切れた低温殺菌牛乳を煮沸すれば10日延ばせる?その真意
今回の主役は、stand.fmに届いたセイさんからのお便りです。以前に川上さんから「賞味期限の切れた牛乳は飲まないで」とアドバイスをもらって、期限内に飲むようにしているという方からの質問でした。
気になっていたのは、こんな話を聞いたということ。「賞味期限の切れた低温殺菌の牛乳は、1分煮沸すれば高温殺菌の牛乳と同じになって、10日間期限を延ばせる」というものです。
言葉の理屈は通るけど、何か違くない?真意のほどお願いします。また、低温殺菌・高温殺菌の違いと新しい殺菌法がありましたら教えてください。
これに対する川上さんの答えははっきりしていました。低温殺菌の牛乳を煮沸すれば10日間賞味期限が伸びるというのはデマだと考えているそうです。
でも低温殺菌のやつを煮沸すれば、もう10日間賞味期限が伸びるっていうのは、これデマだと思いますよ。マジで危険なんでやめた方がいいと思います。
加熱すれば大丈夫、は本当?牛乳と葉物野菜の共通点
そもそも牛乳は農産物なので、鮮度が命だと川上さんは話します。スーパーの牛乳も、殺菌して牛乳パックに詰められている間はおいしく飲めますが、封を開けたらそこから劣化が始まります。
空気中の細菌が牛乳パックの中に入ると、牛乳の栄養を使ってどんどん菌が増えてしまいます。ここが加熱にまつわる大事なポイントです。
菌がそこで繁殖しているものを加熱して、菌が殺菌して、その菌の効果がなくなったとしても、菌自体はいますからね。
つまり、加熱で菌の働きを止められたとしても、増えた菌そのものがなくなるわけではない、ということですね。
川上さんはこれを、わかりやすく葉物野菜にたとえて説明します。
買ってきた時はもうシャキシャキで青々としているやつを置いておいて、葉っぱの先がちょっとグジュグジュってしてきてるやつを、加熱すれば食べられるぜって言って食べてるようなもんだと思ってください。
牛乳は真っ白で汚れも見えず、匂いもしないので大丈夫に思えてしまいますが、農産物なのでどんどん劣化していきます。だからこそ、賞味期限内においしく飲むのがいちばんなんですね。
低温殺菌と高温殺菌、そもそも何が違うの?
ここから、本題の殺菌方法の違いです。川上さんによると、いま日本の牛乳の殺菌方法は大きく2つに分けられるそうです。低温殺菌と高温殺菌です。
低温殺菌は、一般的に63度で30分ほど、比較的低い温度でじっくり加熱する方法です。牛乳本来の風味や栄養が損なわれにくく、搾りたてに近い味わいを残せる一方で、殺菌がおだやかなので日持ちは短めになります。
大量に流通させるには時間がかかってしまうため、広域の流通には向かない。そんな理由から、日本では高温殺菌が一般的になっているそうです。
高温殺菌は、120〜130度で2秒間、あるいは135度で2秒などと、短時間で強い熱をかける方法です。より多くの微生物を死滅させるので賞味期限は長くなりますが、風味はやや変化し、ビタミンなど熱に弱い成分は一部損なわれます。
63度で30分ほどじっくり加熱。風味や栄養が残りやすく搾りたてに近いけれど、日持ちは短め。
120〜135度で2秒ほど加熱。日持ちは長くなるが、風味がやや変わり熱に弱い成分は一部失われる。
さらに、超高温殺菌のロングライフ牛乳もあります。高温殺菌以上に高い熱で処理して、アルミ箔の入ったパックに詰めることで、封を開けなければ長くて半年ほど日持ちするそうです。
膜と光で菌を退治?海外で進む次世代の殺菌技術
続いて、質問にあった「新しい殺菌方法」の話です。日本ではあまり普及していませんが、海外の乳業会社では使われている事例があると、川上さんが紹介してくれます。
川上さんは普段からインドやロシアなど、海外の乳業会社のInstagramをフォローしていて、こうした技術の存在は知っていたそう。今回はAIにも改めて調べてもらい、わかりやすくまとめたうえで話してくれました。
いま注目されているのが、マイクロフィルターレーションとパルス光という2つの技術です。
マイクロフィルターレーションは、微細な膜を使って牛乳から菌だけを取り除く、物理的な除菌です。低温で処理できるので風味や栄養が壊れにくく、イタリアの会社などはこれと高温殺菌を組み合わせて、常温保存できておいしい牛乳を作っているそうです。
もう一つがパルス光です。強い光のフラッシュで菌を不活化させる技術で、フランスの乳業会社が行っています。牛乳パッケージの内側をこの光で殺菌して、菌の再汚染を防いでいるそうです。
将来的には、牛乳そのものに直接この光を当てて殺菌することも目指されていて、こちらはアメリカの乳業会社が取り組んでいるとのこと。加熱なしで菌だけを退治するという発想の殺菌方法です。
微細な膜で菌だけをこし取る物理的な除菌。低温で処理でき、風味や栄養が壊れにくい。イタリアの会社などが高温殺菌と組み合わせている。
強い光のフラッシュで菌を不活化させる技術。フランスの会社がパッケージ内側の殺菌に活用。牛乳そのものへの直接照射も目指されている。
水も薬品も減らせる?殺菌技術が環境にもやさしい理由
さらに面白いのは、これらの技術が持続可能性にも役立っているという点だと川上さんは話します。
マイクロフィルターレーションは、副産物からタンパク質や水を再利用することで、廃棄物を減らして資源を最大限に生かせる効果があるそうです。
パルス光のほうは、水も化学薬品も使わないので環境への負担が少ないのが特徴です。
この「水が少ない」という点について、川上さんはこう補足します。高温殺菌や低温殺菌では洗浄が必要で、その洗浄水が大量に出てしまうんですね。
川上さんは、AIに調べてもらった導入事例の会社名も紹介してくれました。
- マイクロフィルターレーション: イタリアのステルガルダアリメンティ
- 同: デンマークのSPXフロー、イギリスのエスミルプロセスシステムズ
- パルス光殺菌: フランスのクララノール、アメリカのキセノンコーポレーション
なお、これらの会社名は書き起こしの音声から起こしたもので、正式表記は確認が必要です。{要確認: ステルガルダアリメンティ/SPXフロー/エスミルプロセスシステムズ/クララノール/キセノンコーポレーション}
体細胞まで取り除く?世界で広がる殺菌技術と日本の事情
川上さんが自分で見たなかで印象的だったのが、ロシアの事例だそうです。超微細なフィルターを使って、菌がほとんど通らないようにする技術だといいます。
このフィルターのすごいところは、酪農家を悩ませる体細胞まで除去できる点だそう。牛乳に含まれる白血球などの細胞数のことです。
体細胞が高い牛乳が出ると、農場ではおいしくなくなってしまうので廃棄することがあります。それがフィルターで牛乳と一緒に処理できるので、川上さんは「これはすごい」と感じたそうです。
酪農家が体細胞が高い牛乳が出たりすると廃棄するんですよ。捨ててしまうんですよ、農場で。でもそういうのがもう一緒に牛乳で処理できるっていう技術があって、これすごいなあって思ったことがあります。
一方で、こうした技術が日本ですぐ広がるかというと、なかなか難しいところもあるようです。日本の流通事情や、中小の乳業会社の利益とのバランスもあって、導入のハードルは高いのかもしれない、と川上さんは話します。
常温保存が海外で発達したワケと、牛乳のデマとのつき合い方
リスナーからは「常温保存できるのすごい」というコメントも。日本では冷蔵庫の脇に牛乳ポケットがあるのが一般的ですが、それは食卓で牛乳を使う頻度が多く、量も多いからだと川上さんは言います。
さらに、日本はコールドチェーンがしっかりしていて、北海道から沖縄までどこでも低温で運べるのも大きいそうです。
一方、海外では道路がつながっていなかったり、届くのに時間がかかったりする地域もあります。そうした場所でも牛乳を飲みたいという需要から、常温保存の牛乳が発達してきた面があるそうです。
いろんな国でね、そこの国に合わせた技術が発達してるような感じじゃないですかね。
「日本ではこの殺菌方法はできないの?」という声には、AIが調べたところ、NASAの宇宙食の技術で使われていることもあるとのこと。牛乳では見かけなくても、ほかの食品で使われているかもしれない、と川上さんは話します。
最後に話題になったのが、牛乳をめぐるデマです。TikTokやYouTubeのショートなどで、牛乳を飲むと骨がどうこう、寿命が縮むといった話が出てくることもあるそう。
そういうのが出てきたら、リンクを私の方に送っていただいて、これ本当ですか?みたいなことを教えていただけたら、ちょっと調べたりとかしますので。
川上さんは、自分は牛乳を搾るだけの専門家なので違うところも多々あるはず、と前置きしつつ、気になったら気軽に聞いてほしいと呼びかけていました。AIで調べる際も情報源を確認しているそうです。
まとめ
リスナーさんの質問から、身近な牛乳の殺菌のしくみと、世界で進む最新技術まで広がった回でした。まずは「農産物だから期限内にね」という基本を押さえつつ、殺菌方法の奥深さを楽しんでみてくださいね。
- 切れた低温殺菌牛乳を煮沸すれば10日延ばせる、というのは川上さんいわく危険なデマ。加熱しても増えた菌自体はなくならない
- 低温殺菌は63度30分ほどで風味重視・日持ち短め、高温殺菌は120〜135度2秒ほどで日持ち長め。日本では高温殺菌が一般的
- 海外ではマイクロフィルターレーション(膜で菌をこし取る)やパルス光(強い光で殺菌)など、加熱に頼らない次世代技術が進む
- これらの技術は廃棄物や水・薬品を減らせる利点もあり、体細胞まで除ける事例も。日本での普及は流通事情などから難しい面もある
- 牛乳のデマを見かけたら、川上さんに送れば調べてもらえる。気になる質問はコメントやレターで気軽に寄せてみてくださいね


