牧場物語から酪農家へ、ゲーム世代の酪農家とは?
10月7日の朝、川上さんは雨がパラつく出雲市の牧場から配信を始めました。この日から3日間、地元の中学生の職場体験を受け入れる予定です。前日に急に頼まれた堆肥2台分の配達と、籾殻の引き取りも重なっていて、忙しい一日になりそうだと話しています。
この回のテーマは、リスナーから届いた「川上さんが酪農のゲームを作るならどんなものを作りますか?」という質問です。川上さんが酪農を知ったきっかけは、実はゲームでした。
僕はあの牧場物語というね、ゲームがありまして。そのゲームが好きで、それをやってたのがきっかけで、酪農というのを知って。
川上さんはファミコン、スーパーファミコン、ゲームボーイ、プレイステーション、セガサターンと遊び続けてきた「めちゃめちゃゲーム世代」だそうです。だからこそ、酪農の話から少し外れるかもしれないと前置きしつつ、酪農家が考えるゲームを語ることにしました。
脱脂粉乳の積み上がりと、ロブロックスで牧場体験
本題に入る前に、川上さんは酪農業界の厳しい状況を伝えます。脱脂粉乳 ── 牛乳から脂肪分と水分を取り除いて粉末にしたもの。保存がきくため、飲用で余った生乳の受け皿になりますが、在庫が増えすぎると生乳の行き場がなくなりますの在庫が積み上がり、先行きがかなり厳しいといいます。
まだ10月ですよ。12月、1月が一番危機なんで、今のこの10月にこんな状況だとマジでやばいんで。
川上さんは、生乳を廃棄にはしたくないと強調し、コップ1杯の牛乳やヨーグルトなどの乳製品を取り入れてほしいと呼びかけています。そのうえで、noteのメンバーシップ、Instagramでの「#未来の牛乳」のデジタルアート、週1回まとめ記事が届く公式LINEなどの告知が続きました。
さらに10日の土曜日には、島根県の家畜市場でイベントがあり、川上牧場は「デジタル酪農体験」のブースを担当します。所属するコミュニティのメタグリ研究所と一緒に、ロブロックス ── ユーザーが自分でゲームを作って公開・共有できるオンラインゲームの基盤。小中学生を中心に世界的な人気がありますの中に牧場を作り、子どもたちがゲームを楽しみながら牧場を体験できるようにしたそうです。スマホ1台あれば家でも遊べるゲームだといいます。
「川上牧場物語」を作るなら?リスナーからの質問
お便りコーナーで紹介されたのは、配信アプリのスプーンから届いた質問です。
ついに牧場物語に続く新作ゲーム「川上牧場物語」が制作に?となったら、川上さんはどのようなゲームを制作してもらいますか?特にこれはという機能設定を教えてください。
川上さんは「夢のある話」と受け止めたうえで、生成AIの進歩で、ファミコンレベルのゲームなら個人でも作れるようになってきていると話します。牧場物語のシリーズはほとんど遊び、ファイナルファンタジーやドラゴンクエストのシリーズも経験してきたそうです。
酪農をし始めて全然ゲームをね、してないんですけど、本当にゲームをやったらもう僕はもうずっとやっちゃう派なので危ないんですけども。
川上さんは、餌をやって搾乳し、お金が増えて設備が大きくなりエンディング、という王道の酪農ゲームは大手がすでに作っていると見ています。そこで、自分が作るならどこが違うのかを、AIとの壁打ちも重ねて企画してきました。
川上さんが目指すのは、いい牛を作る楽しさと、牧場を残す難しさの両方が入ったゲームです。
牛版ダービースタリオン、正解のない血統づくり
1つ目の柱は、競馬ゲームのダービースタリオン ── 父馬と母馬を組み合わせて競走馬を生産・育成する競馬シミュレーションゲーム。血統の配合が奥深く、長く愛されているシリーズですの酪農版です。川上さんは、牛のいちばん面白いところは血統だと語ります。
馬と同じぐらい、いや馬よりもっとこの血統がすごいです、牛は。
ゲームでは、乳量は高いけれど受胎性が弱い母牛、乳量は普通でも乳房炎になりにくい牛、足が丈夫な牛、暑さに強い牛、長生きする牛などがいて、どの種雄牛 ── 交配に使う父親側の雄牛。乳牛では、種雄牛の能力データをもとに精液を選んで人工授精するのが一般的ですを交配するかを考えます。
ただし川上さんは、全部のパラメータを最大にすれば勝ち、というゲームにはしたくないといいます。乳量が極端に高くても、繁殖性が悪く病気がちで暑さに弱ければ、産歴が短くなってしまうからです。
お乳はたくさん出るが、繁殖性が悪く病気や暑さに弱い。結果として産歴が短くなりがち
毎回妊娠し、病気になりにくい。5産、6産と長く牧場に残る
川上さんはこの選択をプレイヤー自身に考えてほしいと話し、ゲームの目的を「最高乳量」ではなく「自分なりの理想の牛を作る」ことに置いています。
さらに牛には、遺伝的な能力と、牧場で実際に出た検定成績という2種類の数字を持たせたいそうです。遺伝的に優秀でも、夏の暑さで餌を食べなくなったり分娩で調子を崩したりすれば、本来の能力は出ません。逆に遺伝能力は普通でも、環境との相性がよく長く安定して働く牛もいます。
子牛の段階で能力を予測できるゲノム検査 ── 牛のDNAを調べて、将来の乳量や繁殖性などの遺伝的な能力を早い段階で推定する検査。実際の酪農現場でも使われていますも取り入れたいと川上さんは話します。検査にはお金がかかるので、全頭調べるか、有望な子牛だけにするか、検査せずに育てるかを選ぶ仕組みです。予測値は絶対ではなく、環境で成績が変わる点も大事にしたいといいます。
飼料高騰、感染症、機械故障…次々に起きる理不尽イベント
血統づくりだけならよくある育種ゲームですが、川上さんが作りたいのは「ここから」だといいます。ある朝ゲームを開くと、穀物価格の上昇で配合飼料価格が30%上がった、という通知が届きます。
今までね、100万円で買えていた餌がですね、いきなり130万になるんですね。でもですね、牛乳の販売価格はすぐには上がらないんです。
餌を減らせば乳量が落ち、安い餌に変えれば乳成分や健康に響くかもしれません。牛を減らすのか、設備投資を止めるのか、借金をするのか。川上さんは、この判断こそが酪農ゲームの醍醐味だと話します。
次のイベントは近隣地域での家畜感染症の発生です。車両消毒の設備、外来者の動線管理、隔離施設、導入牛の検査に、ゲーム開始時からお金をかけていた牧場がここで強くなります。普段は無駄に見える防疫費用が、発生した瞬間に差になる。防災や保険と同じ構造を体験できるといいます。
機械の故障も入れたいイベントです。修理しようとしたらメーカーに部品がないと言われ、新品・中古・手作業・外注・応急処置・融資の中から選ぶことになります。新品は楽でも借金が増え、手作業はお金がかからない代わりに人が疲れていきます。そのため川上さんは「経営者の体力」のゲージを入れ、苦労を重ねると上限が上がる仕組みも面白いと考えています。
さらに怖いのが牛乳の消費量の低下です。需要が落ちても、牛は明日からお乳を止められません。乳価の下落、出荷制限、加工向けへの振り分け、牛の削減といった選択を迫られます。そこに地震、水害、台風、停電、断水、道路の寸断まで重なります。
ここまで来たらね。世に言う詰みゲーというものですね。
| イベント | 止められるか | 被害を変える備え |
|---|---|---|
| 飼料価格の高騰 | 止められない | 飼料の備蓄、副産物の利用、複数の契約、現金の余力 |
| 家畜感染症 | ゼロにはできない | 防疫、検査、隔離 |
| 停電 | 止められない | 発電機の有無 |
それでも川上さんは、ただ理不尽に廃業させるゲームにしたいわけではないと強調します。外部要因の発生そのものはコントロールできなくても、被害の大きさは変えられる、というのが今回いちばん大事なところだそうです。
レジリエンスと「100年続く牧場」というゴール
川上さんがたどり着いたゲームの目的は、災害が来ても詰まない牧場を作ることです。乳量や乳脂肪、受胎率、利益に加えて、レジリエンス ── 困難や変化に直面したとき、折れずに回復・適応する力。防災や経営の分野でよく使われる言葉ですという数字を入れたいといいます。
| 行動 | レジリエンス |
|---|---|
| 発電機を買う | プラス5 |
| 餌を1週間備蓄する | プラス3 |
| 現金を残しておく | プラス5 |
| 牛を丈夫な方向に改良する | プラス3 |
| 従業員を育てる | プラス5 |
| 地域の農家と助け合いの関係を作る | プラス10 |
このゲームでは、利益の最大化がかえって負けにつながります。手元のお金を全部牛と牛舎の拡張に使い、融資も目いっぱい使えば、短期的にはランキング1位です。けれど翌年に飼料が高騰し、その翌年に機械が壊れれば、資金ショートで廃業になりかねません。
資金も融資も使い切って拡大。短期ではランキング1位でも、飼料高騰と故障が重なると資金ショートで廃業
利益は少し低いが、現金の余裕、予備の機械、無理しない頭数、保険がある。何年も残っていく
川上さんが掲げるクリア条件は、牛乳の生産量でも1万頭の飼育でも売上10億円でもなく、「100年間牧場を残すこと」です。世代交代、従業員の独立、地域の農家の減少、乳業工場の撤退が起きても、牛が1頭でもいて1円でも残っていればハッピーエンドだといいます。
スタートの形も自由にしたいそうです。研修生や雇用就農から始める、牛を5頭借りる、牛舎を借りる、既存の牧場を引き継ぐ。途中で酪農家をやめる選択肢もあり、一度やめてもう一度挑戦するのもありだと川上さんは話します。
ゲームを一気にリアルにする方法として、川上さんは牛1頭1頭に名前を付けてもらう仕組みも挙げます。自分で交配を決め、初産から3産まで育ててきた牛を、経営が苦しくなったときに手放すかどうか選ぶ場面です。
これでかなり辛いゲームになると思います。でもね、酪農経営ってこういうことなんですよね。
絶望ゲームにはしない、希望の選択肢と牛乳の向こう側
川上さんは、酪農をしていない中学生や一般の人がこのゲームを遊んだらどうなるかを想像します。最初は牛を増やせば儲かると思っても、年数を進めるうちに、乳量を上げるだけでも、借金しすぎても、コストを削りすぎてもだめだと気づくはずだといいます。
リスク対策にもお金いるじゃん。そして時々自分は何も悪いことをしていないのに大変なことが起きる。これがですね、農業経営の難しさだと思います。
ただし川上さんは、このゲームを絶望ゲームにはしたくないと話します。牧場物語でもこういうところまで知りたかった、という思いがあるからです。そのため、希望につながる解決策もたくさん用意したいといいます。
- 地域の農家との連携や、共同での餌づくり・機械の共有
- 新しい技術やAIの導入、丈夫な牛への改良
- 消費者や学校とのつながり、職場体験の受け入れ
- 観光牧場や自家での牛乳加工
そして、何が正解かは決めないというのが川上さんのこだわりです。質問への答えの締めくくりとして、こう語りました。
このゲームを遊んだ人が、スーパーで200円の牛乳を見たときに、その後ろにいろんなリスクを背負った牧場があると少しだけ想像してくれたら、作る意味はあると川上さんは話します。リスナーには、どんな理不尽イベントや助かるイベントを入れたいかをコメントで募りました。
最後に川上さんは、災害が頻発するSimCityの最高難易度や、強いキャラクターが途中で離脱するシミュレーションゲームの例も挙げ、そうした要素を取り入れてほしいと話します。AIがもう少し進めば、プロンプトを入れるだけでこんなゲームも作れるようになるかもしれない、と期待をにじませました。
リスナーからは「リアルで高度なゲームになりそう」というコメントも届きました。川上さんは、40〜50年前の有名な種牛を登場させるなど、ダービースタリオン要素はぜひ入れたいと改めて語っています。配信の終わりには、Kindle本『酪農未経験者のために』とそれを読み込ませたファームエコAI、70以上の牧場が使う和牛交配チェックアプリも紹介されました。
まとめ
川上さんが描く酪農ゲームは、血統で理想の牛を作る楽しさと、飼料高騰や感染症、災害といった理不尽に耐える経営の難しさを組み合わせたものです。ゴールは利益の最大化ではなく、何が起きても詰まずに100年続く牧場。ゲームの企画を通して、牛乳1本の後ろにある酪農のリアルが見えてくる回でした。
- ダービースタリオンのように血統を組み合わせ、正解のない「自分なりの理想の牛」を作るのが1つ目の柱
- 飼料高騰、感染症、機械故障、消費低迷、災害など、発生は止められないイベントが次々に起きる
- 発生は止められなくても、備蓄や防疫、現金の余力で被害の大きさは変えられる
- レジリエンスという数字を入れ、利益最大化よりも「100年続く牧場」をクリア条件にする
- 絶望ではなく、地域連携や消費者とのつながりなど、正解を決めない希望の選択肢も用意する



