動物好きの中学生が、なぜ牧場を選んだのか?
川上牧場では、地元中学生の職場体験の受け入れが毎週水曜と金曜に始まっています。今回来たのは、牧場から少し離れた地域に住む女の子1人。学校からのレポート課題がないため、川上さんはAIで作った台本を使い、インタビューしながら配信することにしました。
川上牧場を選んだ理由を聞かれた中学生の答えは「動物が好きだから」。好きな動物は犬で、特に柴犬が好きだといいます。ただ、家では犬を飼っていません。
飼いたいけど。(親に)飼わせてもらえない。
川上さんによると、職場体験の受け入れ先には農業関係や動物関係の職場がほとんどないそうです。そのため、農業を目指す子も動物好きの子も、どちらも川上牧場に来ることになります。
犬と牛じゃちゃうぜって。思っちゃったりとかするんですよね。
中学生は川上牧場をどうやって調べたのか?
中学生は職場体験先の川上牧場を、自分で調べて知ったといいます。最初に目に入ったのはInstagramでした。
インスタちゃんと見てくれた?ほんと?いや、めっちゃ大事なんだね、インスタ。やっぱり。もっと力入れないといけないや。
川上牧場のInstagramは、毎日の配信に届いたリスナーからの牛乳に関する質問を、AIで動画やスライドにして投稿しているものです。川上さん自身は「中学生には面白くないよね」と苦笑いしながらも、若い世代への入り口としての大きさを感じたようです。
実際に牛を見た中学生の感想は「もっと少ないかと思った」。川上さんは、全国の牧場で飼われている牛の平均が110頭ほどで、約80頭の川上牧場は平均より少し少ないくらいだと説明しました。
牛乳がどうやって届くか、中学生は知っている?
川上さんは、給食で毎日目にする牛乳がどうやってできて届くのかを中学生に尋ねました。答えは「わかんない」。そこで川上さんが流れを説明します。
乳搾り
牧場で牛から乳を搾る
乳業工場へ
搾った乳が工場に運ばれる
殺菌・検査・パック詰め
工場で処理され、牛乳パックに詰められる
配送
トラックで運ばれ、学校給食になる
地元の乳業会社である島根中酪 ── 島根県の乳業会社。県内の酪農家から集めた生乳を牛乳などに加工していますについても、中学生は「見たことあるような」という程度の認識でした。
さらに「酪農」という仕事も初めて聞いたといいます。川上さんは、豚・鶏・牛・羊だけでなく、養蜂 ── ミツバチを飼育して蜂蜜や蜜ろうを採る仕事や養蚕 ── カイコを飼って繭から生糸を採る仕事も畜産に入ると説明し、動物を使って生産物を得る仕事全般が畜産だとまとめました。
ちょっとマジで中学生に向けて何かしないとダメだよね、これは。
川上さんは、畜産業界がこれまでFacebookのアカウント運用に力を入れてきたことにも触れます。中学生はFacebookというアプリは知っていても、Instagramと同じ会社が運営していることは知りませんでした。若い世代には、Facebookでの発信だけではなかなか届かないと川上さんは感じています。
700キロの牛と、300キロの餌やりはどうだった?
実際に牧場で作業をしてみて驚いたことを聞かれ、中学生は「めっちゃでかかったです。牛が」と答えました。大きい牛は1頭700キロほどあります。怖さと可愛さの割合は「半分ぐらい」だそうです。
餌やりの感想は「結構大変でした」。600キロある餌の半分、約300キロを運んでもらったそうで、これで牛10頭分の量にあたります。川上牧場には約80頭いるので、全体ではその8倍の作業が必要です。
しかも川上さんは、中学生にやってもらったこの作業を普段1人で30分ほどで終わらせているといいます。量を聞いた中学生の顔は、思わず引きつっていたようです。
将来の仕事について、デスクワークと体を使う仕事のどちらがいいかを聞くと、中学生は「体動かしたい」と即答しました。川上さんは、デスクワークのほうが稼げるかもしれないとしつつ、人手不足のなかで体を動かす仕事も伸びるかもしれない、と迷いながら答えています。
子牛の哺乳で感じた力強さとは?
職場体験では、子牛にミルクをあげる哺乳も体験しました。中学生の感想は、子牛の押す力が強かったこと、ミルクの量が多かったことです。
結構押されて力が強い。めっちゃミルクの量もめっちゃ多かったから。
川上さんによると、体験で世話をした子牛には1回3リットルほどを朝と夕方にあげています。近くにいた100キロほどの子牛だと、1日に15リットルほど飲むそうです。
子牛が頭で突き上げてくる仕草は、お母さんの乳房をマッサージして乳を出そうとする動きだといいます。この日は職場体験のため、普段7時ごろの哺乳が9時半ごろになり、子牛はお腹ペコペコで荒ぶっていたそうです。
中学3年生はAIをどう使っている?
川上牧場では機械作業やAIを多く使っていることから、AIの話題にも移りました。中学生もAIアプリを使っているそうです。
勉強でわかんないこととか、(AIに)聞いたら答えてくれる。
使い始めたきっかけは、AIが流行ってきたことでした。中学3年生の段階でAIを勉強に使っていることに、川上さんは「すごい時代だよな、マジで」と驚いています。
また酪農は力仕事だけでなく、乳量を見たり病気でないかを確認したりする観察の仕事でもあります。川上さんは、餌やりの最中も牛が元気か、餌をちゃんと食べるかを見ていると話しました。
牛にも一頭一頭の性格はあるのか?
後半は、中学生から酪農家への質問コーナーです。最初の質問は、牛にも一頭一頭性格があるのかというもの。川上さんの答えは「あります」でした。人なつっこい子もいれば、臆病な子もいるそうです。
川上さんが気をつけているのは、子牛のときにかわいがりすぎないことです。子牛の頃に仲良くなりすぎると、700キロの大人になっても撫でてほしくて寄ってくるため、扱いにくくなってしまいます。
(子牛の時から)親牛になっても管理しやすい、ある一定の距離感があったような飼い方をしてますね、うちはね。
子牛の頃にかわいがりすぎて仲良くなる
700キロの親牛になっても甘えて寄ってきて、扱いにくく危ない
リスナーからも「大きい牛に甘えられたら困る」というコメントが届き、川上さんは「ほんと危ないんですよ」と応じています。
牛の名前は、どうやって付けられている?
次の質問は、牛をどうやって見分けているのか、名前はあるのかというものでした。川上さんは犬の血統書を例に、乳牛のホルスタインにも血統登録書 ── 乳牛の親や祖先をさかのぼって記録した証明書。品種や血筋を管理するために使われますがあると説明します。
| 部分 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 牧場の名前 | 牧場ごとの名前 | アップストリーム |
| 父の名前 | お父さん牛の名前 | マルコ |
| 母の番号 | 牧場の管理番号 | 587 |
| 本牛の名前 | その牛自身の名前 | うららか |
日本人の名字と名前というより、海外のセカンドネームのような付け方だといいます。耳に付いた番号で調べると、親や祖父母までさかのぼってインターネットで確認できるそうです。
川上牧場は、生まれた子牛が親牛になり、また子牛を産むという流れを繰り返している牧場です。そのため川上さんは、ミルクを飲むのが下手だった子、変な性格だった子など、子牛時代から一頭ずつのことをよく覚えています。
動物の仕事はAIに奪われる?休みはある?
リスナーから「AIに仕事が奪われる」というコメントが来たのをきっかけに、将来の仕事の話になりました。中学生が就きたいのは動物に関わる仕事です。
動物に関わる仕事はAIに奪われないかな。当分はね。
ただ川上さんは、ロボットにAIを組み込んだフィジカルAI ── AIをロボットなどの物理的な機械に組み込み、現実の空間で作業させる技術の総称が出始めていることにも触れます。洗濯物を畳んだり掃除機をかけたりする家政婦ロボットは海外ですでにあり、日本でも1台200万円ほどで買えるそうです。
リスナーからは「猟師をやりなよ」という声も。中学生は魚の漁師を思い浮かべていましたが、川上さんは鉄砲や罠でイノシシや鹿を獲る猟師も動物の仕事だと紹介し、女性の猟師も増えていると話しました。
「動物に関わると休みがほとんどない」というコメントも届きます。中学生は休みも欲しいけれど動物の仕事がしたいという気持ち。川上さんは、自営業だと休みはほぼないものの、会社員として働く道や、自営業でも従業員を雇えば休みを取りやすくなる道があると答えました。
一週間に一頭、子牛が生まれる理由とは?
中学生は、一昨日子牛が生まれたことから、牛はどれくらいの頻度で生まれるのかを質問しました。川上牧場では親牛が50頭ほどいて、一週間に1頭くらいのペースで生まれているそうです。
一年中いつでも分娩があるよう牛を管理することで、365日いつでも牛乳が飲める状態が保たれています。川上さんは、牛乳がいつでも手に入るのは酪農家が管理しているからだと知ってもらえれば、牛乳の見方が変わるのではないかと話しました。
職場体験の期間中にも、4日に分娩予定の牛がいます。出産を見てみたいかと聞かれた中学生は「ちょっと見てみたい」と答えました。
生まれて可愛いってなる可能性もあるし、残念だってなる可能性もあるしね。
分娩にはリスクがあり、その場で命を落とすこともあります。川上さんは、そうした場面に向き合うことも動物の仕事だと伝えていました。
休みがあったら、中学生はどこへ行きたい?
休みの話題から、好きなことをしていいなら何をしたいかという質問へ。中学生の答えは旅行で、一番行きたいのは北海道でした。行ったことがある県は福岡だそうです。
川上さんは、北海道の酪農関係でも使われているおてつ旅 ── 地方で短期間お手伝いとして働き、宿泊や食事を提供してもらいながら旅をするサービスを紹介しました。大学生や社会人になれば、長期休暇に暑いときは北海道、寒くなったら沖縄というような働き方もできると話しています。
北海道のリスナーからは、2月の札幌雪まつりがおすすめというコメントも届きました。
中高生に牛乳を飲んでもらうにはどうしたらいい?
台本の「自分が牧場の社長なら何を変えたいか」という問いから、川上さんが最も聞きたかったテーマに入ります。中高生の牛乳消費がとても少なく、職場体験に来た中学生も普段あまり牛乳を飲まないそうです。
中学生のアイデアは「ちょっと味を変える」こと。ただ、フルーツ牛乳、イチゴ牛乳、ミルクティーなど、いろいろな味はすでに出ています。それでも店に並ぶとジュースを選んでしまうのが現実です。
(牛乳を)日常的に飲んでもらいたい商品が欲しい。作り、作りたいですよ。これだったら三百六十五日飲めるって。
黒糖タピオカミルクティーは「あんまり飲まない」と不発。一方で、スターバックスで何を飲むか聞くと「抹茶フラペチーノ」という答えが返ってきました。
川上さんは抹茶の人気の高さに注目し、鳥取の大山乳業が「白バラ」ブランドで抹茶ミルクを出していることを思い出します。中学生目線のヒントは抹茶とのコラボだったようです。
リスナーからは、学校に酪農クラブがあれば学食で牛乳を売り、ソフトクリームを販売し、放課後に世話や売店をやりたいというアイデアも届きました。中学生は「楽しそう」と反応し、川上さんは学校に牛を連れていくハードルの高さに笑いながらも、それくらいしないと中高生に知ってもらえないのかもしれないと受け止めています。
認知を広げる方法としては、やはりInstagramなどのSNSが大事だというのが、この日の結論の一つでした。職場体験はあと2日続き、牧場でやってみたいことは次の宿題として持ち越されました。
まとめ
中学生の素直な反応から、牛の大きさや世話の大変さ、そして若い世代に酪農や牛乳がほとんど知られていない現実が見えてきた回でした。川上さんは、SNSでの発信や抹茶のような味のコラボなど、中高生に届く入り口を探し続けています。
- 中学生は牛乳の作られ方や「酪農」という言葉自体を知らず、Instagramが牧場を知る入り口になっていた
- 700キロの牛、約300キロの餌運び、子牛の力強い哺乳など、体験で酪農の大変さを実感した
- 一年中分娩があるよう管理されているからこそ、365日いつでも牛乳が飲める
- 中高生に牛乳を飲んでもらうヒントとして、抹茶とのコラボやSNSでの発信が挙がった



