リスナーから届いた「汚泥」と「リン不足」への問い
今回の配信は、前日にコメントで寄せられた質問に答える回として始まります。日本の畜産や酪農、輸入飼料の話を、いつもとはちょっと違う角度から掘り下げていきます。
質問をくれたのは、配信アプリ「Spoon」のリスナー、パックンチョさん。内容は大きく2つに分かれています。
川上さんは下水処理を施された土や肥料を汚泥と呼ばれることに対してどう感じられますか?また、日本の土壌が痩せ細っているのはリンが不足しているためだそうですが、これについてどうお考えですか?
川上さんは「ぐっとくる質問をもらうと熱量が入る」と話し、少し専門的になりつつも丁寧に答えていきます。
「汚泥」という名前が生む消費者のためらい
まず取り上げたのは、下水汚泥そのものについてです。下水汚泥はリンや窒素などの栄養素を多く含んでいて、今まさに肥料としての利用が進められています。
ただ、川上さんが気にしているのが「汚泥」という名前です。汚泥でできた野菜や果物というイメージがついてしまい、消費者にはあまり喜ばれていないのではないか、と話します。
実際、衛生面や安全性への不安を抱く人が多く、ネガティブな印象があることが指摘されています。これは国土交通省の国土技術政策総合研究所のレポートでも触れられているそうです。
だからこそ、名称の見直しや情報公開の徹底が求められている、というのが川上さんの説明です。どうやって作られているかを伝えたり、名前を変えたりする工夫が必要だ、というわけですね。
フランスは8割、日本は1割?活用の差
続いて話は海外との比較に移ります。フランスでは下水汚泥がかなりの割合で利用されているのに対し、日本ではまだ1割ほどしか使われていないそうです。
多くの割合で肥料などに利用されている
利用は1割ほどで、残りは焼却処分が中心
残りは焼却処分されているのですが、川上さんはここで日本ならではの事情も補足します。日本では焼却する際に原油や石炭で燃やしていて、その燃焼を助けるエネルギーとして使われている面もある、という点です。
そのため、フランスと単純には比べられないとしつつも、まだまだ利用価値があるのでは、と川上さんは感じています。
日本の土は「リンを離さない」黒ボク土の性質
ここから、質問のもう一つの柱である「リン不足」の話に入ります。日本の農地はリン不足に陥りやすい、という土地の性質があるのです。
その理由が「黒ボク」と呼ばれる、火山灰からできた土が多いこと。この黒ボク土はリンを吸着しやすく、植物に移行しにくい性質があります。
そのため植物に栄養を届けようとすると、リンを多く入れなければなりません。ただし、土壌にリンをたくさん入れすぎると、今度は汚染の可能性が出てきてしまいます。
だからこそ、農家ごとに作物に合わせてきちんと土壌調査をして、適切な量を使っていくことが欠かせない、と川上さんは強調します。
リンを国内で循環させる意味
川上さんは、下水汚泥の活用を「国内でリンを循環させる」という視点でとらえています。
日本はリンの原料となるリン鉱石を、ほぼ中国やモンゴルなどからの輸入に頼ってきました。そこで、下水汚泥に含まれるリンを使えば、輸入への依存を減らせるというのです。
下水汚泥にはまとまった量のリンが含まれているため、活用が進めば肥料の国産化につながっていく、と話します。
一方で、利用を広げるには安全性が欠かせません。重金属が含まれるリスクや、消費者・農業者に使ってもらうための理解が課題として挙げられているそうです。
こうした課題に対応するため、官民が連携して情報公開や品質管理の徹底が図られていることが、国土交通省や農林水産省のデータで示されている、と紹介されました。
牛のフンと輸入飼料が支えるリンの循環
話は酪農家ならではの視点へと広がります。実は、輸入している牛の餌もリンの循環に関わっているのです。
輸入牧草やトウモロコシ、大豆などを牛が食べ、その牛のフンにリンが含まれます。つまり、輸入飼料を通して日本は間接的にリンを補充している、という見方ができます。
今、農林水産省などは国内飼料を増やす方針を進めています。稲のWCSや牧草地、トウモロコシの栽培を増やそうという動きです。
ただ川上さんは、使われた飼料がその土地にきちんと戻り、循環する形にしないといけない、と釘を刺します。しかも、それも適切な量であることが前提です。
足りない地域と、過剰になる地域
リンは足りないだけでなく、過剰になることも問題になります。ここで川上さんが挙げるのが、大規模なメガファームやギガファームです。
何千頭も飼っているような牧場では、堆肥の出し先が足りず、狭い土地に過剰に撒かれがちになります。すると土壌が汚染され、リンが過剰になってしまうのです。
特に鶏や豚はフンに含まれるリンが多いため、畜産が集中している地域では過剰になりやすい、と説明します。過剰なリンは雨で流れ出し、川や海を汚してしまう恐れもあります。
- リンが足りない地域があり、輸入に頼りがち
- 畜産が集中する地域では逆に過剰になりやすい
- 過剰なリンは川や海の汚染につながる
だからこそ、地域ごとの偏りをうまく考えて、適切に使うことが本当に大事だ、というのが川上さんの結論です。
消費者の理解が循環をつくる
最後に川上さんは、これからの世界情勢にも目を向けます。リンは世界中で使われていて、新興国が農業へシフトして第一次産業を増やしていけば、リン鉱石の価格が上がったり、入ってこなくなったりする可能性があるのです。
だからこそ、まだ使われていない下水汚泥をしっかり活用することが大切になります。そしてそれには、消費者の理解が欠かせない、と繰り返します。
川上さんは、昔の「肥溜め」の話も持ち出します。人のうんちやおしっこを畑に戻すことで農業が発展した背景もある、と振り返り、この分野への理解をもう少し深めてほしいと呼びかけました。
まとめ
下水汚泥は「汚泥」という名前で敬遠されがちですが、リンなどの栄養を含む貴重な資源でもあります。輸入に頼ってきたリンを国内で循環させるうえで、消費者の理解がカギになる、という酪農家からのメッセージが伝わる回でした。
- 下水汚泥はリンや窒素を含み、肥料としての活用が進められているが、名前のイメージで理解が広がりにくい
- 日本の農地は黒ボク土が多くリンが不足しやすい一方、入れすぎは汚染につながるため適切な量が重要
- 下水汚泥や牛のフンを活かせば、輸入に頼るリンを国内で循環させ肥料の国産化につながる
- 畜産が集中する地域ではリンが過剰になりやすく、川や海の汚染を防ぐには地域ごとの偏りへの配慮が必要
- リン資源の活用には消費者の理解が欠かせず、循環型の農業を支える大切な視点になる





