共進会2位とTBSラジオ出演、まずは今日のお知らせから
配信は島根県出雲市の小さな牧場から。パーソナリティの美琴さんがオープニングで牛乳での「乾杯」をうながし、川上さんが日曜日の朝、晴天の牧場から話し始めます。
この日いちばんのトピックは、前日に出場した島根県の共進会の結果でした。川上さんは子牛の部の一番小さいカーフの部に、5年ぶりに出品したそうです。
五頭ぐらい出てね、島根県で、見事二席を取らせていただきまして、五頭中2位でしたね。
島根県大会を勝ち抜いたことで、次は4月16日の中国大会へ進むことに。川上さんは応援へのお礼を述べつつ、この日の仕事は堆肥の運搬と子牛の牛舎掃除だと話します。
お知らせも続きます。3月25日火曜日の16時台、TBSラジオ ── 東京放送が運営するラジオ局。地上波AM/FMで全国的に知られる。で川上牧場のオープニング曲「牛乳で乾杯」が流れる予定とのこと。
さらにInstagramでは、ハッシュタグ「未来の牛乳」として、リスナーが思う理想の牛乳や乳製品をAIアートにしてNFTで販売しています。売り上げは子供食堂への牛乳支援や、小中高での食育活動費に充てられるそうです。
「牛乳の歴史を知りたい」というリスナーからの問い
今回のお便りは、SPOONというアプリに届いたパックンジョさんからの質問でした。牛乳の消費を考える前に、まず歴史を知りたいという内容です。
消費が伸び悩んでいるということなんですが、逆にどの食品なら安定し伸びているのかという疑問も生まれました。
質問はさらに続き、食べなくなったはずなのに肥満など不健康になっているのでは、という素朴な疑問にまで広がっていました。川上さんはこの問いに、AIのディープリサーチで調べた内容をもとに答えていきます。
人類はいつから乳を飲み始めた?世界の乳文化の広がり
牛乳の歴史は、人類の歴史と深く結びついています。人類が動物の乳を利用し始めたのは、今から約1万年前とされています。
ホモサピエンス ── 現在の人類のこと。学名。が羊や山羊を家畜化し、その少し後に牛も飼い慣らす中で、乳を継続的な食料源として使い始めました。動物を殺さずに栄養をとれる、画期的な方法だったのです。
搾った生乳を無駄にしない知恵も生まれます。西アジアでは乳を発酵させてヨーグルトのような発酵乳を作り、撹拌してバターを作り、残った脱脂乳から保存性の高い硬いチーズを作る技術が発達しました。
発酵乳
乳を発酵させてヨーグルトのようなものを作る
バター
撹拌して脂肪分を取り出す
チーズ
残った脱脂乳から保存性の高い硬いチーズを作る
こうした乳製品の文化は、遊牧民を通じてヨーロッパやモンゴル、チベット、インドなど世界各地に広がったと考えられています。
一方で、牛や羊を飼っても乳を飲む文化があまり根付かなかった地域もありました。その代表が東アジアで、日本や中国では牛は主に畑を耕す労働力として飼われていたそうです。
ブッダも飲んだ?乳にまつわる古い逸話
乳にまつわる興味深い逸話として、川上さんは仏教の開祖ブッダの伝説を紹介します。
伝説によれば、厳しい断食の修行で衰弱したブッダが川で沐浴していた際、村の娘ナンダバラが差し出した1杯の牛乳を口にしました。その美味しさに驚き、心身が蘇ったブッダは、その瞬間に悟りを開いたというのです。
古代日本にもあった牛乳ブームと「醍醐味」の由来
日本にも、実は古代に一度牛乳ブームがありました。飛鳥時代に百済 ── 4世紀から7世紀に朝鮮半島南西部にあった国。日本と交流が深かった。から渡来した善那一族によって、蘇と呼ばれる乳を煮詰めたチーズ状の乳製品文化がもたらされたと言われています。
大宝律令の時代には、朝廷の近くに乳牛を飼育する専門家を配置し、天皇や皇族のための搾乳所を設けました。平安時代には乳製品献上の儀式が定められ、延喜式という法典に詳細が記されていたそうです。
この頃に生まれた言葉が「醍醐」です。仏典に由来し、乳を次第に精製して得られる最上の美味を指しました。
ここから生まれたのが「醍醐味」という言葉なんですね。最上の美味を意味する醍醐が、そのまま「物事の本当の面白さ」を表す言葉になりました。
当時の医書には、牛乳が全身の衰弱を補い、便通を良くし、皮膚を美しくするといった効能が記されていました。貴族たちにとって、乳や乳製品は滋養強壮の高級食品だったことがわかります。
しかしその後、乳文化は廃れていきます。仏教思想で殺生を忌避する風潮や朝廷の権力衰退もあって、中世には乳製品作りの伝統が次第に途絶えてしまいました。
徳川吉宗から明治天皇まで、日本の乳文化はどう復活したか
一度途絶えた日本の乳文化は、江戸時代に再び芽を出します。8代将軍徳川吉宗が、オランダ人から馬の治療に牛乳が有効との知識を得て、白毛の乳牛3頭を取り寄せました。
千葉の八街で牛の飼育を始め、白牛酪という濃縮乳、今でいう練乳のようなものを製造させました。これが日本における近代酪農の始まりとされています。
開国後は外国人の需要もあって牛乳の必要性が高まり、横浜で日本人相手に牛乳の販売を始める人物も現れました。
明治維新を迎えると、文明開化の一環で牛乳も奨励されます。明治政府は牛乳の栄養価に注目し、明治天皇自身が毎日牛乳を飲んだことで、一般庶民にも飲む習慣が広まったとされています。
その後、日清戦争や日露戦争で負傷兵の栄養補給に牛乳が使われ、その効果から価値が再認識されます。ただし全国規模で近代的な酪農が定着したのは、第二次世界大戦後でした。
戦後の食糧難の中、学校給食に脱脂粉乳が配給され、多くの子供が初めて牛乳の味を知りました。やがて瓶入りの新鮮な牛乳へ切り替わり、昭和30年代頃には学校給食の牛乳が全国の定番になったそうです。
日本人はどれくらい牛乳を飲んでいる?世界と比べると
では、現代の日本人はどのくらい牛乳を飲んでいるのでしょう。実はここ数十年、日本の牛乳消費量は伸び悩んでいると言われています。
2019年時点で、日本人一人当たりの年間牛乳消費量は約31.1kg、リットルにすると約31.1リットルです。2010年代以降はずっと年間30kg前後で横ばいが続いています。
1990年代半ばにピークを迎えて以降、微減傾向で推移しているため、いわば飽和状態とも言われます。西洋化の一巡や少子化を背景に、1970年代後半から成長が鈍化していったそうです。
国際的に見ると、日本人があまり牛乳を飲まない傾向は顕著です。主要国の中で日本の消費量は最低レベルにあります。
日本は牛乳や乳製品を伝統的にあまり摂取してこなかったこともあり、欧米と比べて格段に少ないのです。
なぜ牛乳の消費は伸び悩む?少子化・多様化・乳糖不耐
なぜ日本では牛乳の消費が伸び悩んでいるのか。川上さんはいくつかの要因を挙げます。まずは人口構造の問題です。
牛乳はとくに成長期の子供に好まれる飲み物ですが、少子化で子供の数自体が減っています。学校給食で毎日牛乳を飲む子供が減れば、国全体の消費量も頭打ちになりますよね。
若者の食の多様化も指摘されます。炭酸飲料、ジュース、スポーツドリンク、お茶、コーヒーなど、様々な嗜好飲料が手軽に手に入るようになり、牛乳と競合しているのです。
さらに、日本人の体質の問題もあります。日本人を含むアジア人には乳糖不耐症 ── 牛乳に含まれる乳糖をうまく消化できず、お腹を下してしまう体質のこと。の人が多くいます。
成人の約5パーセント程度と少ない
成人の80から90パーセント近くが分解できないという報告も
ただし川上さんは、日本人全員が牛乳NGというわけではないと補足します。腸内の乳酸菌の助けで乳糖を分解できる人も多く、コップ1杯程度なら問題なく飲める人が大半とも言われているそうです。
とはいえ、体質的なハンディがある分、欧米人ほど大量に飲む習慣は広まりにくかったのは事実でしょう、と川上さんは話します。
牛乳は減ったのに肥満は増えている?チーズや肉の伸び
健康志向の高まりで「牛乳は太りやすいから控えている」という声もあります。ただ川上さんは、興味深いことに、と話を進めます。
牛乳の消費が頭打ちになる一方で、肥満傾向の人の割合はむしろ増えているのです。もし牛乳が不健康の元なら、飲まなくなれば人々は痩せるはずですが、現実はそうなっていません。
ここで牛乳以外の食品に目を向けると、顕著に消費が伸びているものがあります。まずはチーズです。
チーズは日本人にとって比較的新しい嗜好品でしたが、和食洋食を問わず料理に使われるようになりました。2020年度の国内チーズ総消費量は約36万トンに達し、6年連続で過去最高を更新したそうです。
ヨーグルトも同様です。健康ブームでプロバイオティクス ── 腸内環境に良い働きをするとされる、生きた微生物のこと。効果が注目され、朝食やデザートに取り入れる人が増え、市場規模が拡大しています。
乳製品以外では、肉類の消費も長期的に増えています。明治以前はほとんど肉を食べなかった日本人が、現在では一人年間30kg以上の肉を食べているそうです。
つまり、牛乳こそ飲み悩んでいるものの、他の食品や飲料ではこの数十年で大きく消費が伸びたものがある、というのが川上さんの整理でした。
肥満の本当の原因は「エネルギーバランスの崩れ」
食生活がこれだけ変化したのに、なぜ肥満や生活習慣病のリスクを抱える人が増えているのか。川上さんはその答えを一言で言えると話します。
WHO ── 世界保健機関。国連の専門機関で、世界の健康問題に取り組む。によれば、肥満の根本原因は摂取カロリーと消費カロリーの不均衡、つまりエネルギーの過剰摂取です。平たく言えば、食べ過ぎて動かなければ太るという当たり前のことですね。
現代社会は美味しいものが溢れ、食べ物自体も高カロリー高脂肪なものが増えました。世界全体でも、一人当たりの平均エネルギー摂取量は増加しています。
1960年代は2360kcal
1990年代後半には約2800kcal
その結果、世界の肥満人口は急増しました。成人の肥満率は1990年から2022年の間に2倍以上に膨れ上がったと報告されています。
日本でも、肥満傾向者の割合はじわじわ増えています。とくに20代男性の肥満率は、過去30年で2倍近く増加したとの研究報告もあるそうです。
結局大事なのは「バランス」という結論
ここで重要なのは、特定の食品を避ければ太らないという単純な話ではない、ということです。
牛乳をあまり飲まなくても、他でカロリーをとっていれば太りますし、逆に牛乳を飲んだから即太るわけでもありません。適量の牛乳摂取はカルシウムやたんぱく質の補給に役立ち、肥満との直接的な因果関係は薄いとも言われています。
肥満や健康状態は、食生活全体のバランスやライフスタイルで決まるもの。総カロリーの取り過ぎ、栄養バランスの偏り、運動不足、過度のストレスなど、複合的な要因が重なった結果と言えそうです。
だからこそ、牛乳を飲むか飲まないかだけではなく、日々何をどれだけ食べ、どれくらい体を動かしているかをトータルで考える必要がある、と川上さんは話します。
歴史を振り返れば、人類は長い年月をかけて牛乳を食生活に取り入れてきました。日本でも古代から現代まで、紆余曲折を経て乳文化が定着してきた背景があります。
私たち消費者として大事なのは、様々な食品をバランスよく取り、適度に体を動かすというシンプルな生活習慣です。牛乳もその中の一つの栄養源として上手に取り入れたいですね。
コメント返しで話す、蘇の食べ方と「羨ましい時代」
長文を読み終えた川上さんは、リスナーのコメントに答えていきます。まずは、蘇は蜂蜜をかける以外に美味しい食べ方があるかという質問でした。
川上さんの答えは正直で、蘇はそこまで美味しいものではない、というものでした。かける労力に比べて、という前置きつきです。
(蘇は)煮詰めたんでシチューに入れてしまいましょう。一回水分飛ばしたんですけど、もう一回水分に戻してもらって、クリームシチューでいっていただけたらいいんじゃないでしょうか。
「何リットル飲むか」というコメントには、1日コップ1杯が推奨量としつつ、たくさん飲んでもらえると酪農家は嬉しいと笑って答えます。摂取カロリーが消費カロリーを上回ると太る、これに尽きるとあらためて強調していました。
最後に川上さんは、牛乳の歴史を振り返っての感想を口にします。
昔は薬として飲まれてたものが、今はもう皆さん当たり前に飲めるようなそんな時代ですよね。昔の人から見たら羨ましくてしょうがない時代ですよ。
配信の詳細な文章や引用元データは、川上牧場のnoteに記事として上げるとのこと。質問が来たらAIで調べていくスタイルを続けたいと締めくくり、エンディングはヤマさんのお便り募集の案内で終わります。
まとめ
リスナーの「牛乳の歴史を知りたい」という質問から始まり、世界と日本の乳文化の歩み、現代の消費データ、そして肥満問題までを一気にたどった回でした。行き着いた結論は、健康を左右するのは特定の食品ではなく、食全体のバランスと運動というシンプルな答えです。
- 人類は約1万年前から乳を利用し、日本でも古代に一度牛乳ブームがあった。「醍醐味」は最上の乳を表す「醍醐」が語源
- 日本の牛乳消費量は1990年代半ばをピークに横ばいで、主要国の中では最低レベル。少子化・飲料の多様化・乳糖不耐が背景にある
- 牛乳は減ったのにチーズや肉の消費は伸び、肥満も増加。肥満の根本原因はエネルギーバランスの崩れ
- 大事なのは牛乳を飲むかどうかではなく、様々な食品をバランスよく取り、適度に体を動かすこと




