お便りは「国宝を酪農家目線で」
この日のお便りは、音楽配信アプリのラウンジから届いた、山さんからのものです。
国宝を見ました。血のつながりがない部外者が入って活躍するのは大変だなと思いましたが、作品には大変感動いたしました。酪農家目線から国宝のお話お願いします。
川上さんも休みの日に映画館で見たそうで、「日本人みんな見た方がいい」と思うほどのお気に入りだといいます。
もう日本人みんな見た方がいいと思ってます、私は。
映画「国宝」は上下巻ある書籍が原作で、歌舞伎を舞台にした作品です。
川上さんは自分を映画評論家でも歌舞伎に詳しいわけでもないと断りつつ、酪農家目線で答えられるところを話していきます。
人形の世界から歌舞伎へ。主人公と重ねた自分の立場
物語のあらすじはこうです。人形の世界で生まれ育った主人公が、あるきっかけで歌舞伎の世界に入り、人間国宝になっていく。
その過程で描かれる葛藤や人間関係、難しさが、川上さんには自分の経験と近く感じられたといいます。
川上さん自身も、婿として川上牧場に入った人だからです。
あのー、僕もあの婿でね、あの川上牧場に入ってるんですけども。
川上さんの世代では、子供の頃から家の酪農を引き継ぐ人が多く、まわりも酪農家の家庭で育った人がほとんどでした。
第三者継承や婿入りで牧場に入る人は、当時はまだ少なかったと振り返ります。
「昔からこうだった」に感じた違和感
川上さんが強く感じたのは、酪農業界の閉鎖的な面でした。
子供の頃からその業界にいる人は、自分たちのやり方に疑問を持たないといいます。親や祖父の代からそうだったので、無意識にそうしてしまうのです。
その業界の中にずっと子供の時からいる方って、その業界のことに疑問を思わないんですよね。
外から入った人に「昔からこうだった」を押し付ける意識すらなく、これが普通だろうという感じで進んでいくところに、川上さんは違和感を覚えたと話します。
たとえば牛への接し方も、家や地域によって大きく違います。牛を家族と思っている業界で、それと違う触り方や産業動物としての扱いをすると、白い目で見られたそうです。
なんでお前こんなこともできないの?っていうのは本当によく言われました。
同じ牧場に行っても、返ってくる反応が違う
外から来た人への接し方も、無意識のうちに違ってくるといいます。
川上さんは酪農ヘルパーとして、酪農家の息子である上司と2人ペアで牧場を回っていました。
同じ牧場に行っても、上司が行ったときと川上さんが行ったときとで、酪農家さんの反応がまったく違ったといいます。
その方が牧場に行った時の酪農家さんの反応と、僕が行った時の酪農家さんの反応って全然違いました。
目や対応に不信感がにじむ一方で、外から嫁いできた奥さんとは、外から来た者同士で気持ちが通じて話が合うこともよくあったそうです。
技は「教えてもらえない」。見て覚える世界
配信中、リスナーから「技術や技は教えてもらえるものなのか」という質問が届きました。川上さんの答えははっきりしています。
技術や技は教えてもらえません。あの、教えてると勘違いしてます。
自分たちもこうやって覚えたから、子供の頃からこうやってきたから、という前提で教わる。わかるもんだろ前提で話しかけてくるのだといいます。
だからこそ川上さんは猛勉強しました。知識では酪農家の息子たちに負けない自信があり、アルバイトで技術も教わったといいます。それでも、まだ足りないものがありました。
さらに、牛という相手がいることが、この世界をいっそう難しくしています。
牛の反応が答えなんですよね。これがまた難しいんですよ。マジで。家によって牛が違うんで、ここが難しいと思います。
この言語化しづらい部分を、なんとか言葉にしてnoteに書き続けているのだと川上さんは話します。
だから酪農に入りたい人にこそ見てほしい
技術の継承や、その伝え方の描写にも、川上さんは酪農業界と重なるものを感じたといいます。
そのうえで、これから酪農に関わろうとする人にこそ見てほしいと呼びかけます。
第三者継承とかね、新規就農やってみたいとか、あのー、全然、あの親とかが酪農業界じゃないんだよっていう人に見てもらうと、ちょっとね、あの面白いんじゃないかなと思いますんで。
なお、6月30日には川上牧場初のKindle本「酪農未経験者のために」が発売されています。映画をきっかけに酪農に興味を持った人にもおすすめの一冊だそうです。
まとめ
話題の映画「国宝」を入り口に、婿として酪農業界に入った川上さんが、血の繋がりを越えて技を継ぐことの難しさを自身の経験から語った回でした。技術だけでは埋まらない信頼の壁と、牛という相手のいる仕事の奥深さが伝わってきます。
- 人形の世界から歌舞伎へ入る主人公に、婿として酪農に入った自分を重ねて「国宝」を見た
- 子供の頃から業界にいる人は「昔からこうだった」を無意識に前提にしがち
- 同じ牧場でも、酪農家の息子と外から来た人とでは返ってくる反応が違った
- 技は教えてもらえず見て覚えるもの。技術以上に「息子であること」が信頼につながる面がある
- 牛は家ごとに違い、その反応が答え。言語化しづらい部分をnoteに書き続けている


