20代で抜擢されたマネージャーは、なぜ指摘できない?
この回はお便りコーナーです。池原さんが紹介したのは、20代でマネージャーに抜擢された若い方からの相談でした。
20代でマネージャーに抜擢されたものの、年上のメンバーへの指摘やフィードバックには及び腰になってしまう。また、年下メンバーへの指摘も難しい。そもそも自分は厳しく指摘された経験がないので、自分より年下のメンバーの気持ちがよくわからない。とは言っても、それとなく伝えなきゃいけないという悩みがあります。
池原さんは、年上の部下を持つという状況もありつつ、本当によく聞く悩みだと受け止めます。宇尾野さんも、初めてマネージャーになったゆえの悩みと、若い世代ならではの悩みの両方が含まれていそうだと話しました。
そこで池原さんは、この相談を「Z世代」という切り口と「初めてのマネージャーのフィードバック」という切り口の2つに分けて考えることを提案します。Z世代は、今の30歳よりやや下ぐらいの世代を指すと説明しています。
Z世代に共通する5つの特徴とは
池原さんは、大学や企業がまとめた複数の調査を横断して整理した、Z世代の特徴を紹介しました。
- 意味、成長、つながりを非常に重視する
- 安定志向と成長志向が同居する二重構造
- ワークライフバランスへの非常に強いこだわり
- 失敗回避傾向と承認欲求の高さ
- デジタルネイティブだが、人肌も求める
このうち「失敗回避傾向と承認欲求の高さ」は、今回のお便りに近い特徴ではないかと池原さんは見ています。
宇尾野さんは、事業人にもインターン生がいるなど、Z世代と接する機会はあると話します。そのうえで、Z世代ならではの面もあれば、どの世代でも起きそうな状況でもあるので、両方を織り交ぜて考えたいと述べました。
(この悩みは)その「世代の特徴×初めてマネージャーの戸惑い悩み×個人の特性」っていうね、いろんな変数がある中ではあるんですが。
若手マネージャーを苦しめる「三重苦」
宇尾野さんは、若くしてマネージャーになる難しさを3つの側面から整理しました。
1つ目は、プレイヤーとしての期間がまだ短く、役割が早めに移行してしまうため、新しい立場への適応が難しいことです。2つ目は、どこまで行っても年上を敬うべきという社会的な望ましさの中でマネジメントしなければならないことです。
3つ目はどの世代にも共通する変化で、ハラスメントの規範が変わり、厳しいことを言いづらくなっていることです。宇尾野さんは、Z世代の失敗回避傾向に、この規範の変化が重なることで、さらに難しくなっていると指摘します。
プレイヤー期間の短さ
役割が早めに移り、マネージャーとしての適応が追いつかない
年上を敬う規範
年上の部下に指摘しづらい社会的な空気がある
ハラスメント規範の変化
厳しいことを言いづらくなり、失敗回避傾向と重なる
上司は遠慮し、部下は求めない。フィードバックが消えた職場
池原さんは、まさにこの日の朝に見ていたという提案書の話を紹介しました。Mentor Forのメンバーが顧客向けに作った提案書です。
その提案書が扱っていたのは、管理職が過度にハラスメントを恐れ、部下にフィードバックできず、仕事も頼めなくなっている状況でした。部下の側も、上司が遠慮しているので自分からフィードバックを求めに行かず、結果として成長しない、という構図です。
この課題に対し、管理職向けの研修と、メンバー向けの「フィードバック活用研修」を組み合わせる提案だったといいます。宇尾野さんは、上司と部下のどちらにも難しさがある状況だと受け止めました。
ハラスメントを恐れて、指摘も依頼もできなくなる
上司が遠慮しているので、自分から求めに行かない
しかもこのテーマですね、今月だけで私5回ぐらいどっかで喋っていてですね、ハラスメントとフィードバックと心理的安全性みたいなテーマがめちゃくちゃ多いんですよね、今。
それだけみんな何も言えないんだなって思います。
宇尾野さんは、今回のお便りではさらに、年下が年上に指摘するという状況や世代の違いが難易度を上げており、意外に難しい問いだと話しました。
謙虚さを軸にする「オーセンティック・リーダーシップ」
では、20代や30歳になったばかりの人が、年上・年下・同僚を含むメンバーに向き合うには、どんな心構えが必要なのでしょうか。池原さんの問いに、宇尾野さんは「オーセンティック・リーダーシップ ── 「本物の」「自分らしい」リーダーシップを意味する考え方。役職の権威に頼らず、自分の価値観や弱さも含めて誠実に振る舞うことで信頼を得るスタイルを指します」という言葉を挙げます。
宇尾野さんによると、オーセンティック・リーダーシップは簡単に言えば「謙虚であれ」という考え方です。年上が多い、マネジメント経験が浅いといった状況では、3つの要素が大事だといいます。
宇尾野さんは、この3つで「謙虚である」という構図を早い段階で作って見せることが、リーダーシップのスタイルとしても認められており、今回の状況でも大事なのではないかと話しました。
謙虚すぎると「ナメられる」?決める場面を持っておく
一方で宇尾野さんは、オーセンティック・リーダーシップの謙虚さが強すぎると、今度は頼りなく見えてしまうと付け加えます。池原さんも、ちょうどそうならないかと思っていたと応じました。
もうちょっと言い方を変えると、「ナメられる」みたいなシチュエーションになると思うんで、「謙虚である姿勢」と、「ここはちゃんと私が決めます」っていう(場面を)きちんと決めておくってことが非常に重要だなと。
宇尾野さんの答えは、謙虚さと、意思決定を見せる場面の両方を持つことです。決めるべき場面を決めておくことは、マネージャーやリーダーの大事な役割の一つでもあると話しています。
指摘も承認も「マネージャーの仕事でしかない」
池原さんは、マネージャーという立場について、自身のシンプルなスタンスを語りました。役割はただの役割であり、その役割に紐づいた仕事はやるべきだという考え方です。
リーダーとかマネージャーの役割は、部下が良いことをしたらきちんと承認してあげる、足りないものとか改善点があるんだったら指摘をするっていうのは仕事でしかないし。
相手の人格を批判するというよりも、例えば「資料のここがちょっと抜けてたね」とか、「こうやるといいよ」っていうだけの話なので。
池原さんは、相談者も自分の年齢を気にするより、マネージャーとしてするべき仕事を淡々とすることが大事だと話します。年上へのフィードバックに気を使うのは当然で、年齢を問わずリスペクトは持つべきですが、遠慮して指摘をやめるのは仕事の放棄になるといいます。
宇尾野さんは、この池原さんの言葉を、悩むお便りの主にとって勇気づけられるコメントだと受け止めました。指導、承認、評価といったマネージャーの役割を、一度やりきってみようと向き合うことだと整理しています。
池原さんはさらに、ハラスメントとフィードバックの違いをチーム内で共有しておくことを勧めます。少し注意されただけでハラスメントだと騒がれると指導にならないため、メンバー側も含めて意識をそろえておくべきだという考えです。
宇尾野さんも、境界線の共有はマネージャーにとってリスクヘッジになり、マネジメントされる側にとってもどこが境界かを想像する助けになると補足しました。
若い頃に受けた細かいフィードバックは、今の肥やしになったか
池原さんは、若い頃に先輩からかなりのフィードバックを受けた経験を振り返ります。当時は「細かいな」「なんでこんなこと言うんだろう」と思う、少し嫌な部下だったと笑います。
今思うと、あれ(先輩からのフィードバック)がなかった自分ってすごい怖いなって思いますね。
お客さんに出す資料を厳しく見られたり、お客さんへの接し方を細かく注意されたりした経験が、今の池原さんの仕事に役立っているといいます。
宇尾野さんも多くのフィードバックを受けてきたと話します。人と組織のテーマに向き合うようになってから、苦しいフィードバックを受けてどう変わったか、その差分がある人を魅力的に感じるようになったそうです。
過去のフィードバックは、自分にとっての肥やしになってるなっていうのは感じます。
二人は社会人1年目の自分を思い出し、今目の前に当時の自分がいたら指導できず諦めてしまいそうだと笑い合いました。宇尾野さんは、そんな自分に向き合ってくれた当時の上司や先輩には足を向けて寝られないと語ります。
年上の部下への指摘を、プラスに意味づけるには
池原さんは、指導する立場として、Z世代のマネージャーにどんなアドバイスをするかを宇尾野さんに尋ねました。
自分自身が抜擢された意味とか、年上のメンバーの方にとっても、若い人から言われるフィードバックって実は結構新鮮だったりすると思うので。
なんかそれぞれの状況に少しプラスの意味付けしていただけるといいんじゃないかなっていうのは個人的に思ったりはしますね。
宇尾野さんの提案は、年下から年上への指摘を気まずさだけで捉えず、抜擢された理由や、年上にとっての新鮮さといった前向きな意味を見つけることです。
言われた側の心の動きを表す「SARAモデル」
池原さんは、フィードバック研修でよく使うという「SARAモデル」を紹介しました。フィードバックを受けた人の心理がどう変化していくかを、4つの段階で表したものです。
Shock(ショック)
どんなに正しい指摘でも、最初は「なんでそんなこと言うの?」と驚く
Anger(怒り)
内容を理解するにつれて、恥ずかしさや不安、怒りが出てくる
Resistance(抵抗)
「あいつだってできてない」「これが私のやり方だ」と反発する
Acceptance(受容)
時間がたって落ち着くと、ようやく受け止められる
池原さんは、言う側はストレートに伝えても、言われる側にはどうしても心理的な葛藤があると話します。相手がすぐ受け取らなくても焦らないことが大事だというのが、このモデルから得られる教訓です。
宇尾野さんは、年齢差がある状況では「なんでこの人に」というショックが生じやすいと理解しつつ、相手を信じれば、ある程度自然とそのプロセスが巡ってくるということだと受け止めました。
アウトプットには率直に、パフォーマンスには事実で
宇尾野さんは、フィードバック研修の経験がある池原さんに、フィードバックの原則を尋ねました。池原さんは、フィードバックには大きく2種類あると答えます。
1つ目は、資料のチェックのように作業やアウトプットに対するフィードバックです。池原さんは研修資料や提案資料を見る際、「ここのストーリーが抜けている」「ここがあるともっといい」と率直に書くようにしているといいます。回りくどく書いても伝わらないからです。
2つ目は、その人のパフォーマンス全体に対するフィードバックです。池原さんはこちらのほうがしんどく重いと感じており、「あの時の効果はこうだったから、こうだよね」と事実ベースで話すようにしています。
資料などの作業に対して、率直に「ここがあるともっといい」と伝える
重い話になるため、事実をもとに「こうだったから、こうだよね」と伝える
最後は「愛」を語るフィードバック研修
宇尾野さんは、池原さんの考えとかなり近いとしつつ、前提として相手の成長を願う気持ち、つまり愛を持つことを付け加えました。
本当にこの人が心底嫌いでフィードバックするのと、ちょっと嫌なところあるけど、この人なんとか上手くなってもらいたいから言うのだと、受け取った側の浸透率っていうんですかね、(それが)変わる。
宇尾野さんは、これは完全に自分の経験則だと断ったうえで、フィードバック研修では最後になぜか愛を語ることが多いと笑います。
池原さんは、言わなくていいなら言いたくないのは100%そうで、言う側にとってこれほど辛いことはないと共感しました。宇尾野さんは、フィードバックで相手が変わった経験が積み重なるほど、マネージャー側の抵抗感は薄れていくと話します。
宇尾野さん自身もフィードバックがうまくいかなかった経験があるそうです。ただその多くは特殊な状況というより、本や研修で「やってはいけない」とされていることをやっていた、落ちるべくして落ちた失敗だったと振り返りました。
マネージャーは「好かれる」を手放せるか
池原さんも、フィードバックでの失敗や悩みはたくさんあり、今でも悩むと明かします。フィードバックした後、何日も「あれで良かったのだろうか」と考えることもあるそうです。
好かれることを手放す、別に嫌われに行く必要ないんですけど、正しいことをするっていうことが大事かなと思いました。
宇尾野さんは、自分なりの正しさや正義を持っているかどうかで、フィードバックするときの自分の在り方が揺れるかどうかが変わると応じました。
一方で池原さんは、嬉しかった経験もあると話します。育成の段階で「こうすればもっと良くなる」と伝えたメンバーが、それを頑張って取り入れ、見違えるように成長したといいます。顧客先に同行したメンバーが生き生きとファシリテーションできるようになった姿を見て、年長者としてじんわりくるものがあったそうです。
宇尾野さんは、フィードバックというギフトを渡した結果として、相手の成長という返報が見えるのは嬉しいことだと表現しました。
「肘をつく癖」を指摘されて気づいたこと
終盤、宇尾野さんは最近グッときたフィードバックはあるかと池原さんに尋ねます。池原さんが考える間に、宇尾野さんが先に答えることになりました。
宇尾野さんは、最近はあまりフィードバックをもらえていないと気づいたといいます。ポジションや役割上もらいづらくなっている面がある一方、自分でセルフフィードバックをして改善する動きが強まっているため、ガツンと言われることが減ったという成長実感もあると話しました。
池原さんが思い出したのは、ミーティング中に無意識に肘をついている癖を、ストレートに指摘された経験です。本人は気づいておらず、感じが悪いとも思っていませんでしたが、一定数そう感じる人がいると言われたそうです。
最初は何言ってんだってちょっと思ったんですけど。でもそれこそ(SARAモデル)ですよね。ただ1日ぐらい経つと、めちゃくちゃ大事なこと言ってもらったなって。
それ以来、池原さんは肘をつきそうになるとすぐ離すなど、改善を続けているといいます。振る舞いについては誰も言ってくれないからこそ、言われたことがありがたかったと振り返りました。
宇尾野さんも、自分にもぜひ言ってほしいと応じ、この回は締めくくられました。
まとめ
20代で抜擢されたマネージャーが年上にも年下にも指摘できない背景には、Z世代の失敗回避傾向や、プレイヤー期間の短さ、年上を敬う規範、ハラスメント規範の変化が重なっています。二人が示したのは、謙虚さと決断の場面を両立させ、指摘も承認も役割上の仕事として淡々とこなし、受け手の心の動きを理解して焦らず向き合う姿勢でした。
- 謙虚さを示す「限界を認める・強みを認める・学ぶ姿勢を見せる」と、「ここは私が決める」場面の両方を持つ
- 指摘も承認もマネージャーの仕事であり、遠慮してやめるのは仕事の放棄になる
- ハラスメントとフィードバックの違いを、チーム全体で共有しておく
- SARAモデルのとおり、受け手はショック・怒り・抵抗を経て受容に至るので焦らない
- 好かれることを手放し、相手の成長を願って正しいことをする






