急に夏がやってきた牧場の土曜日
番組はいつものように、牛乳での乾杯から始まります。
牛乳で乾杯。
この日は4月19日の土曜日。最高気温は25度まで上がる予報で、川上さんは「急に暑くなったね」とこぼします。
一昨日ぐらいから牛舎の扇風機をつけ始めたそうですが、まだ牛がハアハア言うほどではないとのこと。それでも、これから牛の体調が気になる気温になってきました。
いやー、ちょっとまた夏が早くない?と思ってますね。
この日の仕事は、牛の種付けを1頭、子牛の牛舎の掃除、堆肥の配達など。牧場の前の圃場には景観植物をまいて、見栄えを良くしようと考えているそうです。
前日は夜中の会議で帰りが1時になり、配信をお休みしたとのこと。今年39歳になる川上さんは、日をまたいでの飲み会が体力的にきついと苦笑いします。
反響が出てきた牧場体験とメンバーシップ
川上牧場では、noteでメンバーシップを行っています。継続的に応援したい人や、牧場と何か新しいことをやってみたい人に向けたものです。
オンラインでつないだ牧場体験や、直接牧場に来ての体験ができるほか、過去の有料記事も全部読み放題になるそうです。
インスタグラムでは「未来の牛乳」という取り組みも。みんなの「こんな牛乳あったらいいな」をAIアートでNFTにして販売し、その売上を子ども食堂への牛乳支援や食育活動の費用に充てているといいます。
こうした発信の影響か、少しずつ反響が出てきているそうです。4歳のお子さんが「乳搾りがしたい」と電話をくれたり、中学1年生の女の子が夏休みに牧場体験へ来ることが決まったりしています。
ちょっと熱意がある感じだったので、ちょっと今日はそれをやろうかなと思ってますね。
そもそもA判定ってどんな基準?
ここから、今回の本題であるお便りコーナーです。YouTubeに、こんな質問が届きました。
A判定を獲得した体細胞数9万はすごいんですか?どんなものなんでしょうか?
まず川上さんが整理するのは、A判定と体細胞数は別の衛生基準だということ。この2つはよく混同されがちですが、見ているものが違います。
A判定のほうは「細菌数(生菌数)」に関するもの。牛乳の中、つまりバルクというタンクの中に含まれる菌の数を見る基準です。
「牛乳に菌が入っているの?」と思うかもしれませんが、搾りたての牛乳には少しは菌がいます。乳房を綺麗に拭き取っても、空気中にも細菌はいるからです。
その菌が栄養豊富な牛乳に入り、気温や牛乳の温度が高いと、1つが2つ、2つが4つ、と倍々に増えていきます。だから牧場では、バルククーラーで冷やしてそれ以上増えないようにしているのです。
A判定は「どんな菌がいるか」を見ている
A判定は、菌の中でもどんな種類の菌が入っているかを基準に見ていきます。
大腸菌、黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、耐熱性菌など、いろいろな菌の項目があり、それらがほとんどなかったですよ、というのがA判定です。空気中の菌は少しはいるものの、それ以上に衛生的に綺麗だった、という評価になります。
川上さんにとって特に感慨深いのが、黄色ブドウ球菌です。就農した頃は牧場内でこの菌に罹患した牛が多く、牛群の7割ぐらいがそうだったといいます。それがやっと、就農10年目でほぼ0になろうとしているそうです。
体細胞数が教えてくれる牛の健康サイン
一方の体細胞数は、牛の乳房から出てくる牛乳の中に含まれる、白血球などの細胞の数のことです。
人間も、体に異常があったり手に傷をしたりすると、血液検査で白血球の数字が増えます。牛も同じで、体細胞数が増えていると、乳房の中に炎症があるなどのサインになります。
つまり体細胞数が多いのは、乳房のどこかに異常があるというサインなのです。乳房炎という牛の病気や、気温の変化による免疫力の動きなどが背景にあります。
体細胞数が多い牛乳は、風味の面でもデメリットがあります。塩味が強くてしょっぱくなったり、バターや生クリームにするときの泡立ちや歩留まりが落ちたりするといわれています。
だから、体細胞数が低い牛乳のほうが品質が良いとされます。健康な牛から出た牛乳は風味が安定し、保存性も良いからです。
9万という数字がすごい理由
では、体細胞数は一般的にどれくらいなのでしょうか。市販の牛乳は、体細胞数30万以下とされています。
体細胞数がゼロというのはほぼありません。生き物ですから、大なり小なり脱落細胞と呼ばれる細胞が牛乳に入るためです。
この日、川上さんの牧場のバルクは9万という数字でした。多くの牛を飼っていると、それだけ脱落細胞も出てくるので、バルク全体で9万以下というのは、かなり良い数字だといいます。
この数字が良いということは、牛の健康管理ができていて、乳房炎の発生が抑えられ、搾乳や牛舎の管理、餌づくりまでしっかりできている指標になります。
体細胞数と細菌数の違いを整理すると、次のようになります。
牛乳の中にどんな菌がどれくらいいるかを見る基準。衛生管理の綺麗さを表します。
牛乳の中の白血球など細胞の数。牛の乳房の健康状態や品質を表します。
数字よりうれしかったこと
川上さんが今回いちばん嬉しかったのは、暑かったり寒かったりと気温の変化が激しいこの時期に、良い数字が出たことでした。
餌づくりも牛の管理もちゃんとできている。数字そのものよりも、それが証明されたことへの安心感が大きかったといいます。
体細胞数は牛乳パックの裏には書かれていない、消費者には見えない数字です。それでも、酪農家が出荷する際の大切な基準として、日々の努力を静かに映し出しています。
最後に川上さんは、土曜日でも仕事や学校に向かう人たちへ「みんな牛乳飲んでね」と声をかけて配信を締めくくりました。
まとめ
今回は、YouTubeに届いた「体細胞数9万ってすごいの?」という質問をきっかけに、牛乳の品質を支える2つの数字が語られました。数字の裏には、10年かけて牧場を良くしてきた酪農家の日々があります。
- A判定は牛乳の中の菌の種類、体細胞数は牛の乳房の健康状態を見る、別々の基準
- 体細胞数が多いと乳房の異常のサインで、風味や加工のしやすさも落ちる
- 市販の牛乳は体細胞数30万以下が目安で、バルク全体で9万以下はかなり良い数字
- 良い数字は、牛の健康管理や餌づくりまでしっかりできている証でもある


