円形にもやしは浜松餃子の定義ではない
浜松餃子と聞くと、円形に焼いてもやしを真ん中にのせたスタイルを思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし小野寺さんは、それは浜松餃子の定義ではないと切り出します。
新幹線で浜松に行き、駅前で食べたことがある人もいるでしょう。ただ、本当に美味しい浜松餃子は駅前ではないと話します。
浜松に餃子が根づいた歴史
浜松餃子学会によると、大正時代から浜松に住んでいた中国人が餃子を提供していたとされています。
その後、第二次世界大戦が終わって帰国した人たちが餃子を作って売り始めた流れは、浜松に限らず宇都宮など全国的に共通しています。
駅前の屋台でフライパンを使い、円形に焼いて真ん中を開けてもやしをのせるやり方は、1953年に創業者の石松さんが始めたものだと紹介されます。それを真似た店がいくつかあり、円形にもやしというイメージが強く残ったと考えられます。
郊外がメッカになった工業地帯の事情
浜松餃子のメッカが郊外にある最大の理由として、小野寺さんは浜松が工業地帯であることを挙げます。
ホンダ、ヤマハ、スズキといった有名メーカーがあり、戦後の浜松はオートバイを作る場所が多かったといいます。その周辺に工場が点在していました。
さらに、静岡県内で豚を一番飼育しているのは浜松市だとされ、キャベツも日本一の生産地である愛知県から仕入れられました。豚とキャベツを安く地元で調達できることが強みでした。
工場で働く人たちに餃子を提供すると、手軽に栄養が取れて子供にも受けがよく、大人は酒のあてにできます。餃子は労働者に人気を集め、店が工場や住宅地の近くに数多く派生しました。
お持ち帰りとアルミホイルの文化
浜松では、工場で働く人たちが餃子を楽しむ場は、主に家庭でした。お持ち帰りして家族みんなで食べるスタイルが根づいたといいます。
味は比較的やさしめで、キャベツをたっぷり入れ、豚肉はコクを出すために使う程度。肉肉しい餃子は多くなかったと説明されます。これは昭和30年代、戦後の時期の特徴だそうです。
お持ち帰りが中心だったため、皿ではなくアルミホイルに包んで持ち帰る形が定着しました。餃子とたまにもやしがアルミホイルにのっている。これが本当の浜松餃子だと小野寺さんは語ります。
家計調査はお持ち帰りして餃子を食べる人をカウントするもので、この持ち帰り文化が浜松の強さにつながっていると指摘されます。
日本一の知名度を支えた二つの要因
浜松餃子がここまで有名になった要因として、小野寺さんは二つを挙げます。
一つはB級グルメブームです。2000年代半ばにご当地グルメが流行し、そのコンテストに浜松餃子が入っていました。
その背景には、2006年に立ち上がった浜松餃子学会の存在があります。宇都宮餃子学会が基本的に餃子店の団体なのに対し、浜松餃子学会には餃子店が入っておらず、まったくの市民団体でした。初代会長は斉藤さんという方だったと紹介されます。
もう一つの要因が家計調査です。政令指定都市であることが調査対象の条件で、浜松市が政令指定都市になったのは2007年でした。
1年分がフルに出る2009年の発表で、浜松が宇都宮と同じくらい餃子の消費が多いことが明らかになりました。以来、宇都宮と浜松の順位争いがニュースに取り上げられ、餃子の街としての認知が広がっていきます。
宇都宮との違いとブランドの課題
宇都宮が集中して徹底的に餃子をブランド化しているのに対し、浜松市は集約せず、緩やかに地元の餃子を観光資源化していると小野寺さんは比べます。
浜松駅に降りても浜松餃子はあるにはありますが、多くはありません。宇都宮のような餃子のシンボルや、地元の餃子をまとめて食べられる施設もないといいます。
宇都宮餃子の定義は宇都宮餃子会が仕切って決めていますが、浜松餃子の定義は市民団体の浜松餃子学会が言っているだけで、ブランドとしての拘束力がありません。商標も取られていません。
学会が定める定義は、浜松市内で製造されていること、製造者が3年以上浜松に在住していること、この二つだけです。もやしや円盤といった要素は定義に入っていません。
極端に言えば、中国産の材料を浜松に持ち込み、餃子に関係ない人が作っても浜松餃子と言えてしまう。小野寺さんはこれをやや緩やかな定義だと説明します。
一方で市民的には、円形に焼いてもやしをのせるスタイルが浜松餃子のイメージとして強く定着しています。ただ、味のクオリティを誰も担保しない点を、小野寺さんは個人的な課題として挙げます。
餃子会が定義を決め、集中して徹底的にブランド化している
市民団体が緩やかに関わり、拘束力のある定義や商標はない
タレで食う文化とおすすめの店
食べてみたいなら、浜松に行って食べるのが一番だと小野寺さんは勧めます。スーパーで買える浜松餃子もありますが、浜松で食べるほうが絶対にうまいといいます。
その理由の一つがタレです。かつて浜松でいろいろな餃子を集めて販売したとき、タレなしでも美味しいと伝えても、タレなしでは食わないという人が多かったことが印象的だったと振り返ります。
最後に、小野寺さんが「一言本音」としておすすめの店を紹介します。まずは栄福。キャベツのイメージが強い浜松餃子のなかで、肉に食感と弾力、旨みがあり、関東風に近い印象だといいます。
次に福みつ。超有名店で行列ができるため、駐車場で待機しながら早めに行くことを勧めます。揚げ餅に近いカリカリした焼き方で、皮がおいしい餃子だと語ります。
三つ目はかどや。浜松名物の遠州焼きというお好み焼きと餃子が食べられる店で、クラシカルな地元の味だと紹介します。
四つ目はむつみ屋。団子屋が出している餃子で、餃子も団子も美味しいといいます。店は大きな一軒家を改装した造りです。
面白いのは、むつみ屋の成り立ちが元は車のホイールメーカーだという点です。エンケイというホイールメーカーが手がけており、店にホイール感はなく、クラシカルな木の造りだと話します。
浜太郎は駅前や高速の北のほうにあり、駅前や駅の上には石松や国八といった有名店もあります。ただ本当に美味しい店は駅前だけでなく浜名湖や磐田、住宅街や工場地帯に散らばっていると締めくくります。
まとめ
浜松餃子は、円形にもやしという見た目の定義よりも、工業地帯という土地の事情と市民団体の活動によって育った食文化だと整理されました。本当に美味しい店は駅前ではなく郊外に散らばっています。
- 浜松餃子の定義は「浜松市内で製造」「製造者が3年以上在住」の二つだけで、もやしや円形は含まれない
- 豚とキャベツを安く調達でき、工場で働く人たちに支持されたことが郊外に店が広がった背景
- B級グルメブームと市民団体・浜松餃子学会、そして家計調査での宇都宮との順位争いが知名度を押し上げた
- 浜松では餃子はタレで食う文化があり、栄福・福みつ・かどや・むつみ屋など郊外の名店が紹介された
