AIが書いた松浦会長のnoteは、本人より本人らしい?
この回で宇尾野さんが設定した問いは、「社長の思想をどうやって言語化していますか?」です。前回の経営顧問との向き合い方の話を受け、顧問に期待される役割の1つとして、社長の思想や哲学との向き合い方がテーマになりました。
池原さんはこの問いを受けて、創業の経緯を語る「ストーリー」と、その下に通底する揺るがない「思想」は、言葉として分けるものなのだろうと考えたといいます。社長の思想は会社の制度や向かう方向、何を良しとするかという美意識に大きく関わるのに、きちんと言語化する機会は意外とない、という問題意識です。
収録の少し前には、avexの松浦会長のnoteが実はすべてAIで書かれていたことが明かされ、大きな話題になっていました。宇尾野さんは、読み物としても、松浦会長の考えを知る意味でも、AIが書いたという意味でも面白く、多くのメッセージを含んだnoteだったと振り返ります。
AIで書いたとはいえ、架空のもので書いたわけではなく、これまでのすべてのインタビューとか書き物とかって、表面で語られるものの奥にある思想を煮詰めて煮詰めて、それを文字に落としたものなので。
もしかしたらご本人が書くよりもご本人の思想なんじゃないかなっていうのはすごく感動して聞いてましたね。
宇尾野さんは、松浦会長のnoteを「原液」というニュアンスで読んだと話します。過去のメールや取材原稿をインプットにしながらも、そこに通底するものがあったからこそnoteが成立した、という見立てです。
そのうえで宇尾野さんは、カルピスの原液のように薄まる前の最も濃い思想を、経営者がどれだけプロセスとして言語化できているか、そしてやっていきませんか、という話をこの回で投げかけます。
「相互啓発」と「分解が好き」、二人の思想は一言で言える?
池原さんは逆に、宇尾野さんに自分の思想を一言で表すよう求めます。宇尾野さんは「本当に難しい」と言いつつ、あえて1つ挙げるなら「相互啓発」というキーワードがあると答えました。
「相互啓発」っていうことの中には、「誰かと一緒に営むもの」だったり、「お互いで高め合おう」みたいなものだったり、「そこには階層がなかったり」みたいなものが(含まれています)。
宇尾野さんによれば、相互啓発という言葉には、チーム運営や生き方の中で大事にしている要素が凝縮されています。ただし言葉だけでは「え?」となることもあり、文脈を添えて伝えるほうが意味が伝わるとも話します。宇尾野さん自身と会社はかなり重なっているため、この言葉はミッション・ビジョン・バリューにもつながる大事なキーワードだといいます。
話を振り返された池原さんは「自分が振っといて聞かれると嫌だな」と笑いつつ、自分は物事を分解するのが好きだと答えました。
感覚で理解するっていうよりも、構造として理解したい、みたいな、メカニズムとして理解したいっていう欲求があるので。
宇尾野さんが「何か理を見出したいみたいな」と受けると、池原さんは「パターンを見出したいっていうのはありますね」と応じます。池原さんは、メンターという仕組みを構造として理解して横展開したいという思いがずっとあったと語り、その思想が自身の会社池原さんの会社名の創業や運営にもつながっているのかもしれないと話しました。
物語の奥にある思想は、どう掘り出す?
松浦会長のnoteへのアンサーのような形で話題になったのが、WORDSの竹村俊助さんが発信した「経営者のための言語化マップ」です。宇尾野さんは、すぐには出てこない暗黙知を言語化する意味とプロセスを示したもので、ぜひ読んでほしいと勧めます。
池原さんが興味深かったのは、物語は具体的で、その上にナレッジがあり、抽象度が上がると思想になる、という整理でした。冒頭で池原さんは物語と思想を別の言葉だと考えていましたが、この整理を読んで、言葉が別というより深さが違うのだと感じたといいます。
物語
創業経緯などの具体的なエピソード
ナレッジ
物語から一段抽象度を上げた知見
思想
さらに抽象度を上げた、揺るがない考え方
ストーリーはピッチなどで語る機会があっても、思想まで言語化する機会はなかなかありません。池原さんがそのプロセスを尋ねると、宇尾野さんは好きな経営書として野中郁次郎 ── 日本を代表する経営学者。企業がどのように知識を生み出すかを論じた「知識創造理論」で世界的に知られます先生のSECIモデル ── 個人の暗黙知を共有・表出化して形式知にし、組み合わせて再び個人に体得させるという、知識創造の循環を示したモデルを挙げました。
宇尾野さんによれば、暗黙知を引き出すには、具体的なシチュエーションから考えるほうが出しやすいとされています。具体的なエピソードから遡り、なぜそれを大事にしたのかと抽象度を上げていくと、自分が大事にしているものと、していないものが見えてくるといいます。
池原さんは、まず自分の中に眠っているものを棚卸しするところから始まるのだと受け止めました。仕事観、お金の使い方、時間の哲学、人間観、組織観などが絡み合い、特に創業者の哲学は会社のカラーそのものになりうるため、会社のアイデンティティをつくるうえでも重要だと話します。
AI時代、社長がいなくても社長のように判断できる?
宇尾野さんの会社事業人にも、人事制度づくりの前段として、ミッション・ビジョン・バリューやパーパスを言語化したいという相談が寄せられるといいます。従来は組織づくりや局面転換の際に必要とされてきた言語化の重要度が、AIの登場で変わってきたというのが宇尾野さんの見方です。
ちょっとこれ言い方不謹慎かもしれないですけど、松浦会長がいなくても、avexの経営ってもしかしたらできるかもしれない。
宇尾野さんは、思想がこれだけクリアに言語化されてAIのベースになれば、松浦会長がその場にいなくても松浦会長のような判断ができるかもしれない、と松浦会長のnoteが示唆していると捉えます。AI時代には、組織の哲学を言語化することが会社を拡張していく入り口の1つになる、という考えです。
関連して宇尾野さんが紹介したのがオントロジー ── 元は哲学で「存在論」を指す言葉。情報分野では、ある領域の概念とその関係を体系的に定義したものを指しますです。テクノロジー界隈でよく聞くワードで、AIが活用される世界にどんな概念があり、単語がどんな意味を持ち、単語同士がどう関係するかを言語化した地図であり、定義集のようなものだと説明しました。
池原さんは、前日にTikTokで見た、ある会社の社長の話を例に挙げます。従業員が「顧客第一」と口にしても、その意味が揃っていないと、チームで評価されない動きをしてしまうという内容でした。
顧客第一ってことはリピートされるという行動に紐付かなければいけないんですよね。だからリピート率が上がるってことが顧客第一なんだけれども。
池原さんは、顧客第一だから話を聞く、顧客第一だからリピート率を上げる、といった解釈のブレがない状態が、オントロジーの考え方に近いのではと受け止めました。
宇尾野さんはこれに同意し、人間同士とAIとでは、言葉の意味の補い方が違うと説明します。
普段のやりとりや過去のケースから行間を学習し、言葉が曖昧でも人間関係の中で埋め合わせられる
行間を補うものがないため、やってほしいこと・やらないでほしいことを細かく言葉に落とす必要がある
宇尾野さんによれば、言葉が細かく定義されるほど、それがAI社長のように会社の脳として機能し始めます。しっかりAIに読み込ませられれば、社長がその場にいなくても近い意思決定ができると期待される、という話です。宇尾野さんは、組織づくりの現場でもこの言語化の重要度が上がっていると体感しているといいます。
秘伝のタレの「原液」は、葛藤の選択に表れる?
池原さんは、思想は変わり、強化され、捨てられていくものでもあるとしたうえで、それをどうつくり日常で活用していくのかを尋ねます。宇尾野さんは番組名にちなみ、秘伝のタレの原液をつくり、日常で使い、のれん分けしていくことにたとえました。
組織を大きくしたい会社や、AIに精度高く動いてほしい会社にとって、これはとても大事だといいます。ただし「おふくろの味はレシピ化できない」ような壁があり、言語化マップの活用、コーチング、AIとの対話、宇尾野さんが手がける経営者の哲学を言語化するワークショップなどが、その壁を越える手段として挙げられました。
今日から考えられる問いを池原さんが求めると、宇尾野さんは、思想が表れるのは葛藤の時にどちらを選び、それはなぜかという点だと答えます。
「人材育成が大事な会社です」っていう風に謳いながらも、今、とあるお客様から大きな発注が来て、この発注は今担当する可能性のある人にとっては結構今までやってきた仕事なんで、育成には関係なさそうです。「あなたは受けますか?受けませんか?」みたいな。
これは宇尾野さん自身が被験者として哲学ワークショップを受けた際の問いです。売上を取るのか、育成につながる別の案件を取るのか。選んだ理由と、どこで悩んだかを対話で掘り下げると、本来悩むべき点まで見えてくるといいます。
宇尾野さんによれば、こうした分岐が見えるようになると、自分が何を大事にしているのかが浮かび上がってきます。
思想の言語化は、一人でやらず定期的に
池原さんは、選ぶ・決める場面には正解がないからこそ、なぜそうしたかを深めることが大事だと受け止め、価値観を探る方法と近いと気づいたといいます。価値観を探る際には、結婚相手、大学、会社、住む町といった過去の重大な決断や、好きな本、親友だと思う理由など、無意識の選択を言語化してみる、という話をしているそうです。
宇尾野さんも同じだと応じます。言語化された思想はリーダーの一貫した行動につながり、商品やお客様、社員の働く価値観にも伝わる原液になるため、それが暗黙のままか形式になっているかが、これからの時代により重要になると話しました。
池原さんが「ミッション・ビジョンの土台になるもの」というイメージかと尋ねると、宇尾野さんは、なぜそのミッションを選んだのかにもつながり、その組織にいる理由にもなると答えます。ただし、きちんと向き合わないとできない、意外に難しいプロセスだとも付け加えました。
これ一人で考えるの結構しんどいですよね。ぐるぐるしちゃう。
無理とは言わないんですが、かなり難易度高いと思いますね。
宇尾野さんは、誰かに相手をしてもらう方法を勧めます。初対面の経営者と2人で取り組んだ際には、同じ問いに全然違う答えが返ってきて、刺激を受けながらつくるのが面白かったといいます。
池原さんは、経営者自身もライフイベントなどで変わっていくため、思想の棚卸しは一度で終わりではなく定期的にやるものだと話し、「今日の夜やってみよう」と締めくくりました。宇尾野さんも、いつか一緒にやってみようと応じています。
まとめ
この回では、avex松浦会長のnoteをきっかけに、社長の思想を「原液」として言語化する意味が語られました。AIが社長の判断を代行しうる時代だからこそ、言葉の定義と葛藤の場面での選択を掘り起こし、思想を形式知にしておくことが重要になる、というのが二人の結論です。
- AIで書かれた松浦会長のnoteは、過去の発信に通底する思想を煮詰めた「原液」として読める
- 物語と思想は別物ではなく、抽象度の深さが違うもの。具体的なエピソードから遡ると思想が見えてくる
- 言葉の意味を細かく定義できれば、社長がいなくても社長に近い判断をAIができる可能性がある
- 思想は、葛藤の場面でどちらを選び、それはなぜかに表れる
- 思想の言語化は一人では難しく、誰かと対話しながら定期的に行うのが望ましい





