雑談から始まる「余白」の話
冒頭で宇尾野さんは、リスナーから「もう少し雑談を増やしたら」という声が届いたと紹介します。そこから、料理をテーマにした軽い雑談が始まります。
池原さんは、同年代の女性リーダーたちと食事した際の話を挙げます。ひとつ上の世代のレジェンド経営者は料理も仕事も完璧にこなす人が多かった一方、自分たちの世代は考え方が変わってきたといいます。
私たちの世代になると、「それ無理じゃない?」みたいな話になって、ほとんど全員が、ほぼ日中は(料理を)作らないみたいな。
池原さんは、お惣菜や作り置きサービスを使い、頑張りすぎずに余白を持って食事を楽しむほうがいいという結論に落ち着いたと話します。全部を内製化せず、できない時は潔く外注して余白を作る考え方です。
全部完璧にしなきゃって、結構無理ゲーな感じですよね。
宇尾野さんは、最近は移動が多く自炊はしていないものの、訪れた土地で普段食べないものをその場で味わうことを意識していると語ります。エリアごとの醤油の濃さや出汁の違いを噛みしめるのだといいます。
自分の今の余裕、余白を確かめる儀式にもなっているっていうか。
雑談は、料理も食事も余白とともに楽しむとエンターテインメント性が増す、という共通の実感で締めくくられます。
人材育成は「活躍」と「幸せ」の両軸で考える
本題は人材開発・人材育成です。池原さんの会社は顧客企業の人材育成に直接関わっており、社内でも入社後の定着から活躍までをどう実現するかを考えているといいます。
宇尾野さんは、定着やエンゲージメントに加え、AIによって仕事が一定代替される中でどう働いてもらうかを考える経営者や管理職が増えており、問いが立ちやすい状況だと指摘します。
池原さんは、会社の中で活躍するだけでは不十分で、個人がそこに意味を持って幸せを感じられるかという両軸が必要だと話します。片方が欠けると、空回りや燃え尽きにつながると説明します。
活躍をしつつ、さらに個人がそれに意味を持って幸せを感じてるかっていう、その両軸が必要なんじゃないかなと思ってます。
宇尾野さんは、働く人を単なる従業員として扱うのではなく、そこで何を果たし、どんな幸福を味わってほしいかを設計することが、活躍や定着につながると応じます。経営者や人事がどれだけ舞台や環境を作れるかが鍵だといいます。
外発的動機は、内発的動機に変わっていく
池原さんは、個々人のやりたいことや夢と、会社のビジョン・ミッションが完全に一致しているのは創業者ぐらいで、多くの人はそこが離れていると指摘します。その重なりをどう見つけるかを問いかけます。
宇尾野さんは、外発的動機と内発的動機の関係を挙げます。良い環境や報酬、称賛といった外からの動機と、自分がやりたいという内側の気持ちは、しばしば相反すると語ります。
その上で宇尾野さんは、やりたいことと会社がやってほしいことが最初から重なることはほとんどないと話します。だからこそ、まず外発的な動機を会社が示し、それが徐々に内発へ変わるプロセスを作れる会社が両立できるといいます。
最初はほとんどないんだろうなと思ってます。外発的な動機をまず会社としてちゃんと見せながらも、徐々にそれが自分の中では内発に変わっていくみたいなプロセスが作れる会社は、ちゃんと両立するんだろうな。
池原さんは、モチベーションが人から言われて上下するのか、内発的動機は本人にしか高められないのではないか、と長年の疑問を口にします。
内発的な動機ってその人にしか高められないから、人にはもうどうしようもないんじゃないかなって正直思うところがあるんですよね。
宇尾野さんは、最終的に動機を生み出すのは本人だが、そのきっかけやプロセスは外部からの刺激や外発的動機付けから始まることが多いと答えます。
「Must」から始めるから「Will」が生まれる
宇尾野さんは、かつて在籍したリクルートの「Will Can Mustシート」を例に挙げます。実はWillから描けとは言わず、Mustから入るのだといいます。
宇尾野さんによれば、こういうことをやってほしいというMustに応えていくうちにCanが広がり、Canが広がると社会への視座が上がって、結果的にWillが生まれてくるといいます。だからまずMustをやろうと強めに伝えるそうです。
この説明に池原さんは強く納得します。やれるかどうかもわからないのにWillを持てる人はそう多くないと応じます。
池原さんは、一人ひとりのやりたいことを会社で実現させてあげるというアプローチにずっと違和感があったと明かします。個人の夢を叶えるために会社があるわけではないと感じていたためです。
その上で池原さんは、まず役割と期待を伝え、それをやるうちにできることが増え、重なりが見えてくるという順番のほうがヘルシーだと話します。
ジョブクラフティングで内発的動機を育てる
宇尾野さんは、責務を果たすうちにやりたいことが見つかってくる感覚は多くの人が体感的に持っているとした上で、「ジョブクラフティング」という言葉を挙げます。
宇尾野さんによれば、自分でできる範囲や選択の幅が広がると、誰とどう仕事をするかを自分で工夫でき、やりがいに近い仕事を選べるようになります。これができる人が増えると、内発的動機の高い人が増える構図になるといいます。
そのため経営者や人事は、仕事を細切れにして渡すだけでなく、仕事の作り方や目標設定のあり方まで現場に委ねる環境を整えることが大切だと宇尾野さんは話します。
池原さんは、そこから育成の話へ立ち返ります。そうした指示の仕方や、育成ができる人を育てることこそが、実はとても大事だと指摘します。
この人を育てる人ってすごい、今私たちも二人で一瞬止まっちゃいましたけど、自分たちそれでできてんのかなみたいなところですよね。
内省(リフレクション)が人材育成の起点になる
宇尾野さんは、最近のキーワードのひとつは内省だと語ります。ここで言う内省はリフレクション、自分の中を振り返る意味です。
宇尾野さんによれば、組織づくりが上手な経営者は、自らティーチャーやメンターとして景色を共有しながらも、「それを見てお前はどう思う?」と日常的に問いかけているといいます。返ってきたコメントを、フィードバックするだけでなく、ただ受け止めることも含めて内省を促しているそうです。
池原さんは、この話から思い出したことを2つ挙げます。ひとつは、神戸大学の経営学の先生から聞いた、パフォーマンスが高い人の思考特性の話です。
その特性とは、内省の頻度が高いことだといいます。週に一度振り返る程度の人もいる一方、パフォーマンスが高い人は都度すぐに振り返る癖ができているそうです。
その癖は実は入社3年目ぐらいまでに一生の基盤になるらしいので、上司がどれぐらい部下や新入社員に対して振り返りを促す関わりをするかが(大事)。
もうひとつは、上司がすべき3つの支援です。池原さんは、業務支援・内省支援・精神支援の3つが必要だと聞いたと紹介します。
業務支援
仕事を教えたり手順を伝えたりする、多くの人が普段からやっている支援
内省支援
「どう思う?」「振り返ってみたらどう?」と問いかけ、相手の内省を促す支援
精神支援
「具合悪そうだけど大丈夫?」などケアを示し、精神面を支える支援
池原さんは、内省を自分でうまく回せる人ばかりではないため、上司や人事、経営者が折に触れて問いかけることが重要だと話します。
内省を「楽しく」続ける仕組み
宇尾野さんは、内省には週に一度のようなわかりやすい周期だけでなく、会議の後に「どうすればもっと良かったか」と思い出す小さな振り返りも含まれると補足します。それを日常に組み込めるとよいといいます。
一方で宇尾野さんは、人間は自分とのコミュニケーションが得意ではないと指摘します。コーチングでは鏡を置くような感覚だと言うものの、自分の顔をずっと見ながら仕事をする人はいないと例えます。
そこで宇尾野さんは、隣の上司やメンバーから「あの会話どう思いました?」と問いをもらうシチュエーションを作ることを挙げます。さらに、進んでいる会社ではAIでリフレクションボットを作る例もあると紹介します。
もうちょっとインタラクティブなAIのインターフェイスにして、ちょっと褒めてもらうようなロジックを入れておいて、リフレクション自体を楽しくするみたいなこともやってたりする。
池原さんは、人材育成というと研修制度や年間計画、予算に頭がいきがちだが、ちょっとした工夫でも育成になると気づいたと話します。
会議の終わり5分は内省タイムにしようねとか、日報の最後に1、2行なんか内省書こうねとか、そういう仕組みを入れるだけで実は育成になるんだな。
日報は侮れない。京都の会社の事例
宇尾野さんは、最近インタビューした京都の会社の事例を紹介します。日報で一日を振り返る習慣を徹底している会社です。
その会社では、社員が夜8時か9時までに日報を書いて提出し、翌朝に社長が全部読んで一言二言コメントするといいます。スタンプだけのこともあるそうです。
さらに翌朝の朝会では、社員も全員の日報に目を通した上で、「このコメント良かった」と必ず引用するのだといいます。それを平日毎日続けているそうです。
宇尾野さんによれば、日報の書き方も社員それぞれで、ToDoだけでなく感じたこと(To feel)や自分のコメントを4〜5行重ねる人もいるといいます。それだけで会社の雰囲気も伝わるそうです。
宇尾野さんは、負荷に感じる人も多いため、なるべくライトにハードルを下げる工夫を意識的にやっている事例だと補足します。
この会社の社員は、会社で何が起きているかへの理解が高く、会社がやってほしいことを理解した上で、個人のやりたいことも自然と重ねているといいます。冒頭で語った「重なり」を体現している強い会社だと宇尾野さんは評します。
リフレクションの起点を自分で作る
池原さんは、事業人のメンバーも日報を書くのか尋ねます。宇尾野さんは、日報自体はやっていないと答えます。
宇尾野さんは、その代わりに、会議の後などに感じたことを共有し、コミュニケーションの循環を作ることを意識しているといいます。会議が続くと振り返りは難しくなるため、無理にでも書いて一旦発信しているそうです。
一旦発射だけして、何かあればコメント返ってきますし、なければOKみたいな感じの。
宇尾野さんは、リフレクションの起点を自分で作れるのが最も効果が高いとした上で、誰かが会社の中でその起点を作れると、振り返り習慣が身についてくると話します。
池原さんは、ここまでの話をまとめます。入社・定着・活躍と次のフェーズへ進む土台が内省であり、内省しただけでなく、そこから教訓を引き出して次に生かすことが活躍につながるといいます。
育成には理論と持論の両方が必要
宇尾野さんは、この日は約20分話したが、このテーマなら4〜5時間は平気でいけると笑います。今回は第一章のような位置づけだといいます。
宇尾野さんは、人には自分の原体験から来る人材育成のマイセオリーがあり、一般的なセオリーもある中で、それをどう自社化するかの事例を聞いてみたいと話します。
これを受けて池原さんは、育成には理論と持論の両方が必要だと語ります。宇尾野さんが「金言っぽい」と反応します。
池原さんは、誰もが育てられた経験を持つが、その育てられ方にはばらつきがあり、それが持論だといいます。そこに理論が加われば、両輪で標準化されていくと締めくくります。
まとめ
今回は、外発的動機を内発的動機へ育てるプロセスと、内省を日常の仕組みに組み込む工夫を語り合う回でした。日報のような小さな習慣も、育成の起点になりうるという視点が印象的です。
- 個人の「やりたい」と会社の「やってほしい」は最初から一致しない。まずMustに応えるうちにCanが広がり、Willが生まれる
- ジョブクラフティングで自分なりに仕事を作れる人が増えると、内発的動機の高い人が増える
- 内省(リフレクション)は人材育成の起点。上司には業務支援・内省支援・精神支援の3つが求められる
- 会議後の5分や日報の1、2行など、小さな仕組みでも内省を促せば育成になる。日報は侮れない
- 育成には理論と持論の両方が必要で、両輪がそろうことで標準化されていく





