リスナーから届いた「牛が亡くなったとき」の問い
この日の配信で取り上げたのは、Spoonという配信アプリから届いた1通の質問でした。以前「牛って最後どうなるんですか?」という話をしたことがあり、その関連で寄せられたものです。
質問の主は、SpoonネームみずみずCさん。内容はかなり踏み込んだものでした。
亡くなった個体が出た場合、川上さんとしてはどのような感情なのでしょうか?経済的損失が大きく、処理も面倒で非常に残念という感じなのか、それとも想定内なのでそこまでがっかりというわけでもないのでしょうか?あと、一頭亡くなるごとに経済的なダメージはどれくらいなものなのでしょうか?
川上さんはまず、これはあくまで自分ひとりの考えだと前置きします。酪農家といっても感じ方は人それぞれで、正解があるわけではないからです。
仕事にしているので、感情的なものというのはペットとは違うんですね。
こういうふうに考えている酪農家もいるよ、という一人の意見として聞いていただけたらと思います。
ショックかどうかは「牛による」という本音
最初のテーマは、牛が亡くなったときショックを受けるのかどうか。川上さんの答えは、ショックかどうかは牛によるというものでした。
ただ、ここでいう思い入れは、いわゆる可愛がる愛情とは少し違います。血統を重ねて能力の高さを見込んで育ててきた牛だからこその思い入れです。
血統のいいお父さんと血統のいいお母さんを組み合わせて、この子はすごい能力が高いと思って育てているんです。
だから、その牛からまた子牛を取りたかったな、もっといい牛が生まれたらどうなっていたんだろうな、という残念な気持ちになります。
特にこたえるのが、ゲノム検査 ── 牛の遺伝子を調べて、乳量や体型などの能力をあらかじめ予測する検査。数値化された評価をもとに、繁殖や選抜の判断に使われます。で高い評価が出ていた牛を失ったときだといいます。
目の前で息を引き取った子牛。今も浮かぶ情景
川上さんは、実際に強く落ち込んだ2つの出来事を語ります。ひとつは、アメリカから輸入した受精卵をやっと受胎させたときのことでした。
やっと受胎させて、よっしゃよっしゃ、これでかなり能力が上がるぞと思っていたんです。
ところが分娩のとき、その子牛は逆子でした。生まれた瞬間は生きていたものの、水をかけたり人工呼吸のようなことをしても、そのまま息を引き取ってしまったといいます。
目の前で生まれた時は生きていたんですけど、そのまま息を引き取ってしまって。めちゃめちゃ落ち込みましたね。1週間ぐらいでしょうか。
もうひとつは、牛の美人コンテスト共進会 ── 牛の体型や資質を競う品評会。「牛の美人コンテスト」とも呼ばれ、優秀な牛の血統は繁殖でも高く評価されます。で2連覇した牛の子牛の話。初産を迎えた7月、夏の暑さで熱中症になり、亡くなってしまいました。
今でも思い出したくないぐらいトラウマになっていて。あの時生かしていたら、もっと良くなっただろうなと思ったりします。
更新で牛が出ていくときは「淡々と業務として」
一方で、すべての牛に同じ感情を抱くわけではないと川上さんははっきり言います。ここが、この回のいちばん正直な部分かもしれません。
能力が低い牛や繁殖性が悪い牛が牛群の更新で出ていくときは、特別な感情は入らないといいます。
お疲れ様という感じもないですし、よく頑張ったねという感情もあまりなくて、もう淡々と業務の一環としてやっている感じです。
その背景にあるのが、牛を経済動物 ── 食料や労働など、人間の経済活動のために飼育される動物のこと。ペットなどの愛玩動物と区別して使われる言葉です。として飼っているという考え方です。川上さんは、牛がどれだけ人間の役に立てるかが、その牛の価値だと思っていると語ります。
最後までお肉になれば価値が上がったと思って、酪農家としての役目ができたなと納得する。その繰り返しですかね。
一頭失うと、経済的なダメージはどれくらい?
もうひとつの質問、経済的なダメージについては「ケースバイケース」という答えでした。カギになるのが、ほとんどの酪農家が加入している家畜共済 ── 牛などの家畜が死んだり病気になったりしたときに、共済金が支払われる公的な保険制度。掛金は農家ごとに設定できます。という仕組みです。
死んでしまった牛に対して、保険金のようなものが出る制度です。川上牧場は掛金を高めに設定しているといいます。理由は、やはり夏の暑さでした。
夏に暑さで亡くなる牛が多いので、家畜共済に入っていないと経済損失がものすごいあるんです。だから結構高めにかけています。
保険金の額は、前年の家畜市場の牛の価格をもとに、その何パーセントという形で決まります。掛け具合によって入ってくる額も変わる仕組みです。
優秀な牛ほど損失が大きくなるという矛盾
ただ、この仕組みには川上さんが痛感している弱点があります。掛金は牛の年齢によって決まり、能力の高さは関係しないという点です。
つまり、めちゃくちゃ優秀な牛でも、そうでない牛でも、同じ年齢なら掛金は一緒。すると、こんな状況が起きます。
若くて優秀な牛が死んでしまった時は、マジで経済損失がでかいんですよね。優秀な牛なのに保険金は少ないという状況になるので。
能力の価値は保険では反映されない。だからこそ、優秀な牛を失うことは経済的にも精神的にも大きい、という話でした。
ドライに聞こえたら、その気持ちも聞かせてほしい
川上さんは最後に、自分の話し方が少しドライに聞こえるかもしれない、とみずから振り返ります。
牛一頭一頭に名前をつけて愛情を込めて育てる酪農家もいる。だからこそ、いろんな人がいる、と繰り返します。
これを聞いてモヤモヤしたり、素直に牛乳を飲めないなと思った場合は、その気持ちをコメント欄でしていただけたら嬉しいです。
こんな酪農家もいますよということを知ってもらえたら嬉しいなと思います。
なお、優秀な牛とはどんな牛なのかについては、ゲノム検査の評価が日本やアメリカのランキング上位にあるかどうかがひとつの目安になるそうです。人間でいう偏差値のようなイメージだといいます。
こうした話をさらに詳しく知りたい人に向けて、6月30日発売のKindle本『酪農未経験者のために』が紹介されました。牛の評価などについても書かれているそうです。
まとめ
牛が亡くなったとき酪農家は何を思うのか。川上さんの答えは、感情も損失も「牛による」というものでした。愛玩ではなく経済動物として向き合う一方で、期待をかけた牛を失う痛みは今も消えていない。その正直さが伝わる回でした。
- 亡くなったときにショックを受けるかどうかは、その牛への思い入れ次第で「牛による」
- ここでいう思い入れは、血統や能力への期待にもとづくもので、愛玩の感情とは少し違う
- 更新で出ていく牛には特別な感情を持たず、経済動物として淡々と向き合っている
- 経済的ダメージは家畜共済で補われるが、能力は反映されず、若く優秀な牛ほど損失が大きい
- 同じ酪農でも感じ方は人それぞれで、これはあくまで川上さん一人の考えとして語られている



