そもそもAMTSってなに?飼料設計ソフトの位置づけ
この回は、川上牧場でいつもやっている搾乳前の休憩時間に、研修生の質問に答える会話をそのまま録音したものです。テーマは飼料設計ソフト「AMTS」の見方です。
川上さんによると、いろんな餌メーカーが使っている飼料設計ソフトは、だいたいこのAMTSに合わせたような作りになっているそうです。
AMTSの見方がわかっていると、大体いろんなやつの見方もわかるかなという感じですね。
川上さん自身も細かい数字の意味まで詳しいわけではなく、飼料設計を頼んでいる餌屋さんの獣医さんから、初心者でもわかる言葉で書いてもらったお手紙を見ながら勉強していく、という進め方です。
飼料設計で一番大事なのは「体重」だった
AMTSなどの飼料設計ソフトでまず大切なのは、前提条件が正しいことだと川上さんは話します。牛の情報、餌、特に草の情報が正しくないと計算になりません。
川上牧場では体重を牛群検定から引っ張り出してきますが、牛群検定をやっていない牧場は、この体重をどう出すのかが問題になります。研修生とのやりとりでも、推定巻尺や体重計がない場合の話になりました。
もう体重がないと、もうAMTSなんてもう初めからできない。
(体重は)計算式の中で、あ、大丈夫です、体重なくても計算できますっていうもんじゃないですよという話なので。
体重がないと組めないわけではないものの、初産なら650キロ、2産なら700〜800キロ、3産なら800〜850キロといった「だいたいの数字」で作ることになります。その分、できあがった飼料設計も参考値程度になってしまう、というのがポイントです。
研修生は、お金や手間を度外視できないなら、スマホの推定アプリを使ってでも数字を入れたい、という現実的な感覚も口にしています。誤差が同じくらいなら、楽なほうを選びたいという話です。
「大体しかできへん」割に餌のせいにされがち
体重だけでなく、乳量や各ステージの乳成分の入力も大切です。ここでも「牛群検定をやっていない牧場はどうするか」という話になります。
研修生は、自分たちが正確な数字を出していないのに、結果が悪いと餌のせいにされがちだという業界の空気を指摘しました。
大体しかわからんねんから、大体しかできへんやろって思ってる割に、なんか餌のせいにされがち。
正解正解。
研修生は、これを毎月の売り上げをざっくり報告して、1年の収支が合わなくなる状態にたとえています。毎月プラスマイナスをちょろまかしていたら、1年でどうにもならなくなる、という話です。
川上さんは、餌代が支出(経費)の半分を占めることを前提にあげ、だからこそ体重や乳成分をしっかり出して計算したいと話します。
必要なものは与えたいけど、必要じゃないものも過剰に与えてもあんまりいいことがないように思うので、だから余計にそこら辺の精度は高まった方がいい気はしますもんね。
草の「消化性」はどうやって測っている?
前提データの次は草の情報です。CPやNDFといった成分だけでなく、AMTSのように精度の高い設計では、繊維の「消化性」まで分析値が必要になります。
以前はリグニンの値から消化性を推定していましたが、今は粗飼料の分析で繊維の消化性そのものがわかるようになりました。研修生が「それはどう調べるのか」と聞くと、川上さんが実際に体験した分析方法を説明します。
フラスコみたいなやつに、その乾燥でピカピカにしたやつを入れて、で、ルーメンの中みたいな状態にして、グツグツグツグツ。
乾燥させた草を細かく砕いて粉状にし、ルーメン(第一胃)の中を再現した状態で長時間煮て、どれだけ残るかを見るそうです。分析値には240時間まで出ているものもあります。
牛の体内でも、餌が消化管を通過して出ていくまでの時間が決まっています。その間に消化できなければ、そのまま糞になって出てしまう、というのがこの分析が見ている中身です。
数字が高いほど良い繊維、UNDFはゴミ?
分析値にはNDFDOMという項目があり、30時間・120時間・240時間などのパーセントで示されます。
パーセントが高い方がいいよってこと。だからこのパッと数字を見て、パーセントが大きければ大きいほどいいなって思えばいいってことね。
一方、UNDFは未消化NDF、つまり消化できない繊維を指します。特にUNDF240は、240時間(約10日間)煮ても消化できない、何が何でも消化できない繊維のことです。
だから草の中に入ってるけど、もうゴミだということですね。
研修生が「じゃあこのパーセンテージは少ないほど良いのか」と聞くと、川上さんは「数字的にはそう思っちゃうけど、後半でひっくり返る」と話をつなぎます。
じつは必要だったUNDF|ゼロも100もダメ
UNDFは無駄に見えて、じつは反芻やルーメンマットの形成に一定量が必要だとされています。ただし高すぎるとルーメンの容積が無駄に取られ、乾物摂取量(DMI)の低下につながります。
逆にNDFが低すぎてもルーメンマットの形成に不具合が出ると言われ、大まかな給与水準は1頭あたり1日2〜2.5キロと考えられているそうです。まだ研究が続いている領域です。
ゼロはあかんし、百もあかん。まあバランス。
川上牧場のPMRの場合、1頭が1日13キロ食べて、UNDF240が16.1パーセントなので、掛け算すると約2.09キロになります。給与目安の2〜2.5キロにちょうど収まっている、という良い例です。
乾物摂取量(DMI)が超重要ワードなワケ
ここからメニューの説明に入ります。まず出てくるのがDMI(乾物摂取量)で、川上さんは「餌的に超重要ワード」と話します。
なぜ水分を抜いて考えるかというと、副産物や自給飼料は水分がとても高いことがあるからです。たとえば水分80パーセントのビールかすを3キロあげても、2.4キロは水で、成分は0.6キロ分しかありません。
とにかく水分によってめちゃめちゃ色々変わってしまって話にならないので、水分抜きの量でいろいろ話をしようよというのが乾物になります。
設計するときは、この牛群が今どれだけ食べられているか(DMI)を把握するのが大事です。そのためには餌の水分を把握することと、牛に与えている量を使う人が正しく把握していることの2点が大切だと説明されています。
餌は測って記録すべし|「百違う」現場のリアル
意外と、何キロ餌をあげているかを正しく把握できていないことがあります。川上さんは、どんな牛に何を何キロあげたかを記録に残すことをすすめます。成績の良かった頃と悪かった頃を後から振り返れるからです。
残渣(食べ残し)の量を測るだけでも全然違う、という話から、研修生が現場での実感を語ります。人の牧場で作業をしていると、数字がずれることへの気まずさがあるようです。
これ逆に自分の牧場というか、自分のにバックが帰ってくるというか、マイナスも含めてやったら、正直そんなに気にならへんけど。
人のやつで、百パー違うから。なんかこう計算の上で成り立ってて作業してるはずやのに。
川上さんは、ヘルパーとしていろんな牧場に行っていた経験から、1頭何キロではなく「草を1日何本使うか」で合わせる方法を紹介します。本数で管理しておけば、群としての採食量が大きくぶれにくいという工夫です。
研修生は、餌屋さんが求める精度と、現場が「餌なんて計算できひんもんや」と思っている文化との間に大きなギャップがあると指摘します。
向こうが計算すればするほどこっちが計算しなかった影響が絶対的に結果に響いてくる部分でもあるから。
粗飼料NDFと、草の質で変わる食べられる量
メニューには粗飼料NDFという項目もあり、目安は0.8〜1.0とされています。ここに収まるように、いろんな餌を組み合わせていきます。
食べられる量は草の品質や消化性に大きく影響されます。高品質で消化性の良い草、特に生育初期の豆科なら体重の2.5パーセント、体重600キロならDMI15キロまで食べられるそうです。
同じ草でも繊維の強さで食べられる量が全然違う、というのがここでの要点です。だからこそ、手持ちの草をなるだけたくさん、かついい感じに食べてもらえるよう、粗飼料由来のNDFの量を見て調整します。
ME・MP充足率とタンパク|「CPだけ見ない」
次はME・MP充足率です。MEは代謝エネルギーで餌全部からのエネルギー、MPは代謝タンパクで、菌体タンパクとバイパスタンパクを合わせたものです。
充足率は100〜105パーセントを目指したいところで、100パーセントに届いていないと話にならないと説明されます。
粗タンパク(CP)については、昔はメニュー全体で16パーセント以上が推奨されていましたが、設計ソフトが新しくなるにつれ「実はそんなにいらない」と言われるようになりました。MPが充足していれば14.5パーセントくらいでもOKで、最近は15〜17パーセントくらいが多いそうです。
とにかくCPの値を見て決めるのではなく、MPを満たすようにCPを設定するという感じが正しいのかもしれません。
研修生が「昔より重要性が落ちたのか」と聞くと、川上さんは、いらなくなったのではなく、タンパクの中身をより詳しくバランスで見られるようになった、と言い直しています。
RDPとRUP|バイパス率は餌だけでは決まらない
CPのうち、ルーメン内で分解されるタンパクをRDP、分解されないタンパクをRUPと呼びます。RUPはバイパス率とも言われ、設計の表にはRDPだけが載っていることが多いようです。
ルーメン内で分解されるタンパク。目安は60%以上
分解されずに通過して腸で吸収されるタンパク。目安は35%以上
ここで川上さんが強調するのが、RDPやRUPは牛の体重とDMIがわからないと正確に数字が出せないということです。同じ餌でも牛によって数字が変わります。
たとえばDMI30キロの高泌乳牛はたくさん食べるので通過速度が速く、バイパス率が高くなります。逆にDMI18キロの低泌乳牛は通過速度が遅く、バイパス率が低くなります。
最近はアミノ酸系の飼料が「バイパス率何パーセント」という売り文句で出ることがあります。川上さんは、それがどんな牛の、どの条件での数字なのかを確かめる必要があると話します。速すぎる通過も困る、というのが研修生とのやりとりの結論です。
売りにするのは全然いいけど、知識がないと、さもスピードが高い方がすごいみたいに感じちゃうから、なんかそこら辺はなんか間違った感覚になりそうにはなりますね。
物理的有効繊維(PNDF)ってなに?
表にはルーメンNH3という項目もあり、ルーメンのバクテリアの餌になる窒素(アンモニア)の供給量が足りているかを見ます。目安は110パーセント以上で、川上さんは130パーセントくらいでやっているそうです。
さらにNDF-OM(繊維の量)とPNDF(物理的有効繊維)があります。NDFは33パーセント以上が無難、PNDFは25〜28パーセントくらいが多いとされています。
物理的有効繊維とは、同じNDFでも、ビートパルプの繊維より長い粗飼料の繊維のほうがたくさん反芻・咀嚼させる、その効き目を数字にしたものです。
いっぱいこうガサガサしたやつって食べてくれたらもう反芻材料にはなるんだけど、食べにくいわけだ。ボリュームがありすぎてお腹膨れちゃうというか。
ガサガサした繊維は反芻材料にはなるものの、かさが大きいとお腹が膨れて食べにくくなり、DMIが下がります。その反芻効果とDMI低下のバランスを表したのがPNDFです。
結局、飼料設計とは何をすることなのか
残りのNFCや糖・でんぷん・脂肪については、次回のお手紙で説明されるとのことで、この日はここまでとなりました。川上さんは、この日の締めくくりとして飼料設計の本質を語ります。
表の下のほうにあるリジンやメチオニン、乳熱リスク、カルシウムなどは参考程度で、そこだけ変な数値になっても直結して問題になるわけではないと説明します。まずは上段・中段の推奨値を大きく外していないかを見るのが大事です。
研修生は、NFCより下のカルシウムなどのほうが数字としてはわかりやすく目に入りやすい、と指摘します。食品の裏の成分表示のように、大きな文字で「カルシウム何パーセント」と書いてあると、それだけで良さそうに見えてしまう、という話です。
餌屋さんが良かれと思って見せてくれてる数字と、こっちの受け取り方のニュアンスかな。
草だけで牛が育つ仕組みと、菌体タンパク
研修生の「何を食べたら良い、という受け取り方になってしまう」という悩みを受けて、川上さんが菌体タンパクの話に戻します。牛が草だけで大きくなれる仕組みの説明です。
草を上手に与えれば、菌体タンパクがルーメンの中で勝手に増えて吸収されます。だから余分にタンパク源を足さなくても、牛が自分で作って健康に育てる、というのが川上さんの考えです。
牛が勝手に作って牛が健康に。だから健康に飼えば別に追加することなんて必要ない。
逆に餌を過剰に与えると、牛は余った分を流そうとしてしまい、また餌をあげなければならなくなる、という悪循環にもなりえます。あげたり切らしたりを繰り返すと、付け焼き刃のようになってしまいます。
そして、この菌体タンパクが一番おかしくなるのがルーメンアシドーシスだと川上さんは指摘します。せっかく積み上げた状態がリセットされてしまう、というわけです。
これから仕事進んでっていう時にね、台風来たり、雨来たり、腹ん中で起こっちゃったら。
最悪から逆算したい現場と、餌屋さんの歩み寄り
この牧場が渡された飼料設計は、病気がなく健康に育つことを前提にした「100パーセント」の数字です。ただ、すべての農場がそれを求めているわけではありません。回転率の高い育成中心の農場や、外国人従業員の労働時間を確保したい農場では、事情が変わってきます。
研修生は、自分は理想形よりも「最悪の状況から逆算したい」タイプだと話します。ゼロが一番いいけれど、どこまでなら許容できるかという、マイナス方向からのバランスを知りたいという発想です。
最悪、別に取る必要がないねん。ゼロがええねんけど、何分までやったらギリいいかなみたいな。
餌の理想は品質やコストの問題で実現できないことも多く、「これでやっていけるのか」を知りたい場面が多いといいます。100万のものを勧めたい餌屋さんと、10万で成り立つか知りたい現場との間には、そういう温度差もあります。
だからこそ、営業マンがふらっと来て飼料設計を出すだけでは、その牧場に合ったものは出てこないと川上さんは話します。スタッフ数や働き方、どんな牛がいるかを伝えることが大事です。
研修生は、ある角度から見た「最強」の数字も、違う角度から見れば嘘になりかねないと指摘します。表に書いてある数字だけでなく、書いていない情報まで見えるようになることが目標です。
だからある程度酪農家もやっぱこういうのが見れるようになった方がいいかなと思って、まあこういうのをちょっとお勉強できてしてもらったら嬉しいなとは思うね。
まとめ
AMTSの見方を通して見えてきたのは、数字を読む前に「その数字を作る前提データが正しいか」が何より大事だということです。体重や乾物摂取量、餌の量を正しく把握し、餌・牛・出ているものをセットで理解して初めて、飼料設計は生きてきます。
- 飼料設計ソフトはAMTSの見方がわかれば、他社のものもだいたい読める。まず前提となる体重・乳量・乳成分が正しいことが最優先
- DMI(乾物摂取量)は超重要ワード。水分を抜いた量で考え、餌の量と残渣は測って記録することでずれを減らせる
- UNDFやPNDFのように「無駄に見える繊維」も反芻やルーメンマットに必要で、ゼロも100もダメ。バランスで見る
- RDP・RUP(バイパス率)は体重とDMIがわからないと正確に出せず、「この餌のバイパス率は何パーセント」という売り文句は牛の状態で変わる
- 飼料設計とは餌・牛・出ているものを正しく理解してコントロールすること。現場と餌屋さんの歩み寄りで、より良いものになる




