研修生が気になった、ミルカーの番号の秘密
今回のテーマは搾乳。研修生さんは搾乳を始めて2ヶ月ちょっと。そのなかで前から気になっていたことを川上さんにぶつけます。
ミルカーには番号が振ってあって、牛の順番によってつける番号が決まっているそうです。研修生さんが気になったのは、真空ポンプの空気量まで牛ごとに考えて設定しているのか、という点でした。
ポンプの空気量を、牛のことを川上さんが考えてやってんのかなと思ってたんですけど、聞いてなかったので気になりました。
考えてます。引いちゃうぐらい。
川上さんいわく、搾乳が嫌いだからこそ、どれだけ短縮して効率よくできるかを就農してからずっと考え続けてきたのだそう。
同じタイミング、同じ番号、同じ角度で搾る理由
牛は生き物なので日々状態が変わります。それでも、毎回同じタイミング・同じ番号のミルカー・同じ角度でやれば、基本的には同じように搾れるはず。だから全部番号を決めてしまったほうが楽なんだ、と川上さんは話します。
搾乳って牛が生き物なんで日々変わるじゃないですか。でも毎回同じタイミングで同じ番号のミルカーつけて、同じ角度で同じ状態ですれば同じように搾れるはずなんですよね。
さらに細かい事情もあります。牛が接触部分を折ってしまって壊れている箇所が2〜3箇所あり、5番と6番のミルカーは電気ではなく空気を使う「エアパル」になっているそう。
拍動数とは、1分間にミルカーが開いて閉じてを繰り返す回数のこと。5番6番はそれが10ほど違うそうですが、パーツを合わせているのでごくわずかな差にとどまっています。
人が変わったり搾り方が変わったりすると、牛にとってはストレスになります。それを避けるために、同じ番号のミルカーで同じようにやることを徹底しているんですね。
左右どちらから搾る?牛ごとに決まる並び順
搾乳と餌やりの場所が入れ替わっても、牛の順番は変わらないのか。研修生さんの問いに、川上さんは「順番は変わる」と答えます。
搾乳量が多いか、癖があるか、乳房の右が大きいか左が大きいか。そうした優先順位を考えて配置を決めているそうです。右から搾るか左から搾るかまで、牛ごとに考えられています。
左右は知らなかったです。
1年365日、1日2回ずっと左側から搾られると、乳房が左に寄ってきてしまうのだとか。だから次の乳期はまっすぐになるように搾り方を変えたほうがいい、という配慮まであります。
さらに、牛同士が育成舎で一緒に育った順や、番号が近い順、月齢が近い順まで考えて並びを決めているそうです。ここまで来ると、研修生さんならずとも驚いてしまいますよね。
三百六十五日一日二回左側からずっと搾られるから左側に乳房が寄ってくるんです。だから次の乳期の時はこう搾った方が本当はいい。
牛を動かす川上牧場と、動かさない多くの牧場
こうしたやり方は、ほかの牧場でも一般的なのでしょうか。研修生さんの疑問に、川上さんは「ほとんどの牧場は牛を動かさない」と説明します。
多くの牧場では、搾乳も餌やりもその場で行います。一方、川上牧場では牛を動かして搾乳だけの場所に寄せる方式をとっています。
搾乳も餌やりもその場で行う。牛ごとに絞る絞らないを足のバンドやスプレーで見分ける
搾乳だけの場所に牛を寄せる。ヘルパーが来ても管理しやすく、搾乳速度が速い
なぜ牛を動かすのか。それは、ヘルパーさんが来て搾り手が変わっても管理しやすくするためでした。
川上さんは、絞る牛と絞らない牛が混在する牧場にヘルパーで入ったとき、引き継ぎの言い忘れで搾ってはいけない牛を搾ってしまい、バルク(生乳タンク)を全部廃棄する事故を経験したそう。だからこそ、搾乳だけの場所に寄せる方式にしているんですね。
搾乳の速度は速いね。だから本当に、搾乳が好きな人より搾乳はうまいと思いますね。嫌いだから。
朝のほうがミルクが出る理由は、餌とルーメンの設計
研修生さんが朝の搾乳に入ったとき、夕方に比べて朝のほうがミルクの出がよく、搾る前から漏れてしまう子が多かったといいます。
朝の方がめっちゃ出てる子が多かったから。なんでなんだろうと。
理由のひとつは搾乳時間の差ですが、大きいのは餌の設計です。川上さんは牛のお腹の中、ルーメンの消化率を考えて餌を組み立てています。
朝は食欲があり、餌の吸収がよいタイミング。そこで草をしっかり食べ込ませ、配合の比率を高めにしているそうです。その影響が翌朝の乳量に出てくるという仕組みです。
もうひとつは、夜に牛が寝ることの効果。600〜700キロある体の中で血液を循環させるとき、立っているより寝ているほうが循環効率がよく、乳房に血液がよく回って乳量が増えるのだそうです。
長いホースがあったとして、めちゃめちゃ体を張り巡らされてやるより、ちっちゃくギュッてやった方が効率よく回るでしょ。
漏乳とカルシウム、そして乳房炎のリスク
搾る前にミルクが漏れてしまう現象は「漏乳」と呼ばれます。漏乳する子は乳量が多いこともありますが、餌のカルシウム不足のサインでもあるそうです。
カルシウムは筋肉の収縮に使われるため、カルシウム剤を多めにすると漏乳が減るといいます。川上牧場では自動餌やり機の中にカルシウム剤が入っているそうです。
漏乳しているということは乳頭が開いているということ。それは乳房炎の原因にもなるので、本当はないほうがいい、と川上さんは話します。
絞ってほしいくせに蹴るんですよね。
イラッとするでしょ?共感してくれ。だから僕は搾乳が嫌いなんです。搾乳ロボットがいいです。
蹴られながら搾る現実と、搾乳ロボットへの憧れ
この時期は虫が多く、牛が足を蹴る「差し芝居(差し蝿)」が増えるそうです。牛舎に入った時点でカンカン蹴ってきて、ミルカーが外れてしまうことも。
牧場によっては、前足を縛ったり、鼻をロープで引っ張ったり、後ろ足に「同時め」という器具を全頭につけて蹴れないようにして搾るところもあるそうです。
蹴ってくるのによくやりますよね。あれはどういうテクニックなんですか?
川上さん自身に特別なテクニックはないといいます。ただ、牛の飛節の向きや足の関節のつき方で蹴る角度がわかるので、足が向かってこない位置に立っているのだそう。
足の角度でも蹴る角度がわかるので。足が向かってこないところに立ってれば来ないですね。
それでも蹴られて怪我をすることはあるといいます。だからこそ、川上さんは何度も搾乳ロボットが欲しいと口にします。
つなぎ牛舎用の搾乳ロボットは、機械が牛のところへ動いて体を固定し、アームで乳頭を洗浄・殺菌してから搾ってくれるそうです。ただ、導入費用が高く、日本ではなかなか広まらないと話します。
搾乳のカギはオキシトシン。5分で搾りきる理想
最後に、搾乳とホルモンの関係。前搾りをして牛に刺激を入れると、オキシトシンというホルモンが出て、乳を出すシグナルが送られます。
オキシトシンのピークは1分半〜2分。そこから徐々に下がり、5分ほどでなくなるため、5分ぐらいで搾りきるのが理想の搾乳になるそうです。
ただし、差し蝿に刺されて痛かったり、牛が恐怖やびっくりを感じたりするとアドレナリンが出ます。すると一気にオキシトシンが下がり、乳を出さなくなってしまうのだとか。
だからこそ、牛をリラックスさせることが大切。餌を食べている時に搾ることもあれば、食べ終わって反芻しリラックスしている時に搾ることもあり、ケースバイケースだといいます。
体が重い牛にとって立ち座りは負担なので、その回数を減らすことも川上さんは意識しています。昼や夜に歩いても牛は立たず、リラックスしているそうです。
ルーティンが一番大事で。
ルーティンで動く生き物なので。
まとめ
搾乳が嫌いだからこそ、どうすれば効率よく、牛にストレスをかけずに搾れるかを突き詰めてきた川上さん。番号や角度、左右、並び順、餌の設計まで、そのこだわりは細部に宿っていました。牛を生き物として理解しようとする姿勢が、結果的にうまい搾乳につながっているんですね。
- 搾乳は同じタイミング・番号・角度で行い、牛のストレスを減らすことを徹底している
- 牛ごとに乳量・癖・乳房の左右差を考えて並び順や搾る向きを決めている
- 朝の乳量が多いのは餌とルーメンの設計、そして夜に寝ることで血液循環が上がるため
- 漏乳はカルシウム不足のサインでもあり、乳房炎のリスクにもつながる
- オキシトシンがピークとなる搾乳開始から5分ほどで搾りきるのが理想

