そもそも福利厚生とは何を指すのか
今回のテーマは「福利厚生はどれくらい充実させるべきか」です。池原さんは、福利厚生というとフィットネスや英会話スクールのイメージがあると切り出しつつ、まず定義を整理します。
福利厚生は、賞与や給与といった経済的なインセンティブとは別に、企業が従業員やその家族の生活を支援し、働きやすさを整えるために提供するサービスの総称だと説明されます。単なるお楽しみではなく、経営戦略の一環という位置づけです。
宇尾野さんによると、インフレや賃上げが求められる状況の中で、ベースアップだけでなく福利厚生を充実させる必然性が上がっているといいます。実際に相談件数も増えているそうです。
直近ニュースピックスさんの記事でも、福利厚生がすごく注目度が上がってるぞみたいな記事も年末あったみたいで。
相談内容も具体的で、「社宅って必要ですか」「健康経営のサポートとしての福利厚生には何があるべきか」など、一言でくくれないほど幅があると話されています。
施策から入らず「どんなメッセージを伝えたいか」から考える
池原さんは、サイバーエージェントの「2駅ルール」を例に挙げます。オフィスから近い場所に住むと補助が出る制度で、これは「しっかり働いてください」というメッセージでもあると読み解きます。
これに対して宇尾野さんは、施策ベースで「これやったらいいですかね」というディスカッションになりがちだと指摘します。そのうえで、一度引いて見てほしいと促します。
これって結局会社から皆さん働く方へのメッセージになるので、皆さんとしては逆に言うと何をメッセージ出したいですかねっていう、そこからスタートをしないと。
目新しいものや導入しやすいものに手が伸びてしまうと、いったん始めた福利厚生は既得権化して廃止しづらくなる、という注意も語られます。だからこそ、メッセージから入ることが大事だと話されています。
池原さんは、この設計手順を具体例で確かめます。英語を頑張ってほしいならTOEICの塾に補助を出す、ドライバーが忙しい中でも健康に働いてほしいならジムや食事補助を出す、といった順番です。
宇尾野さんは、社員が喜ぶ施策から入ると、結果的にばらまきっぽい見え方になると指摘します。経営戦略上の必要性が先に来て、それをどんな施策でやるかを考えるという順序が望ましいと整理しました。
経営戦略上の狙い
社員にどう動いてほしいかを先に決める
伝えたいメッセージ
その狙いを社員へのメッセージに言語化する
施策の選択
メッセージと社員のニーズが合う施策を選ぶ
福利厚生はいつ、どの規模で導入するのか
池原さんは、福利厚生が目立つのは大企業や大型調達をしたスタートアップが多い印象だとして、どの規模や売上になったら導入するタイミングなのかを尋ねます。一人二人のスタートアップで福利厚生は聞いたことがない、という素朴な疑問です。
宇尾野さんは、採用したい人にとって福利厚生が重要なファクターになる場合は、早期に採用ドライブをかける目的で導入することもあると答えます。会社の魅力が競合と近いとき、その魅力をよりよく見せる手段として効くという説明です。
ここで宇尾野さんは、動機付け要因と衛生要因という2つの理論に触れます。動機付けできる要素が少ないときに、労働条件や福利厚生といった衛生要因を良くする動きが出やすいといいます。
もう一歩突き抜けたい、他の競合他社よりっていうふうに思った時に考えていただくっていうケースが多いかもしれないですね。
池原さんは、利益率が何パーセントになったら導入するといった一般的な目安があるのかと重ねて質問します。宇尾野さんは、利益を現金で還元するか環境整備にお金をかけるかの選択だと整理します。
宇尾野さんによると、福利厚生は一度出すと変えづらい固定性の高いものです。そのため、固定報酬ほどではないにせよ、それを言い切れるような経営環境になって初めて議論しやすくなると話されています。
パソコンも研修も自社リソースも、福利厚生の幅は広い
池原さんは、福利厚生は大掛かりなものだけではなく、ちょっとしたものも従業員への還元の形になるのではと投げかけます。宇尾野さんも同意し、具体例を挙げます。
入社時に自分の好きなパソコンを選べるとか、研修も自分の金額上限までだったら外部の研修を受けられるとか、そういうのも福利厚生というふうに捉えていただくと、結構幅が広いので。
池原さんは、旅行業の会社が自社ホテルの滞在費を一部補助する例を挙げ、自社のリソース活用も福利厚生になりうると話します。自社でメンターのスクールを持つMentor Forでも、社員が無料で受講できることに触れました。
宇尾野さんは、経営者が社員向けに何をサポートするか、それが研修なのか飲食なのか機会なのかをデザインすることが、福利厚生を考えるゴールだと整理します。
現金で還元するか、環境で還元するか
池原さんは、従業員側の意見として、福利厚生は使う人と使わない人に差が出るという声を紹介します。それならなくして、その分を現金で欲しいという人もいる、という論点です。
宇尾野さんは、それも一つの考えだと認めつつ、税金の観点を挙げます。賞与などで現金で払うと受け取った側が課税され、手取りが小さくなってしまうといいます。
機械で提供したりとか、職場環境をより良くするって方に投資が向かっていくっていうのは、昨今のトレンドの一つなんだろうなと思いますね。
池原さんは、現金でもらった方が額面は増えて良さそうに見えるが、よく考えると税金も増えると整理します。2万円を現金でもらうと手取りは減るが、2万円分の補助が出ればその分浮く、という対比です。
額面は増えるが受け取った側が課税され、手取りは小さくなる
機会や職場環境への投資に向かい、同じ金額でも効果が出やすい面がある
宇尾野さんは、同じ1万円でも、どういう形で渡すと会社の投資として一番効果が出るかは、5年10年前とは少し変わってきていると話します。選択肢も、受け取る側の感覚も変わってきているという見立てです。
福利厚生は会社の色を作り、ブランディングになる
池原さんは、入社時に福利厚生で会社を選ぶことはあるのかと尋ねます。宇尾野さんは、どこで働いてもやることが似ていて差分がつきづらいとき、福利厚生がその会社のカラーになると答えます。
宇尾野さんは、福利厚生に反応した仲間が集まる点を強調します。例として「サウナ手当」があれば、サウナ好きが集まってくると話します。
サウナの部活みたいなのをやってもいいと思いますけど、そういう会社が社員の交流をサポートしているとか、色を見せたい、作りたいみたいな場面において、非常に福利厚生一個立ちやすいテーマだろうなと思いますね。
池原さんは、経営者からすると福利厚生は企業のブランディングにとても良いものになりそうだとまとめます。使い方によっていい人も来るし、カルチャーもできるし、還元もできるという三方向の効果です。
リクルートの「ステップ休暇」に込められた狙い
後半は「面白福利厚生」の紹介です。宇尾野さんは、新卒で入ったリクルート当時にあった「ステップ休暇」を挙げます。
ステップ休暇は、在籍当時、3年に1回支給される制度でした。丸々1ヶ月休み、当時30万円ほどをもらって好きなことをしてよいというものです。海外旅行や資格取得など、使い方は人それぞれだったといいます。
使ってないと、なんか上司からも「これ使わないの」みたいな風に言われたりとか。私もそれでオリンピック見に行ったりとか。
池原さんが「集中的に勉強しましょうというメッセージか」と尋ねると、宇尾野さんは表向きのリフレッシュや次を考えるという狙いに加え、もう一つの大事な狙いを挙げます。それが「属人化させない」ことです。
宇尾野さんによると、1ヶ月まるまる休むとその人がいなくなることが確定します。しかも期間中はPCを使えないため、手前で引き継ぎをして人に渡せる状態を作る必要が生じます。
宇尾野さんは裏話も明かします。オリンピックに行く際、やりきっていない仕事が混ざったまま先輩に渡してしまい、結果的に先輩が尻ぬぐいをして、帰ってきてから怒られたそうです。
一般的には1ヶ月社員が抜けるとダメージが大きそうですが、実際にはその人が1ヶ月いなくても仕組みは回ると宇尾野さんは話します。同時に属人化も解消されていくのがプラスの効果だと整理しました。
サントリー「社長のおごり自販機」が生む会話
池原さんは、お客様の会社で導入が多いものとして「社長のおごり自販機」を紹介します。サントリーが手がけるサービスです。
この自販機は、社員が2人以上で行き、2人で同時にタッチするとジュースが2本出てくる仕組みです。リモートワークの普及や、会社が大きくなって交流が減る中で、知らない人同士の会話のきっかけを作る狙いがあると説明されます。
飲みます、ピッてします、みたいな会話が絶対始まるので、すごくいいですよね。
宇尾野さんは、単に飲み物を配るだけでなくコミュニケーションもセットでサポートする取り組みだと評価します。「社長のおごり自販機」という名前の面白さにも触れました。
池原さんは、この事例を見ると、施策にどんなメッセージが込められているかが明確だと話します。宇尾野さんも「知らない人と一緒にタッチせよ、というメッセージがわかりやすい」と応じました。
究極の福利厚生は「成長」だという結論
池原さんは「究極の福利厚生とは結局何か」と問いかけます。宇尾野さんは、会社の変革や企業の成長を支援する立場から答えます。
宇尾野さんは、それが会社の成長にもつながり、個人がどこに行っても活躍できる状態にもなると話します。成長はまっすぐな道だけでなく、人格を広げていくニュアンスも含むといいます。
池原さんは、自分のいる会社の福利厚生にどんなメッセージがあるのかを考えながら経験を積み、どこに行っても戦えるようになることが、最大の自分へのリターンだと受け止めました。
まとめ
福利厚生は施策単体で考えるものではなく、会社から社員へのメッセージを形にしたものだというのが、この回を貫く視点です。設計の順序、還元の形、企業ブランディングとしての効果、そして究極の福利厚生としての「成長」まで、具体例を交えて語られました。
- 福利厚生は、受けのいい施策から入らず「どんなメッセージを伝えたいか」から設計する
- 一度始めた福利厚生は既得権化して廃止しづらいため、慎重に始める必要がある
- 現金で還元すると課税で手取りが減る一方、環境への還元は効果が出やすい面がある
- 福利厚生は会社の色を作り、反応した仲間が集まるブランディングの手段にもなる
- リクルートのステップ休暇は属人化防止、サントリーの社長のおごり自販機は交流促進というメッセージを持つ







