子牛の耳につく黄色い札「個体識別番号」とは
収録日は10月1日。前日に生まれたばかりの子牛に、研修生が個体識別番号をつけたところから話が始まります。
そもそも個体識別番号とは、牛の耳についている黄色い札のこと。「何のことかわからないリスナーさんもいるはず」という話から、川上さんが噛みくだいて説明していきます。
何でつけるんですか?
子牛がどこの牧場で生まれたか、お父さんお母さんがわかるっていうこと。あとは川上牧場で生まれて、別の牧場に行きましたみたいな、牛の移動も全部わかります。
牛が生まれてからお肉になって死んでしまうまで、その履歴が個体識別番号ですべてインターネットで追えるようになっているそうです。
これがないと、たとえば母がホルスタイン、父が別品種といった場合に「本当にこの子は黒毛和牛100%なのか」を証明できず、後々問題になると研修生は理解していきます。
岩手の牧場で起きたトレーサビリティ法違反
この番号の届け出をめぐって、実際に問題になったニュースが取り上げられます。9月26日の岩手朝日テレビで報じられた、岩手の牧場への行政指導です。
岩手の牧場に行政指導。牛トレーサビリティ法違反が269件。
同じ牧場で269件という数の多さに、研修生も驚きます。川上さんも、酪農家の立場から見ると「何をしていたんだろう」と首をかしげます。
牛の治療をする時とか、牛がぐちゃぐちゃだったらどうやって管理するかわからないですよ。
なぜここまでの数になったのか。川上さんは、悪意があるか、それ以上に手が回っていない、つまり人が足りていないかのどちらかではないかと推測します。
ここまでの規模だと家族経営ではなく法人だろう、という話に。家族経営から規模を拡大して法人化した牧場では、人の使い方やマニュアル作りが追いついていないところが結構あると川上さんは話します。
牧場を管理する牧場長と社長が別で、牧場長が辞めてしまうと牛舎の管理がわからなくなる、といったリスクも指摘されました。
血統が「その他」になると牛はどうなるのか
では、いったん記録がぐちゃぐちゃになった牛はどうなるのか。研修生の素朴な疑問に、川上さんが現実を説明します。
届け出上、牛の品種はホルスタイン、ジャージー牛、交雑種、黒毛和種、赤毛和種など12種類ほど。親や種別が不明な牛は「その他」に分類されてしまいます。
父も母も黒毛和牛なんだけど、それを証明する方法がなかったりすると、その他の牛として市場に出されて安く買い叩かれたりします。
遺伝子検査で親を調べること自体は技術的には可能。ただし頭数が増えすぎると証明が難しく、現実的ではなくなると言います。
結果として、自社ブランドで肥育して売るか、ミンチにするくらいしか方法がない。血統が証明できない牛は「和牛です」と言っても信用されず、二束三文になってしまうという厳しい現実です。
なぜ違反が判明したのか、届け出のしくみ
研修生は「逆になんで判明したんですか」と食い下がります。ここで川上さんが、届け出のしくみを解説します。
出生報告や移動報告は農政局に出すもの。国の管轄の半行政のようなところが管理しているそうです。
たとえば川上牧場から別の牧場に牛を売った場合、送り出す側が移動届を、受け取る側が引き受けの届け出を出すことで、初めて記録が紐づきます。
出荷してるのに向こうが引き受けてないですよってなったら、向こうが何かおかしいっていう形になる。
つまり片方の報告だけでは記録がつながらず、ズレが表に出るしくみになっています。それでも「なぜ今まで判明しなかったのか」という点には、川上さんも「聞かれたらわかりません」と答えるしかない、と話します。
闇が深いですね。
過去にはブランドを偽装するケースもあったといいます。やろうと思えばできてしまうからこそ、まじめに届け出をしている酪農家が報われるためにも、業界の信頼を守ることが大事だと川上さんは強調します。
番号の管理方法と、進む牛の「見える化」
番号の管理方法は牧場によってさまざまです。自分で管理するところもあれば、農協の職員が来て耳標を打つところもあり、後者の方が信頼度は高いといいます。
そもそも耳に番号をつける習慣は昔はなく、狂牛病の流行をきっかけに個体識別番号をつけようという話になったそうです。面倒がる高齢の生産者に代わって農協の職員が担い、その流れが今も続く地域もあるとのこと。
川上牧場では、個体識別番号とは別に「検定番号」という管理番号も使っています。これは分娩して初産を迎えた順番でつけられ、牧場の管理に使われています。
さらに近年は、牛の「見える化」も進んでいます。放牧牛にはGPSを入れたり、耳のタグに電子デバイスをつけて歩数・体温・活動量を測ったりする技術も登場しているそうです。
それで体調が悪いとアラームみたいな。めっちゃいいですね。
日本ではお肉にする際の異物混入問題から体内デバイスは普及しにくく、耳のタグにGPSをつける方式が今は出てきていると川上さんは話します。
個体識別番号を知ると、買い物の見え方が変わる
個体識別番号はインターネットで検索でき、国産牛肉のちょっといいものやステーキ屋さんの上質なお肉には表示されていることもあるそうです。
通になれば、今日の牛は個体識別番号何ですかって聞く。もうそこまでいくと通ですね。
研修生も、番組を通してお肉を買う時に「これ交雑種だ」と品種を意識するようになったと話します。川上さんは、年を取ってからは脂身が少なくバランスのいい交雑種がおいしいとコメント。
牛乳も品種による差があり、研修生は「どこの牛乳かな」と裏の表示を見るようになったそう。川上さんは、牛乳と書かれた国産のものを選んでほしいと呼びかけます。
最後に研修生から「パスチャライズしか飲まない」という話が出ましたが、その意味の説明は次回に持ち越しとなりました。
まとめ
牛の耳についた黄色い札は、生まれてからお肉になるまでの履歴をたどれる個体識別番号でした。届け出のしくみや違反のニュースを通して、酪農の信頼がこうした記録に支えられていることが見えてきますね。
- 個体識別番号は、牛の出生・移動・出荷を1頭ごとに追跡できる仕組み
- 記録がつながらず品種を証明できない牛は「その他」となり、安く買い叩かれてしまう
- 出生届も引き受けの届け出も両方出して初めて記録が紐づき、ズレが表に出る
- 狂牛病をきっかけに始まった管理は、今ではGPSや電子タグでの「見える化」へ進んでいる
- 番号を知ると、お肉や牛乳を買う時に品種や産地を意識できるようになる

