原価と乳価は別物という前提
今回のテーマは、リスナーのノーキグさんから届いた「牛乳の原価ってどうやって決めてるんですか?」という質問です。
ニュースでもよく「適正価格」と言われますが、そもそも牛乳の値段はどう決まっているのか。川上さんはAIでリサーチした内容をもとに、日本と海外を比べて答えていきます。
まず整理したいのが、原価と乳価はまったく別物だということ。ここを分けて考えないと話がこんがらがってしまうんですよね。
原価は、酪農家が1リットルの牛乳を生産するのにかかるコストのこと。餌代、電気代、労働費、設備費などがこれにあたります。
一方で乳価は、酪農家が実際に受け取る販売価格のこと。搾りたての牛乳を生乳牛から搾ったままの、殺菌や成分調整をしていない状態の乳のこと。これが乳業メーカーに出荷されて牛乳や乳製品になります。と言い、生乳1キロ当たりの価格が乳価です。
つまりコスト(原価)と収入(乳価)は別。たとえば原価が80円かかっても、乳価が70円なら赤字になってしまう、というわけです。
牛乳1リットルを生産するのにかかるコスト。餌代・電気代・労働費・設備費など。
酪農家が実際に受け取る販売価格。生乳1キロ当たりで決まる収入。
日本の仕組みは「交渉と安定」のハイブリッド
では日本ではどう決まっているのか。日本の生乳価格は「指定団体制度」と呼ばれる仕組みのもとで決まります。
全国の酪農家をまとめる農協や指定団体と、乳業メーカーが毎年取引価格の交渉を行って決めるのが基本です。
その背景には、食料の安定供給と農家の生活維持という2つの目的があるんですね。
2025年現在、北海道の平均乳価は1キロ当たり約95円前後。本州では100円を超えることもあります。
ただし飼料の高騰などで原価は1キロ当たり90円から100円に近づいていて、実際にはほぼ原価ギリギリというのが現状だと話されています。
アメリカ・カナダ・EU・ニュージーランドの決め方
ここから海外の仕組みを見ていきます。国ごとに考え方がずいぶん違うのが面白いところです。
アメリカは基本的に市場連動型。ただし完全な自由主義ではなく、連邦ミルクマーケティングオーダー制度(FMMO)という政府の価格調整メカニズムがあります。
この制度では、飲用の牛乳やチーズ、バター、脱脂粉乳など用途ごとに基準価格が設定され、地域ごとのクラス価格で調整されます。2025年の平均乳価は1キロ当たり80〜90円程度とされています。
カナダは、世界でも珍しいサプライマネジメント制度政府が需要と生産量を厳しく管理し、生産者が安定した価格で売れるように守る仕組み。作りすぎを防いで価格を維持します。を採用。政府・生産者・乳業団体の三者協議で、コストに利益率を上乗せして乳価を決めます。
そのため酪農家の収益は安定していて、2025年の乳価は1キロ当たり約130円前後。世界で最も高い水準だと言われています。
EU(ここではドイツ)は、自由市場プラス補助金型。2015年に生産割当のクオータ制度が廃止されて以降、価格は需給バランスで決まるようになりました。
ただしEUには農家保護のための共通農業政策(CAP)があり、飼料費や環境対応などに多くの補助金が出ています。だから乳価が下がっても経営を維持できるんですね。ドイツの平均乳価は1キロ当たり70〜80円ほどです。
ニュージーランドは世界最大の乳製品輸出国で、価格は国際相場と連動し、政府は関与しません。
酪農家はFonterraという巨大な協同組合に所属し、バターや脱脂粉乳などの国際取引価格に基づいて乳価が決まります。国際市況がいい時は高収入、悪い時は大幅に下がる、という波の激しい構造です。平均乳価は1キロ当たり約70円前後とされています。
| 国 | 平均乳価 | 決め方の特徴 |
|---|---|---|
| 日本 | 約95円 | 指定団体と乳業の毎年交渉 |
| アメリカ | 80〜90円 | 市場連動+政府の価格調整(FMMO) |
| カナダ | 約130円 | 三者協議で原価+利益を上乗せ |
| ドイツ(EU) | 70〜80円 | 需給連動+補助金で下支え |
| ニュージーランド | 約70円 | 国際相場連動・政府関与なし |
仕組みの裏にある歴史と共通の課題
各国の共通課題は、飼料費の高騰と気候変動への対応です。特に日本のように輸入飼料に依存している国は、為替や国際相場に価格が左右されやすいんですね。
一方でカナダのような制度は安定する反面、市場競争力を弱めると批判されることもあります。どの仕組みにも一長一短がある、というわけです。
川上さんが強調するのは、こうした制度の違いには歴史的な流れがあるということ。カナダの安定した制度も、アメリカからの圧力など厳しい時代を経て改善されてきたものだと話します。
ヨーロッパの直接補助制度も一時はうらやましく見えたそうですが、政府の考え方が変わって農家に環境税を負担させる動きが出て、デモが起きたりもしたそうです。
自国の消費で回るっていうのだと、やっぱりなかなか利益が上がらないので、海外に売っていく。でも海外に売っていくと、海外の国際情勢に影響されるっていう、なかなか難しいところですね。
まとめると、牛乳の原価はどの国でも「自然の恵み+人の努力+政策の影響」で決まっている、と川上さんは話します。
適正価格の議論と、若い酪農家へのメッセージ
最後に、いま日本で議論されている適正価格の話へ。素案では、ヨーロッパのように農家へ直接補助する案や、乳業団体と酪農団体の価格交渉に国が意見を言えるようにする形などが出てきているそうです。
ただ、カナダやドイツの仕組みを見たあとだと「大丈夫か?」と思ってしまう、と川上さんは率直な感想をこぼします。完璧な制度はなく、お互いの妥協点を見つけるしかないと話します。
そのうえで、これから酪農を頑張りたい若い人がやりやすい仕組みになってほしいと願いを語り、価格交渉や乳価交渉の会議にこそ若い人に出てほしいと呼びかけます。
忙しくて現場を離れられない気持ちもわかる、と前置きしたうえで、それでも会議に出るべき理由を自身の経験から語りました。
一生懸命生産努力したやつが一瞬で水の泡になるよ。餌代下げて経営が回るよって頑張っても、一瞬で制度が変わったら消えちゃいますから。
まとめ
リスナーの素朴な疑問から始まった今回の配信。原価と乳価の違いを入り口に、日本と各国の牛乳価格の決まり方を比べることで、日本の酪農家が置かれている状況が見えてきました。仕組みには歴史や国際情勢が絡み、完璧な正解はないからこそ、当事者が声を届けることが大事だと伝わってくる回でした。
- 原価は生産コスト、乳価は酪農家が受け取る収入で、両者はまったく別物。
- 日本は指定団体と乳業の毎年交渉で乳価が決まり、いまは原価ギリギリの状態。
- カナダは三者協議で原価に利益を上乗せし、乳価は約130円と世界最高水準。
- どの国も飼料高騰と気候変動という共通課題を抱え、完璧な制度はない。
- 制度は一瞬で変わりうるからこそ、若い酪農家も価格交渉の会議に出てほしい。

