、牛が飼えるという考え方です。
セルロース分解菌と酢酸。脂肪の与えすぎが逆効果になる理由
ルーメンの微生物にはいくつか種類があります。まずセルロース分解菌は、酢酸の大部分を生産します。酢酸は乳脂肪の元になる成分なので、牛乳生産においてこの菌はとても重要です。
だからセルロースを多く含んだ草を食べると、セルロース分解菌が一生懸命働いて、酢酸が増えると。
ここで注意したいのが脂肪との関係です。セルロース分解菌は脂肪に対して敏感で、脂肪分を直接牛に食べさせると活動が弱くなってしまいます。
つまり、乳脂肪を上げようと脂肪の多いものを食べさせると、かえってセルロース分解菌の働きを抑えて、乳脂肪が上がらないという逆効果が起こることがあるんですよね。
でんぷん・糖と、酢酸・プロピオン酸・酪酸のバランス
次にでんぷんを分解する菌は、セルロース分解菌とは明らかに異なります。でんぷん分解菌はルーメンのpHが5.5でも、pH7のときと同じようにでんぷんを発酵させることができます。
でんぷんを発酵する菌が主に作るのがプロピオン酸です。プロピオン酸は乳糖の原料になりますが、過度に生成されると乳脂肪を低下させます。ここでも「ありすぎてもなさすぎてもダメ」というバランスが出てきます。
糖類を発酵させる菌はでんぷん分解菌とよく似ていて、主にプロピオン酸を作りますが、同時に酪酸の大部分も作ります。酪酸は乳脂肪を増やす傾向があります。
乳脂肪に関わるのが酢酸・酪酸・プロピオン酸で、これを意識しないと乳脂肪は上がりません。一方、プロピオン酸の元になる乳糖は牛乳の浸透圧などを調整する成分で、乳糖が上がらないと乳量も上がりません。
セルロース分解菌が作る。乳脂肪の元になる成分
でんぷん・糖分解菌が作る。乳糖の原料だが、過剰だと乳脂肪を下げる
糖分解菌が作る。乳脂肪を増やす傾向がある
ここでは乳脂肪とほとんど書いてる感じっぽいけど、乳量とかにも(関わる)。
そうそう。基本的にそのバランスがいいと、乳脂肪も良くなるよと。
タンパクの摂りすぎが、肝臓を痛める理由
ほとんどの菌はタンパク質も分解します。タンパク質が分解されるとアンモニアができ、そのアンモニアは菌が新しいタンパク質(菌の細胞)を作るのに使われます。だからアンモニアがないと菌が増えないんですよね。
ただし、菌が増えるにはエネルギーが要ります。エネルギー、つまりTDNが足りないと、必要以上のアンモニアがあっても使われません。余ったアンモニアはルーメンに吸収され、最後は尿として排出されます。
ここが大事なポイントです。アンモニアは体にとって毒なので、余分な分は肝臓で中和されて尿になります。つまりタンパク質の与えすぎは、牛の大切な肝臓を痛める要因の一つになるんですよね。
タンパク質過剰摂取で肝臓悪くしてみたいな。
足が腫れたりとか、乳房炎になったりとか、繁殖性の(部分に)影響したりとか、そういうことが起こりますね。
だから炭水化物が多すぎても使われず、タンパク質が多すぎても体に負担がかかる。結局はバランスがすべて、ということになります。
pHは6〜7が理想。でも常に上下する
微生物にはプロトゾアという生き物もいて、活動しやすいpHは5.5〜7.0とされています。タンパク質が多く入るとアンモニアや酸が増えてpHが下がり、菌がいても動きにくい状態になってしまいます。
いるんだけど動けない。ホームグラウンドじゃなくてアウェイに行っちゃったっていう。
この数字だけでいうと、やっぱりpH6ぐらいがベスト。
6から7ぐらいが一番いいとされてますね。
ただ、このpHを保つのが難しいところです。酸が出ればどんどん下がろうとするし、上げすぎても菌は活動しにくくなります。一定ではなく、常に上がったり下がったりを繰り返しているんですよね。
だからこそTMRという発想が生まれました。一口食べればずっとpHが安定するように、配合飼料も粗飼料も両方混ぜ込んだ究極の混ぜご飯が、TMRという考え方です。
反すうと繊維。物理性が唾液を出させる
ルーメンのpHを保つために、牛はアルカリ性の唾液をルーメンに送り込みます。これが反すうです。反すうをすればするほど唾液が入り、酸性に傾いたものを中和していきます。
そして反すうを起こすには繊維質が必要です。繊維がないと反すうできず、pHを上げられないので、ずっと酸性に傾いたままで微生物がうまく使われない状態になってしまいます。
さらに大事なのが繊維の「物理性」、つまり長さです。長い繊維だと噛もうとして咀嚼が増え、唾液がよく分泌されます。逆に柔らかい繊維は食べやすい反面、すぐ消化されて咀嚼が少なくなります。
それこそガムみたいにくちゃくちゃやってくれたら、唾液は出る。
唾液は出るけど、飲み込んではいないからね。エネルギーにはなってないかもね。
だからいろんな餌を組み合わせるのには意味があります。これは唾液を出させる物理性のため、これはタンパクを補うため、これは炭水化物TDNを入れるため、といった具合に組み合わせることで、バランスの良い餌になるんですよね。
その微生物がどうやって動いてるかを考えないと、思った通りの飼料設計通りのことにはならないと。
ルーメンの中身はまだ謎。牧場ごとに菌の構成が違う
ルーメンは大まかには説明できても、中身が実際どうなっているかは、まだ解明されていないほど謎が多いそうです。うちの牧場ではこの繊維を分解できるけど、よその牧場では別の繊維を分解する、といった違いがあります。
その理由は、細菌叢(菌の集まり)の構成が牧場ごとに違うからです。餌を切り替えると、腹の中の菌の構造も変わっていきます。だから配合過多で飼うのか、粗飼料メインで飼うのかによって、一見無理そうな餌でも牛が慣れてくれることがあります。
生産上無理やろうって思ってても、意外にいい感じ(で食べてくれる)。
逆もあります。すごく食べやすそうな餌を作っても、食べてくれないことがあるんですよね。それが牛の好みなのか、物理的なものなのか、腹の中で消化できないのか。そこは乳成分や牛糞検体の結果を見ながら調整していくのがいい、と川上さんは考えています。
同じ餌を与えても、個体差はどれくらい出るのか
研修生は、50頭くらいに同じ餌を与えたとき、個体差がどれくらい出るのかを尋ねます。40頭は同じ感じで、10頭くらいは個性が出るようなイメージなのか、という質問です。
川上さんの答えは、飼養標準は何百万頭も調べて出した数字なので、おおよそ8割は飼料設計通りになる、というものでした。逆に言えば、それでうまくいかない場合は、餌そのものより環境に原因があると考えるべきだといいます。
飼槽がすっげえ汚ねえとか、水が飲めないとか、ベッドが休めないとか、そういうところの問題だと思った方がいいです。
だから乳脂肪が低ければ乳脂肪が上がる餌をやれば大抵は上がるし、タンパクが低ければタンパクの高い餌をやれば上がる、というのが普通です。ただし遺伝能力で乳脂肪が上がりにくい個体もいるので、そこは牛群検定の結果を見て判断していきます。
餌を変えてから効果が見えるまでにはタイムラグがあります。ルーメンの微生物が落ち着くまで、だいたい2週間と言われているそうです。
人間は食えばそのまま、胃袋1個しかないからそのまま100%で入っていくんだけど、(牛は)それがどういう感じになるのかがちょっとわからなかったりする。
TDNは牛のカロリー。ただし単位が「重さ」で表される
川上さんはあらためて、TDNとカロリーの違いを資料で確認します。人間のカロリーもTDNも、エネルギーを表すという点では同じです。
違うのは表し方です。人間の食品は100gあたり何キロカロリーと表示されますが、飼料のTDNは重さの単位(グラムやキログラム)で表されます。エネルギーを見る指標という意味では、どちらも仲間なんですよね。
成分表は「最低ライン」。中身は毎回同じではない
川上さんは、子牛用スターターの袋の裏にある成分表を見せます。粗タンパク質、粗脂肪、粗繊維、粗灰分、カルシウム、リン、そしてTDNが「何パーセント以上」と書かれています。
ここでのポイントは、この数字が「最低値」だということです。原材料は毎回まったく同じではないので、実際には振れ幅があります。だから最低ラインは超えているけれど、過剰になる場合もあるわけです。
川上さんは、同じショートケーキでもA店とB店で中身が違うのと同じ、とたとえます。成分表の数字が同じでも、使っている原材料が同じとは限らないんですよね。
いや、このお店のやつはカロリー高いよって言ってるけど、いやショートケーキ高えじゃんって話なんで。
成分は刻めるが、大事なのは草を軸に考えること
研修生は、粗タンパク質などの成分を2%や3%といった細かい単位でいじれるのか、と質問します。川上さんは、頼めば中身を変えて調整できると答えます。
ただし、繰り返しになりますがバランスが大事です。この餌ひとつだけやればいい、という商品もありますが、そんなに簡単ではありません。やはり草(繊維)をメインに考えていく必要があります。
そして自給飼料で取った草には、成分表がついていません。同じ牧場でもA圃場とB圃場で成分値は違うはずなので、圃場ごとやサイロの場所ごとに成分を測っていくのがベターな方法になります。
配合飼料も、ロットや産地、時期によって成分は変わります。すべてが安定しているわけではないので、そこにもばらつきがあるんですよね。
原材料が毎回同じではない
配合飼料は産地や時期、ロットによって中身が変わる
草には成分表がない
自給飼料は圃場やサイロの場所ごとに成分が異なる
成分表は最低ライン
「何パーセント以上」の表示で、実際は振れ幅がある
リスク分散のためにいろんな餌を使う。行き着く先はTMR
だからこそ、いろんな餌をたくさん使ってリスクを分散させる、という考え方が出てきます。一種類の餌に頼っていると、その一種類が悪くなったときに太刀打ちできません。
10種類使ってたら、まあ1、2種類違っても、他の7種類、8種類は全然栄養価を満たしてくれてる。
いろんなものをバランスよく使い、なおかつ粗飼料と配合をバランスよく合わせたものが、結局はTMRになります。あれもこれもと個別にやっていくと、最終的にはTMRを使った方が早い、という究極の形に行き着くんですよね。
研修生は、これだけ成分を調べられるようになったからこそできることでもあり、できるのに使わない理由もない気がする、と話します。川上さんも同意していました。
原材料表からは「物理性」や「消化性」が読み取れる
成分表の原材料欄には、穀類や油かす類が何パーセント入っているかが書かれています。油かす類が多ければ脂肪が高くなる、といった見方ができます。
ただ、基本的には中身が何かよりも、成分が満たされていればよいという考え方です。原材料からは、むしろ物理性や消化性を読み取っていく、という使い方になります。
たとえば子牛のスターターなら、ペレットなのか、マッシュ(粉っぽいもの)なのかで食べやすさが変わります。牛が食べてくれないなら、食べやすい原料や構造に変える必要があるからです。
どんなにいい餌だったとしても、牛が食べてくれなきゃ意味ない。ルーメン微生物が消化してくれなきゃ意味がないという大前提のお話ですね。
そして、自分のところがどんな餌を使っていくかは、目標がちゃんと定まっていないと決められません。目標がないと、「あっちの方が成分が高い」「新しいのが出た」「そっちが安い」といった言葉に流されてしまうからです。
川上さんはなぜ、TDNを頻繁にいじらないのか
研修生は、普段どんなタイミングでTDNを気にするのかを尋ねます。川上さんの場合、飼料設計はお願いして、乳量に応じて満たすべき数値をすべて出してもらっているそうです。
だから川上さんは、その設計通りに与えて、ちゃんと食べているかを確認します。おかしなことがあれば、乳量が多く出ているのか、ストレスがかかっているのか、という考え方をします。餌を変えてカバーしようという気にはならないといいます。
餌を変えてそれをカバーしようっていう気には、ちょっとならないな。
その理由は、毎回の牛群検定で答え合わせをしているからです。もしTDNが欲しいなら、配合のタンパクを下げてTDNを上げればいい、という調整もできます。
さらに川上さんは、牛群検定だけでなく血液プロファイリングも見ています。与えた餌を食べられているか、ちゃんと消化されて栄養になっているか。そこまで見ないと、一概に餌が悪いとは言えない、という立場です。
そこまでやらないと、一概に餌が悪いなんてことは言えない、僕は。
餌をコロコロ変えたくない理由と、変えていく理由
川上さんは、餌をコロコロ変えることには慎重です。牛の餌が変わって体調が悪くなっても戻せる技術があるならいいけれど、変えれば8割はうまくいっても2割は悪くなるからです。
餌代を下げたい、もっと儲けたい、病気が出ても構わないという考えならそれもありだといいます。ただ、自分の労力だけならいいけれど、牛にダメージが来るのはやっぱりきついというのが川上さんの本音です。
一方で、まったく変えないわけでもありません。去年の牛と今の牛は違うし、牛群も違うからです。だから微調整はしていかないと、どこかで悪いことが起こると考えています。
研修生は、餌を切り替えられなくなると終わってしまう場面もあるので、フットワークの軽さも必要だと感じているといいます。川上さんも、メーカーが新しい商品を出してきて、それが自分のコンセプトに合えば使う、と話します。
結局は日々の観察。ルーメンフィルスコアと食べ具合
研修生は、食べられている・食べられていないをどう判断し、どう人に伝えるのかを尋ねます。ここはデジタルな数値ではなく、川上さんの感覚に近い部分だからです。
川上さんの答えは、ルーメンフィルスコアを取って観察してもらうしかない、というものでした。食べているかどうか、いつもの量と比べてどうか。結局は日々の観察がすべてになります。
食べてるかどうか、いつもやってる量と比べてどうなのか、日々の観察しかないからね。
飼養形態によっても見方は変わります。大きい牧場のフリーストールでは、TMRを食べられるだけ食べさせて、食べていればOK、食べていなければやばい、という発想になります。pHやプロピオン酸を細かく考えなくても回る餌になっているんですよね。
フリーはまあそうなる。そこら辺が細やかにはできない。
一方、分離給与で人に教える場合は、しもし2キロ、ルーさん2キロ、オーツー2キロといった設計なら、実際に測って目の前に置き、きれいに食べているかを確認する必要があります。感覚だけで伝えるのは難しいからです。
観察力の差と、経験から見える「餌をサボった気配」
同じものを見ても、人によって意見が分かれるように、観察の加減には差があります。自分で餌を与えていないと、その差はより大きくなります。
川上さんは、365日牛舎にいるからこそ小さな変化に気づける、といいます。逆に、種付けで他の牧場に行くと、コンディションから「これは餌が少ないんだろうな」と感じることがあるそうです。
絶対どっかでサボったりとか、絶対やれてないんだろうな、なんか餌の安いものに変えたんだろうなとか思ったりする。
その気配は、聞いても「ちゃんと配合これだけやってますけど」と返ってくることが多いといいます。それでも、日々の観察の積み重ねから見えてくるものがある、というわけです。
観察を突き詰める人と、自分にとっての正解
研修生は、観察を意識してやり続けるのは、簡単なようで結構だるいのでは、と率直に話します。餌を押す・餌をやるという作業自体は簡単でも、残り具合まで含めて観察しようとすると負担が大きいからです。
だるいでしょ。一日中本当に牛舎にいなきゃいけなくなる。
川上さんの知り合いには、一日中牛舎にいて、ルーメンのpHやプロピオン酸の動きを全部理解し、何時に何をやるという順番まで組んでいる人がいるそうです。その分、個体乳量はすごく出ているといいます。
ただ、川上さんは「すごいと思うけど、やりたくはない」と言います。それでも儲けにつながり、本人がいいと思うからその経営をしている。それは牛への愛情の形でもある、という見方です。
でも、牛に対する愛情だと思うよ、それは。
研修生も、自分は絶対そこまではやらないだろうと思いつつ、その人のいい部分は盗みたい、と話します。餌をやるという日々の作業も、ルーメンや牛の状態を見ながらやらないとダメだ、というのがこの日の結論でした。
まとめ
餌や栄養学の勉強に入る前に、牛のルーメンという「わけのわからない胃」の仕組みを理解しておくことが大前提、という研修回でした。数字だけを追うのではなく、微生物がどう動くか、そして牛が本当に食べて消化できているかを、日々の観察で見ていくことが軸になっています。
- 搾乳牛で押さえる基本はDM(乾物)・CP(粗タンパク質)・TDN(エネルギー・炭水化物)の4つで、まずは牛がどれだけ食べられるかを理解することが出発点
- 牛は自分で消化できない繊維を微生物に食べさせて栄養にしており、「腹の中の微生物を上手に飼えば牛が飼える」
- 乳脂肪や乳量には酢酸・プロピオン酸・酪酸のバランスが関わり、タンパクや脂肪の与えすぎはかえって逆効果や肝臓への負担になる
- pHは6〜7が理想だが常に上下するため、配合と粗飼料を混ぜて安定させる究極の形がTMRという発想
- 飼料設計通りに与えても8割は設計通りになり、うまくいかない場合は餌より環境を疑う。最後は牛群検定・血液・ルーメンフィルスコアと日々の観察で判断する




