お金は好き?嫌い?最終日の授業はここから
川上牧場の職場体験は、この日が最終日です。一昨日は仕事についての質問、昨日はライフプランシミュレーションをやり、人生にはかなりお金がかかるとわかったところで、川上さんは「今日はお金のお勉強」と切り出します。
干し草運びで筋肉が疲れたという中学生に対し、高校生は「慣れてるんで」と余裕の様子。そんな雑談のあと、川上さんは結婚や大学進学など、働いてもお金が足りず夢が実現しにくい現実を少し楽にしてあげたいと話します。
最初の問いは「お金は好きか、嫌いか」。体験生たちの答えは分かれました。
(お金は)大好きです。やりたいことができるから。
(お金で)できる範囲というか、行動範囲が広がるというか。
一方で、お金がそれほど好きではないという体験生もいて、その理由は「怖さ」でした。
人って金で変わるって言うじゃないですか。だからちょっと怖いなと。
川上さんは、感じ方は人それぞれとしたうえで、お金がないとやりたいことができないのが今の世の中だけれど、お金がなくてもできることもたくさんある、と授業の前提を示しました。
突然1万円をもらったら、何に使う?
最初のお題は「突然1万円をもらったら何に使うか」。お年玉でもらいそうな額だね、という反応から話が始まります。
ある体験生は、お年玉を誰からいくらもらったか毎年記録し、欲しいものにだけ使って、残りはお母さんと一緒に自分の口座へ貯金しに行っているそうです。川上さんも「素晴らしい」と感心していました。
高校生は、ジュースを買うなど高校生活の足しにすると答えます。もう一人は、あまり遊びに行かないので、そのまま貯まっていくだけだと話しました。
川上さんはここで、お金には「今の自分を楽しませる使い方」と「未来の自分を助ける使い方」があり、両方に使えるのが一番いい流れだと伝えています。
映画は消費?浪費?投資?答えが割れたクイズ
続いては「消費・浪費・投資」のクイズです。川上さんは、食べ物や住まい、今ならスマホのように生きるために必要なものが消費、コンビニでつい買ってしまったお菓子のような予定外の出費が浪費、将来につながるものが投資、と例を挙げて説明しました。
| 分類 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 消費 | 生活や生きるために必要なもの | 食べ物、住まい、スマホ |
| 浪費 | 買うつもりがなかったのに買ったもの | ついで買いのお菓子 |
| 投資 | 将来につながるもの | 勉強のための本など |
1問目は「友達と映画を見に行く」。体験生の一人は、相手が仕事関係や取引先なら何かのきっかけでお金に変わるかもしれないけれど、地元の友達なら楽しいだけで終わるかも、と相手の重要度から分析します。
この映画を見るっていう行為が消費か浪費か投資になるっていうのは、その結果見てみないとわからない。
2問目は「英語を学ぶために3000円の本を買った」。体験生は「投資」と答えつつ、買うだけでは足りないと付け加えます。
ちゃんと勉強して、それで英検何級とかに受かったら、その時に初めて自己投資になると思います。
AIで自動翻訳できる時代に英検は意味があるのかと川上さんが揺さぶると、体験生は、翻訳は誰でもできるが自分から英語を発するのはスキルがある人だけで、それが強みだと返しました。
3問目は「牧場が牛の餌を購入した」。体験生は仕事で将来お金になるから投資だと答えます。牛が病気で倒れて売り上げが0になったら、と問われても、こう答えました。
(餌を)あげた時点では投資しとって、それがたまたま失敗したってことだから、目的は投資で、それが失敗しただけだから別に大丈夫。
川上さんはこのクイズのまとめとして、消費・浪費・投資は金額だけでは決まらない、目的や得られる価値が大事だと話しています。
ゲームは浪費だった?貯金と思い出の価値
次は貯金の話です。毎月1000円を貯金したら5年後にはいくらか、という問いに、川上さんは6万円だと示し、貯金は未来に選択肢を残しておくことだと説明しました。
川上さんは、今お金がないのは過去の自分が貯金していなかったからだと指摘しつつ、浪費に使った思い出はないかと問いかけます。体験生がゲームを挙げたところで、意外な話が出てきました。
小学4年生の頃まで一切ゲーム機持ってなかったんですよ。
それでほとんど友達ができなかったんですけど、ゲーム機買ってもらってから結構友達ができるようになったんで、それは今から考えれば浪費に見えるけど、長期的に見えた、なんか投資だったのかな。
川上さん自身にも似た経験があります。ゲーム『牧場物語』が大好きで配信していたことから、牧場物語の元スタッフと知り合い、川上牧場のホームページや名刺を作ってもらったそうです。その縁で招かれた結婚式では、主人公のコスチュームを着たこともあるといいます。
それは投資か消費か、と問われた体験生の答えは「わかんない」。川上さんも同意し、貯金があれば行きたい学校や欲しいパソコン、急な出費のときに選べる選択肢が増える、と話を締めました。
借金はいいこと?悪いこと?計画のある借金とない借金
借金はいいことか悪いことか、という二択には、「使い方による」という答えと、「未来の自分に負担を与えるから悪い」という答えが出ました。貯金が未来の自分へのプレゼントなら、借金はその逆というわけです。
「誰に借りるかが大事」という体験生は、悪い借り方として裏の人間や顔も知らない人を挙げます。SNSで大富豪がいきなりお金を渡してバズる動画についても、「あれはコンテンツの一環で、貸し借りが目的ではない」と冷静でした。
そこで川上さんは、2つのケースを比べます。どちらも同じ借金ですが、体験生はすぐに違いを「見通しがあるか」だと答えました。
欲しいものを買うために、返済計画なしで10万円借りる
牧場の搾乳設備を更新するために、返済計画を立ててお金を借りる
川上さんは、借金は未来の収入を先に使うことで、借りる目的と、利息 ── お金を借りた側が、借りた金額に上乗せして払う使用料のようなもの。借りる期間が長いほど、金額が大きいほど負担が増えますを含めて返済できるかが重要だと説明します。
ただし設備投資でも収益が増える保証はありません。借金して買った牛が病気になれば返済計画が崩れますし、川上さん自身も建物を建てて借金した直後にコロナが来て、本当に大変だったと話しています。
株の投資と自己投資、どう違う?
金融投資のイメージを聞かれた体験生は、企業にお金を渡し、企業が儲かったら渡した額より少し多く返ってくるもの、と答えます。川上さんは「正しい」と応じ、任天堂を例に、面白いゲームへの期待で投資してもAIの台頭で株が下がることもある、と説明しました。
一方の自己投資について、体験生は筋トレを挙げ、自信がつくなど自分にプラスになるものが自己投資だと考えます。川上さんは、好きなお菓子やアイスで気分が上がって午後の勉強が捗るなら、それは自己投資か、と問いを重ねました。
金融投資の例として、川上さんは1万円を年5%で運用できたと仮定した場合の数字を示します。体験生からは「長く続けることが大事」という声も出ました。
川上さんは、勉強や経験で身につけた能力がその後の成長を助けることが自己投資だと説明し、研修で覚えたことを聞きます。体験生からは、牛は自分の子どもでなくても育てられること、搾乳のやり方、餌の量、1日の作業時間などが挙がりました。
あらためて最初の1万円の使い道を聞くと、ある体験生は貯金と投資用の口座に入れると答え、別の体験生は投資の話を聞いて半分くらい投資してみようかと考えを変えていました。
親世代の「貯金しなさい」が通じにくい理由
ここで川上さんは、親や先生が「貯金しなさい」と言う背景を説明します。親世代が生まれてから今までの日本はデフレ ── 物の値段が全体として下がり続ける状態。同じお金で買える量が増えるので、お金の価値は相対的に上がりますの状況で、物の価値が下がっていくため、貯金しておくほど得だったといいます。
今はその逆で、おにぎりを例にとると、手元のお金の額は変わらないのにおにぎりの値段が上がれば、買える数が減ってしまいます。これがインフレで、貯金するほどお金の価値が下がっていく、と川上さんは話しました。
物の値段が変わらないか下がる。スマホも新機種が出て値下がりし、貯金するほど得
物の値段が上がる。中古でも安くならず、使っていないのにお金の価値が減る
必ずしも貯金がいいとは限らない。
川上さんはそれも選択肢の一つだとし、話を自己投資へつなげます。お金で勉強して英検を取れば、来年の自分はさらに伸びていて、いい企業に就けるかもしれない。お金の価値は変わらなくても、自分の価値が上がるのが自己投資だと説明しました。
最適解がない難しさを口にする体験生に、川上さんは、国や立場、生活環境で答えは違うと認めます。そのうえで、お金は銀行がなくなれば失うかもしれないけれど、自分に投資した経験や知識はどんな時代でも奪われない、と伝えたかったと話しています。
100万円、1000万円、1億円ならどう使う?
最後は金額を大きくして考えます。ある体験生は家族旅行に行きたいと答え、川上さんは「お父さんお母さんに聞かせてあげたい」と感激していました。高校進学のためのお金、個人的なもの、余りは貯金、と順番に考える体験生もいます。
別の体験生は、ライフプランシミュレーションで知った初期費用分をまず確保し、残りを投資と自己投資に分けると答えました。川上さんは、1つの金額で1つの物を買おうとせず、割合で分けて使えるようになることが大事だと評価しています。
1000万円では、「やりたいことがないので変わらない」という答えも出ました。川上さんが将来に向けて今やっておきたいことはないかと促すと、大学の費用という発想が出てきます。
日本人の平均年収が400万ぐらいなんで、やっぱ1000万ってすごく大きいお金だと思うんですよ。
この体験生は、個人的な使い道はほどほどにして、大半を将来の備えに回したいと話します。別の体験生は、半分を親への仕送りに、残り半分を大学の入学金などに充てたいと答えました。
1億円になると「気が狂っちゃいそう」という声も。子どもなので年齢制限で何もできない、大人になるまで貯めたいという意見に対し、川上さんは物価上昇率を2%とすれば年間200万円ほど目減りすると示しました。
ある体験生は、まずお姉ちゃんに渡して家と車を買ってもらい、兄弟3人に1000万円ずつ分けると話します。親や兄弟にあげるのは消費・浪費・投資のどれか、と聞かれると、感謝の表れだから無駄ではないと答えました。
川上さんは親の立場から、子どもには自分のために使ってほしいと率直に語ります。
世界旅行行ってなんか経験したとかね、好きな友達と遊んだ経験したとかしてもらった方が親としては嬉しいね。
さらに川上さんは、お金が貯まっても使い道が浮かばないのは知識や経験がないからで、自己投資がまだ足りないという見方を示しました。「行き着くところは勉強ですか」という体験生の問いに、自分はやりたいことがあふれている、と応じています。
「数学よりむずい」職場体験生の感想
授業の感想は、まず「むずいっす」。川上さんは、これは学校の勉強ではなく社会に出てから起こることだと話し、今欲しい1000円のものが10倍、100倍になる感覚で、割合は同じだと覚えてほしいと伝えました。
こういう金融の具体的なお話って、学校では多分絶対聞かないんですよね。
(金融が)大事っていう噂は流れてるけど、実際に科目としてはないので非常にありがたい機会で。
高校生は「学校の数学より全然むずい」と言いつつ、これからの自分に活かせることがたくさんあり、今度実践してみたいと話しました。
川上さんが、前日のライフプランシミュレーションのあと何か行動したかと聞くと、塾だったけれど生き方は変わっていないという答え。それでも、勉強するときに将来のことを少し思い出すようになったそうです。
川上さんは、この配信はいつでも聞き返せるので、困ったときの振り返りに使ってほしいと話し、ぜひ親子で一緒に聞いてほしいと呼びかけて職場体験を締めくくりました。
まとめ
この回は、1万円の使い道から1億円の使い道まで、中高生が自分の頭で考えながらお金と向き合った授業でした。川上さんが最後に強調したのは、時代が変わっても奪われない自己投資の大切さです。
- 消費・浪費・投資は金額ではなく、目的や得られる価値で決まる
- 借金は未来の収入を先に使うことで、返済の見通しがあるかで意味が変わる
- インフレの今は、貯金だけでは使わなくてもお金の価値が目減りする
- お金の使い道が浮かばないのは知識や経験が足りないからで、自己投資がその答えになる
- 経験や知識は、お金と違って誰にも奪われない





