評価シーズンに向けて。能力は本当に測れるのか
第30回のテーマは「評価のそもそもを考える」です。宇尾野さんは冒頭で、人間の能力は測れるものなのかという壮大な問いを立てました。
宇尾野さんの立場は、最初からはっきりしています。能力は測れないのではないか、という前提から話を始めています。
測れないんじゃないかなって先にちょっと言っておきますけど。
池原さんは、この回が配信されるタイミングを意識しています。ちょうど多くの人事や経営者が、メンバーを評価するシーズンに入る時期だからです。
池原さんは、仕事の能力を測る難しさをアスリートと対比して説明しました。競技の能力はデータ化できても、仕事はそうではない、という指摘です。
大谷のなんかヒットの率とか足の速さとかって全部測れると思うんですけど、仕事ってそうじゃない中で、どうやって測るのか。
氷山モデルで整理する、測れる能力と測れない能力
宇尾野さんは、まず能力とは何かを定義することが大事だと話します。その整理に使うのが氷山モデルです。
氷山の上側にあるのは、スキルや知識といった見える部分です。アスリートのパフォーマンスのように、測って業績につなげやすい領域だと宇尾野さんは説明します。
一方、氷山の下側にあるのがコンピテンシー、つまり行動特性や動機、性格です。宇尾野さんは、能力が測れるのかという疑問の多くは、この下側に向けられていると指摘します。
コンピテンシー、特性とかになってくると、なかなかそれが見える化されなかったりとか、定量化できなかったりもする。
池原さんは、氷山の上側と下側の違いを具体的に言い換えました。人事の採用担当を例に、労務の知識のような見える作法と、リーダーシップや段取り力のような曖昧な力を対比しています。
その下にある、例えばリーダーシップとか段取り力とか、なんかそういうのって全然ぼわっとしてますよね。
見える化・定量化しやすく、業績につながりやすい。採用の知識や労務の作法など
行動特性や性格。見える化や定量化がしにくい。リーダーシップや段取り力など
同じ行動でも評価がずれる。評価者側のクセとバイアス
宇尾野さんは、評価者研修での経験を紹介します。同じケースに対して評価をつけてもらうと、基準を合わせたつもりでも結果がずれるといいます。
五段階とか例えばですね、やると結構ずれるんですよ。
ずれの原因は、評価者側のクセや、評価者が持っている情報や認知にあると宇尾野さんは話します。判断する行動が同じでも、評価は変わってしまうということです。
この話を受けて、池原さんは人間側のバイアスを2つ挙げました。1つ目は、評価者が自分と似た人を好みやすいという「ミニミー症候群」です。
2つ目は、ジェンダーに関する「ゴールドバーグパラダイム」です。同じアウトプットでも、評価者は男性を高く評価してしまうというアンコンシャスバイアスの一種だと説明しています。
能力を測るか、納得を作るか。評価の2つの方向性
宇尾野さんは、下側の能力を測るための一つのやり方を説明します。コンピテンシーをすべて行動に落とし込み、その行動ができていれば能力があると認定するという方法です。
ただし宇尾野さんは、そこには2つの異なる方向性があると整理します。氷山の上側に評価項目を寄せて能力自体を測りにいくか、それとも納得を作る方向にプロセスを倒すか、という分かれ道です。
池原さんは、どれだけ暗黙の部分を可視化しても、不満や納得できない声はゼロにはならないと指摘します。だからこそ、納得感と次につながるフィードバックが大事だと考えています。
池原さんは、その納得感を作る要素として会話量を挙げ、宇尾野さんに問いを投げかけました。
コンピテンシーを行動化し、氷山の上側に評価項目を寄せて測定しにいく
能力測定より、コミュニケーションやプロセスで納得感をつくることに重心を置く
手続き的公正の6基準。中身が見えなくても納得できる理由
宇尾野さんは、納得感について研究で示されている「手続き的公正」という考え方を紹介します。公正な手続きが踏まれていれば、中身が細かくわからなくてもある程度納得が作れるというものです。
宇尾野さんは、その基準として6つを挙げました。一貫性、バイアスの抑制、正確性、修正可能性、代表性、倫理性です。
宇尾野さんは、これらすべてが踏まれていれば手続き的に公正だと感じてもらえると説明します。人事制度を設計するときも、会社固有のプロセスの中にこの要素が適切に組まれているかが重要だといいます。
池原さんは、この6つを押さえると、ちゃんと見てもらえていると感じ、次を頑張ろうという気持ちにつながると受け止めました。
言えたかどうかで変わる。異議申し立てができるプロセス
宇尾野さんは、6基準のうち修正可能性について、具体的な場面を挙げました。最終評価会議で決まった結果を、メンバーに一方的に共有するだけのケースです。
宇尾野さんによれば、評価に異議申し立てができるかどうかで、受け止め方が大きく変わります。言えた場合は、結果として評価が変わらなくても納得しやすいといいます。
逆に言えないと、評価に欠損があった状態のまま決まったと感じ、そのまま根に持ってしまう、と宇尾野さんは指摘します。池原さんはこれをフェアプロセスと呼びました。
宇尾野さんは、この声を拾うプロセスは意外に抜け落ちやすいと話します。だからこそ、双方向のやり取りを評価の間に設計しておくことが大事だとまとめています。
池原さんは、双方向性のある設計にしておけば、同じ評価でもメンバーが納得しやすく、評価が次の行動の起点になると受け止めました。
評価はイベントか、日々の延長か。1on1が納得感を作る
宇尾野さんは、評価がマネージャーにとって負担になりやすいことに触れます。評価シーズンは病みやすい、という声も打ち合わせでよく聞くといいます。
病みますよね、これ。
池原さんは、評価シーズンだけ急に対話を増やすのではなく、普段からこまめに話しておくことを提案します。そうすれば、評価時の負荷も下がるかもしれないという考えです。
宇尾野さんは、手続き的公正と並ぶもう一つの考え方として「相互作用的公正」を挙げました。途中の1on1などで、メンバーがどう感じたかを意識しながらコミュニケーションを取るプロセスのほうが、最終的な納得感が高いというものです。
宇尾野さんは、日頃の1on1で行動の理由を聞いたり、良かった点や改善点を伝え合っていた相手からの評価は、納得感が高いと説明します。逆に、そのプロセスがない相手から急に言われると、自分をわかっていないのに評価されたという構図になります。
池原さん自身も、1年に1回の評価で、何も話していないのに急に数字だけ来て驚いた経験があるといいます。宇尾野さんは、そうした経験は長く記憶に残るものだと応じました。
あれ、何にも喋ってないのになんか評価決まったみたいな。びっくりしたことある。
評価は日々のメモから。1カ月に偏らない評価のために
宇尾野さんは、1on1が情報収集としても重要だと話します。うまい人は1on1のメモに、そのとき何を感じたか、どんな話をしたかを残しておくといいます。
そうしておくと、半年後や1年後の評価のときに、あの時の話だと具体的に紐づけられます。宇尾野さんはこれを、後の評価を支える準備として位置づけています。
一方で、評価が直近1カ月の情報に偏ってしまうこともよくあります。宇尾野さんは、これもバイアスの一種だと指摘します。
この一ヶ月間で見えてるもので評価をする。
池原さんも、自分は忘れっぽいからこそ日々メモしていると話します。日付とグッド・バッドのラベルをつけておくことで、ぼんやりしたフィードバックを避けられるといいます。
池原さんは、メモを続けやすくする工夫も紹介しました。フォーマットを作り、テキストを書き込む代わりにSlackのリンクを貼るだけでも楽になるといいます。
評価者も評価される。メタ評価という設計
宇尾野さんは、さらに踏み込んだ仕組みとして、被評価者が評価者を評価するプロセスを紹介します。評価者も万能ではないため、能力開発を促す意図も込めた設計です。
具体的には、納得できるコメントをしてくれたか、具体的にフィードバックしてくれたか、評価面談を入れてくれたかなどを、被評価者にアンケートで尋ねます。それを人事の関係者が間に入って、評価者に届けるという流れです。
宇尾野さんは、この手間の意味を、評価者側の自己採点の難しさに置いています。自分の言葉が届いているか、うまく回っているかは、マネージャー自身では確かめにくい領域だからです。
池原さんは、宇尾野さんが初回から強調してきた、組織の状態をアンケートで吸い上げるという考え方が、評価プロセスにも通じると受け止めました。
宇尾野さんは、この発想をメタ評価と呼びます。制度を回すだけでなく、その制度自体が適切に運用されているかをセルフチェックできることが、経営者や人事の大事な取り組みだといいます。
池原さんは、経営者は誰も評価してくれない存在だからこそ、こうした声を拾って自己評価することが大事だと補いました。
評価は「成長の下敷き」。納得を作る次の半年へ
宇尾野さんは、評価を査定や通信簿として重く捉えるのではなく、成長を支援するための下敷きとして捉えることを提案します。
これまでを一緒に振り返りながら成長を支援するための、間に置く下敷きみたいな感じで捉えていただくと。
ただし宇尾野さんは、その捉え方も日頃の1on1の関係に左右されると付け加えます。この半年ちゃんと話せていなかった人は、まず今回の評価面談をしのぎ、次の半年で新しい関係を作ればよいと励ましています。
池原さんは、評価をそのシーズンだけの重い作業にせず、日頃から部下との会話のチャンスとして楽しむことで、プロセス自体が良いものになる可能性を感じたと締めくくりました。
まとめ
評価は、能力を正確に測りきることよりも、納得をどう作るかが鍵になります。手続きの公正さと日々の対話を積み重ねることで、評価は査定から成長支援の下敷きへと変わっていきます。
- 人間の能力、とくにコンピテンシーは見える化・定量化がしにくく、評価者のクセやバイアスでもずれる
- 公正な手続き(手続き的公正)が踏まれていれば、中身が細かくわからなくても納得は作りやすい
- 異議申し立てができるプロセスがあると、結果が変わらなくても納得につながる
- 日々の1on1と、そのメモの積み重ねが、直近1カ月に偏らない評価と納得感を支える
- 被評価者が評価者を評価するメタ評価を設計し、制度自体をセルフチェックする視点が役立つ







