前回語りきれなかった「組織をどうしたいか」の続き
番組冒頭で宇尾野さんは、前回の野村さんの話について「この1年ほどで芯ができた」と振り返ります。Chronicleの組織像や価値観が、以前より具体的になっているという印象です。
私が質問いただく時って、いや、ポッドキャストって今なんで来てると思いますか?っていう(質問が多いんです)。
野村さんによれば、Podcastが伸びている理由を聞かれる機会は多い一方で、自分がどんな組織を作りたいかを話す機会はほとんどないといいます。
組織をどうしたいっていうのはほとんど喋る機会がないんで、すごいありがたいというか、自分の思考も整理されるなと思いながら。
宇尾野さんは、この番組をきっかけに誰かがChronicleに関心を持ってくれたら、という期待も口にします。そこから話は、野村さんが一緒に働きたいプロデューサー像へと移っていきます。
Podcastは「アテンションエコノミーへのカウンターパート」
野村さんはまず、事業の根っこにある「Podcastとは何か」という価値観を、仲間とは握っておきたいと話します。まだクレドのように言語化しきれてはいないものの、方向性は明確です。
私なりのやっぱポッドキャストって何かっていうと、アテンションエコノミーへのカウンターパートなんですね。
タイムラインを秒単位で流れていくWeb空間では、どうしても極論や感情を煽るコンテンツが最適化されていく。野村さんは、そこに対する別軸として長い話が届くというのが一番ポッドキャストの価値だと捉えています。
ただし、ゆるい会話を提供するイージーリスニング型のラジオ番組とは、少し立ち位置が違うといいます。野村さんが強く志向するのは、議論して情報密度を高めることです。
私の場合は多分もうちょっと議論したい、情報密度を高めたいっていうところが結構強いんですね。
だからこそ、一緒に働くクリエイターとは「長いものを作る」という点を握りたいと話します。華やかな芸能人を招いて会話を展開するのが得意な作り手もいるが、それは自分とは違う手法だと整理しています。
「あのコンテンツ、あり?なし?」がおおよそ一致するといい
扱うコンテンツの中身については、細かく縛りたいわけではないと野村さんは言います。ただし、世を騒がせているコンテンツへの「あり・なし」の感覚が、おおよそ一致していると嬉しいと語ります。
世を騒がせているあのコンテンツってどう思います?っていう時の(反応が)、全部一致しなくていいんですけど、おおよそ一致してるといいなっていう感じはあります。
宇尾野さんが「賛否両論の同じ方で賛、同じ方で否で行きたいですよね」と言い換えると、野村さんも同意します。意見が全部同じである必要はないが、大枠が一致していたほうが一緒に仕事しやすい、という温度感です。
一方で、野村さんは自分と違うものを作れる人への期待も語ります。性別や年代が違えば、自分には作れないコンテンツになる。それがあると、こちらも楽しくなるといいます。
これはなんか自分には作れないなっていうものを持ってる方はすごい嬉しいなと思っていて。
情報の「密度の濃さ」はどこから生まれるのか
宇尾野さんが、コンテンツの密度の濃さがどこから生まれるのかを尋ねます。野村さんは、テクニックの問題と本質的な問題の両方があると答えます。
テクニックの面では、そのトークで到達したいタイトルイメージがあり、そこへ至るために通過すべきポイントを設計しておくことだといいます。雑談や脱線はありつつ、全体として成立していることが大切です。
もう一つの本質的な面として、野村さんは「その場で考えた話をしているか」を重視します。事前に用意してきた話ではなく、その場で生成された話がどれだけあるか、という点です。
ポッドキャストは何で勝負するかっていうと、その場だから生成された話がどんだけあるかが多分ポッドキャストの価値だなと思うんですよね。
どこで喋っても同じ話なら、わざわざここで聞かなくてもいい。だからこそ野村さんは、聞き手であるMCが重要になると考えています。
それがある程度出てくると良くて、作り手にもそこの感度は持ってると嬉しいなっていう感じはありますかね。
宇尾野さんは、この掛け合いを「二人じゃないと再現できないダンス」にたとえます。相手が右足を出すと思ったら左足を出してきて形が崩れる、その即興性こそがコンテンツの面白さだという見立てです。
AIが出すのは「前提」、そこから先に価値がある
野村さんは、AIの発信と人間の発信の違いを常に頭に置いていると話します。生成AIに問いを投げれば答えは出てくるが、それはあくまで前提だという整理です。
生成AIに一旦この問いを投げてみて、出てくるじゃないですか。出てくるものは多分もう前提なんですよね。
つまりAIが出す情報は、その場で当然触れるべき下地にすぎない。そこからプラスアルファがどれだけ出てくるかに、作り手の感度が必要だと野村さんは言います。それぞれの視点をぶつけることが、一番プラスアルファが出やすいという考え方です。
問いを投げれば出てくる答え。その場で当然触れるべき「前提」にあたる
話者同士が視点をぶつけ、その場で生成されるプラスアルファ。そこに価値がある
1人目社員のミスマッチが怖い、だから候補が絞られる
話は理想像から採用の現実へ移ります。宇尾野さんが、この5人のチームをどう集めるのかと問うと、野村さんの表情が変わります。像は具体になったが、ここから先はHowの話で難しい、という反応です。
野村さんが詰まっているのは、一番最初のスタッフだからこそ重要度が高く、ミスマッチしたときの影響が大きい点です。だから、元々関係性がある人でないと怖くて採れないといいます。
一番最初というスタッフであるが故に、だから重要度がすごい高いなと思っていて、ミスマッチした時の影響がでかいんですね。
たとえこの番組を聞いて応募があっても、いきなり「プロデューサーをやりませんか」とは言えない。まず1年ほど実務を一緒にして、フィーリングが合うと確かめてから、という段階を踏む必要があると話します。
もうちょっと多分その実務を1年ぐらいご一緒させていただいて、フィーリング合いますねっていう風になって、(コミットを相談したい)。
その結果、いきなりプロデューサーと言えるのは前職以前から関係性がある人に限られ、候補者が相当絞られてしまう。野村さん自身、そこに至るまでの道の狭さを設計しきれていないと認めます。
そこで最近は、若くて時間を投入できる人向けに、インターン的なポストを用意しようとしているといいます。すでに1人、その枠で動いてもらっている人がいるそうです。
これを聞いていて、その人が私だったんだと思うかもしれないですけど(すごい期待をしています)。
1人目は今年、数年かけて5人を採る時間軸
組織づくりでは時間軸も大事だと宇尾野さんは指摘します。この5人をいつ作りたいのかと尋ねると、野村さんは「10年は長すぎる、数年」と答えます。ただし2年か3年かの解像度はまだ粗いといいます。
理由は、今の状態が10年続けば、飽きや停滞に確実に直面するからです。Podcastは動画より流行り廃りがマイルドとはいえ、常に新しいことをやる必要があると考えています。
一年ごとに何らかの進化を世間に見せなきゃいけないなとは思っていて。
人という面でも、2年から3年のスパンで像を作っていく必要がある。野村さんは、1人目は今年だと考えているものの、収録時点の5月ではまだ実現しておらず、頑張らないといけないと話します。
その一人目は本当に今年だなと個人的には思ってるんですけど、五月の時点ではまだ実現はしてないんで、ちょっと頑張らないとねって思ってる。
宇尾野さんが「2〜3年で半年に1人ずつなら、ちょうど5人」と計算すると、野村さんも計算上はそうだと応じます。すぐ入れる人もいれば、合致する期間を待つ人もいる、という含みです。
候補は現状「5分の5」、要求レベルは高いのか
宇尾野さんが、5人候補のリストのようなものはあるのかと尋ねます。野村さんの答えは「現状、5人はいない」でした。
五分の五です。だからまあありえないですね。五分の五を実現することはありえないんで。
候補者がそもそも少ないうえ、そういう目で世の中を見てこなかったと野村さんは振り返ります。候補には、実際に一緒に仕事をして筋がいいと感じた人もいれば、同業者としてフィーリングは合うが一緒に仕事したことのない人もいて、ばらつきがあるといいます。
後者については、実際に組んでみたら合わないこともある。そうなると既存の人間関係も壊れかねない、という怖さがあります。
同業者としてはフィーリングが合うんだけど、実際に仕事してみたら全然合わないとかもあるだろうなと思って。
要求レベルが高いのではないか、と自問することもあるといいます。ただ野村さんは「高いのかもしれないが、いるでしょとも思っている」と語り、悲観だけには傾いていません。
打席を増やす手段としての「自社番組」と「スクール」
採用にかけられる時間がもっとあったら何をしたいか、と宇尾野さんが問います。野村さんが挙げたのは、収益はそれほど立たない自社番組を増やすことでした。
その狙いは「打席の数」を増やすことです。互いのマッチング度を見極める機会が今は不足しており、番組が増えれば半年後に相性を確かめやすくなると考えています。
つまり打席の数だと思うんですよ。互いにマッチング度を見極めるための機会の数が今不足していると思っていて。
ただし、一気に20人と同時に仕事することはできず、結局1人ずつしか増えていかない弱点も残ります。トライアル回数が少ないという構造的な問題は、まだ解けていないといいます。
宇尾野さんが芸能プロダクションのスクールやオーディションを例に出すと、野村さんは「スクールはあり」だと応じます。過去に外で担当した講座の受講生と、今がっつり仕事をしている実例があるからです。
そのフィーリングが合って、もう私に持ってないスキルをその方持っていたりするんで、ここのテクニックはすごいですねみたいなところがあったりする。
これまでスクールの優先度は高くなかったものの、リクルーティングという意味ではありかもしれない、と野村さんは考えを改めます。講義そのものへのテンションは高くないが、目的を採用と位置づければやれるかもしれない、という整理です。
20数人と面談、7〜8人の仲間が増えた実績
実は野村さんは、年末に告知して1月から3月にかけて人材募集を行っていました。この期間に面談を重ね、20数人ほどに会ったといいます。
結果として、フルのプロデューサー候補に該当する人はいなかったものの、関係人口は大きく増えました。新しくディレクターや編集パーソン、部分的にプロデューサーロールを担う人など、7〜8人の仲間が増えたそうです。
トライアル回数が少ないって話でいうと、やっぱ怠っちゃいけないなっていうのは改めて思いましたね。
宇尾野さんは、この経験を採用の姿勢の話へと結びつけます。人数を集めるだけならChronicleの発信力で声は届くが、濃い5人と出会うにはそれだけでは足りない、という文脈です。
この「採用に狂ってないとできない」という言葉に、野村さんは「もうちょっと重い言葉ですね」と反応します。自分は全然狂えていない、むしろ片手間もいいところだと率直に認めます。
そこまで全然狂えてないですね。狂えてないというか全然片手間です。
アライアンスでは一枚岩にならない、だから中に入ってもらう
野村さんは、ここに至るまでの紆余曲折も振り返ります。当初はプロフェッショナルとアライアンスを組み、共同で事業を作ってレベニューシェアする形を増やせば理想が実現すると考えていたといいます。
実際、その形で運営している番組もいくつかあります。ただ野村さんは、そこは構造上どうしても一枚岩にならないと感じ、増やすイメージは持てなくなったといいます。
だからこそ、本当にやりたいことを目指すなら、中に入ってもらうしかない。遠回りの末に、自分の中で改めてそう思えたという気づきです。
本当に元々やろうとしていたことを目指すとしたら、中に入ってもらうしかないなと思ってる。
宇尾野さんが、5人に入る人とそうでない人でコンテンツの何が変わるのかを尋ねます。野村さんは、感情的な話もありつつ、かける時間とコミットの強度が、どうしてもコンテンツの質に出てしまうと答えます。
この船みんなで盛り上げてますよねって感じは結構大事な感じがしていて。
「4年経って、この船は沈没しない」と思えた
野村さんは、これまで人を採れなかった理由の核心を明かします。沈没するかもしれない船に、人を乗せる度胸がなかったのだといいます。
今まで私がその沈没するかもしんない船に人を乗せる度胸がなかったんですよ。
それが4年経って「多分沈没しないわ」と思えるようになった、というのが今の転換点です。
番組『経営中毒』の徳谷さんからは「沈没する船に乗るのが好きな人もいる」と言われたそうです。それに納得しつつも、野村さんは自分のメンタリティを大事にします。
ここに入れるってことは、元々あったキャリアを剥がしてここに来てるわけなんで、さすがに沈没させられないよなっていうのは思ってる。
今は沈没しないと言える環境を提示できる。だから本格的に採用に取り組もうと思っている、という前向きな結論に着地します。
宇尾野さんは、コンテンツの濃さだけでなく気持ちの濃さも大事だと受け、野村さんも同意します。そこは必ずコンテンツに反映され、リスナーの受け止めや世の中への作用にも影響するといいます。
見極めたい気質が、可能性を狭めているのかもしれない
収録の終わりに、野村さんは今回の対話を振り返ります。前回より一筋縄でいかない、滑らかさが減った回だったと自己評価します。像は見えているが、実際にやろうとするときの難しさを日々感じているためです。
像は見えてんすけど、やっぱり実際やろうとするときの難しさだなっていうのをやっぱ日々感じてるところですね。
宇尾野さんは最後に、野村さんの「見極めたい」という気質が採用の心理的なブロッカーになっている面を指摘します。そこが外せるとき、可能性はきっと広がるだろう、という見立てです。
確実に行くなら、絶対にこの人だと思える相手が見つかるまで手を握らないのも大事です。一方で、何回かチャレンジや失敗を重ねた末に5人ができる、そんなプロセスもあるのではないか、と宇尾野さんは締めくくります。
まとめ
Chronicleの野村さんが、理想の組織像から一歩踏み込み、1人目社員をどう見つけるかという採用のリアルを率直に語った回です。ミスマッチへの恐れと、それでも中に入ってもらうしかないという結論の間で、試行錯誤が続いています。
- 野村さんはPodcastを「アテンションエコノミーへのカウンターパート」と捉え、長い話・高い情報密度・その場で生成される話を価値の核に置く
- 1人目社員はミスマッチの影響が大きく、元々関係性がある人でないと採れないため、候補が相当絞られている
- 打席を増やす手段として、収益は立たなくても自社番組を増やすことや、リクルーティング目的のスクールを検討している
- 1〜3月の人材募集で20数人と面談し、プロデューサー候補は見つからなかったが7〜8人の仲間が増えた
- 4年経って「この船は沈没しない」と思えたことが、本格的に採用へ動く転換点になった





