「人間社会の不自然さを感じる瞬間」への問い
今回のお便りコーナーに届いたのは、こんな質問です。
酪農をやっていて、人間社会の不自然さを感じる瞬間ってありますか?
川上さんはもともと、牛や動物、牛乳が好きで酪農家を目指した人。一般社会のサラリーマンとして働くことは、そもそも考えていなかったといいます。
学生時代にはいろいろなアルバイトも経験しました。体を使う仕事なら無我夢中でできた一方で、電子部品の流れ作業のように延々と同じことを繰り返す仕事は、時給は良かったけれど本当につらかったと振り返ります。
本当に合わないですね、一般社会の。体を使う仕事だったら無我夢中でできるんですけど。
自然には抗えない、という感覚
農業は第一次産業。晴れ、雨、曇り、風といった天候に合わせて、その日1日のスケジュールを決めていく仕事です。
ここで川上さんが強調するのは、自然には抗えないという感覚です。晴れの日を雨に変えることはできないので、なるようになるように動くしかない、と話します。
そのうえで、一般社会の働き方との違いをこんなふうに投げかけます。
皆さんの会社では、頑張れば売り上げが上がるとか、頑張ればなんとかなるみたいな感じ、ないですか?
いや、抗えないもんは抗えないよって思ってますね。自然には勝てないんですから。
予定を決めたようにこなせたらいいけれど、突然の牛の出産や、強い風で屋根が飛んだり堆肥車が壊れたりすることもある。それが酪農だといいます。
「止まってはいけない社会」との温度差
続いて話は、社会全体のリズムへと移ります。コンビニや物流のように、仕事がどんどん降ってきて止まらない世界のことです。
止まってしまうとサボりや負けのように見られる——そんな感覚が社会にはあるのでは、と川上さんは想像します。あくまで「社会に出たことがないのでよく知らないんですけど」と前置きしながらの話です。
一方で酪農は、雨の日は休む、牛が餌を食べた後は休ませる、といった区切りがあります。これも自然に合わせて動いているからこそのリズムだといいます。
さらに、牛という生き物ならではの難しさもあります。繁殖管理や出産、病気などはコントロールできるよう努力していても、急な不慮の出来事が起きることがあるのです。
だからこそ、牛乳は工業製品とは違うのだと川上さんは語ります。
牛乳も工業製品と違って、牛からできている農産物、生き物なので、そういう大変さが酪農にはあるのかなと思います。
一般社会で働く人へのリスペクトと「農業やってみて」
話しているうちに、川上さん自身も「一般社会に出ていないから、中身がふわふわしている」と笑いながら、正直な感想にたどり着きます。
そのうえで、社会の大変さを感じた人にこそ、一度第一次産業を体験してみてほしいと呼びかけます。炎天下での作業や、収穫のタイムリミットに追われる日々です。
たとえば、雨が降るまでの数日で牧草を収穫しきらないといけない日や、牛の分娩が重なって普段の仕事ができない日。そんな酪農ならではの大変さも、体験を通して感じてもらえたら嬉しい、と話します。
雨があと数日で降ってしまう、それまでに牧草を収穫しないといけないから、今日中に1日中やっていかなきゃいけないとか。
リスナーのコメントから広がる「使い捨てと歴史」の話
配信の後半では、リスナーからのコメントに答えていきます。工場のライン作業のつらさに共感する声には、日本の車産業を支える流れ作業への敬意を示しつつ、自分にはやはり難しいと打ち明けます。
酪農業も毎日8時間ずっと搾乳作業とか、哺乳し続ける牧場もあるんで、大型化するとそうなのかもしれないですけど、耐えられないですね、僕は。
さらに「使い捨てを良しとする消費の時代なのに、末長く使えてほしいという感覚も残っていてギャップを感じる」というコメントに、川上さんは農業ならではの視点で答えます。
農業は代々続けていくもの。普通に生活しているだけで、先代の重みや歴史が肩に乗ってくる感覚があるといいます。婿として牧場を継いだ川上さんは、なおさらそう感じるそうです。
老舗のお菓子屋さんや骨董品屋さんにも近いものがあるかもしれない。それでも農業はやはり特別なのでは、と川上さんは語りかけます。
まとめ
今回は、酪農家の川上さんが「人間社会の不自然さを感じる瞬間」という質問に、自然や牛に合わせて働く暮らしの視点から答えた回でした。頑張れば何とかなるわけではない世界で、自然に寄り添って働く感覚が、やさしい言葉で語られています。
- 酪農は天候や牛に合わせて動く仕事で、自然には抗えないという感覚が根っこにある
- 止まってはいけない社会のリズムと、休むべき時に休む酪農のリズムには温度差がある
- 牛乳は生き物からできる農産物ゆえに、工業製品とは違う大変さがある
- 一般社会で働く人への敬意とともに、第一次産業の体験を呼びかけている
- 代々続く家業を継ぐ歴史の重みは、農業ならではの特殊さとして語られた




